追憶の記憶〜デイブレイクアーカイブス(本編完結) 作:Leona
「それで、ユキトの様態は?」
「一先ず、峠は越しました。そもそも、私達が手を出すまでもなかった可能性もありますが」
救護騎士団の手で運ばれたユキトはベッドで意識が戻らないままだ。正義実現委員会のハスミ、シスターフッドのサクラコ、そしてシャーレの先生が顔を突き合わせている。
「あの現象は神の御業ような……いえ、彼の持つ神秘の力なのでしょうね」
目の前で起きたことは、キヴォトスにおいても中々に非常識な出来事だった。空中に均等に並んだ100枚のカードが放たれた光がドライバーに当たったかと思えば、ぽっかり空いた穴は塞がり傷も表面上は治癒してしまったのだ。それでも消耗している事に変わりはなく、精密検査をした上で点滴での栄養補給ををしている。
「あの狙撃は、私を狙ったものだったのかな」
これまでも狙われる事は何度もあった、どれも正面から狙ってくるケースを除いて多くは未然に防がれてきた。トリニティのような場所であっても完全に安全ではなく、防弾チョッキを付けるぐらいの警戒はしていた。
ユキトとて生身での戦闘を想定していて、万一に備えていたはずだ。だが、あの瞬間のあの一撃は、あるいは気が緩んだのかもしれない。
☆☆☆
夢を、夢を見ていた。これは、前世の夢だ。あの頃の俺はホシノ先輩への好意を隠すことなく、時折デートに誘っていた。こんなおじさんなんて、と言いつつも断らず出かけるぐらいならと付き合ってくれた。
「俺に、服を?」
「うん、ユキト君によく似合いそうなコートを見つけて。おじさんからのプレゼントなんて嫌かもしれないけど」
「いやいやいや、ホシノ先輩からのプレゼントなら何だってもらいますとも!」
遠出して水族館へといった帰り、イ◯ンへと寄って連れて行かれた先の衣服屋で差し出されたコート、どうやら前から目をつけていたもののようだ。
「うへへ、よかった。おじさん若い人の流行りとかよくわからなくてさ〜」
「ホシノ先輩だっておしゃれすればきっと似合いますよ、可愛いですから」
この時プレゼントされたコートは今も着ている、逆行し違う時へ行きつつある今でもずっと。
☆☆☆
「……ここ、は」
「安心して下さい、ここは救護騎士団の病室ですよ」
目を覚ましキョロキョロと周囲を観察していると、様子を見に来ていたらしい女生徒と目が合った。鷲見セリナと名乗った彼女の言葉に記憶を辿る、俺は聖園ミカを救出しそれで終わったと油断したが為に狙撃されたと。
「っせ、先生は!?桐藤会長や補習授業部の皆は!?」
「落ち着いてください、大丈夫です。皆さん無事ですよ、多少負傷した方もいますが、一番重傷な貴方と比べれば可愛いものです」
体を起こそうとして激痛で苦しむ俺の体を再び寝かせながら、少し棘があるがしかし優しげな声色で答えるハナエの言葉に安堵する。あの混乱した状況で被害が自分一人で済んだだけマシと考えたからだ、それだけあのペロロミカは脅威で異質だった。
「私から意識を取り戻したと伝えておきますから、今は体を治すことを第一に考えてください。いいですね?」
念を押され仕方なく天井を見上げる形で頷くと、ハナエは病室の外に出ていった。その後見舞いに来た先生から聞いた話によれば、経緯はどうあれミカのやらかしは大きく、一先ずはトリニティ内の牢獄で暫く謹慎ということになったそうだ。だが、彼女を暴走させた何かについては謎のままだ。そう、思っていたのだが。
「……は?」
「生きていたようね、ユキト」
「空崎、委員長?」
病室で暇を持て余していた俺の元に現れた
訪問者は思わぬ人物だった。以前戦って以来か。
「うちの情報部が追っている情報が、どうも聖園ミカの件と関係あるようなの。だから貴方にも一応話を聞きに来たのよ」
「御自ら、ですか。忙しい身でしょうに」
