追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結)   作:Leona

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ミレニアムの臨戦組一気に実装していくのね。


25話

「状況は!?」

 

 シャーレの指揮車両に乗り込むと同時に、先生の鋭い声が飛んだ。その声には、いつもの温和な響きはなく、戦場に立つ指揮官としての冷徹な響きが混じっていた。

 

 窓の外では、現実そのものが侵食されていた。空から降り注ぐ極彩色の光――「色彩」が、ビルや道路をガラス細工のように変質させ、物理法則を無視した歪みを生み出している。

 

アスファルトが飴細工のように溶け、鉄骨が植物のように捻じれ、そこから湧き出る異形の怪物たちが破壊の限りを尽くしていた。

 

本来あり得ない色の組み合わせが視神経を焼き、世界そのものがデジタルノイズのようにバグを起こしている。

 

『最悪、の一言に尽きますね。D.U.地区の防衛システムはダウン、各自治区との通信も断続的です。ですが、まだ防衛ラインは崩れていません! 生徒たちは、まだ諦めていません!』

 

 アロナの報告は深刻極まりないものだが、そこには絶望の色はなかった。シッテムの箱を通じて送られてくる戦況データは真っ赤に染まっているが、その中にある無数の青い輝き――生徒たちのヘイローの反応が、まだ消えていないことを示している。

 

「ユキト、君はアビドスへ向かって。ホシノたちが苦戦しているみたい。あそこには、一際巨大なサンクトゥムが突き刺さっているの」

 

「了解! 先生もご無事で!」

 

 先生の指示を受け、俺はバイク型のケミー・ゴルドダッシュを召喚して飛び出した。

 アクセルを全開にする。タイヤが悲鳴を上げ、瓦礫の山となった道路を疾走する。

目指すは我が母校、アビドス高校周辺。砂漠の彼方に、天を貫くように聳え立つ、赤黒く捻じれた巨大な「塔」が見えた。

 

あれが虚妄のサンクトゥム。この世界を終わらせるための楔だ。

 

☆☆☆

 

「うへ〜、次から次へと……これじゃあ弾がいくらあっても足りないよ〜」

 

 小鳥遊ホシノが愛用のショットガン『アイ・オブ・ホルス』を撃ち放ちながら、軽口とは裏腹に鋭い動きで敵を牽制する。盾で受け止めた怪物の爪が、金属を削る不快な音を立てて火花を散らす。

 

 その背後では、ノノミがミニガンを掃射して弾幕を張り、セリカとアヤネが必死に連携して側面からの侵攻を食い止めていた。

 

「くっ、硬い……! こいつら、普通の攻撃が効きにくい!」

 

 シロコがドローンを飛ばして支援攻撃を行うが、色彩の怪物は傷口からノイズを噴き出し、瞬く間に再生してしまう。腕を吹き飛ばしても、そこから新たな触手が生えてくるような悪夢じみた光景。

 

「物理的な破壊力だけじゃダメみたいだね。神秘そのものを反転させてるなら……こちらの攻撃の意味ごと『無効化』されてるってことかな 」

 

 ホシノが盾を構え直し、脂汗を拭う。彼女ほどの古強者であっても、この理不尽な物量と不死性は脅威だった。疲労が蓄積し、動きが僅かに鈍る。

 

 その隙を突くように、巨大な影が彼女たちの上空を覆った。サンクトゥムから這い出てきた、中型爆撃機ほどもある飛行型の怪物。その口腔が裂けるように開き、高密度のエネルギー弾が形成されていく。

 

「危ない!」

 

 シロコが叫ぶ。だが、回避は間に合わない。遮蔽物のない砂漠の真ん中で、彼女たちは死の光に晒された。

 その刹那。

 

「はぁぁぁぁっ!!セイッハーーー!!」

 

