LateNightRacing(時々変わってる) 作:灰崎 快人
1速
松田透のRX-8が孤狼咲夜の手によって改修そして450馬力というモンスターマシンになってから数週間後、中の下くらいの実両者が狩る35Rを余裕でぶっちぎれるほどの実力を手にしていた。ノーマルでも35Rは初期モデルでも480馬力、2017年以降のモデルでは570馬力を誇る正にモンスターマシンだった。そこから更にブーストアップやタービンの交換などを経て数百馬力アップされたマシンも当然この世界には存在している。確かに孤狼咲夜のチューニング技術は素晴らしい物だったが、ベースとなっているマシンによる差が激しかった。それもそのはず、相手は高性能な4WDでありこちらは後輪駆動、安定線の面やホイールスピンの考えなどによっては当然勝てる相手ではなかった。
しかしそれでもそのじゃじゃ馬を乗りこなし始めている透は、アクセルコントロールで35Rの後ろにピッタリと詰め寄れるほどに進化していた。
「……スリップストリームを使えばなんとか追いつける、コーナーで横に並べるけどやっぱりストレートだと厳しいかな」
配信をしている透はそう呟いていた。いつもの緩い彼女を知っている視聴者からすれば、その声色が全く異なっていることに驚きを隠せなかった。いつもの緩い口調はどうしたのかと透に尋ねれば、事情を少しだけ知っている視聴者の一人が説明をしてくれているのがコメント欄で良くある事だった。
《350馬力から450馬力にね……通りで35Rにも肉薄できるわけだ》
《しかも姉妹揃って孤狼咲夜ってプレイヤーの手が入ったマシンに乗ってるんだぞ?》
《え?チームメンバーがチューンしてくれたんじゃ無いのか?》
《少なくとも配信では純正馬力に戻された赤いRX-8しか映ってない。ただその近くに透の姿は全くなかったし、伊吹と薫の配信で透が別のRX-8に乗ってるって話してたからな……特に伊吹が楽しそうに話す内容なんてこのゲームだと孤狼咲夜関連とチーム以外無いからな》
《そう考えると、孤狼咲夜が関係してくる訳か……それにしても随分と変わったなこのエイト、見た目が完全に戦闘マシン化でちゃんと走り屋って感じがするな》
大口径のマフラーから響く音に、強力なダウンフォースで驚くほど安定しているコーナリング、ストレートでの伸びこそ少し苦戦しているが、目の前の35R相手に充分過ぎるほ戦えていた。
しかしこれはストリートバトルだから成り立っているだけであり、コレが耐久レースや他の勝負になってくれば圧倒的にRX-8の負けは目に見えていた。
透は35Rを追い抜いた後、そのまま首都高を降りてガソリンスタンドに滑り込んでいた。パワーがあると言うことはその分燃費がかなり劣悪になっていた。時々フライアークのガレージで燃費の確認をしているが、ベースよりも低下しているのは言わずもがなだった。GT2835Rクラスのタービンを組み込み、それに最適化されたマシンだとしても透自身のドライビングセンスによっては8.0〜10.0 km/Lという燃費に達するかどうか怪しい。
《燃費がネックか、ロータリーは元々燃費が悪いからな。それにターボキットの恩恵の代わりに燃費も犠牲になってるからな。孤狼さんもかなり手を入れて調整してくれてるらしいけど、それでも燃費が悪いのには変わりないからな……フライアークの整備チームが時々メンテナンスしてくれてるけど、何処までやってくれてるのか分からないし》
《それに時々伊吹と一緒に孤狼さんのガレージにも言って、雑談してるときがあるからな。その時に彼がメンテナンスしてくれてるのを見たことがある。勿論二人ともしっかりお金払ってたぞ、それに手を加えたところやパーツについても詳細に記載した資料を手渡してくれてたからな》
FD3SとRX-8のメンテナンスをする際に、孤狼が弄った部分とそのパーツ名を全て記載した資料を、透は手渡されていた。まず一番変化したのはやはりエンジンだろう、エンジン本体にはRENESIS専用ローコンプ加工ローターがされ、コレはターボ化するにあたって熱膨張と圧縮比上昇によるノッキングの防止対策だった。フルバランス取りにローターの軽量化も行われ、アペックスシールを強化品に交換。吸気ポートは加工され、高回転時の充填効率を向上させていた。
