追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
「これが噂の元か。まあ確かにいくらきな臭いところがあるとはいえ、今のトップがまともなのに警戒されているわけだ」
翌日俺は、シスターフッドの歴史についての調査を行っていた。大体は活動記録のようなものでパラパラとめくって流せる様なもので、これはハズレかと思っていたところにもう一つ、外からの情報が来た。
『いいご身分よね、連邦生徒会の役員に小間使いみたいなことをさせるなんて』
『悪かったよ、今度甘い物でも奢るからさ、そうカリカリしないでくれよ、アオイ』
文字から苛立ちを感じさせる文章と共にモモトークに添付されてきた資料を送ってきてくれたのは、連邦生徒会で財務室長をしている扇喜アオイだ。元はトップである七神リン行政官の代わりに、先生の元に訪ねて来ていたところに、シャーレの見習いとして働き始めた頃に顔を合わせたのがきっかけだ。
リンもそうだが、どちらかといえばツンケンとしているように見えるが気遣いの人なのだと何度か交流するうちにわかった。
先生とは違って特に何かあるわけでなく、それこそ外付けの胡散臭い力で戦う生徒というのは、扱いが面倒だと思われている節があるが。
『余計な気を使うくらいなら、もう少し書類仕事を覚えなさい。当番がいるとはいっても、まだ専属の生徒は、貴方しかいないんだから』
暫く小言のようなやり取りをした後、送られてきたファイルを開き目を通す。トリニティ統合学園の旧”ユスティナ聖徒会”は遥か昔に存在した武装組織で、シスターフッドの前身にあたるもの。真っ当な倫理観───あくまでキヴォトス基準───から考えても過激で、闇に葬られた歴史のようだ。これだけならただの史料で終わるが……。
「これは、そうか……トリニティとアリウスとの因縁はここから」
教育機関として体をなさなくなり、いつからベアトリーチェが介入し始めたのは分からないが、スクワッドを含めて自分の都合のいいように利用し尽くしようとし、さらに聖徒を模したおぞましい人形をも作り出し戦力ととしていた。
「あー……クソ。なんだ、この違和感は」
ベアトリーチェ、錠前サオリ、白洲アズサ、秤アツコ、聖園ミカ、桐藤ナギサ、百合園セイア。そしてエデン条約、この事変を収束させるのに必要なキーワード達。特に、動きが読めないという聖園ミカ。以前戦った空崎ヒナと同等かそれ以上に、生身での戦闘が強い。
仮に今正面からぶつかるようなことがあれば、ヒナ戦のような幸運に恵まれるということでもなければ、殴り殺されるという危険性が大いにある。そういうどうしようもない敵に備えて模索しているが、ミレニアムに頼んだものと含めて形になるのは未だ遠い。
「ガチで桐藤会長に何かあっても困る、そっちは何とかしてくれそうだが……マーフィー、俺どうすりゃいいんかね?」
ちょこんとおすわりしてこちらを見上げるロボット犬のマーフィーは、可愛らしく首を傾げた後頭を体に擦り付けて甘えてきた。考えに考え抜いたが、結局いい考えは浮かばなかった。ナギサとアズサと定期的に相談し、それとなく各組織に連絡をし、さらにこの状況で最重要人物として、先生以上に狙われる危険度があるナギサの避難する準備を始めた。だが、それでかなり被害は抑えられるはず、だったのだが事件はいい方向にばかりコントロールできなかった。
「こちら千神、了解。敵勢力の掃討を終え次第合流する、アズサも気をつけて」
トリニティ本校舎目掛けてアリウス分校の生徒とおぼしき集団が、一斉に攻撃をしかけてきたという報告を受け迎撃に俺とアズサが分担して出た。ナギサは既に別の場所に避難済みで、先生と補習修行部が迎撃する予定だ。アズサも俺も遅れて合流する形で完全に鎮圧、先生も負傷することなく終わらせる、という最低限の勝利目標を果たすのだ。
「こちらΒおよびC小隊、エンジェルは確認出来ず!エンジェルは確認出来ず!各隊は、がっ!?」
「こいつ!」
それなりの数と練度をもった部隊が来るだろうというわけで、迎撃には俺が残った。ナギサはもっと人員を出したいようだったが、本命の為に最低限でいいと説得した。
