LateNightRacing(時々変わってる)   作:灰崎 快人

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「こんばんは!松田伊吹(まつだいぶき)です!さて、今回はこのフルダイブでレースが楽しめる『Late Night Racing』、通称『LNR』を初プレイして行きたいと思います!ハプニングもあるかも知れませんが、よろしくお願いします!」

元気よく配信画面に向かって話をする女性、松田伊吹。彼女はとある事務所に所属するゲーマーであり、つい先月デビューしたばかりの新人だった。そんな彼女が初めてプレイするのがこのフルダイブ型レースゲーム『LNR』だった。本当は別のゲームをする予定であったのだが、事務所がよくこのゲームの案件を貰っているため、いつ案件を任されてもおかしくないようにこのゲームを優先することにした。

「実はレースゲームを触るのは初めてなので、ゆっくり楽しめて行けたら良いなって思います!ではプレイしていきましょう!」

フルダイブ型のゲームと言うこともあり、配信方法は少し特殊な物だった。このゲームには元から配信用に設定できる項目があり、フルダイブ装置とコードを繋げることでゲームの方で配信画面を動かすことが出来る様になっている。

これは配信者達にこのゲームをプレイして貰いたいという願いから生まれたコスト度外視のシステムだった。そんな便利システムがあるということで、配信者達は良くこのゲームをプレイしており、視聴者達も同じゲームをやりこんでいた。

ゲーム内はアバターを作成すればあとは自由であり、レースに参加するのも、自由に車を走らせるのも、用意されているチュートリアルを進めるのも良しというゲームだった。さらにこのゲームはオープンワールドとなっており、現実とほとんど変わらない景色や生活を楽しむことが出来た。

「えっと?まずは基本的な操作からですね。これでも一応免許は持っているので、安全運転で行きたいと思います」

そういってまずはオートマチック・マニュアル、その二選択が目の前に出ていた。伊吹は迷わずマニュアルトランスミッションを選択し、それに応じたチュートリアル用の車両が目の前で形成された。車種は黄色のスズキ・スイフトスポーツだった。

「スイフトがチュートリアル用の車なんだ……」と伊吹が呟くと、視界の端では《初心者には良いと思うよ!》というコメントが流れていた。スイフトスポーツが初心者向けなのかと聞かれればそれは人によると言ったところだろう。人によってはTOYOTA・ヤリスやNISSAN・オーラをオススメするかもしれない。実際コメント欄には《BRZ》や《スープラ》、《GR86》と言ったコメントが存在する。

「とりあえず、この車を使ってチュートリアルを進めていきましょう!」

そう言って意気揚々とチュートリアルを進めていく伊吹。まずは車を発進させ、ゴールまで真っ直ぐ走るというチュートリアルだった。ハンドルを切らなければ真っ直ぐに走るため、簡単にクリアすることが可能だった。それが終わるとステアリングの操作に入り簡単なクネクネ走法から、道も狭くなっていた。それが終わると今度はブレーキを踏んで止まる基本操作だった。

「え?車変わった……この車は86?」

《GT86、現行のGR86の1つ前の車だよ》

「そうなんだ」

ブレーキを踏んで止まる基本操作が始まれば、停止距離がどんどん離れていく。

加速した車体を上手くブレーキを踏んで停止エリアに収める必要があった。

その基本操作ではGT86、ポルシェ911カレラGTS(992型)。

そしてハイパワー車のヴェイロン 16.4 扱うことになった。

その馬力に差は200馬力と480馬力、そして1000馬力というレベルの差だった。チュートリアルとは言えど、流石に無茶だった。

「は、速い!?停まらないぃぃ!?」

ヴェイロンは車体が三台の中で最も重いため、二台同様にブレーキを踏んでも停まるのに時間が掛かっていた。壁ギリギリでなんとか停車したが、視聴者達はハラハラしていたこと間違い無しだろう。

「1000馬力の車は……私は乗らないかな」

《俺らも乗らんよ》《マジで扱えん》

《ゼロヨンとかのイベントくらいしか乗らないだろ》

その後も基本的には教習所で習うことと全く同じであるが、一部はゲーム用に変わっていた。例えばゲーム内の車両で事故を起こした場合、時間経過で修復されるわけではなく自身の手、もしくはチューナーや板金屋などの職に就いているプレイヤーに直して貰うしか方法がない。修復不可能レベルの事故を起こしてしまえば当然廃車であるが、そのプレイヤーは1年間このゲームから強制ログアウト対象になってしまう。要はブラックリスト入りしてしまう。

