LateNightRacing(時々変わってる) 作:灰崎 快人
孤狼と羅枯そして透のバトルが終わり、ガレージに戻ってきていた。
伊吹は羅枯から聞いた孤狼との馴れ初めを聞いた後に、二人の話している姿を見て少しだけ羨ましいと思ってしまっていた。まだ伊吹と孤狼の関係値は数ヶ月であり、二人の関係値とは大きな差があった。境遇は似ているが歴という圧倒的な差があり、それを埋めるのには毎日孤狼のガレージに通って関係値を深めるしかないだろう。
《……伊吹ちゃん、これ恋愛シュミレーションじゃないからね?》
「な、何のことかな?」
伊吹は指摘コメントを見て驚いていたが、声がうわずっていたのでバレバレだった。
「途中から置いていったけど良かったのか?」
「別に良い。そうすればまだ上に行けるって分かるから」
孤狼はそう言いながらスポーツドリンクを飲んでいた、ゲーム世界のためリアルの身体で水分補給しなければ本来はダメなのだが、それすら忘れてしまいそうなのがこの世界の没入感やリアリティーだった。羅枯は苦笑いしながらそれを指摘しており、孤狼は行動を停止してリアルで水分補給をしていた。
「ん……」
ヘッドデバイスをガチャガチャと動かしている音が聞こえ、孤狼のオフの声が聞こえてきていた。
「ゆっくりで良いからな~?」
「わかってるよ」
孤狼はガチャガチャしながらも、ヘッドデバイスを付け直している様子だった。
「よいしょ……よし」
ゲーム内のアバターがしっかり動いてのを確認して、手や腕を動かしていた。
「問題は無さそう」
「うし、今日はもう終わりにするか?それともまだ走るのか?」
「俺はもう少し走る、FDのエンジンも定期的に回しておかないとカーボンが溜まる」
「了解。それじゃあ俺はここまでだ、明日仕事が速いんでな」
「お疲れ様でした羅枯さん」
「おう、二人ともお疲れ。配信者ならしばらく起きてそうだな、咲夜は速いからな~レベルもすくすく育つだろ。これでこの世界の配信者レベルは格段に上がるな?」
二人は羅枯の言葉に苦笑いしつつもログアウトするのを見送っていた、孤狼はそれを見届けるとガレージからFD3Sを引っ張り出していた。そうしてそれぞれのマシンで追いかけ回そうとする二人に対して、後部座席もしくは助手席に乗り込むように言われていた。どうしてなのかと尋ねてみれば、この時間に現れるやつらを見に行くという。
これにはコメント欄も大盛り上がりであり、このゲームでの世界で有名なプレイヤーを見ることが出来る可能性を秘めていた。やはり一番の大物は十三鬼将と悪魔のZだろう、それ以外にも確かに有名なプレイヤーは居るかも知れないが大当たりはそこだった。
首都高に突入すると今回はC1エリアに入っており、そこをぐるぐると回りながら流し運転しており、途中途中で他プレイヤーやリスナーに勝負を挑まれており、そのたびに返り討ちしては燃料補給を繰り返していた。途中SAやPAに寄って休憩しながらも見ていたが、未だにその有名人とは出会えそうに無かった。
「……もうそろそろ出てきそうだな」
孤狼はそう言うと再びC1に入っていた、二人は既に眠気で限界だったがそんな眠気を吹き飛ばすようなエキゾースト音が聞こえてきた。二人が合流車線を確認するとNISSAN スカイラインGT-R BCNR33型が向かってきていた。パープルメタリックカラーの33Rがジリジリと距離を積めてきておりサイドバイサイドで並んでいた。
《こ、この33Rは久遠のポラリス!十三鬼将の一人だ!》
《キタキタキタ!!!十三鬼将の一人と遂に出会えたぞ!二人の配信では初じゃないか!?》
そうしてお互いのドライバーが視線を交差してバトルが始まると思った矢先、久遠のポラリスはハンドジェスチャーで後ろを見ろと言ってきた。
(……後ろ?)
