追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
「アロナ、外にいる敵の数はわかる?」
『はい、先生。ビルを囲むように大凡ですが大隊規模です、航空兵力も確認できます。何故直接攻撃を仕掛けてこないのか疑問ですけど』
ユキトがシャーレを目指している同時刻、シャーレのオフィスビル一帯を明らかに民間人ではない武装したオートマタだけでなくゴリアテのような大型兵器までが取り囲んでいる状態だ。
シャーレ、そして先生はカイザーにとって目の上のたんこぶにして宿敵である、しかし先生個人には人間的な物はさておき戦闘力という点においては最下層といっていいものだ。
しかしキヴォトス三大マンモス校をはじめ多くの生徒と交流を持ち、その際に数々の事件を解決したその影には常に彼女がいた。その類稀なる指揮能力と人を惹きつける魅力は驚異といっていいものだ。
そしてシッテムの箱や、それに付随する権限を持ち合わせているという事実を知る者はカイザーの中で多い訳では無いがそれでもいつまでも放置しておきたくないという考えはそれなりに広まっている。
「そう……周りに生徒は誰か近づいてきていない?もしそうなら退避させて」
『はい、ですけど先生。今日はまだ当番の生徒さんが来ていませんし、今は一人でも戦力になりそうな子を呼ぶべきです』
冷静に答えるアロナ。シッテムの箱の管理者にして先生を助ける役割を持つ彼女は、普段の幼さと言動からは想像できないような高度な演算能力を発揮し忠言する。
電子戦であればどれほどの存在であろうと捻じ伏せることは容易いが、生身の人間である先生を守り抜くには自分だけでは限度があると。
「……アロナ!仕方ない、とりあえずユキトに連絡を!それと今日の当番は……」
ズズンと爆発音と共にビルが振動し流石の先生も表情を強張らせた。防火シャッターに毛が生えた程度では本格的な装備を持った武装集団相手には何の役にも立たないようだ。
「はい、それと避難ルートを設定します。それから今日の当番は鬼方カヨコさんです。ただ業務で遅れるそうですがカヨコさんを通して便利屋へ依頼しますか?」
「アロナ、カヨコには状況を見て明らかにまずそうなら引き返すよう伝えて。便利屋には伝えちゃだめ」
便利屋の依頼があってもなくてもこちらの当分を優先してくれるカヨコのことだ、今の状況見て無理にでもこちらへ来るかもしれない。
「しかし先生、ユキトさんが来るまでに先生に万が一のことがあったらどうするんです!?」
ビルへ直接攻め込まれる事までは想定していない作りとなっているので、防備は最低限だ。無論、内部は自分がある程度操作できるし先生への直接攻撃はバリアを張って防げるだろう。しかしそれも限度があるし、万が一があっては困るのだ。先生はあくまで大丈夫だと自信ありげにニコニコとしている。
この笑みで何度とんでもない無茶をしてきたかと呆れと諦めが入り混じる。しかし自分の役割は先生を補佐し守る事。やるべきことをやるしかないのだ。
『……送信完了!非常用脱出通路へ!』
☆☆☆
先生がアロナの誘導で避難しようとしているように、カイザーコーポレーションの兵士達は建物内に侵入していた。相手は非武装の成人女性、それも特別鍛えられているわけではない重要人物の確保。しかし最重要目標である為、厳密さと確実性が求められる。
殺してはならないが、手足の1本くらいなら折っても構わないと。キヴォトスのパワーバランスを一変させた”先生”の確保とはいえ過剰すぎやしないだろうか?ジェネラルは何を考えているのだろう?