本作は確かにレースゲームであるが、現実の運転とは何ら変わりないため「これはゲームだからルールを守らなくても大丈夫」などという考えは捨てなければならない。実際に信号無視をしたプレイヤーが他のプレイヤーをひき殺し、永久追放された例もある。当時は公式のジョークだと思われていたが、少しずつ現実と同じだと緊張感のあるものへと変わって行った。

この世界には警察は居ない、だが神は見ているのだ。

「……これ当時のプレイヤーをそのまま映像にしてる?」

伊吹は視聴者に問いかける。今目の前で流れている映像は当時のプレイヤー達が起こしてしまった事故映像なのかと、そう問いかけてみれば視聴者達から当然だとコメントが流れてきていた。映像に映っているプレイヤーは見せしめとして、今もなおチュートリアル映像として使用され続けていた。

勿論、プライバシーなどそこには存在しない。

《ちなみにこの人達はサブアカ作ろうとしたけど、このゲームID管理されてるからサブアカ作ってもIDが永久追放扱いされてるから二度と遊べないように設定されてるぞ。AIがそのプレイヤーに与える罰を1~10段階で判断する》

有識者からそう教えられた伊吹は細心の注意を払いながらも、チュートリアルを最後まで進めていった。途中からは車の修理方法や、その他のシステム。

ガレージや家、資金の稼ぎ方などが教えられた。最後には現実とゲームの世界が曖昧にならないように休憩を取ってくださいとメッセージが流れた。

「……これでチュートリアルは終わりかな?」

チュートリアル達成報酬として好きな車種一台と1000万の資金が渡される。伊吹は早速ディーラーに向かい、これから愛車となる一台を選びに行くのだった。

「なにがいいかな……」

《目的による。例えば首都高で走りたいならRとか、とかかな》

《峠とか攻めたいならランエボとかインプレッサ》

《ゆったりこの世界を楽しみたいならDAYSLOOXとかの軽自動車》

コメント欄からアドバイスを送られる。そんな様子でMAZDA社のディーラーに入って行くと、一台の車に伊吹の視線が止まった。

「FD3S……」

MAZDA・FD3S。それが視線に入った途端、伊吹はその美しい車体から視線を逸らすことが出来ず、釘付けになってしまった。

《FD3Sか》《まぁ峠とかでも頭文字Dとかで人気だからな》

《首都高でもよく走ってる》

《現実だと、最近免許返納したおばあちゃんがMAZDA社にFD3Sを寄贈したな》

そんなコメントが流れる中、伊吹は無言でFD3Sを最初の一台として向かい入れることにした。FD3Sが自身の最初のマシンとしてしっかり登録されると、彼女の手には1つのイグニッションキーが握られていた。

《マニュアルだけど、大丈夫なの?》

「これでもリアルではマニュアル車運転してるんだよ~?」

伊吹は運転席に乗り込むとアクセルやブレーキの位置、シフトギアやサイドブレーキの位置などをしっかり確認していた。

またこの車両はリトラクタブルヘッドライトが採用されているため、その開閉を行うとコメント欄は盛り上がっていた。

「よし、確認は一通り終わった。まずはこの車の慣らし運転をしよう。何処がオススメかな?やっぱりサーキットとか首都高がオススメになっちゃうのかな?」

《サーキットと言いたいけど首都高かな》

《首都高、とりあえず左レーン走ってれば慣しになる》

コメント欄は首都高一択のようで、伊吹はそれに驚きつつも車体に初心者マークを貼り、ETCカードを挿入して首都高へと走り出していく。

それなりの年代の車のため、オートライトなどは勿論存在しない。

ロータリーエンジンの音を響かせながら必死に乗りこなそうと、首都高を80キロで走っていると後ろから恐ろしく速い車が数台迫ってきていた。

それはあっという間に伊吹を追い越し、闇の首都高に消えていった。

「は、速い……あれなに?」

《あれは……TOYOTA・クラウンだな》

《なんか凄い数走ってるな、多分周回とかか?》

そんな事を考えながら走っていると、後ろから走ってきた軍団にもみくちゃにされた挙げ句に煽られ、そしてぶつけられてしまった。

FD3Sはコントロールを失い、スピンして壁に車体を擦りつけて停車。

「うわぁ……初回でやっちゃった……」

伊吹はハザードランプを点灯しながらなるべく路肩にFD3Sを寄せた後、運転席から降りて事故ってしまったFD3Sの状態を確認しながら、停止表示器材と発煙筒を設置した。