「余計なお世話よ。それに今回は先生から頼まれたから」
なんでもなさそうなポーカーフェイスだが僅かに声色に喜びが混じっているように感じた、激務の中でわざわざ引き受けた理由はそこかと納得した。
「それで俺は何を答えれば?」
「黄金卿という人物の名前に聞き覚えはあるかしら」
はて、と首を傾げる。名前というよりはコードネームのような響き、ゲマトリアの一員だろうか?だがやはり思い当たる節がなく首を横に振り否定した。
「そう。聖園ミカは、どうやら会ったようよ。そこから何かおかしくなったと言っていたわ」
「……キヴォトスでも指折りの実力者をおかしくさせる神秘の持ち主とは、ゾッとしませんね」
神秘なのかあるいは別の超常的な何かにせよあれだけの影響を与えるのか個人の力だとすればとんでもないことだ。あのもう一人のシロコのように人ならざる力を持っているのかもしれない。
「そうね、だからといって彼女の罪が帳消しになるわけではないけれど」
トリニティ内での出来事であり、これ以上は内政干渉になるからと言いつつも空崎ヒナ個人として心配しているようだった。
「それと、貴方を狙撃した犯人だけど」
「そっちも何か進展が?」
先生を狙ったが誤射したのではとも考えたが、それにしては位置が違いすぎるし何か怨念じみたものを感じた。
「聖園ミカが吐いたわ、自分の思惑とは別に貴方を狙う意図がアリウスにはあったようだと」
「それは……」
心当たりが無い、と口にしかけ言い淀む。よもや、だとか多分、だとかそんなレベルで確信はないが、トリニティにもいたのならあるいは、アリウススクワッドの中にも記憶持ちがいてもおかしくなおと。
「心当たりがあるようね?暫くは母校で大人しくしていたほうが身のためよ、貴方が怪我しても先生の心労になるんだから」
「そんなわけには、今回の一件は俺にだって責任が」
俺の反論にヒナの目がすっと細まると、ゾワゾワとして体が強ばった。間をおいて殺気をぶつけられたとわかった。それが数十秒かあるいは数分か、短く長い時間が過ぎてからヒナが深い深い溜息をつくと、体の強張りも収まった。
「……意固地過ぎると次は死ぬわよ?せめて、先生を悲しませないような戦い方をすることね」
ずいっとこちらに距離を詰めて睨みつけてきた後去っていくヒナを見送り、足音も聞こえなくなるとようやく安堵し肩の力を抜いた。まだ鳥肌が立っているような気がして腕をさする。あの時は中断したが、その気になれば俺も簡単に鎮圧されていたんだろう。
☆☆☆
俺が入院している間に補習授業部は無事追試に合格し、その役目を終えた部活は新たなメンバーを入部させるまでは休部扱いになるようだ。退院の許可をもらった俺は本来は一度アビドスへ戻る予定だったが、ナギサとアズサ、それに先生からそれぞれ要請を受けて調印式に参加することとなった。
アリウスからの襲撃に備えて、調印式の延期もしくは、先生を安全圏に避難させようとも考えたようだがテロに屈してはとの言葉もあり決行されることになってしまった。ナギサは最後まで反対していたが、押し切れず1人では行動せず護衛を増やすという事で妥協していた。俺は警備に混じり、警戒しつつ襲撃に備えていると、それはきた。
『複数の熱源をもった飛翔体を確認!巡航ミサイルです!貴方みたいな馬の骨になんとか出来るの!?』
「来たか!撃ち漏らしは俺がやる!それは空崎委員長にお墨付きもらった!それより先生は無事で!?」
マーフィーに取り付けられた通信機を通して、天雨アコ行政官の声が聞こえる。先生の計らいで、臨時に設けられた調印式運営本部と連携することが許された。シャーレの一員としてという名目あってのことだが。
避難する生徒とは逆の動きで空を見ながら状況を把握する。地上からミサイルを迎撃しようとする動きが見えるが、いくつかは取りこぼすかもしれない。