ターボチャージャーに関してはGT2835Rの進化版とも言えるGTX3076Rクラスの物を取り付けられていた、効率とレスポンスを両立するための交換だった。それにともなって専用のエキゾーストマニホールドが取り付けられ、高効率外部ウェイストゲートも付けられていた。
冷却システムは最も重要であり、高効率大型インタークーラーにVマウントを採用。特注品の高性能ラジエーターや大型ツインオイルクーラー、高性能サーモスタットと電動ウォーターポンプが併用されている。RX-8は発熱量が多いため、冷却システムを確実にしておく必要があった。そうしなければ熱ダレを起こしてしまい、パワーダウンしてしまうからだった。
燃料供給システムも450馬力に必要な燃料供給量を確保するために取り付けられており、フルシーケンシャルECUで空燃比や点火時期、可変バルブタイミングの制御をあの短時間で完成させていた。また点火システムもしっかり強化され、失火を防止していた。
駆動系では強化クラッチは当たり前であり、軽量フライホイールに変更。強化ミッションの採用、高トラクションLSDも取り付けられホイールスピンをなるべく避けられる様になっている。高性能なフルアジャスタブルサスペンションも取り付けられ、トラクション性能を最大限引き出せるようになっていた。これがコーナーで35Rに肉薄できる理由だった。その他細かい部分やブレーキシステムやエアロについてもしっかり考えられていた。
「このエアロ、フルカーボンだから」
透はちなみにと値段を尋ねると、孤狼が指を八回折っていた。透はそれだけの桁の金額がこのRX-8につぎ込まれているのだと知って青ざめていた。ちなみに伊吹のFD3Sはまだリミッター解除とホイールにタイヤを交換し、そこにメンテナンス費だけなのでそこまでお金は掛かっていなかった。ちなみに伊吹は初心者レースで上位入りをすることがちらほらと出来るようになり、手元の金額もある程度蓄えられるようになっていた。そのためメンテナンス費用などをしっかり払いながらも、今後のために貯蓄をしっかり始めているらしい。配信では良く孤狼が映るため、当たり前の光景のようになってしまい、逆にフライアークの拠点いる方が希でレアな配信になってしまっていた。
そしてチューンされたRX-8を手に入れた透はストリートレースに挑もうとした際、孤狼はコーナーで勝負しろと助言していた。確かにそこそこのマシンではストレートでも差を付けることはできるが、同じようにチューニングされたマシンや市販車なのにも関わらずスポーツマシンレベルの35Rなどにはコーナーで仕掛ける以外の選択肢は無かった。
「さてと……透、少し遊ぼう。同じRX-8で」
「同じ?」
「あの白いRX-8をまたチューニングした、同じ450馬力だけどパーツが違う。どうする?」
「いいよ、やる」
「羅枯は伊吹を隣に乗せてやれ、FD3Sはまだそこまで行けてないからな」
「はっ!?俺が助手席に乗せるのかよ……まぁ良いけどさ」
「追い越せるなら追い越せ、出来るなら」
「やってやろうじゃねえかコノヤロー!」
孤狼は扱いやすくて助かると少し笑った後、白いRX-8に乗り込んでいた。透も同じように自身のマシンに乗り込んだ後、羅枯と伊吹はポルシェに乗り込んだ。伊吹は少し緊張しつつも、水平対向6気筒エンジンのサウンドを感じ取っていた。孤狼が副都心エリアの池袋線・山手トンネルコースを一周すると、そこから一気に加速して2台を突き放していた。一周したのだからコースレイアウトは掴めただろうと思っての行動らしく、置いて行かれそうな2台も一気にアクセルを踏み込んで白いRX-8に追走していた。カレラは足回りに力を入れている様子だが、スペックでは少し劣っているように感じられる。しかしドライバーである羅枯のセンスが拮抗できるレベルに引き上げていた。透のRX-8相手にオーバーテイクをしかけており、見事に追い抜いてしまうほどだった。孤狼はそれをバックミラーで様子見をしつつ、隙を許さないドライビングをしていた。