その後自身は安全な場所まで下がって待機することになった。

「どうしよう、非常電話ないし携帯電話も持ってない……」

路頭に迷っている伊吹。通り過ぎていく車はちらほらと確認出来るが、伊吹が勝手に事故ってしまったと思い込み、あっという間に過ぎ去っていく。

《最悪のタイミングだ……》

《あのクソカス共、初心者マークが見えないのかよ!》

ぶつけた挙げ句逃げていったプレイヤーに非難の声を上げるが、そんな言葉は当人に届くのかと言えば恐らく届くことはないだろう。

しかし、公式はこの行為をしっかりと、確認しているだろうという望を抱えるしかない。

「……これでゲーム終わりかな」

伊吹がそんな事を呟いていると、一つのキャリアカーが伊吹の前に止まった。

「……大丈夫?」

そう言ってキャリアカーから降りてきたのは、伊吹とそこまで変わらなそうな年齢のアバターを使っている男性だった。

「ちょっと、事故起こしちゃって……」

「……ぶつけられて、逃げられた?」

「えっ、なんでわかるんですか?」

「……違う塗料、それにここだけ壊れ方が違う」

そう言って指を指して方を見ると、そこには青い塗料が付着していた。それ以外は壁にぶつかって傷ついた物よりも異なっており凹んでいた。そこを見て当て逃げだとすぐに状況を把握した男性に驚いていた。

【挿絵表示】

彼はキャリアカーにFD3Sを積み込んでくれており、助手席に乗せてくれた。

修理費などがどれだけ掛かるのかと、伊吹は頭を悩ませていた。

「とりあえず修理。お金いらない」

「えっ!?そういうわけには……」

「初心者。お金はこれから、どうにでもなる」

そう言ってキャリアカーを運転して首都高を降りた後、小さなガレージのある一軒家に連れてこられる伊吹。そんな様子を、視聴者達は心配そうに見つめていた。手前で車を止めると、ガレージを開けて電気を付ける。そこには車を修理するための施設が一式揃っており、隣には三台車が置かれている。

一台はシートが掛けられていてわからないが、一台はTOYOTAのハイエースバン、もう一台は同じFD3Sだった。

「……あの車使って」

「良いんですか?」

「少し弄ってある」

そう言って鍵を渡される。

彼の持つFD3Sは銀色であり、チューニングのテスト、デモカーとしての一面を持ち合わせて居る様子だった。それで少しでもFD3Sに慣れたほうがいいと言った後、彼は中破した伊吹の車体の修理に入っていた。

「車のこと……よろしくお願いします!」

「気をつけてね」

伊吹は一時的に貸し出されたFD3Sで首都高ではなく公道を走ることにした、もしまたあの連中にあってしまったらと考えると、恐ろしくてたまらない。

この選択にコメント欄も納得している様子だった。

《それにしてもあの人誰だ?》《チューナーぽかったな》

《この世界のチューナーって結構コアな人しかやってないぞ?》

《名前くらい調べたら、ある程度情報が出るんじゃないか?》

コメント内で会話があった後、数名があの男性について情報を集め始めていたが、名前を知らないため思うように進まなかった。。そんな事をチラッと見た後、伊吹はゆっくりと下道を走っていた。同じFD3Sなのにもかかわらず思ったより加速するスピード、そしてこのよく曲がるステアリング。

「……この車私のより走りやすい気がする」

《そりゃチューニングされてるからな》

《ダメだ、名前が分からないから情報が集まらん!》

彼について情報を集めていた視聴者達がそれぞれの考えを話していく。そんな中、皆が揃って口にするのは《よく分からないチューナー》と言うことだった。

彼の名前はこのゲームの世界では少なくとも有名ではなく、こじんまりとしたガレージを持つ一人のチューナーだと言うことだった。

《修理出来るって事は珍しい整備士の国家資格、持ってるみたいだな》

その発言に視聴者は確かにと口を揃えた。なんでもこの世界で整備士の資格を持っているのはごく僅からしく、プロゲームチームや配信者達からは神様の様な存在らしい。板金屋でも良いのでは?お思うかも知れないが、自動車整備士資格が必要無い。ある程度知識と技術があれば誰でも名乗れる。

