LateNightRacing(時々変わってる)   作:灰崎 快人

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5速

翌日。エンジンブローしたRX-8を見て伊月と南見がエンジンルーム全体を確認していた、ここ段階で致命的な損傷があるかどうか初期判断する事が出来る。

「オイルや冷却水の漏れは無さそう、少なくともエンジンブロックやターボユニットに飛び散ってはなさそうです」

「マフラーからの煙が上がっていたからな……恐らくエンジンオイルの燃焼、もしくは冷却水の燃焼が起きてる」

「となると、確認するのはアペックスシールの損傷とターボオイルシール不良……エンジンのオーバーホールは必須ですね。俺らが来る前にNPCにチューニングを頼んでやって貰ったらしいので、本当にターボキットポン付けされただけですね」

そう言ってエンジンを車体から降ろしていた。伊月がエンジンのオーバーホールをしている間に、南見はタービンと配管の確認や軸のガタを確認していた。どちらも二人の手に掛かれば一ヶ月以内に修理することは出来るが、その費用は約80万円ほどでありお財布には優しくなかった。やつれている透に伊吹と薫が寄り添う形になってしまっていた。

「……私の、エイト。気が付いてあげられなかった」

俯いている透にかける言葉が見つからず、薫と伊吹は黙っているしかなかった。

RX-8の修理完了の見込みは現状不明、パーツ発注とその費用は透のゲームマネーから支払われる形となる。万が一足りないときはレースやイベントに参加して資金を稼がなくてはならないが、薫には代わりになるマシンを一つも所持していなかった。

薫は透の頭を撫でながらも、視界の端に映るコメント欄を黙って見ていた。

薫は視聴者達に「孤狼咲夜」についての情報を知っている限りで共有して貰っており、どんな人物なのか松田姉妹とどのような関係を持っているのか、知識として頭の中に入れていた。

「……私、少しだけ出かけてくるね」

薫は伊吹に透を任せると、S2000に乗り込んでガレージを後にしていた。

《どこに行くつもり?》

「……孤狼咲夜の所、色々と気になるところがあるから」

《気になるところ?》

「うん。透のエイトを見た時に少し考えているよな素振りをした、それが少しだけ気になる。それに話を聞く限りではRX-8には興味があるだけで、実際には乗ってなかった。そんな人が突然RX-8を購入して、しかもターボ化までしてる。乗りこなせているとはとても言えない、暴れる車体を必死に押さえ込もうとするようなあの走り……何故エイトに手を出したのか、何故突然エイトをターボ化しようと思ったのか。それがわからない」

《それは透のRX-8を見て、自分も欲しいって思ったからじゃないのか?》

「最初はそれも考えたよ。RX-7の2代目と3代目そしてRX-8を手に入れれば、代表的なマシンを手にしていることになるから。だけど……」

《だけど?》

「実際、あの人にその考えがあったのかは怪しいから」

薫の言葉に、視聴者達の中で考えはまとまらず、結果的に傍観者になるしかなかった。孤狼のガレージに関しては、伊吹に教えて貰った事もあり、首都高を利用して向かっていた。もしかしたら向かってる最中に遭遇することもあるかも知れない、そんな期待を僅かに心に抱えていた。

そんな事を思いながら横羽線を下っていくと、後ろから二台S2000よりも速い速度で向かってきていた。一台は銀色のFD3S、もう一台はポルシェ911(992型)だった。先行しているのはFD3Sの方に見えたが、ポルシェも負けじと並走しており僅かに前に出ているように見えた。

後者のポルシェに関しては見たことも聞いたことも無い、バトル中の可能性も考えた薫は左車線に移動して進路妨害にならないようにした。するとFD3SがS2000の前に出たかと思えば、ハザードを点灯させて減速していた。ポルシェはFD3Sが減速したのに驚いたのか、少し離れたところで減速して同じ車線に入っていた。

「……待っていた?それとも偶然?」

目の前のFD3Sに問いかけるように呟くと、そのマシンは左にウインカーを点灯させた。マップを見てみれば、それは丁度教えて貰って居たガレージの近くだった。まるでついてこいと言われて居るようだったため、薫は同じようにウインカーを点灯させ首都高を降りていった。

《配信画面は待機状態にしておきなよ》

「……もちろん」

場所を伊吹も透も彼のガレージが何処にあるのか、細かい場所は伏せている。それと同様に薫も配信画面を待機状態に変更し、二台の後ろを追いかけて行った。

しばらく後ろをついていくと、例のガレージに辿り着いた。そのタイミングで薫は待機画面を元に戻していた。

「……ここが、話しに聞いていたガレージ」

薫は二台の後ろに車両を止め、エンジンを停止させた。ガレージの中をよく見てみれば、白いRX-8が整備前の様に丁寧にオーバーホールされている状態で放置されていた。先日、透の前を走っていたあのRX-8で間違いなかった。

