追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
千神ユキトは仮面ライダーガッチャードである。改造人間ではなくヘイローもないただの10代の青年に過ぎない彼は、戦い続けた末に死んだはずであった。彼は気づくと過去に意識が飛んでいた、戸惑いながらも彼は今日も戦い続けるのであった。
「……あのさあ、黒服。なんで真っ昼間からあんたとケーキバイキングに来てるわけ?」
「おや、お気に召しませんでしたか?ここは中々良いものを出すのですが」
「いや、そうは言わないが」
ある日俺のスマホに黒服から呼び出しが来た、何故俺の連絡先を知っているのか、そもそも突然人前に現れては消えていくような手法をとる奴が何故eteなど疑問は尽きないが、ゲマトリアの一員である奴とはいずれ決着をつける必要がある。そう思い覚悟を決めて向かったのだが……
「クク……ではいいではないですか」
「はあ。で、だ。本題に入ろうぜ?」
色々と胡散臭い、というか存在そのものが悪意の塊といっていいこいつとまともに会話なんてしていられない。
「おや忙しないことですね。では……今日は貴方のその”神秘”についてです」
「……こんな兵器が使う人間を選ぶ欠陥品を使う力も、あんたらには興味の対象か。暇人め」
「クク、随分な言われようですね。それにその言い方、対策委員会の何方かで実験でもしましたか?」
前世でも黒服はホシノ先輩だけでなく、俺にも色々と仕掛けてきていた。カイザーとは違い武力によるものではないが、面倒な事には変わりない。そして今、うっかり売り言葉に買い言葉で余計なことを口走ってしまったかもしれない。
「そんな事しないさ、ただの経験から来る勘だよ」
「ふむ、まあいいでしょう。ですが、知りたいのではないですか?貴方の失われた記憶や、ドライバーの事を」
黒服の言う通り俺はキヴォトスに来る以前の記憶がない、覚えていたのは名前とガッチャードとしての力の扱い方ぐらいだった。前世においてそんな境遇にあっても連邦生徒会預かりで先生の補佐で副官、そんな身分に収まったのは幸運だった。
だが、常に心の何処かに不安がありそこに付け込んできたのが黒服だった。ホシノ先輩の事もあり、後に決別したが多少恩義を感じたこともあった。
だからだろうか、今この時点で不自然と取られかねない反応をしてでも断るべき黒服の誘いを受けたのは。
「わざわざ回りくどい手段をとってまで、か?」
「クク、只人たる貴方の使うそれは言わば人が作りし外付けの”神秘”───そのプロトタイプなのですよガッチャードは」
神秘も鍛え上げられた肉体も持たぬ俺がキヴォトスの中で戦っているのは確かにガッチャードライバーと人工生命体たるケミーの協力あってのものだ。だが、それは俺だけのものではなかった。その事実を、前世の俺は理解しておらず、結果として多くの仲間の命を代償に思い知らされた。
「そうだろう、な。兵器というなら唯一無二なんてことはないよな、ましてこのキヴォトスで戦おうというのなら」
「ええ、そのとおり。随分と理解が良くなりましたね、やはり何かあったようだ」
黒服の影のような顔が面白そうに歪むのをみて思わず舌打ちする。俺ではやはり先生のように口や頭でこいつをやり合うのは難しい、少々取り繕った程度では舌戦などおこがましいだろう。
「……笑えないジョークだ。俺はあくまで連邦生徒会や先生サイドの人間だ、例え俺の身の上をあんたが知っていたとしても協力は出来ないぞ」
「クク、そうでしょうとも。ですがもし、興味があったらこちらにご連絡を。お待ちしています……」
文字通り消えるようにその場を去った黒服。ちなみに会計は済ませていったようだ、
くだらない借りを作ってしまった気がする。
「はあ……」
前世において俺が何者であるかという問いへの答えは結局出ることはなく死んだ。
だが黒服の今の言葉や断片的な記憶からすると俺にも何かしら神秘とやらがあるのか、あるいは人ならざるものであるのかもしれない、かのゲマトリアの連中のように。
「もっと、人手が必要だな。装備もだが……今のうちから伝手を作れないものか」
方舟をめぐる戦いにおいて手を取り合えたのは、先生の尽力あってのものだ。だがそうでなくても同じ危機に立ち向かう余地はあったはず。そう考えては見たものの、良い考えなぞそう浮かぶものでもなく、校舎に一度戻ると屋上で一人物思いに耽っていた。
「ユキト、何かあったの?」
「……先生」
階段を登ってくる足音と共に扉が開く音に反射的に身構えると、長髪の眼鏡を掛けた優しげな瞳が特徴的な先生がそこにいた。平均的に容姿に優れたキヴォトスの住人に劣らず整った大人の女性に気にかけてもらうというのは、例え立場から来るものであったとしても身構えてしまうものがある。そんな内心を知ってか知らずか、いつの間にやら隣に立った先生はやはりこちらに心配そうな視線を向けてきている。
「いえ、少し風に当たっていただけですから。すぐに戻ります」
「私にも話せない?」
「それは、その」
何でもない、といえばそれ以上深く突っ込んで来ないだろう。しかし、それも躊躇われる。荒唐無稽が常識としてまかり通るこのキヴォトスにおいても、俺が経験したことはあまりにもふざけている。先生は真っ向から否定したりせず聞いてくれるだろうが。
「わかった、今は聞かないわ。でも、ユキトも生徒の一人何だからそれだけは忘れないで」
口籠った俺の顔を見て何かを悟った先生はそれ以上何も聞かず去っていった。誤魔化せたなどとは思わない、いずれは話すべきだろう。