「あの、羅枯さんは、孤狼さんとどうやって知り合ったんですか?」
伊吹は二人が親しい間柄である事に、どうやってそこまでの関係地になったのか、その理由を尋ねていた。羅枯は少し考えた後、話を始めてくれていた。
「このゲームのアーリーアクセスは今から2年前、そして正式リリースはその半年後。俺はそこからこのゲームを始めた。当時としては少しメーカーも車種も少なかったが、ある程度名の知れたマシンは確実に実装されていた。ルールもルールで細かいことは決まってなかったかな、チュートリアルで映像や写真を見たと思うが、あれは今から1年前に起きた出来事だった。そこから現実世界と変わらないようなルールがゲーム上で設けられ、そして車種もステージも増えていった。俺はチュートリアルを済ませた後、このポルシェ911を手にして、新環状エリアを走り回ってた」
羅枯は当時の事を端的に話しながらも、自身の事について語り始めていた。当時の羅枯はベースモデルのカレラで35Rやランボルギーニ、そしてフェラーリなどを全く相手にさせない実力者の持ち主だった。そのため当時の羅枯には「ブルー・フラッグ」という二つ名が付けられていた。
「まぁ、当時のプレイヤーは競って腕を磨いて各々レベルをつけるのが基本的だった。十三鬼将や悪魔のZ、それらは確かに他の作品の登場物だが、遜色の無いプレイヤーがそう呼ばれるようになっていた。俺は十三鬼将や悪魔のZとかを追うのに特段興味は無かった、バトルしてるって意識も当時は無かった」
「そうなんですか?」
「まぁバトル以外でも気分転換にこのゲームをする人はいるからな、現実的に遠くまで行けないって人はゲームの世界で観光って感じだ。話を戻すぞ、そうして正式リリースから半年後、俺が走っていると後ろから追突された。相手は黒いRX-7、FC3Sだった」
伊吹はその状況に身に覚えがあった、彼女もゲーム初日で後ろから追突されてしまい逃げられていた。羅枯の場合は追いかけたのだが、マシントラブルが発生してしまい、途中で走行不能状態になってしまったという。そのFC3Sはカブリオレ仕様であり、逃げるように夜に消えていったという。
「携帯電話でNPCを呼ぼうとした矢先、丁度良いところにキャリアカーが近づいてきた。俺はそのプレイヤーにポルシェを運んで欲しいと頼み込んだ、そのプレイヤーが咲夜だった。そこからだな、あいつとの関係が始まったのは」
「そうなんですか……」
「最初は怪しかったよ、一軒家に運ばれたかと思えばしっかり修理出来る施設が揃ってたんだからな。そしてFC3Sがあったとき、俺は真っ先にあいつを疑った。だけど色も形も違った、カブリオレ仕様とクーペ仕様じゃ後ろの顔が全く違った」
そしてポルシェを直して貰うついでに、しばらくお世話になったらしくこの世界での資金の稼ぎ方や自分で出来るメンテナンスなどもある程度教えて貰うことが出来たという。それからしばらく走っていると、孤狼がアーリーアクセス時代に「ゼロ」という二つ名持ちだったため、そこからバトルを挑むようになったらしい。当時のFC3Sはチューンされておらず、215馬力だった。しかしそのFC3Sを相手に、羅枯は一度も孤狼に勝ったことが無い。そう苦笑いしていた。接戦まで持って行けた日もあったが、その翌日に孤狼がFC3Sをチューニングしてパワーアップさせてしまい、400馬力ほどになったあの白いマシンにまた追いつくところから始まったという。今思えばそれはセミナーのようであり、それがあったからこそここまでのドライビングセンスを持つ事が出来たのかも知れないと笑っていた。
そうして孤狼のRX-8に並び、同時に指定されたゴールラインをクリアしていた。透は途中から空気にされてしまい、視聴者達と話しながら必死に2台を追いかけて居たのだった。
「……私のこと完全に忘れられてる!」
《……どんまい》《もっと頑張りましょう》