追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結)   作:Leona

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27話

光が収束し、衝撃波が方舟の壁を内側から食い破る。互いの全霊を込めたキックが拮抗したその中心で、俺は炎の出力を限界まで高めた。破壊するためではない。彼女を縛りが収光が収束し、衝撃波が方舟の壁を内側から食い破る。

 

互いの全霊を込めたキックが拮抗したその中心で、俺は炎の出力を限界まで高めた。破壊するためではない。彼女を縛り付ける錆びついた呪いを、焼き払うために。

 

「う、あぁぁぁぁっ!!」

 

 デイマリスの悲痛な叫びと共に、漆黒の鎧から赤錆がボロボロと剥がれ落ちていく。

 俺の放った浄化の炎が、彼女の絶望を包み込み、そして弾け飛んだ。凄まじい爆風に煽られ、俺たちは反対方向へと吹き飛ばされ、背中から床に叩きつけられる。ドライバーから煙が上がり、俺たちは変身を解かれた生身の姿で、瓦礫の中に転がった。

 

「はぁ、はぁ……ッ」

 

 全身の骨が軋む。だが、意識はある。

 俺は痛む体を起こし、向こう側で倒れている彼女――シロコテラーを見た。彼女もまた、ボロボロになりながら身を起こそうとしている。だが、その瞳から狂気は消えていた。あるのは、ただ呆然とした虚脱感だけ。

 

「――素晴らしい」

 

 その静寂を破ったのは、拍手だった。

 冷たく、無機質で、それでいて歓喜に満ちた拍手の音。

 

「これぞ、錬金術と色彩のマリアージュ。君たちの衝突が生み出したデータは、私の予測を遥かに超えたよ」

 

 黄金卿の声が、方舟の壁面そのものから響いた。

 玉座が崩れ落ち、その瓦礫の山から、眩い黄金の光が噴き出す。だが、その光は祝福ではない。触れた物質を瞬時にデータノイズへと分解し、再構築する破壊の光だ。地鳴りと共に、空間の裂け目から「それ」はせり上がってきた。

 方舟の中枢炉を取り込み、巨大化したその姿は、もはや怪人という枠を超えていた。

 

「見よ。新世界の神の姿を。今日からこう呼び給え、黄金錬成神《アルケミック・デウス》……エルドラド、と」

 

 現れたのは、黄金と白磁の装甲に覆われた、巨大な機械仕掛けの神像。人の形をしていながら、下半身は存在しない。代わりに巨大な錬金釜のようなスラスターユニットが、重力波を放ちながら浮遊している。

 

 その全身には、デカグラマトンの預言者を思わせる幾何学的なラインが走り、しかしその溝を流れるのは青い神秘の光ではなく、毒々しい極彩色の泥だった。

 

頭上には、バグったように激しく色を変える、巨大なデジタルヘイローが鎮座している。無機質な黄金の仮面には目がない。代わりに、亀裂のようなスリットから、色彩の光が涙のように溢れ出し、俺たちを睥睨していた。

 

「エルドラドだと?ふざけやがって」

 

 俺が呻くようにその名を呼ぶと、エルドラドの周囲に浮遊していた、本体から切り離された巨大な黄金の腕が、印を結ぶように動いた。

 

WORLD……REWRITE(世界再編)

 

 システム音声ですらない、神の啓示のような重低音が響く。背中のステンドグラスのような翼が展開し、そこから放たれた極彩色の光線が、周囲の空間そのものを物理的に「書き換え」始めた。

 床が金塊に変わり、天井が空に変わり、重力が反転する。

 

「無駄だ」

 

 黄金の指先が指揮者のように滑らかに動く。ただそれだけの動作で、極彩色の奔流が津波となって俺たちに襲いかかった。俺たちは為す術なく弾き飛ばされ、再び床へと叩きつけられる。

 

「理解したかね? 絶望の暁。貴女の絶望、貴女の叫び、その全てが、私がこの完全な身体に至るための、ただのデータ収集に過ぎなかったのだよ」

 

