追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
千神ユキト、17歳。アビドス高等学校・廃校対策委員会所属兼シャーレ連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの成員でもあるキヴォトスでは珍しい男子高校生。それが、俺の記憶。
それが、俺の始まり。俺もいう人間は何者なのか、俺は何処から来て何を成したかったのか知らない。
だが、この手にある力を利用しようとする複数の勢力がいてそれを振り払う為に武器を手に取った筈だった。
が───全てを失った。夢の中の俺は荒廃した街の中を歩いていた。先生が脳死状態となり、臓器提供を希望していたとかそんなことはどうなってもいい。俺は、皆を救わねば。アヤネもセリカもノノミもシロコもホシノも……しかし、間に合わなかった。全てが、全てを失った俺は、諸悪の根源を叩くべくあのシロコによく似た女性に立ち向かった、のだがそこで記憶が途切れている。時を遡る力を持ったケミーは、未熟な俺が使おうとするだけで即死すると何故か知っていた俺は、自然と忌避していた。
だから、俺が逆行した理由はわからないままだ。逆行後、ミレニアムやあらゆるツテを作り身を差し出して色々やっているが、先が見えない。俺は、最悪の結末を避けようとして俺自身が皆を傷つける災厄になっていやしないだろうか?
俺は……俺は……おれ……
「……キト君!ユキト君!大丈夫!?」
「え、あ……ニコさん?」
RABBIT小隊が公園で野宿をするようになり、俺はFOX小隊と共に防衛室に出張して密かに任務についていた。治安活動と言えば聞こえはいいが便利使いされているのが現実だ。普段ならそう表立って出てこないようなカイザーPMCのオートマタ達が各地で怪しい動きをしているということで、目撃情報があれば出撃する日々だ。こんなことをしていて真実にたどり着けるのか、という不安でどうにかなりそうだ。外の連絡を制限されているわけではなく、先生とだってその気になれば接触できる。その癖防衛室に首輪をつけらた状態というのは、維持されたままでリンが言うところのきな臭い動きも分からないままだ。
「何だかぼんやりしていたようだけど、疲れてる?私がユキノちゃんにいっておいてあげるから休んできていいよ?」
「……ニコさんはどう思います、最近の連中の動き見て」
どうやら立ったままうつらうつらしていたようだ。至近距離にニコが来てもなお反応できないだなんて、そんなに疲労が溜まっていたのだろうか?
「もっと大々的に動ければいいんだけど今の私達にはそこまでの権限はないから、悔しいな。……ユキト君の問いに答えるとするなら、政治的な問題だと思うよ、これは」
「政治、ですか」
気を遣ってくれたのを無視するように被せた質問にも笑顔のまま答えてくれたニコの言葉に思わず目を伏せる。キヴォトスという学園都市に巣食う”大人”という名のガンである”カイザーコーポレーション”、その規模は大きい。あらゆる場所に根を張っているし、アビドスの件以外にもどこかしらに奴らの影があると言っていい。
「三大校の学区で活動すれば私達が出張るまでもなく解決する事も珍しくないけど、例えば君の母校のアビドスやブラックマーケットみたいなところだとヘルメット団もいたりして、ね。あちこちの事件に何でも首を突っ込める権限を持っているのは、それこそシャーレぐらいになってしまうかも」
よくも悪くも、キヴォトスは生徒の自主性というには広く大きすぎる権限によって維持されている。人ならざる獣人のような何かや、オートマタとおぼしき機体が住人として当たり前に存在するが、それとて大半はヘイローを持った生徒には物理的には及ばない。
経済的な、札束で殴るという意味でなら生徒達が頬を往復ビンタされる勢いでいいようにされ、それをって経済を流通させているとも言えるだろう。全てが間違ってるとか、街を正常にしたいとかそんなことではない。
残念なことに、それを成すには力も人も金も足りない。まして、誰かこいつを倒せばハッピーエンドというようなことにはなりえない。そんな存在がいたなら、いるなら、俺は……。
「最初はどうかなって思ってたけどユキト君に期待してるんだよ?今の雁字搦めな状態の私達のことも助けてくれるんじゃないかって」
「嘘でもそう言ってもらえるのはありがたいのですが。一応自分、シャーレ側の人間としてニコさん達の事だって見張るべき立場なのですが……」
ユキノのように露骨に嫌悪感を態度や行動に出すことこそなかったし、むしろ間を取り持つような優しさすら見せていたニコでさえやはり俺に対して複雑な感情を抱いていたらしい。当然と言えば当然か、シャーレの犬という立場でしかも男というのは少なくない懸念材料だろう。カヤがFOX小隊を匿いながらあくまで表向きはSRT閉校路線のままで、かつ都合のいい用に使っているしそれよりもさらに胡散臭いであろうシャーレの先生というキヴォトスの外から来た”大人”の味方ともなれば。
「ちょっとニコ、千神は見つかったの!?っているじゃない。二人とも、仕事よ」
「え、ええ!ごめんね、今行くね。さ、ユキト君行きましょう?」