「おい、目標が移動しているようだ。建物の破壊は許可されてるから爆薬使うぞ」
閉鎖していく障壁とシャッターを爆破し、外では武装ヘリが重機関銃により先生がいると思われるエリアを破壊した。しかしそれは偽装されたダミーで、こちらを足止めする目的があるらしく何もないどころかシャッターが更に下りて一時的に足を止めざるを得なかった。
☆☆☆
「……こっちにも来たわね、アロナ!経路は?」
複数の足音と時折聞こえる爆発音、手にはお守りにもならない小銃が一丁とシッテムの箱たるアロナが入ったタブレットが一つ。後者は何にも勝る切り札になりうるが、それだけで安全を担保できるものではない。
『こちらです!ですが先生!?』
「いたぞ!確保だ!」
爆発と銃撃が一斉に襲いかかったが既のところでアロナによる防壁が防がれた。フロアの窓や家具を、外で飛行するヘリが機関銃で撃ち抜き破壊し、まるで障子を貫くかのように吹き飛ばしていく。
『先生、走ってください!』
「手や足の一本は構わん!絶対に逃がすな!」
「このままじゃバリアが……!?」
シッテムの箱の管理者たるメインOS”A.R.O.N.A”ことアロナの力の一つに先生を守る防壁を貼る力がある。
それは銃弾が雨や雪と同じぐらい当然のように飛び交うキヴォトスにおいて、常人である先生が生かすために欠かせないものだ。
シャーレから動かなければ最低限の力の消耗で済むが、それは有限なのだ。過負荷がかかればシャットダウン───一時期に休止状態になりその間は先生はただの無防備な一人の女性となってしまう。そして、それは今迫っている。
『先生、早く!少しでも早く避難してくれないと私が……あ、そうです!これなら!』
アロナの額に冷や汗が流れ、顔が苦痛でゆがんだ。ここで倒れるわけにはいかない、しかし自分の限界が近くなり簡易なナビすらできなくなってしまう。その前に何とかしなければならないと思考を巡らせて思いついた。
「な、なんだバイクとデカいメカカブトムシ!?」
「あれってユキトのバイク!?」
オートマタ達の間を無理矢理突き抜けるようにして現れたのはヒマリがユキトに託したマシンとサポートメカだった。本来であれば外部からのリモート操作はガッチャードの能力に依存しているところが大きく、AIによる自動操縦システムは未だ試験中だった。
そこはアロナの高度な演算能力によってハッキングすることは容易いことで、シャーレ敷地内に駐車されたそれらにアクセスし、ここまで呼び寄せたというわけだ。
『先生!乗ってください!操作は私がしますから!』
「私大型二輪もってないんだけど、本当に大丈夫なのアロナ!?」
「ま、まずい!誰か、大型火器持ってこい!あのカブトムシといい逃げられたらジェネラルにこの世から物理的に消されるぞ!」
あっという間に距離が離れ見えなくなっていくバイクとその後を追うように飛ぶカブトムシの形状をした自立飛行型ドローン”ことインセクトガッチャーアーマー”のあっさりとした去り具合にオートマタ達は呆然としていた。
『先生!ユキトです!ご無事で!?生きてます!?』
「何とか、ね!アロナ!もう少し安全運転出来ないかな!?ところでどうしてこっちに私が乗ってるって分かったの?」
「それ、変身してるとこっちでも動いているのがわかるんですよ。今急いで向かってますから、何とか時間稼いでください!」
「わかった、ユキトもくれぐれも道中気をつけて!」
跨るというよりは振り落とされないように捕まっている先生が乗るバイクの通信機から聞こえる声に思わず安堵した。
どうやら無事でこちらに向かっているようだ。しかし、すぐにこれない距離ではないのにこの言い方は何かあったと察することができたが、あえて何も言わないことにした。
☆☆☆
「さて、何故最優先目標であろう先生をスルーして現場のトップがこんなところにいるんだ。え、ジェネラル?」
「ユキト、あんたまた変なトラブルを抱えてるの?しかもカイザーの役職者とだなんて、呆れた」
「つくづく生意気なガキ共だ、全くをもって気に入らん」
シャーレのあるビルを目指し走っている途中で同じようにシャーレを目指していたカヨコを乗せて向かっていたのだが、当然のように足止めを食らった。
強引に突破するには少々面倒くさい数だ。さりとて不用意に時間と力を消耗するのは宜しくない、今回のミッションは先生の無事が最優先だ。
「さて、千神ユキト。君と取り引きがしたい、場合によっては先生の安全は保証しよう」