 黄金錬成神エルドラドの無機質な声が、倒れ伏すシロコテラーに降り注ぐ。彼女が生きるためにしがみついてきた贖罪という最後の支えが、音を立てて崩れ落ちた。

 ただ利用されていただけ。あの日、先生が死んだのも、ホシノ先輩が壊れたのも、自分が化物になったのも――全部、こいつの実験のためだった。

 

「嘘……。そんなの、嘘……」

 

 シロコテラーは膝をつき、震える手で顔を覆った。戦意が消えていく。残るのは、底なしの虚無だけ。もう立てない。立つ理由がない。彼女の心は、今度こそ完全に折れようとしていた。

 

「用済みだ。……消え失せろ、哀れな孤狼よ」

 

 エルドラドの胸部コアが輝き、空間そのものを圧砕するような重力波が放たれた。

 回避不能の、絶対的な死の宣告。

 

「しまっ……間に合わない!?」

 

 ユキトは咄嗟に手を伸ばすが、距離が遠すぎる。シロコテラーは顔を上げることすらせず、ただ迫りくる破滅を呆然と受け入れようとしていた。その時だ。シロコテラーの目の前に、赤黒いノイズ混じりの障壁が展開され、神の重力波を受け止めていた。障壁の向こうに立っていたのは、ひび割れた仮面と、包帯のような装束に身を包んだ、異形の巨人。

 

「……う、あ……あああ……」

 

 喉から搾り出すような呻き声と共に、彼はその身を削りながら障壁を維持している。

 プレナパテス。

 かつてシロコテラーが殺してしまったはずの、別の世界の「先生」。

 

「……え?」

 

 シロコテラーの時が止まる。なぜ、彼がここにいるのか。なぜ、自分を守るのか。

 彼の胸元で、赤く染まったシッテムの箱が激しく明滅し、シロコテラーの知る世界の黒いセーラー服を着ているアロナの声がノイズ混じりに響いた。

 

『……先生が、言っています。「私の大事な生徒に、指一本触れさせはしない」と』

 

「……ッ!」

 

 その言葉に、シロコテラーの瞳から大粒の涙が溢れ出した。死してなお、怪物に成り果ててなお、彼は彼女を守る「先生」であり続けていたのだ。自分が彼を殺したのに。世界を滅ぼしたのに。それでも彼は、彼女を見捨てなかった。

 

「くっ、なんだこの不純物は! 壊れかけの分際で、私の演算を邪魔するな!」

 

 エルドラドが苛立ち、出力を上げる。ミシミシと障壁に亀裂が入り、プレナパテスの体が膝をつく。限界は近い。

 

「……先生、もういい。もういいよ……!」

 

 シロコテラーが叫ぶ。これ以上、彼を傷つけたくない。障壁が砕け散り、黄金の光が二人を飲み込もうとした、その瞬間。巨大な鉄塊が、その光を物理的に遮断した。

 

「うへ~、やっぱり神様相手だとキツイねぇ~。おじさんの盾もヒビが入っちゃいそうだよ」

 

 プレナパテスの隣に滑り込み、愛用の盾『アイ・オブ・ホルス』を構えたのは、小鳥遊ホシノだった。

 

「ホシノ、先輩……?」

 

「遅くなってごめんね、もう一人のシロコちゃん。……辛かったね。一人で背負わせて、ごめん」

 

 ホシノだけではない。激しい銃声が響き、エルドラドの腕を弾く。

 

「もう! 何ボーッとしてんのよ! アンタもアビドスの生徒なら、シャキッとしなさい!」

 

 黒見セリカが叫びながらトリガーを引き続け、前線に飛び込んでくる。

 

「そうです! 私たちもいます! 背中は任せてください!」

 

 奥空アヤネがドローンを展開し、傷ついたプレナパテスとクロコの周囲に回復バリアを展開する。

 

「んんっ! 悪い大人には、お仕置きの時間ですよ〜☆」

 

 十六夜ノノミがミニガンを構え、面制圧の弾幕を張ってエルドラドの動きを牽制する。

 