こじんまりとした体型とは違い、存在感のある声と雰囲気のあるクルミの声に、二人とも不意を突かれ会話が止まった。ニコはまだ何か言いたそうだったがまた本音を隠し込むように笑顔になると先に出ていった。クルミもまたこちらを見て何か言いたそうに見上げていたがそれだけだった。
☆☆☆
「シャーレの襲撃の前に、あの子供ごとドライバーを確保しろと?わざわざ数をそろえてか」
『ええ、それはもう。方舟を確実に安全に完全に制御するには。 先生と先生が持つシッテムの箱を確保できれば問題ないないのですが……こちらもそろそろ収穫していい頃でしょう、想定よりも成熟が早いようですから』
「ふん、貴様の言うドライバーが我々に利益をもたらすというから話を聞いてやったが、眉唾物だな。まあ、いい。こちらにも面子がある。目的を達したら、ドライバーはこちらで好きにさせてもらうぞ、黒服」
「ククク、構いませんとも。そういう契約ですからね。これからもよき関係を築きたいものです、ミスタージェネラル」
「……調子に乗っていられるのも今のうちだ、そこのお前、防衛室長に連絡を取れ。こちらはシャーレ襲撃よりは遥かに楽に済ませられるだろうが、念の為だ」
この日を境に、キヴォトス各地にあるカイザーコーポレーション傘下の企業の活動が一時的に静まり、物資の動きも変化していった。その違和感に気づいた時にはもう、遅かった。
☆☆☆
思い返せば不自然であったといえるカヤからの突然の呼び出し、二人きりの外出。疑念を抱きつつも護衛の名目で同行したのだが。銃撃砲撃の雨あられ、咄嗟にカヤを守ろうと即座に変身こそ出来たが盾になるためにケミーカードの使用もせず文字通り体を張ったため、少なくないダメージを受けてしまった。
「何故、こんな……こと、を……」
「残念です、ユキト君。ですが、君は私がいずれキヴォトスの頂点に立つためにはやはり邪魔だったようです」
「ご苦労、防衛室長。彼の身柄はこちらで預かろう」
カイザーのオートマタの兵士に、軍帽を被ったリーダー格の男、ジェネラルと呼ばれる個体の隣に当然のようにかけよりこちらに銃口を向けるカヤ。確信が持てず疑いから先へ行けず、自分の甘さがここにきて特大のツケとして回ってきたようだ。
「あら、私には何もさせてくれないのですか?彼は色々都合の悪いことを知っているのでただで渡したくないのですけど」
「黙れ、防衛室長は疲れているようだ。丁重にお連れしろ」
「な!離しなさい!私を誰だと……!?」
拘束されるとそれまでの態度はどこへやらみっともなく取り乱し騒ぐカヤを冷めた目線───人とは違い表情筋があるわけではないオートマタであるジェネラルの顔が変化した訳では無いが、そう取れるような雰囲気───を向けるだけで後ろに連れて行かれバンの後部座席に無造作に放り込まれ間もなくエンジン音が聞こえてるとそれも聞こえなくなり。
「さて、小僧。あの女とそれからこちらのほうがお前にも効果があるだろうが……シャーレを我が社の部隊が襲撃中だ、このまま行けば先生の命の保証はないだろう」
「シャーレが!?いやまて、それ以前に不知火防衛室長は、あんたらの仲間じゃなかったのか?それを、あんな乱暴に」
はったりか、脅しにしても現実味がない。だが、それだけならわざわざカヤをあんな扱いをしてみせるだろうか?それともカヤはそれ込みでの仕込みなのか。いや、それよりも先生だ。シャーレ内部への侵入は残念な事にそう難しいことではない。セキュリティがどうこうではなく、先生が生徒であれば誰でも訪ねてこれるよう門戸を開いているからだ。それについてはユウカやリンが口酸っぱく警告していたが、頑として首を縦に振らなかった。先生なりの矜持であったのだと思う。
「おめでたい頭をしているな、現実を見ろ。いくらお前でもこの戦力差を覆せるかね?もし出来たとしても、あの先生は違うだろう。ただの人間だ、一発の銃弾であっさりと死ぬぞ?」
「……俺にどうしろと?」
ジェネラルの言葉に数秒逡巡したが、答えは出なかった。先生を守る不可視のバリアの存在はジェネラルも知っているだろう、あれが無敵無制限というわけではないにせよ半端な火力では破れない事も。だが、今ここにいる数と同程度の暴力をぶつければあるいは。俺を人質にでもしたいのか、あるいは散々カイザーコーポレーションの活動を阻止してしたツケが巡ってきたか。
「簡単だ、そのドライバーと共に我々に来てくれればいい。そうすれば先生の命だけは保証しよう」
「やっぱり、これが目当てか」
「わかっているなら話は早い。さて、どうする?」
【GUTSSHOVEL!】
【DOKKIRIMAJIN!】
【ガッチャーンコ!ドッキリショベル!】
「シャボン玉……?おい、小僧は何処に消えた!?探せ!いや、シャーレだ!そちらの人員を動かせ!」
ほんの数秒前まで目の前にいたはずの俺が不意に弾けるように消え、無数のシャボン玉が空に浮かび、弾けた。奴らにはそんな風に見えているだろう。
生身の人間よりも余程精密なセンサーを持つオートマタ達の機械的な部分をごまかすのは非常に困難だが、やってやれなくはない。そのひとつが、ガッツショベルだ。トリッキーな技にかけては右に出るものはいない。子供だましなようでいて意外に効果がある。
「あーばよ、とっつぁん!なんてな、とにかく急がないと!」
俺を捕らえるためにジェネラルが自ら来たところを見ればシャーレ襲撃もハッタリとは思えない、ゴルドダッシュで目指す道中何人かにモモトークしたが間に合ってくれるだろうか?いや、俺が間に合わせるのだ。