 紅蓮の炎を纏った黄金のバイクが、流星の如く空から急降下した。

 俺は空中でバイクから跳躍し、炎を纏ったキックを怪物の頭上へ叩きつけた。凄まじい熱波と共に怪物が地面へ墜落し、轟音と共に爆散する。

 

「お待たせ、皆!千神ユキト!少し遅れたが

只今参上!」

 

 炎の中から現れたのは、マントをなびかせるファイヤーガッチャードデイブレイクに変身した俺だった。

 

「ユキト君!?」

 

「遅いよ、ユキト。待ちくたびれた」

 

 シロコが不満げに、しかし心底安堵した表情で駆け寄ってくる。俺はガッチャートルネードを構え、残りの怪物たちを見据えた。

 

「悪い、道が混んでてな。……一気に片付けるぞ!」

 

 俺の持つ「人工神秘」の力――ケミーの属性エネルギーは、色彩の怪物に対して特効とも言える効果を発揮した。物理法則を無視する相手には、こちらも理屈抜きのエネルギーをぶつけるしかない。

 

 ガッチャートルネードにケミーカードを装填し薙ぎ払うように群れに向けで大きく振りかぶった。

 

「燃え尽きろ!」

 

【ケミーセット! ケミースラッシュ!】

 

 放たれた灼熱の刃が、怪物の群れを薙ぎ払う。再生能力を発動する間もなく細胞レベルで炭化し、黒い灰となって崩れ去っていく敵を見て、ホシノが感心したように口笛を吹いた。

 

「やるねぇ。流石は先生の自慢の生徒だ。おじさん、ちょっと惚れ直しちゃいそう。……でも、無理はしちゃダメだよ、ユキト君」

 

「……ん。でも、ユキト。何か変」

 

戦闘が一段落し、静寂が戻った砂漠で、シロコが俺の顔を覗き込んできた。そのオッドアイは、仮面の下にある俺の表情を見透かしているようだった。

 

「変って?」

 

「ユキトから、悲しい匂いがする。……それに、あっちの塔から」

 

シロコがサンクトゥムの方角、そしてその遥か上空、成層圏に浮かぶ不吉な影を指差す。

 

「私を呼んでる気がする。……もう一人の私が。泣きながら、怒りながら、私を呼んでる」

 

ドキリとした。シロコは直感的に感じ取っているのだ。あの方舟にいる「王女」が、自分自身の並行同位体であることを。

 

そして、俺のポケットの中で震える「錆びついたカード」が、彼女と繋がっていることを。

 

「……ああ。あそこには、俺たちが決着をつけなきゃいけない相手がいる。俺の過去と、お前の未来が」

 

 俺は錆びついたカードが入ったポケットを抑え、覚悟を決めて告げた。

 

「行こう、シロコ。ここを守るだけじゃ終わらない。……空へ行くぞ」

 

 

☆☆☆

 

 数時間後。キヴォトスの防衛戦は膠着状態に陥っていた。

 各学園の奮闘により地上の被害は食い止められているが、空の裂け目は広がる一方だ。元凶である「方舟」を叩かない限り、この戦いに終わりはない。

 

『先生、ユキト君。準備が整ったよ』

 

 通信機から、ミレニアムサイエンススクール・エンジニア部の部長、白石ウタハの声が響く。

 

『我々エンジニア部とヴェリタスの総力を結集した、対・色彩用超高高度強襲艦……名付けて「ウトナピシュティム」。発進準備完了だ』

 

 指定されたポイント――ミレニアムの廃墟エリアに向かうと、そこには瓦礫を押し退けるようにして建造された、巨大な宇宙戦艦が鎮座していた。

 

 かつてカヤたちが「超人」を作るために利用しようとしていたカイザーの技術も、リオが遺した遺産も、全てミレニアムの天才たちの手にかかれば「希望」を運ぶ船になる。

 

「すごい……本当に宇宙へ行くのね」

 

集まったのは、精鋭中の精鋭たち。

 アビドス対策委員会。ゲヘナからはヒナ委員長と風紀委員会、そして便利屋68。

 