アビドス対策委員会。かつてシロコテラーが失い、二度と会えないと思っていた仲間たちが今、彼女を守るために壁となっていた。

 

「みんな……。どうして……私は、貴女たちの世界を壊そうとしたのに……」

 

「関係ない」

 

 その言葉を遮ったのは、この世界の先生だった。彼女はゆっくりと歩み寄ると、崩れ落ちそうなプレナパテスの背中を支え、二人の「先生」で並んで、二人の「シロコ」を見据えた。

 

「生徒が間違えたなら、正すのが大人の役目。……それにね、シロコ」

 

 先生は、優しく微笑んだ。かつてクロコが憧れ、自らの手で奪ってしまった、あの温かい笑顔で。

 

「どの世界だろうと、どんな姿だろうと。……君は私の、自慢の生徒だよ」

 

 その言葉が、シロコテラーの中で何かが弾ける引き金になった。呪いのように絡みついていた罪悪感が、光に溶けていく。許されたかったわけじゃない。ただ、認めてほしかった。自分はまだ、生きていていいのだと。

 

「……立て。砂狼シロコ」

 

 その光景を見ていた、この世界の砂狼シロコが、クロコの肩を強く掴んだ。

 

「あの人は、貴女を守るために立っているのよ。……貴女がここで諦めたら、あの人の想いはどうなるの!?」

 

「……!」

 

「貴女は、私。……どんなに傷ついても、アビドスの生徒は諦めない。……そうでしょ!?」

 

「……ん。……そうだね」

 

 シロコテラーは涙を拭い、大地を踏みしめて立ち上がった。プレナパテスが作ってくれた、この命。アビドスの皆が繋いでくれた、この時間。絶対に無駄にはしない。

 

「……付き合うぜ、シロコ。とことんまでな」

 

 ユキトが手を差し伸べる。かつて彼女が拒絶し、それでも追いかけ続けた、仮面ライダーの手。彼女はその手を、力強く握り返した。

 

「私は……砂狼シロコ。アビドス高等学校、対策委員会……」

 

 彼女は錆びついたカードを拾い上げた。その瞳に宿ったのは、かつてのアビドスのエースと同じ、不屈の輝き。

 

「……ユキト。行くよ」

 

「ああ、勿論だ!」

 

 二人のドライバーが、共鳴するように唸りを上げる。

 

 ユキトは輝くプラチナのカードを。

 シロコテラーは錆びついた鉄のカードを。

 

それぞれの"生"を象徴する札を、装填口に叩き込む。

 

【HOPPER1! IGNITE!】

【STEAMLINER! IGNITE!】

 

【RUSTY HOPPER! WRECK LINER!】

 

 ガッチャーイグナイターのターボが限界を超えて回転し、ユキトの全身から紅蓮の炎が爆発的に噴き出す。同時に、彼女のドライバーからも、全てを腐食させるドス黒い蒸気が立ち昇った。

 

 

熱気と冷気が、希望と絶望が、一つの戦場に渦を巻く。

 俺たちは同時に左手を掲げた。今度は、彼女の指はもう震えていない。

 

守ってくれた先生の前で、そして新しい日常を共に歩む仲間の前で、二度と自分に嘘をつかないために。

 

 親指と人差し指を立て、真っ直ぐに、鋭く。明日を指し示す矢印を描く。二人の声が、重なった。

 

「「……変身!!」」

 

 手首のスナップを利かせ、二つのレバーが同時に引かれる。

 

【ガッチャーンコ! ファイヤー! スチームホッパー! アッチー!】

 

【Return the Void to Nothingness……! GOTCHARD・DAYMALICE!】

 

 まばゆい光と闇が渦を巻き、方舟の空間を二色に染め上げる。

 

爆炎と蒸気を切り裂いて現れたのは、二人の仮面ライダー。

 

 輝ける未来を背負う、希望の暁。

 潰えた過去を背負う、絶望の暁。

 

 表裏一体の二人が今、神を殺すために並び立った。

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