その為、技術力がまばらであり当たりとハズレの差が激しいのだ。

事故を起こしたプレイヤー、もしくは事故にあってしまったプレイヤーは、携帯電話もしくはフレンド登録をしておくことで、そのプレイヤーにキャリアカー派遣をお願いすることが可能になる。あくまでも携帯電話というアイテムはNPCを呼ぶためでしかなく、お得意の整備士や板金屋と巡り会うことが出来れば不要になるのだ。正に初心者専用アイテムと言っても過言では無い。

「……あの人そんなに凄いんだ」

《本当に情報が無いから、はっきりとは分からない》

《もしかしたら板金屋かもな》

《でも資格持ってるとしたら、なんで黙ってるのかわからないな……》

《馬鹿、中にはプロチームのお世話になりたくないってやつも居るんだよ。実際有名な配信者が愛用してた場所は資格持ちが3人居たけど、それを見たお客がたくさん来てキャパオーバーでぶっ倒れたんだぞ?そんなの見て一緒に働きたいなんて思うヤツ居ないだろ?それと一緒》

《もし居たとしてもスカウトされて専属になってるだろうしな……》

《まぁもしかしたら、あの人は面倒ごとを避けるために公言してないのかもしれないけどな。意外と多いぞ、そういうプレイヤーは》

そんな考察がされている中、伊吹は彼のガレージに戻ることにした。

視聴者の話を疑っているわけではないが、自身の愛車となるものが酷い状態で修復されるかもしれない。そう思ってしまったのだ。

ガレージに戻って見ると、既にフレームが歪んでいないかのチェックに入っていた。また傷ついたパーツが外されフレームが少し見えていた。

「……ん?戻ってきた」

「えっと、FD3Sはどうなのかなって……思って」

「ぶつけられた所と擦った場所以外は大丈夫、フレームも大丈夫」

「……どのくらいかかりますか?」

「明後日」

明後日。そんな短時間で一人でこのFD3Sを完璧に戻すと言った。それに驚きが隠せない伊吹と視聴者達、パーツの発注時間が短縮されているのは喜ばしいことであるが、それでも明後日という時間はあまりにも短すぎた。

「あ、あの……貴方の名前を教えてくれませんか?」

「……咲夜。孤狼咲夜(ころうさくや)

「孤狼さん……よろしくお願いします」

そういって伊吹は頭を下げた後、ゲームからログアウトしようとする。

「……危ないからそこでログアウトしないで、ちゃんとこっち来て」

「あっ……ご、ごめんなさい」

伊吹はガレージ前でログアウトしようとしたため、孤狼から一軒家の中で椅子に座るもしくは簡易ベッドで寝て、ログアウトするように言われてしまった。

ログアウトするのを見届けると、作業を再開するためにガレージに戻った。

明後日までゲームをしなければ次の配信でFD3Sが復活している、しかしそれでは経験を積むことが出来ない。それが伊吹を悩ませていた。

《直るまで孤狼さんの借りられるんだから、そこである程度走らせ方を覚えておくと良いかもしれない。ただ借り物って事を忘れないように、配信をレンタルしているときの記録として回しておいたら?事故ったときも便利!》

その視聴者たちのコメントが視界に入り、伊吹もその提案を受け入れた。

「それじゃあ、初日から大変な目に遭っちゃったけど今回はここまで!今日の配信はしっかりアーカイブ残るけど、孤狼さんのガレージまでの移動は少し編集するから、数時間後にアーカイブ公開かな?明日もよろしくね!」

配信を終了してゲームの世界から現実世界へと戻ってくる。息をついてベッドに横になった後、伊吹はネットで「孤狼咲夜」について調べ始めるのだった。




松田伊吹(まつだいぶき)20歳女性。
黒髪ポニーテールで167㎝の女性アバター(本人とほとんど同じ)
明るく元気な性格、レースゲームは初心者でありFD3Sに一目惚れして愛車にすることを選択した。フライアークの最年少であり、何事にも挑戦する努力家。
MAZDA FD3S 6型タイプRバサースト 280馬力。


孤狼咲夜(ころうさくや)××歳男性。
黒髪ウルフカットで165㎝の男性アバター
静かで無口な性格だが、聞かれたことにはしっかり答える。FD3Sとハイエースバン、キャリアカーを運転する事が出来る。最初期のプレイヤーの1人。
MAZDA FD3S スピリットR 450馬力。

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