変身して待ち構えていた俺は、先手必勝でアリウス分校の生徒達を気絶させていく。練度が高く、ヘルメット団のチンピラとは比べ物にならない実力で少々苦戦したが何とかなるものである。
「こんな、殺せ!こんなざまでマダムの元へ帰ったら……!」
「悪いけど君の命運を決めるのは、俺じゃなくトリニティのお嬢様方でね。どちらにせよ、そこまでつもりはない」
運良く、というよりリーダー格の生徒は流石に簡単に倒れず武器を弾いてようやく両手を上げた。マーフィーが前に武器を咥えて俺の横に来たので撫でた。こいつも地味に生徒を撃破してたりと有能だ。Bluetoothでバッテリーを消耗しすぎるのが難点だが。
「……だが、お前がここに留めることができただけでも、スクワッドへの贖罪になるな」
「それは大丈夫、何しろ向こうには心強い仲間がいるから。何より先生がいるんだがら、な」
見栄を切って見せたものの内心は冷や汗流している。正義実現委員会に連絡して連れて行かれたやつの目は最後まで何処か希望を失っていないように見えた。
『……こ……き……!ま……!ミ……!』
「先生?先生!?」
マーフィーにつけられた通信機に先生からの着信が入った。しかし、様子がおかしい。雑音がひどいし、何より阿鼻叫喚が聞こえる。
「くっ!こい、ゴルドダッシュ!」
『ダーッシュッ!』
これはもう胸騒ぎどころではない。ゴルドダッシュケミーを呼び出すと同時に、可変しリュックのようになったマーフィーが背中にくっついたのを確認し現場へと全速力で飛ばした。見えてきたのは聖園ミカと対峙する補習授業部と聖園ミカ。周りに建物や床が滅茶苦茶になっていて、生徒があちらこちらに倒れている。不意にミカの手から投げられる手榴弾のような小さな球体が先生の元へ飛んでいく、誰もが撃ち落とそうとするが当たらない。あれ、不味い。
「っおおおおお!!!」
先生の真正面にバイクを止めて跳躍、爆発せずとも、その勢いだけでヘイローを持った生徒でも、ダメージを負いそうなそれを掴み放り投げ体を反らしガッチャージガンの引き金を引くと数発があたり爆発した。
「ただの、爆弾……?」
「あーあ、どうして邪魔しちゃうかな」
俺が現れたことでミカの攻撃が止まり、まるで遊びを邪魔されて怒る無邪気な子供のような笑顔と声色とは裏腹に、漂う殺気がこちらを威圧してきて体が震えている。
「先生の命まで奪ったら、引き返せないぞ。聖園ミカさん」
「へえ、私の名前も知ってるんだ?」
「ミカ、もうこんなことはやめよう」
「ううん、先生。駄目なの、私は魔女にならないといけない。先生を殺す気はなかったよ、重傷で済ませる予定だった。でもね、それだけじゃだめ。私の力でトリニティも他の学校も全てを叩き潰して、キヴォトスに平和を……作るじゃんね☆」
先生の言葉に僅かに止まったように見えたが、違った。むしろタガが外れてしまったのかもしれない。殺気がこの世ならざる異様な気配へと変わっていく。駄目だ、止めなければ。そう思うが、足が動かない。まるで押さえつけられているかのように。
『ア!アアアアアッ!!!』
「きょ、巨大なペロロ様……?」
ヒフミの言葉通り、あっという間に大きくなり形を変えたミカ。否、ミカであったものはモモフレンズにでてくるペロロのような姿になっていた。
背中にミカと同じ形の羽が生えていたり、体色がミカの髪色と同じであったりと違いはあるが……。
「に、逃げろおおお!」
誰が叫んだのか分からないが聞こえてきた叫び声にペロロミカ(仮)を見ると目が光りそこから光線のようなものが放たれ、地面を抉り崩壊した建物の瓦礫をさらに増やした。
「くっそ、ふざけた見た目してるくせに、やることは怪獣映画かよ!」
「ふざけてるってなんですか、ペロロ様は可愛いです!」
「ヒフミ、今はそれは置いておこうね」
ペロロ様への愛を語るヒフミを嗜める先生を尻目にペロロミカは暴れまくっている、どの程度あの姿でいてどのぐらいの時間暴れ続けるのか、そもそも人の姿に戻ることはあるのか。いや、聖園ミカとしての意識はあるのか?
