追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結)   作:Leona

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間が空いてしまいましたが、ぼちぼち再開していきます


23話

「お前の持っているドライバーのまがい物ですらない試作品、だそうだが」

 

リオが作ったオリジナルや黄金卿の物とは違うもっと簡易な作りに見えるそれは量産型ドレッドドライバーともいえる産物だった。

 

【AN……TROOPER……!】

 

【ドレッド……軍式……!】

 

 どす黒い闇に包まれ発光し纏った姿は、これまでのガッチャードやドレッドとはまた違う、禍々しさというよりは簡易だが最低限の機能を備えていると思われる赤と黒を貴重としたカラー、アントルーパーのモチーフであるアリを彷彿とさせる頭部。ドレッドから派生したものであろうことは想像できる。

 

「さて、どれほどの物か試させてもらおう」

 

「あんな物まで出してくるなんて!」

 

 

【X-REX! エクストラッシュ!】

反射的にユキトの身体が動いた。あれはまずい、あれは下手に攻撃を許せばこちらがただでは済まないと。

 

「ふん!」

 

「弾かれた!?」

 

牽制とはいえ、ガッチャードの今のユキトの手札の中で相応に火力のあるエクスガッチャリバーによる一撃を、何でもないかのようにあっさりと無効化されたことに言葉を失う。

 

「どうやら私にも少しは運が巡ってきたようだな!死ね!小僧!」

 

「ユキト!」

 

カヨコのデモンズロアが放った神秘を纏ったドレッド軍式に放たれ当たる。横からの攻撃であった為かあるいはガッチャードとは違う系統のものであった為か僅かに身じろいだ。

 

「邪魔をするな、悪鬼!」

 

「その名で……呼ばないで!」

 

身体的なダメージよりも変身しているジェネラルの内面的なものが大きかったのか本来向けるべきユキトからカヨコへと向かっていった。ユキトはといえば防がれた衝撃からようやく正気を取り戻し、ジェネラルを援護しようとするカイザーの兵士達による攻撃への迎撃に移らざるをえなくなっていた。

「ええい、邪魔だどけどけとけ!」

 

「(こいつ、妙に焦って……いや違うわね?何か正気でなくなっていくような)」

 

「カヨコ先輩!下がって、こいつは俺が!」

 

それまでは曲がりにも集団で動き、ジェネラルがユキトやカヨコに攻撃しやすいよう援護や、時には盾を持って前に出るなどをしていた兵士諸共攻撃することを厭わなくなったジェネラルの行動は単なる苛立ちだけには見えないとカヨコは違和感を覚えた。

 

「ぅぐ、が……う……シ、シネ」

「ちっ!なんだいきなり!?」

 

所構わず乱れ撃ち時には殴りかかる動きは次第に精彩を欠き、そして糸が切れた操り人形のようにガクンと倒れた。

「……!……!」

 

【APPAREBUSHIDO……ドレイン!】

 

「なんの!こっちもだ!」

 

【ケミーセット!】

「ぶっ飛べ!」

 

【ケミースラッシュ!】

 

【ドレッドブレイキング!】

 

赤と白銀二つの斬撃がぶつかり爆発、二つのエネルギーの余波により2人よりもむしろ周囲にいたオートマタ達がダメージを受けていた。爆発から逃れるために距離を取ったユキトとは対照的に、ジェネラルは否、ジェネラルの体を動かす何かはその場に留まりよろめいているだけだった。その様子に、先生を救う前に余計なエネルギーは消費するまいと控えていた一撃を放つ事にした。

「いい加減に、決める!」

 

【スチームホッパー!バーニングフィーバー!】

 

ガッチャードライバーのサイドレバーを操作すると、ガッチャーイグナイターや背中のマントから余剰エネルギーが炎となって今にも爆発しそうな勢いで噴き出した。

 

「でぇぇえぇやあああ!!!」

 

大きく跳躍し、空中でいちどスチームホッパーと融合したような姿に変化したあと再びスチームホッパーに戻り、軍式へキックの直撃を大した抵抗を受けることなく与えた。

 

「っっっ!?」

 

声にならない叫びを上げて吹き飛び、大爆発を起こしたのを確認しつつ地面に着地したユキトが見たものは、変身が解け半壊したドライバーとジェネラル自身も損傷していて倒れている姿だった。