「取り引き、ね。あんたも、これか」
「わかっているなら話は早い。私としては不本意だが、君がこれを受け入れた暁にはカイザーで、役員待遇で迎え入れてもいいと言付けをもらっている」
トントンと指でガッチャードライバーを叩くと、我が意を得たりとばかりに頷くジェネラル。そしてその後口から出た言葉に思わず顔を顰めてしまう。カイザーにまでに目をつけられたのは後に尾を引く厄介な案件だ。
あからさまな勧誘なぞ鼻で笑ってやればいいのだが、それと先生と先生が持つ権限も狙う彼等が約束を全て守らないのは明白だ。例えばそう、コーラを飲んだらゲップが出るのと同じぐらい分かりきったことだ。
「何を言っているのかわからないけど、うちの見習い社員を横から奪って引き抜かないで貰える?」
「関係のない生徒は黙ってい……何、貴様まさかゲヘナ風紀委員会情報部の鬼方カヨコか?」
「そうだよ、前歴を知っている奴がこんなところにいるとは思わなかったけど」
「”悪鬼”がいたとは迂闊だった、諜報部は何をしていた!?」
カヨコが俺の前に出て挑発をしてこのまま交渉を一気に破綻させ激突か等と考えていたが、ジェネラルはむしろカヨコに興味を持ち、むしろ動揺を見せていた。どうやらカヨコの過去を知っているらしい。かなりの爆弾発言で、一蹴してもおかしくないのだが特に否定しなかった。便利屋にいる前に何をしていたか聞いたことがなかったが、思わぬところで判明してしまった。
「ユキト、悪いけどこいつはここで倒すよ。カイザーコーポレーションと敵対することになるけど、いいよね」
「カヨコ先輩こそ、宜しいので?俺はシャーレの一員としての仕事でもありますけど、先輩が陸八魔社長に一言もなしにやるにはでかすぎると思いますが」
「わかっててバカ言わないの。それに今日は私が当番だから。社長はむしろやれって言ってくれるよ」
キヴォトスでは日常茶飯事なドンパチであるが、カイザーのような超大手とやり合うのは少なくないリスクがある。鉄砲玉な雇われヘルメット団と戦うのとは違う。そのようなリスクを負わなくても先生を助けに行くだけなら何とか、とも思ったが杞憂なようだ。
「事情が変わった。ドライバーとカードがあれば死体でも原型がとどめていればいい、女の方は何としても消せ!」
「初めからそういえばいいのに、カヨコ先輩!フォローたのんます!」
「任せて、けど時間はかけられないってのを忘れないで!」
暫く部下のオートマタ達と話していたジェネラルであったが態度が一変した。同時にそれまで銃口をこちらに向けていなかった連中も一斉に身構えて来たのを期に、俺とカヨコはそれぞれ攻撃を始めた。とはいえ二人でこの数を全て撃退するのは現実的ではない、ここでやるべきは……。
「ジェネラル!覚悟!」
【ケミーセット!】
「ぬうう!!何をしている、私を守れ!」
無論大将首を取ったところで彼らの行動が即座に停止するわけではない。しかし、明確に組織めいた動きをする集団である以上隙をつくぐらいは出来るかもしれない、目的はあくまで先生救出だ。シャーレを占拠されるにしても先生の身柄を押さえているか否かで大きく状況は変わるのだ。
「ユキト!焦っちゃだめ!」
器用にオートマタの攻撃を避け、反撃していたが攻め方に焦りが見えるユキトに声をかける。強引に部隊ごと薙ぎ払おうとする背中に一斉に、銃口が向いていく様子に舌打ちすると神秘を発動させると周囲の空気がどんよりとしたものとなり、オートマタ達は恐怖心を植え付けられ動きが一時期的に鈍った。しかし一機だけゴリアテに乗っていたオートマタは奇跡的に影響から逃れたようで、動作こそ鈍い物のこちらに大きな一撃を放とうとしているのが見える。これには流石に気づいたユキトはやむなくガッチャートルネードをそちらに向け振るった。
【ケミースラッシュ!】
「く、ぅぅぅぅ!どこまでも邪魔をしおって小童め!いいだろう、これはまだテストもろくにしていないものだが貴様を倒すことで試してくれる!!!」
「なんで、お前がそれを……!」
爆散したゴリアテの残骸を足蹴にし怒り心頭なジェネラルがあるものを取り出した、それは……ドレッドライバーだった。
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カヨコの過去話も当然のようにオリ設定です、書きたかったのでそのうちアコとの絡みも。
公式でもいつか語られることを願ってます。
こっちに目処がついたらゴジュウジャーで俺も一本書いてみたいな……