トリニティからは正義実現委員会のハスミやツルギ、そして補習授業部と、壁を素手で破壊して合流してきたミカ。ミレニアムからはC&Cのネルたち。

 かつて敵対したり、すれ違ったりした生徒たちが、今、一つの目的のために集結していた。

 

「先生、ユキト。……覚悟はいい?」

 

タラップの前で、ヒナが真剣な眼差しで問う。その隣では、ホシノが珍しく真面目な顔で頷いていた。

 

「ああ。これが最後の戦いだ」

 

「必ず、全員で帰ってくるわよ。誰一人欠けることなく」

 

 先生の力強い号令と共に、俺たちは船に乗り込んだ。エンジンが唸りを上げ、重力制御装置が作動する。

 

『全艦、発進! 目標、成層圏外・方舟アトラ・ハシース!』

 

 ウタハの掛け声と共に、ウトナピシュティムが大地を離れる。

 凄まじいGが全身にのしかかる中、俺は窓の外で遠ざかるキヴォトスの大地を見下ろした。燃える街、必死に抗う人々。それらが小さくなり、やがて雲の下へと消えていく。

 

 そして、視線を上げる。漆黒の宇宙空間に浮かぶ、毒々しい色彩の渦。その中心に鎮座する、赤黒く輝く不吉な星のような「方舟」へ。

(待っていろ、黄金卿。そして……もう一人のシロコ)

 

 ポケットの中の錆びついたカードが、悲鳴のような高音を発した。それは恐怖ではない。早く解放してくれという、断末魔の懇願のように聞こえた。

 

 あの世界で俺は死に、彼女は残された。その絶望が、どれほどのものだったのか。俺には想像することしかできない。だが、今度は違う。

「……必ず、救ってみせる」

 

 俺は小さく呟き、宇宙へと旅立った。

 

☆☆☆

 

方舟アトラ・ハシースの内部。

 そこは、機械的な冷たさと有機的な不気味さが同居する、異形の神殿だった。壁面は脈動し、パイプの中を流れるのは燃料ではなく、液状化した「色彩」そのもの。

 

 広大な玉座の間で、黄金卿はモニターに映る接近中の戦艦を見つめ、優雅にグラスを傾けた。金色の仮面と、そこに装着されたモノクルの奥で、どのような表情を浮かべているのかは分からない。だが、その声は歓喜に震えていた。

 

「ようやく、よくやくだ。錬金術、神秘、そして色彩。全てのピースが揃い……私のケミストリーが完成する」

 

 その傍らには、虚ろな目をした少女が立っている。

 喪服のような黒いドレス。そして腰には、かつての輝きを失い、赤錆に覆われて腐食したガッチャードライバー。

 砂狼シロコ――否、色彩の尖兵と化した、シロコ・テラー。

 

「さて、やはり彼らは来るようですね。貴女の世界を壊し、貴女から全てを奪った運命の特異点が」

 

 黄金卿の囁きに、シロコ・テラーの瞳が揺れる。憎悪か、悲哀か、それとも縋るような思慕か。

 彼女はゆっくりと、錆びついたドライバーに手をかけた。その指先は震えているが、殺意だけは本物だった。

 

「……ん。全部、壊す」

 

 乾いた声。それは、アビドスで聞いたシロコの声と同じでありながら、決定的に何かが欠落していた。

 

「ええ、そうです。貴女の絶望で、この錆びついた世界を塗り替えなさい。……色彩の先導者たる、仮面ライダーガッチャード・デイマリス(終焉の暁)として

て」

 

 彼女が取り出したケミーカードは、絵柄が判別できないほどに黒く変色していた。

 二つの世界、二人のガッチャード、二人のシロコ。

 全ての因縁が交差し、衝突する。神話の再現すら生温い、魂を賭けた最終決戦の幕が、今上がろうとしていた。

 

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