 

「これで、終わりだ……!」

 

ユキトは荒い息をつきながら、エクスガッチャリバーを収めた。大爆発の余韻で周囲に舞い上がっていた土煙がゆっくりと晴れていく。

 

「待って、ユキト。……様子がおかしい」

 

 ユキトが勝利を確信し、変身を解こうとしたその瞬間、カヨコの鋭い制止の声が響いた。

 彼女は愛銃『デモンズロア』の構えを解かず、硝煙と土煙の向こう側、倒れ伏したジェネラルを凝視していた。

 煙が風に流され、その姿が露わになる。

 半壊したドレッドドライバー軍式を装着したままのジェネラルは、本来なら意識を失っている、いや、オートマタであれば回路が焼き切れ機能停止してしかるべき衝撃を受けたはずだった。

 しかし、その指先が、まるで見えない糸に吊り上げられるかのように不自然な角度でピクリ、ピクリと痙攣している。

 

「……ア、ガ……ギ……」

 

 ジェネラルの発声ユニットから漏れるのは、言葉としての意味を成さない、湿り気を帯びた異質なノイズ。それは先ほどまでの傲慢な武人の声ではなく、何かが回路の奥底で蠢き、無理やり再起動を促しているような不気味な響きだった。

 

「ユキト、下がって! あれはもう、ジェネラル自身の意志じゃないわ!」

 

 カヨコが叫ぶのと同時だった。

 ジェネラルの胸元——半壊したドライバーのひび割れたコア部分から、どす黒い粘液のようなエネルギーが溢れ出した。それは赤黒い霧となって周囲に広がり、転がっていたカイザー兵士の銃火器や、破壊されたオートマタの残骸を磁石のように吸い寄せ始める。

 

「なっ……なんだよ、あれ……!」

 

ユキトが戦慄し、目を見開く。

 破壊したはずの量産型ドレッドドライバーが、ジェネラルの身体を苗床にするかのように増殖し、周囲の鉄屑を取り込んで肥大化していくのだ。

 

 黄金卿が与えたという「試作品」、そして「まがい物」。その真の意味は、単なる劣化コピーではなく、「制御を度外視し、暴走によって対象を食らい尽くすことを前提とした使い捨て兵器」ということだったのか。

 そもそも、このキヴォトスにおける「神秘」とは、ヘイローを持つ生徒たちに宿る概念的な力であり、奇跡を行使するためのパスポートのようなものだ。肉体的な強度や超常的な能力は、その神秘によって支えられている。

 対して、リオや黄金卿が目指したこのガッチャード関連の技術は、そのヘイローを持たない人間、あるいはそれに類する存在が「神秘」を無理やり定着させ、力として行使するために生み出されたものだ。

 本来、ヘイローなき身でそれほどの出力を扱えば、肉体も精神も即座に摩耗し、消失する。それを肩代わりし、制御するための「容れ物」がドライバーのはずだった。

 だが、目の前のこれは違う。制御装置としての安全弁が最初から外されている。

 

「(あれは……力を行使するためのものじゃない。無理やり『神秘』を引き出し、装着者の生命やコアを燃料にして焼き尽くすための、ただの着火剤だ……!)」

 

 バキバキと装甲が軋み、融合する音が響く。

 ジェネラルの機体は「軍式」の外骨格と融合し、より巨大で、より歪なシルエットへと変貌していく。

 アントルーパーのアリのモチーフはもはや原型を留めず、無数の節足が背中から突き出し、大気を腐食させるような異臭を放つ「泥の怪物」へと成り果てていた。

 

「……シ……ネ……ガッチャ……ド……」

 

空洞になったバイザーの奥で、ドロリとした赤い光がユキトを捉える。

 ヘイローを持たぬ者が、無理やり「神秘」の器になろうとした末路。それは、神秘の輝きとは程遠い、ドロドロとした怨念のような闇の塊だった。

 

「……あんなの、もう救いようがない。でも、止めなきゃいけないんだ!」

 

 ユキトは再び、腰のホルダーからケミーカードを引き抜く。

 暴走する「まがい物の神秘」が、その矛先を再び二人へと向け、咆哮と共に跳躍した。

 

「カヨコ先輩、合わせてくれ! 一気に叩き潰す!」

 

