追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
「空崎ヒナ......!ゲヘナ最強の、風紀委員長!?」
「はあ、めんどくさい……これ以上何かするようなら!」
機関銃を携え、地面を蹴るヒナを見てようやく我に返ると、銃撃を避けつつギアを一つ上げる準備をする。
【ガッチャーイグナイター!ターボオン!】
【ファイヤー!スチームホッパー!アッチー!】
「マントが生えただけ?いや、それにしては動きが!」
点火器たるガッチャーイグナイターによって、今の俺の限界は底上げされた。
それでもキヴォトスの中で、最上位の戦闘能力を持ち、ワンマンアーミーといってもいい相手にはどうにかこうにかといったところだが。銃撃をガッチャントルネードで弾き、ガッチャージガンで反撃する。
時に近接戦闘を挑むが、いなされる。かろうじてついていくことはでき、牽制は出来る。足りない技量を補い圧倒するには足りないが、こうしてついていけるだけマシと言える。
「貴方、何処に雇われてるの?」
「アビドスの生徒でシャーレの一員で便利屋に助っ人としてきた、ってとこ!お?」
銃撃と蹴撃と打撃と斬撃音と、互いへのダメージよりも周囲の瓦礫が増えていく中でようやくヒナが口を開いた。俺の返答に手を止め、眉を顰めるとスマホを取り出し、通話を始めた。
「……ちょっと待ってて。アコ、今大丈夫?」
『はい、どうされました委員長?』
「シャーレに所属している、先生以外の専属の生徒の名前ってわかるかしら」
『ああ、それでしたら───』
電話の相手は天雨アコのようだ。
ヒナの副官たる風紀委員会のナンバー2にして行政官、風紀委員会の頭脳にして中核を担う女だ。俺はあまりいい印象がなく、付き合いも薄い。
まともに会話したのは随分と後のことだったと思う。ヒナをはじめとした多くの人間が信頼を置く程優秀なのはわかっているのだが。
「……わかった、有難う。人を送る?事後処理の子達だけでいいわ。それと、先生にもそちらの生徒と行き違いがあったからと謝罪の連絡をしておいて」
それほど長い時間ではなかったが、彼女から殺気が消えたのと、聞こえてきた言葉に敵意がない事を示すためにドライバーを外し変身を解いた。スマホをしまい、機関銃を降ろしたヒナの表情は心持ち柔らかくそして少し申し訳なさそうにしているように見えた。
「悪かったわ、貴方が噂の男子生徒だったのね」
「ええ、まあ」
ヘイローがないちょっと変わった生徒として、そして先生の手となり足となり時には戦闘もやってのける奴として、珍獣を見るような視線を向けられることもある。
それにしても、初見で死にそうになるという経験は久し振りだ。そういう怖い目にあったのは、脱獄した七囚人達や死ぬ前に戦ったシロコを名乗る誰か以来だ。
「これは、先生の指示かしら。もし個人的なアルバイトならわ見逃せないわ」
「そう、ですね。陸八魔社長達を助けてやってほしいと、先生から言われてまして。ですのでシャーレの業務というわけではないですが」
口調や表情から見るに、本気で疑っているというよりは形式的な聴取であるらしい。そう、と小さく頷き、また先生はと口を動かした後考え込むような仕草を見せる様子に、これは話を通しておくべき案件だったかと後悔が頭をよぎった。
「そう、貴方も災難ね。あの人は優しいから生徒と見れば、どんな子も分け隔てなく助けようとするもの」
「空崎委員長も、その生徒の一人なのでは?」
アビドスの借金返済、破滅回避の為の鍛錬、人脈作り、そして百合園セイアのあの言葉──目指すべきチャートがはっきりしない中で縋りたくなるあの言葉を頼りに動いてはいるものの、芳しくない状況だ。
しかし同時に先生が五体満足であれば、生徒達の心の支えとして学校の垣根を越えたより強固な協力体制をつくることができる。
残念ながら、俺はそれが器ではない。であればこそ、目の前のヒナとも仲良くなるのが理想だ。
「そうかもしれない。でも私は私で守るべき場所と生徒達がいて、助けられているわけにもいかないわ。貴方は……ユキトはどうなの?命を張る価値はあるのかしら」
「それが、俺に出来ることならば。そしてそれは先生には出来ないことでしょうから」
「……はぁ、貴方も大概ね。そろそろ便利屋の子達が戻ってくるようだから、戻って」
ヒナの言葉から間もなく一人、また一人と集まってきた。無事かと心配する皆に答えているうちに、ヒナはいつの間にか姿を消していた。
後日、誰にIDを教わったのかモモトークで連絡してきて今後何かあれば呼ぶかもしれないからよろしく、とメッセージをよこしてきた。これは酷使されるフラグと見ていいのだろうか……?