「……間違いないね」

薫がマシンを確認すると、前二台からそれぞれのドライバーが降りてくる。

「銀のFD3S、こっちが孤狼咲夜……だけどもう一人は?」

《見たことないな……》《孤狼さんの知り合いか?》

孤狼は薫を黙って見ており、その後ろの人物は孤狼の顔色をうかがっているようにも見えた。薫がS2000から降りて対峙すると、彼はこちらに近づいてきた。

「フライアーク所属の……空道唯か?それとも一条薫か?」

「フライアーク所属、一条薫(いちじょうかおる)です。よろしく」

「孤狼咲夜、このガレージの管理人……驚いてないのを見るに、二人から話を聞いてる感じだ」

「……まぁ、そうですね」

伊吹、透、そして状況を知っている視聴者から自身の話を聞いていると、孤狼はある程度予想していたようだった。

「咲夜、それが例のRX-8乗りか?」

「違う、この人はそれと同じチームの人。RX-8は多分、ブローして点検中だろう」

「咲夜が言っていた最低限のチューニングカー……だっけ?」

「どういうこと?」

薫は孤狼にどういう事かと尋ねていた、透のRX-8が最低限のチューニングしかされていなかったとはどういう事なのか、それを聞きたかった。それを彼は表情を読み取って分かったのか一つ一つ話してくれていた。

「大型のGT2835Rクラスのタービン、それに伴ってキットを組み込んだのはまだ良かった。ただそれは主要パーツを追加しただけじゃ意味が無い、他にも多くの種類のシステム強化が必要になってくる。それをあのマシンはしていなかった」

孤狼はそういうと二人を連れて白いRX-8を見せてくれた。

「まずエンジン本体の強化、純正のままだと高過給には耐えられない。ハウジングの加工にポート加工、アペックスシールにローターそしてガスケット類を交換してようやくエンジンは過給圧に耐えられるようになる。勿論、人によってはこれ以上エンジンに手をかけることもある」

孤狼はパーツを手にして説明してくれているが、薫の隣に居る男性は全く理解出来ていない様子であり「すげぇ~」と阿呆面で孤狼の話を聞いていた。内心大丈夫なのかと薫は思いつつも、彼の話に耳を戻していた。

「あのRX-8はストリート仕様?」

「えぇ、一応ストリート仕様で350馬力。私のS2000と同じ」

「じゃあ駆動系、足回りの強化はされてるのか。と言うことは燃料系に冷却系そして排気系の最適化に強化が出来てなかった訳か。あとはボディ補強とエアロ系、まぁ前者はした方が個人的には良いと思うし、後者に関しては俺のマシンは全部純正だからな……」

「咲夜は純正の見た目が好きだもんな~?」

「ふっ、リアルでもポルシェ乗ってるからそれを再現してくれって、こだわりを持ってるお前に言われたくないな」

「うっせぇ!」

「お前の場合、運転のセンス良いのに自分で車弄れないからな……」

「しょうがないだろ、わかんないんだから」

「調べろ!」

薫そっちのけで話している孤狼ともう一人の男性。薫は困惑しつつも白いRX-8を眺めていた。運転席にはしっかりと多連メーターが取り付けられており、運転席と助手席はフルバケットシートに交換されてた。透のRX-8はメーターは追加されているがシートはセミバケットシートでスピリットRと言うこともありBBS製の鍛造ホイールが取り付けられている。しかし孤狼のRX-8はグレードが違うのか、TE37に変更されていた。

「お前の車全部ホイール一緒じゃないか!」

「格好いいだろ!それに似合うからな」

それ以外にもデータ取りのための配線が繋がれていた。あの時挙動がおかしかったのはやっぱり彼も乗りこなせていない、もしくはまだ調整途中だったからだろう。

《……薫忘れられてないか?》

フライアークのメカニックが手をかけたRX-8、孤狼咲夜が手がけたRX-8、その違いをしっかりと理解しておきたいのもある。しかしそれ以前に何故彼がRX-8に手を出したのか、その理由も知りたかった為、二人の話が終わるまで目の前のエイトを見ている事にしていた。

(やっぱりエアロ系は全て純正、ステアリングホイールに赤ステッチがあるから……これはタイプS?ホイールサイズが18のはスピリットRのATもあるけど、この車はしっかりマニュアル仕様。内装もスタンダードな黒基調でシートもレカロの本革シートで変えなくて良いはず。やっぱりタイプS、量産グレードとして比較的安くて手に入りやすい。だからこれを選んだのかな?)