「とりあえず、動きを止めないと!」
【RENKINGROBO!】
【YAMIBAT!】
「変身!」
【ガッチャーンコ!バットキングロボ!】
それまでとは違い重厚感のある姿に変身し、さらにワイルドモード───もう一つの非人型の形態を取ると巨大化した。
「お、おっきくなった!?な、何あれ!」
「あんな大きくもなれるのか、あの力は」
驚くコハルとアズサへの攻撃を受けながら対峙する。オレンジを基調としているのは変わらないが、コウモリの羽や腰にあったガッチャードライバーが胸に来ていたるほか力を借りているケミーの姿に大きく影響されめいる。
『邪魔!しないで!私が全部破壊すれば!セイアちゃんも!ナギちゃんも!先生も!皆死なずに済むじゃんね!』
「くっ……!」
見た目はふざけているが、パワーはとてつもない。状況に頭が追いつかない、いくらキヴォトスの住人がヘイローによって人ならざる力を持っていても、こんなことはできなかった筈だ。だが、目の前で暴れているのは夢ではなく現実だ。
「アロナ、ミカを戻す方法はある?」
『はい先生。ですが、ミカさんは外からの刺激で無理矢理でも引っ張り出さないと、遠からず消えてしまいます』
「消えるだって?」
「はい、今はあの個体のコアになっているので肉体は残っていますが、時間が経てば一体化してしまいます」
アロナの言葉に青ざめる先生。ミカの強さは身をもって知ったかは分かる。簡単に止められないと、まして時間制限があるとなれば。しかし、生徒を見放すつもりは欠片もない。
「……ユキト!君の力でミカを助けてあげられない!?ミカは暴走させられているだけみたいなんだ、これはガワみたいなのもので」
「取り込まれてるって事ですか?それ、なら!ぐぅぅぅ!」
羽のような腕に殴られ弾け飛び、近くの建物にぶつかる。俺とペロロミカが戦うだけで被害が広がっていくのを気にしている場合ではないのだが、いざ自分の体で壊れているのを見ると何とも言えない複雑な気分になる。
「げっ……やべ」
「こっちはこっちでカラータイマーみたいなのあるじゃないですか!」
胸の部分が赤く点滅し始め、体が重くなりはじめた。ガッチャードの力も無限に使えるわけでなく、ガス欠やオーバーヒートのような状態に結構なってしまう。
どんな状況であってもそれだけはならないようにしていたつもりだったが、相手が相手だけにそういう余裕がないといえばそうなのだが。
「くっ!」
【バットキングロボ!フィーバー!!!】
エネルギー切れを起こすならばとマックスでビーム放ち直撃させると、僅かに怯んで動きが止まった。
「と、とと……!」
「大丈夫か?!」
急激にサイズダウンし空中から落下する形になり、再変身するつもりがその前に誰かが跳躍しお姫様抱っこ状態で着地していた。
「すまん、アズサ」
「いい、しかし不味い。このままだと散り損だ」
「イチバチだけど、何とかなるかもしれない」
アズサに支えられ地面に足をつけてペロロミカを見上げる。ケミーの中でも超常的な能力を持つ”ユーフォーエックス”。エクスガッチャリバーがなければ真価を発揮させてやれなかったが……こういう人助けに使ってこそある意味正しいのかもしれない。
「本当か?」
「ああ。先生、皆。少し、時間を稼いでもらえるか?絶対に、救い出してみせるから」
俺一人で無理でも、協力しあえば。頷きシッテムの箱を構える先生を中心に態勢を立て直し、囮役を務めてくれる皆。
「よし……!」
【HOPPER1!】
【STEAM LINER!】
【クロスオン!】
【マーベラスオカルト!】
変形させたエクスガッチャリバーをドライバーに装填しユーフォーエックスのカードを挿入し目を閉じもう一度開き覚悟を決めると、レバーを引く。
「変身!」
【ガッチャーンコ!エーックス!】
【UFO-X!スーパー!!!】
それまでの姿とは明らかに違う、オカルトの名を持つユーフォーエックスの力を借りたスーパーガッチャード。エックスガッチャリバーを失ってから久しく使っていなかったが。今なら、やれるはず。
『ガアアアア!』
「やるぞ、ユーフォーエックス!」
【ユー……フォー……!】
スーパーガッチャード・クロスユーフォーエックスの能力の一つに視力強化がある。たかが視力と侮る事なかれ、あらゆる物を視認できるこの能力なら聖園ミカがどこに囚われているかでさえも透視できる。
「そこか!」
【ユーフォー!】
「ミカさん!」
「ミカ!大丈夫!?」
「息はしてます、意識を失ってるだけみたいです」
エクスガッチャリバーから放たれるアブダラクタービームで掴み、固定する。慎重に、しかし勢いよく引っ張るような感覚と共に転送され俺の目の前にぐったりとして意識を失ったミカがふわふわと浮いて現れた。体を抱きかかえると、駆け寄ってきた先生とナギサにそっと渡した。
「まだ動いてますよ、あれ!」
「単体でも動くとは滅茶苦茶な!」
ミカというコアを失った事で肉体を保てなくなってきたのか、放とうとしていたビームは消失した。その事実に混乱し咆哮するが、もう恐れる必要はなさそうだ。
「さて、これで……終わらせる!」
【ユーフォーエックス!】
【シャイニング……フィーバー!!!】
まだ尚暴れまわろうとするペロロミカの頭上にユーフォーエックスが移動すると不自然なまでに動かなくなり、空中で静止した。そこに飛び上がり円を描くようにして前後左右から必殺の一撃を決めると、爆発、跡形もなく消滅した。
「よし。これ、で!?」
「ゆ、ユキト!?」
変身を解き、皆の元に戻ろうとした瞬間、腹に穴が空いていた。一瞬、何が起きたのか分からずにいると意識が遠くなる。周りで悲鳴や足音が聞こえるが、それがどんどん遠くなり血溜まりが出来て、倒れた。