「ユキト!生きてる!?」
「凄い音がしてたけど、何があったの?」
「怪獣でも暴れてたの??」
「ば、爆破にしては綺麗に瓦礫が残ってますね……」
駆け寄ってきた便利屋の皆は、俺を心配した後周囲の惨状を見て驚いている。あのクラスの強さを持った生徒かそう何人も集まるような戦場でなかったことに安堵する。
今回は偶々切り抜けられたが、あのクラスの強さを持った生徒は他にもいるし、殺す気で本気で向かってこられればただでは済まないと改めて認識させられた。
「な、なんですってええええ!?」
「社長、もう終わった事だから。それにしてもあんた、よく無事だったね」
「あともう少しやりあってたら危なかったです。シャーレにも籍をおいてたのがこんな形で役立つとは……」
経緯を話した途端返ってきたアルの絶叫とカヨコの呆れ半分な労いへの答えは、謙遜がないとは言わないが概ね本音だ。それをわかってくれたのか、アルもそれ以外は追及せず帰ろうと言ってくれた。
というか、俺は変身していたからいいが生身で戦う皆は折角の礼装が所々汚れたり破れたりしていて散々な有様だ。そしてそれは非常に目に毒だ。アビドスでは気をつけてそうした視線を向けないようにしているがそれでさえ、こっそり抜かないと耐えられない程だ。
「あれれ、ユキト〜何だか私達の事スケベな目で見てない?」
「別にそんな事は……ムツキはそういうふうに見てほしいわけ?」
「そこで否定されちゃうと、ムツキちゃんは女の子として魅力がないって言われてるみたいでショックだな〜」
からかってくる浅黄ムツキは、便利屋68の中ではというか、俺の知る限りでは比較的そういうことを意識させてくる女の子だ。
何がと言われれば男女の事、ここに来てからというもののとにかく女性にしか会わない。人ではない何かならば男もいるのだが、それを含めたとしても意識しないほうが無理というものだ。
これでも健全な男子高校生だ、少々変わった経験はしたがキヴォトスの中では埋もれてしまうかもしれない。
果たすべき目的はあれど、常に気を張っていられるわけもなく目指すゴールに同じように辿り着ける保証もない。などと思考があっちこっちに飛び言い淀んでいるとムツキが噴き出して笑った。
「ぐふふ、少しはドキドキした?」
「か、勘弁してくれ……」
おかしい、今のこの時間での付き合いは短いはずなのにもう弄ばれている。彼女が記憶を保持している様子はなさそうなので玩具にされているだけだとは思うが……。
ちなみに警備の報酬は、戦闘の余波で壊れた会場の修繕費に当てられることになり実質タダ働きとなってしまった。アルが絶叫してムンクの叫び顔をしていたのは言うまでもない、とっぴんぱらりのぶう。許せない!全部破壊します!と飛び出しかけたハルカの首根っこを掴み、ビルへと帰還し解散した。
「ふ、普段はこんなじゃないから。私達の元には危険な仕事も入ってくるってだけで」
「また、何かあれば言ってくださいよ。先生程頼りになりませんが、腕っぷしの方は多少覚えがあるので」
報酬で盛大に食事会をするといっていたがご覧の有り様となってしまったので、それはお流れになった。というか、丁重にお断りした。タダ働きさせるのは申し訳ないということだが、さりとて厳密さを求めるつもりはなかったからだ。
「……ユキト、一つだけいいかしら」
「はあ、何でしょう?」
「カヨコの事を名前で呼ぶんだからついでに私とムツキとハルカもそうしなさい。敬語もなし、これが報酬の代わり。悪くないでしょう?」
「えっ……わ、わかった。アル、社長」
これを断る事は許さない、そんな空気だった。チラリ、と他の皆に視線を向けるが誰一人として反対する気配はない。諦めて口にすると喜んで貰えたので良しとしよう。
☆☆☆
「はあ……」
アビドスの校舎の屋上で、一人佇んでいた。何もする、というわけでもなく寝転び空を見上げる。既に薄暗く、間もなく夜になる。シャーレにも足を運び先生の様子を見にいくもりだったが、体よりも心が疲れてしまっているようで動けない。今日はユウカが当直の日だから、何があっても心配ないだろう、そんな打算もある、なんと怠惰な事だろう。キヴォトスで生きる住民や、生徒、そしてかつて思いを通わせた人とも会ったせいだろうか?まだ、何も成していないというのに。
『ホパッ!ホパホパッ!ホパパッ!』
「ホッパー1?ああ、そうだな。明日からは頑張るさ」
いつの間にかカードから飛び出し実体化していたホッパー1に励まされ体を起こす。自分の体を見下ろすと、真新しいアビドスの学生服と上着として羽織っている薄橙色のモッズコートがある。何の因果か、戻ってきてしまった。夢でないのなら、今度は……今度こそ死なないし、死なせない。そう、誓った。