カス小説置き場   作:角キサ

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承認死

スマートフォンが日常の一部になって久しく、世の中は便利になった。

指を忙しなく動かせば今日の天気から世界情勢まで、大小様々な情報にアクセス出来るようになり、個人間のやり取りも高速化した現代社会ではありとあらゆる人がインターネット上に画像や動画、音楽や文章等を気軽に投稿するようになった。

そうしたネット上での創作活動を通じてこれまでよりも気軽に「誰かに認めてもらえる」。その事実が人々の承認欲求を更に高めている。

だが、我々は気付かぬうちに承認欲求の奴隷になっているのではないか、と私は思う。

事実、私は――

 

そこまで打って俺は手を止めた。

「面白くねー」

そう言って身体の緊張を解す。

面白くない。

それは自分の書いたこの文章もそうだか、何より俺を認めないこの世界が面白くない。

PCを操作して今書いている記事を載せるつもりの自分のサイトの管理画面を開く。

「閲覧2桁かよ……」

年単位で運営したサイトがこれである。

こんだけ情報が溢れた現代社会で4桁でも見て貰えたらいい方、とか言ってる奴もいるが、俺はこんなんじゃ満足出来ない。

今まで色んなことをやってきたんだ。

動画投稿、楽曲制作、生配信、小説投稿、イラスト投稿、お笑い……。

でもその全てがダメだった。

伸びたものもあったけどすぐ脇に目をやれば自分より成果を上げてる奴がいて、俺はソイツらよりも他人から認められてない……。

だから俺は満たされなくて、徐々に創作活動に打ち込めなくなって、やめた。

このサイトはそんな俺に残された最後の頼みの綱、くらいに思ってたんだけど……、

「もう、辞めるかぁ」

口をついて出ただけだったが口にしてみたら実感した。し直した。

心はとっくに折れている。

気付かないフリしてただけで、もうとっくにわかってた。

……誰かに認めて貰えるような人間じゃなかったんだってことくらい。

「あ〜、死ぬまでに認められたかったなぁ……な、んて……」

そこまで言ってふと考える。

「死ぬ……認められる……」

……そうだ。世の中には死んでから有名になった画家とかいるもんな。

「……そうじゃん。生き様で認められないなら死に様で認められればいいじゃん……!おっほ、俺天才じゃね……?」

こんなこと考えるやつ他にいねぇだろ!

諦めなくてよかった!……そうだ、俺は認めてもらえるんだ……!

「そうと決まればどうやって死ぬか、だよな……」

認められるために目立つってことについてずっと考えてきたから分かるが気を衒いすぎてもいけないしありふれすぎててもいけない。

例えば動画投稿サイトで自分の糞を食べる動画を投稿したとしよう。

認められるってのには共感が必要だ。自分の糞を食うなんて、常識から外れ過ぎてて共感なんて出来ないし理解出来なくてむしろ恐怖で認めたくなんてならない。……まぁ、需要があるところにはあるかもしれないが。

かと言って商品紹介みたいなのは余程のことがないと目立てない。母数が多すぎるからな。

その点今回の死ぬことで有名になるってのはいい。

誰しもが抱えている承認欲求と誰もがこれから迎える死。

共感の点はバッチリだ。

あとはどうやって目立つかだけど、配信はダメだな。運営の目に止まったら直ぐにBANされるだろうし配信見に来る奴らなんかはこんなこと批判するに決まってる。

じゃああとはやっぱり、ニュースとか?

マスコミはショッキングな事件として取り上げてくれるだろうし、何よりニュースは全国で流れる。なんなら世界が取上げてくれるかもしれないし!

「うは!盛り上がってきた!……よし、後は刺激的な演出だな」

刺激的な演出……血文字とか王道だけど良さそうだよな。部屋中に血文字で思ってること書くか。

血は……自分の血とか使ったら書き切る前に死にそうだから血糊でいいか。

死ぬ方法は……やっぱり包丁でザクりかな。血文字に説得力も出るし!

で、あとは遺書を書いて見つけてもらう方法は……実行前に警察に電話すればいいか。

「よしよし、いい感じだな……。思い立ったが吉日!早速準備に取り掛かろう!」

まずは買い物に行って……。

 

―――――――――――――

「準備は整ったな……」

遺書も書いて部屋中に血糊で文字も書いた。準備してる最中に思いついたニュースで流してもらうための死ぬところを録画するカメラも準備OKだ。

「さぁ……あとは死ぬだけだ」

不思議と心は落ち着いている。

認められることへの期待で心が満ちてる感じ。

怖さは……無いとは言えないけどそれよりも期待の方がでかい。

今回のは上手くいく、そんな気がするんだ。

今までの認められなかった自分とはさよならだ。これからはみんなから認められる俺になれるんだ……!準備してるこの数日間もそれが楽しみで仕方なかった……!

「ふひ……」

笑みが毀れる。

手の中の包丁に目を落とす。

これで自分の首をかっ切れば全てが終わる……いや、始まるんだ。

携帯を取りだして警察に電話をかける。

「……」

プルルル、プルルル。

『はい、もしもし』

繋がった。男性の声がする。

唾を飲み込む。奥歯がカチカチなっている気がする。

「いまっ……今から死にます。住所は……」

『ちょっ、ちょっと待ってください!』

男性の静止を聞かずに住所を伝え終えると携帯を床に置く。

「……ふぅ」

息を整えると包丁を握る手に力を込める。

「……っ!」

そして勢いよく自分の喉に向かって包丁を突き刺す。

「……が、ぁっ」

そして熱と闇が俺を襲った。

 

――――――――

「先輩、お疲れ様です」

「おう、おつかれ」

警察署のデスクで男が資料に目を通していると後輩の警官が声をかけてきた。

「何見てるんです?」

「……この間の自殺の資料だよ」

「あぁ、目立ちたがりの……。なにか引っかかるんですか?」

後輩が訊ねると男は首を横に振る。

「いや、部屋からはホトケのDNAしか出なかったし関係者のアリバイも取れてる。間違いなく自殺だよ。……ただ」

「ただ?」

「承認欲求ってのは拗らせちまうとこんなにも厄介なんだなって思ってよ。……文字通り死ぬほどな」

そう言いながら男は資料をめくる。

「家族付き合いとか友人付き合いは薄かったらしいが、そこそこ閲覧数のあるサイトとか動画のチャンネルとか……色々持ってたらしいじゃねぇか。それなのに『認められてない』なんて……」

「……多分、自分を認められなかったんでしょうね。そこそこで満足する自分を認められなかった。……誰かに認められなかった彼が誰よりも自分を認めてなかったってことでしょう」

「なるほどね……」

そう言うと男は資料をデスクに置き、手元に置いてある缶コーヒーを呷った。

「それしてもこの男も報われないな」

「……ですね。この件は徹底的に世間には隠される訳ですから」

「模倣犯が出ないとも限らないからな。……遺書に書いてあった全国ネットどころか地方紙すら取り上げない」

「……せめて、彼の死を無駄にしないために、我々に出来ることをやっていきたいですね」

「だな。まずは……友達や家族とコミュニケーションをとってみるのが大事だ。変化に気付いてやれるのは身近な人間だしよ」

「ですね。俺も今度の休みに友達誘ってみます」

 

―――――

 

『今日の夕飯何にする〜?』『明日遊びに行かね?』『駅前のカフェがさぁ』

 

スマートフォンが日常の一部になって久しく、世の中は便利になった。

そして今日も何事も無かったように世界は回っていく。

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