『仕事を斡旋して欲しいですって?』
「ああ、ミレニアムは色々しているだろう。もしよければ回してくれると助かるんだけど」
一先ずはアビドスの生徒として借金返済の為の行動を兼ねて行動する事にした。校外の知人で伝が効きそうな数少ない相手である、ミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカだ。もっとも、便宜を図ってくれるのは先生へのものであって俺がその恩恵を受けられるかは分からないが。
『構わないけど、アビドスの借金を返すには微々たるものよ』
「逆に一発で返せるようなものがあったらそりゃあろくでもないものじゃないか。かの白兎ならやれるかもしれないが」
『あの子にフリーハンドを与えるような隙を与えないでもらえる?ただでさえ手を焼いているのに……ってあれ、貴方あの子と面識あったかしら?』
「え?ああいや、噂話程度に聞いただけだよ。凄腕のハッカーが色々やらかしてるって」
『ふぅん?貴方のところにまで話が漏れてるのなら、それも問題ね。まぁいいわ、またモモトークするわね』
黒崎コユキとの面識は現時点ではないということを失念していた。モモトークでのやりとりであったのが不幸中の幸いで誤魔化せたが、いつまたやらかさないとも限らない。
「エンジニア部と後は……ゲヘナの風紀委員会、トリニティは……正義実現委員会ならあるいは?」
先生を通して聞いたものや箱舟を巡る戦いの後の、あのシロコ先輩によく似た女性との戦いの中で、何人かの生徒と話し背中を預けてようやく信頼関係を築いた。シャーレの一員とはいえ、ただの一生徒に過ぎない。
しかも、女学生ばかりのキヴォトスの仲で、一人性別が違うというのは結構なデメリットだ。アビドスの皆の前ですら結構気を使う。ホシノ先輩ですらああ見えて、羞恥心はあるし着替えも流石に別にしている。
「って思ってたんだけどなぁぁぁ!」
「何かいいましたー!?」
数日後俺はブラックマーケットの調査に来ていた。アビドス側とエンジニア部から、それぞれ目的は違うが話を受けて俺が仲介した形になる。アビドスの襲撃をやってのけた便利屋68を雇った連中の資金源と違法な武器の流通元を探すこと、そしてミレニアムを通したエンジニア部からの依頼として違法スレスレな購入リストを渡され(ユウカは中身までは知らないようだが)さらにブラックマーケットのある区域の現状を探ってほしいという点は合致した為二つ返事で引き受けたのはいいのだが。
「で、トリニティの子がなんでこんなところに?」
先行して変身し空中から調査をしていたところに、場に不似合いなトリニティの制服を来た大人しそうな金髪の少女───普通というには少々自己主張が激しいとこのある阿慈谷ヒフミがガラの悪い住民に絡まれているのを見つけてしまい救出、ほぼ同じタイミングで騒ぎを聞きつけやってきたアビドスの皆と合流し場を収める為やむなく戦闘したのであった。
「あ、はい。実はですねどうしても欲しい物があったんですがもう普通の手段では入手不可でここでならあると聞いてつい……」
「もしかして戦車とか?」
「いやいやミサイルかも?」
ブラックマーケットに来てまでわざわざ探しに来るような物ということで違法な武器や薬なのではと懐疑的な視線と反応を見せるアビドス一同、俺もそれについては知らないがそこまでイカれた事をするタイプではない、はず。
「ち、違います!これです、ペロロ様の限定グッズですよ」
「わぁ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃんかわいいですよねぇ。私はミスター・ニコライが好きなんです」
「分かります! ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて! あ、最近出たニコライさんの本、『善悪の彼方』も購入しました! 勿論、初版で!」
と、思っていたのだがどうやらノノミは造詣があるどころか好きな部類に入るものらしい。ケミーの中にも変わった姿形をしているのもいるがペロロとやらはかなり個性的だと思う。
「いやあ、何の話だかおじさんにはさっぱりだなあ〜若い子の話にはついていけないよ。ユキト君はわかる?」
「はあ、俺もその方面はあまり。そもそもホシノ先輩って、ファンシーグッズに興味ありましたっけ?」
「ないね〜」
それ以前にホシノ先輩も10代のうら若き乙女なのだが、とも思ったがそれは口にするまい。
「じゃあ、ヒフミはこのグッズを手に入れた今ここに留まる必要はないんだね?」
「はい。すぐに帰るつもりだったんですが、そこからはご存知の通りで……」
いかなヘイローを持つキヴォトスの住民といえど、個としての能力が高くなければ数の暴力に負けてしまう。中には飛び抜けている人、ここにいるホシノ先輩もそれにあたる。
『ホパ!ホパホパホパッ!』
「ん?ホッパー1?」
大きめのデイパック───実質ホッパー1を隠す為の偽装も兼ねた物だが───から顔を出したホッパー1が何かを訴えてきたのと同時に気配を感じ取った。
「先生。今度はちょっと数が多そうです、ここに留まると余計な被害が出るかと」
「わかった、一度広いところに出て迎撃しよう。……ヒフミ、ごめんね。もう少し私達と一緒にいてほしい、ここから一人で帰すには危険すぎるから」
察知したことをそっと耳打ちすると、それまでニコニコと人のいい笑みを浮かべていた先生の顔が引き締まった。
「いえ、私も力になります!先生の指揮があれば私でも戦える、そんな気がするんです」
「よし、じゃあ皆でこの戦闘を乗り切るよ!」