「了解。……あんな歪な神秘、恐怖で縛り付けてやる」

 

 カヨコの周囲に紫煙のようなオーラが揺らめく。それは彼女が持つ固有の神秘――他者に根源的な畏怖を与える力。本来なら生徒同士の戦闘で相手を制圧するためのそれを、彼女は躊躇なく暴走する軍式ドレッドへと叩きつけた。

 

「『パニックショット』……!」

 放たれた弾丸は物理的な破壊力よりも精神的な干渉力を帯びていた。

 弾丸が怪物の肩口に着弾した瞬間、ドレッド軍式の装甲が悲鳴のようなノイズを上げ、その動きがピタリと凍りつく。

 相手は感情を持たぬオートマタのはずだ。だが、カヨコの弾丸は「概念」としての恐怖を強制的に流し込んだ。ただの鉄屑と化しつつあったジェネラルの演算装置が、カヨコという存在に対して処理不能なエラー――明確な「畏れ」を抱いた瞬間だった。

 

「今よ、ユキト!」

 

「ああ! これで、断ち切る!!」

 

その隙を見逃すユキトではない。

 手にしたエクスガッチャリバーのスロットに、2枚のレベルナンバー10のカードを装填する。

 古代の暴君『X-REX』と、未知なる来訪者『UFO-X』。

 

【X-REX! UFO-X!】

 

【エクストラッシュ!!】

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 トリガーを限界まで引き絞り、ケミーのエネルギーを刀身に過剰なまでに充填させる。

 Xレックスの獰猛な赤熱と、UFO-Xの不可思議な光輝が混ざり合い、刀身が巨大な光の刃となって伸長する。

 地を蹴り、一閃。

 カヨコの射撃によって縫い留められた怪物の胴を、光の刃が真横に薙ぎ払った。

 肉体を斬るのではない。ジェネラルという個体を蝕み、強制的に神秘を循環させていた元凶――半壊した『ドレッドドライバー軍式』そのものを狙った一撃。

 ズンッ、と空間が歪むような衝撃の後。

 金属が砕ける甲高い音と共に、ドレッドの赤い発光が断末魔のように明滅し、そして霧散した。

 

「ガ、ア……アァ……ッ……」

 

 爆風が晴れると、そこには変身が強制解除され、黒焦げになった地面に伏すジェネラルの姿があった。

 暴走した肉体は元のオートマタのサイズに戻り、ドライバーは完全に破壊され、破片となって散らばっている。

 もはや立ち上がる力など残っていないはずだ。だが、ジェネラルは痙攣する手で虚空を掴もうとしていた。

 

「……約束が……違う……。この力は……『完成形』では……」

 

 ノイズ混じりの音声で呟くジェネラル。その瞳代わりのセンサーからは既に光が消えかけているが、それ以上に深い絶望が宿っていた。

 その時、破壊されたはずのドライバーの残骸から、無機質な合成音声が響き渡った。

 

『――戦闘データノ収集ヲ完了。限界稼働時間、オヨビ神秘定着率ハ想定の範囲内。被験者ノ反応、消失ヲ確認』

 

「な……んだ……と……?」

 

 ジェネラルの動きが止まる。それは救援を呼ぶ通信などではない。まるで実験動物の最期を記録する観察者のような冷淡な響きだった。

 

『量産型試作機、ドレッド軍式……“廃棄”シマス。次ハ“完成形”ノ実働テストニ移行……』

 プツン、と音声が途切れる。

 その言葉の意味を理解した瞬間、ジェネラルの顔が歪んだように見えた。自分はカイザーの幹部として選ばれた戦士などではなく、単なる使い捨てのモルモットに過ぎなかったのだと。

 そして、その体から完全に力が抜け、ただの動かぬ物体へと戻っていった。

 

「カヨコ先輩、これ……」

 

「……ええ。やっぱり、ただの兵器開発じゃない」

 カヨコが眉をひそめ、冷たくなったドライバーの残骸を見下ろす。

 ヘイローなき者に神秘を宿す禁断の技術。それを裏で糸引く存在は、ジェネラルという駒を切り捨てることに何の痛痒も感じていない。

 

「カイザーだけじゃない……もっと別の、何者かの巨大な権力が動いているわね」

 

 静まり返った戦場に、見えない敵――黄金卿の巨大な影が落ちていた。

 

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