薫がじっくりと観察していると、孤狼たちが黙って薫の事を見ていた。

「……まぁいいや、俺は帰るわ~またバトルよろしく」

「悪かったな、今日は中止して」

「別に良いさ、咲夜が面白いことに足突っ込んでることも知れたからな」

男性はそう言ってポルシェに乗り込んでエンジンをかけていた。

「……ただ今度は絶対に勝つぜ?俺の目標の一歩だからな」

「……分かってる、お前が追いかけてるR乗り見かけたら報告する」

「頼んだぞ?」

そう言ってポルシェはガレージから去って行く、しっかり手の入っているポルシェを見送った後、改めて孤狼咲夜と対面して話を進めた。何故RX-8に手を出したのかその理由を尋ねることにした。

「俺がRX-8に手を出した理由?そうだね……暇つぶしにかな?それに色々と気になってたこともあったから」

「気になっていたこと」

「まぁ……基本的には透のRX-8を見て気になったことだらけだから手を出そうかなって思っただけ。しばらくしたらこのエイトは手放すつもり」

《嘘だろ!?こんなにしっかりチューニングしたのに手放すのかよ》

《勿体ないな……》

《待てよ?逆に俺達も買える可能性があるって事で良いのか?》

《それはそれで良いな!》

そんな盛り上がりをしているコメント欄を余所に、薫は孤狼との話を続けていた。何故手放すのかと尋ねれば自分にはRX-7があるからと返される、本当に売るのかと尋ねれば売ると返される。

「……まぁ中身は別で欲しがるやつが居るかも知れないけどな」

「……カスタムパーツ、誰のを使ってるんですか?」

「……雨宮」

《雨宮!?》《この世界にもRE雨宮が!?》

「……RE雨宮」

「違う、雨宮カスタマイズって店だ」

雨宮カスタマイズ、この世界でカスタムパーツの製造を行っている一つのメーカーのようなものだった。この世界ではノウハウと知識があればオリジナルのエアロなども製造できるため、そのおかげでこの世界は現実世界よりも多種多様なマシンを見ることが出来る。例えば昭和の時代に流行っていた竹槍マフラーを装着している旧車やシルエットフォーミュラの影響を受けた出っ歯と呼ばれるエアロパーツを取り付けているマシンも時々だが見られていた。俗に言うグラチャン族、族車、それがこの世界では見ることが出来た。この世界には不正改造車を取り締まる警察などは当然居ないため、暴走族という形でたむろしている。

しかしこのゲームでの評価は「速くも無いし腕も無い、見かけ倒しでただ五月蠅いだけの雑魚」というのが当たり前だった。その結果、そういった車は首都高も、ましてや峠道を走っても相手にされないため細々と走る結果になっている。他にもバニングやデコトラ、痛車も存在しているが目撃するのは希だった。そこはこのゲームをプレイしている年齢層もあれば、パーツを製造している年齢層も限られて言うという事だった。

「……松田透と伊吹に伝えておいて。「鍵は机の上に置いておくから一週間は好きにしろ。そしてその期間が終わったら、お前のエイトでここに来い」、よろしく伝えておいて」

「え?ちょっと待って?どういうこと?」

「……今日はもうガレージを閉める。速くフライアークの所に戻りな、お姉さん」

そう言って一方的に追い出されてガレージのシャッターを閉められてしまった。中では作業音が聞こえてくる、恐らくRX-8を組み上げてるのだろう。

「……帰るべき?」

《帰って伝えた方が良いと思う》

《多分、透にエイトを乗って貰って感想を聞きたいんだろうな。その為にガレージも開けておくし鍵の場所も教えたし、一週間という猶予を設けたんだろ。まぁ透が素直に乗ってみたいって言うかは別だけど》

「……とりあえず今日は帰ろう」

薫はS2000に乗り込み、ガレージを後にしてフライアークの拠点に向かった。あのエイトを仕上げて透に試乗して貰うつもりかもしれないがそれをしたところで一体何のメリットが彼にあるのか分からず、薫は少し考え事をしながらも80㎞ほどの速度で走って帰っていた。

 

 

「あ、薫さん。おかえりなさい」

「ただいま伊吹、透のエイトはどんな感じ?」

「パーツ交換だけで済むらしいです、私はチューニングの知識が無いので三菱さんと鈴木さんの話を聞く限りですが……」

「期間はどのくらい?」

「一週間くらいだそうです」

一週間。丁度、孤狼に頼まれた伝言の期間と同じだった。薫は伊吹そして透に彼からの伝言があると、言われた通りにしっかり伝えていた。その言葉に伊吹は驚いていたが、透は孤狼が何をしたいのかわからないと言った表情を浮かべていた。

「……とりあえず私は伝えたから。それをどうするかは透次第」

「……伊吹、明日時間ある?」

「行くの?」

「行って確かめる、孤狼咲夜のチューナーとしての腕、そして手がけたマシンの性能を。この目でしっかり確かめたいから」

「分かった、私も気になるからね」

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