『私は無事だよ!こっちはヒナが来てくれるから大丈夫、アコはユキトのフォローをお願い!』
『ちょっと先生!?ああ、もう!わかりましたよ!』
言葉にならない複雑な感情の入り混じった唸り声を絞り出した後、アコは協力する気になったようだ。ミサイルはアコの誘導によって順調に破壊していった、しかし。
「おいおいおい、どうやってこんなもん持ち込んだんだよ」
「無論、お前を殺す為だ。千神ユキト……!」
パワーローダー・ゴリアテ───只人の力でヘイロー持ちの人間をゴリ推せる搭乗型のロボットが複数機。そして、何処か異質さを感じさせるシスターの集団。修道服だけでなく、扇情的なレオタードやガスマスクをつけ青白く光るそれらは人ならざるものであると理解させられる。そして、それを率いるのは、アリウススクワッドが一人錠前サオリ。
「その格好、まさかユスティナ聖徒会の……?」
「やはり、それも知っていたか。そうだろうな、お前のことを調べてからおかしいと思っていた」
憎悪に身をやつしながらも冷静であろうとするサオリの言葉にアオイから貰った資料で見たものを思い出していた。遥か昔に途絶えた歴史であり、そんな亡霊じみたものがいるはずがないのだが。
「……そういうあんたも、そうだろ。初対面の筈だ、今の俺達は」
「そう言い張るか、貴様は。だから、嫌いなんだ。そんなすっとぼけをするような奴に!姫は!!!いけ、
「変身!」
【ターボオン!ファイヤー!】
【スチームホッパー!アッチー!】
サオリの怒りに応えるかのように、一斉にミサイルと銃撃が雨霰のように撃ち込まれる中を、ガッチャーイグナイターをつけてファイヤーガッチャードデイブレイクへ変身すると飛び上がり、反撃に移った。
「行っておくが、増援はこないぞ。ここと同じように各地に私の仲間が各派閥の殲滅を行っている。全ては、私達のエデン条約を成すために」
「正気か?知っていて、知ってなおその道を選ぶのか!?」
「そうだ、例えこの先うまくいっても、お前がいる限りまた繰り返す。だから私が終わらせるんだ」
俺とサオリの主観にどれだけのズレがあるのか分からないが。だがもし迎えた結末が同じだとするなら、誰かが吹き込んだのか?今さらベアトリーチェの言葉を聞くとも思えないし、ゲマトリアの誰かかヒナから聞いた黄金卿なる謎の人物か。
「なら、俺が止める。もうこれ以上そんな辛そうな顔をさせたくない」
「黙れ、お前が死ねば終わるんだ、この悪夢は!」
☆☆☆
「あのイレギュラーさえ死ねば、私の結末も変えられる。先生にこびりついた加護と共に」
「やはり君は本当に諦めが悪い。いや、それが君のケミストリーか」
アリウス自治区某所で次々と入ってくる報告に独りごつベアトリーチェ。自分の死という未来を知ってしまった彼女は、ただ先生を殺すだけではどうにもならないと判断した。同時に手駒たる錠前サオリが持つ異様なまでの執着に目をつけ、
「何の用ですか、黄金卿。何故無断で立ち入っているのです?」
「ふふ、なあに君の様子を見にね。先生ではなくその付属物にこれ程の手間をかけるとは、君にしては珍しいからね」
金を主体とした体にスーツを着ていて、顔と認識出来る部分に黒いモノクルをつけた男が、どこからともなく現れた。
「これも、儀式の一環です。確率を上げるために必要な事ですよ」
「そうかね、まあ確かにあれは異物ではあるが……」
「しつこいぞ、これは私の領分だ!貴様が踏み込んでいいものではない!」
「おっと、これは失礼。では、無粋な男は去るとしよう」
扇子を薙ぎ払うように振り攻撃したが、そこには何もなく声だけが響いたかと思えば消えた。自分という存在では先生を消せない。しかし、生徒ならば。千神ユキト───ガッチャードという異物を殺す事により、錠前サオリを一つ先の領域へ到達させる事が出来たなら。
「私は、生き残る……絶対に」