孤狼がバックミラーで背後を確認すると、33Rの後ろを何かが追いかけていた。残念な事にバトル中らしく、孤狼は少し放れて追いかけようとした矢先だった。
「……あれ?この車、神楽さんのFC3Sじゃない?」
「本当だ、黒いFC3Sカブリオレ仕様……今配信してるのかな?」
伊吹と透はそんな事を言いながらも二台を目で追っていた、しかし孤狼は違った。久遠のポラリスではなく、その後ろにいるカブリオレ仕様のFC3Sを追いかける様にアクセルを踏んでいた。33Rの後ろにFC3Sそして更に後ろにFD3Sが並んでC1を走行、突然始まった三車のバトルを二人とリスナーは困惑して見守っていた。
「こ、孤狼さん?どうしたんですか?」
「……ちょっと試すだけ、もしかしたら探してたやつの可能性があるから」
孤狼はそう言っていつでも黒いマシンを追い越せるように、背後にピッタリと付いていた。孤狼のドライビングには無駄はなく、僅かな隙を見せた瞬間にあっという間に追い抜いてしまいそうな気迫すら感じられていた。本気でバトルしている孤狼を見てしまい、二人は言葉を発することすら出来そうに無かった。
(……ナンバーも同じ、こいつで確定だな)
孤狼はそう確信すると、一気に追い抜きに掛かっておりあっという間にオーバーテイクしてしまっていた。それを見た久遠のポラリスは少し手を抜いていたらしく、一気に加速して二台を突き放そうとしていた。それに合わせて孤狼も黒いマシンを突き放しに掛かっており、あっという間にバックミラーから消してしまっていた。
《ここからはポラリスとの1対1か?》
コメントではわくわくしている様子であり、更に加速していく二台のバトルを見ていた。そうしてしばらく横並びで走っていると二台ともPAに入っていた、バトルが始まるかと思えばそうでもなく、ただあの黒いFC3Sを振り切っていただけだった。
《なんだ、バトルじゃ無いのか……》
《でもこれで久遠のポラリスってプレイヤーが分かるんじゃないか!?》
《確かに、これで久遠のポラリスに挑めるプレイヤーが増えるかも知れないな》
確かに十三鬼将のドライバーはどんな見た目をしているのかほとんど分かっていない、その為に首都高で偶然で合わない限りバトルを挑むことすら厳しい。それが今日、久遠のポラリスと言う人物のアバターが分かり挑みやすくなっていた。
「……久しぶり、狼」
「狼呼びは辞めろ、
「今は銀のFD3Sなんだ、あの白いのには乗ってないの?」
久遠優子、それが久遠のポラリスのドライバーだった。パープルメタリックのNISSANスカイラインGT-R BCNR33型を愛車としている、馬力は450馬力のFD3Sがスリップストリームを使って追いかけられるレベルのため、500~600馬力は確実に手にしているだろう。
「この人が十三鬼将の一人、久遠のポラリス」
《伊吹達より若いアバターだな?》
《19歳くらいか?》
「……紹介する、この人が久遠のポラリス。久遠優子」
「初めまして
伊吹と透は慌てつつも同じように自己紹介していた。
久遠は顔合わせが済むと孤狼にバトルを挑まれるかと思ったら、助手席と後部座席を乗せていてびっくりしたと笑っていた。孤狼はそもそも本気でバトルするのなら白いのを使うと話しており、旧友のように話をしている様子に二人は困惑していた。
「……追いかけてた黒いの。あれは?」
「あれ?あぁバトルしたいんだな~って思って、C1流してたんだけど……意外に粘ってくるなって思ったよ」
「そうか。あいつ、俺が探してたやつだ。正確には探してくれって言われてる」
「狼が人捜し?珍し事もあるね」
「うちの連れが当て逃げされてる」
孤狼がそう言うと、久遠の表情は一変して真面目な顔つきになっていた。この世界で当て逃げというのはハッキリ言って気に入らない、絶対に見つけて徹底的に追い詰める。それが古参プレイヤーの洗練だった。
「……へぇ?狼の連れがね、あのFC3S撒いたのはミスだったかな?」
「いや、とりあえず情報が欲しかった。だから撒いたのは問題無い」
「そ、なら良いけど」
「悪かったな、バトル出来なくて」
「いいよいいよ。それに今回は紹介だったんでしょ?それならバトルは出来ないからね」
久遠はそういうと33Rに近づいて運転席のドアを開けていた。
「今回は仕方ないけど、次に本線で出会ったら即撃墜するからね。だから気をつけてね」
「分かってる」
「それじゃあね、お二人さんもこの世界にいる以上気をつけてね」
「は、はい!」
「ありがとうございました!」
そう言って久遠のポラリスは立ち去って行った。松田姉妹は二つ名しかも十三鬼将の一人と対面したことで放心状態だったが、それよりもそんな人物と親しそうに話している孤狼について気になり始めていた。羅枯からはアーリーアクセスプレイヤーだという事が判明している以上、この世界で十三鬼将と呼ばれているプレイヤー達と顔見知りでもおかしくはない。
久遠のポラリス曰く、白いFC3SアンフィニⅢがやはりファーストカーであり、それが孤狼咲夜を物語るに相応しい車両なのだろう。この銀のFD3Sはセカンドカーとして、首都高を流し運転していたりとこの世界を楽しむ為に存在している車なのだろう。RX-8に関しては完全にお遊びのサードカーとして扱っているのだが、全部チューンされたマシンな為に燃費が良いとはお世辞にも言えなかった。
ちなみにRX-8は最終的に手放すことを決めているらしく、それなりの値段で中古に売ることにしているらしい。三台も車を持てるほどガレージは広くないと話しておりキャリアカーにワゴンカーは野ざらしなのが当たり前だった。新しい拠点を考えたらしいが、あの家が一番居心地が良いために拠点を移動させるよりも車を絞る方を考えたという。
「RX-8も良いが、スポーツタイプ以外を買えば関西圏に遠出できる。そうだな……CX-3とか候補にしてる」
マツダCX-3は初版が2015年に登場したコンパクトSUVであり、立体駐車場に入庫出来る全高1.550mm以下に抑えられている。当時はこのクラスで唯一ディーゼルターボエンジンが搭載されている事もあり、注目を浴びた車両である。勿論ガソリンエンジンモデルも現在はある。
1.5Lガソリンエンジンと1.8Lディーゼルエンジンがラインナップされているが、ディーゼルエンジンタイプはクラストップレベルの最大トルクを誇っている。しかしCX-3にはATしか存在しない、正確にはMTタイプのディーゼル車があるのだが、今現在販売されているのは全てATしか無い。
「この世界で遠くに行って、海を泳いだりキャンプすることだって出来る。現実世界と違うところは空腹と水分を取れないことくらいだ」
それ以外はヘッドデバイスが感覚を伝えてくれるため、チルい事もアグレッシブな体験も可能ということだった。スーパーが現実と同じレベルで品揃えが充実しているのはそれが理由であり、この世界に自由を求めてくるプレイヤーも存在していた。
「さてと、顔合わせも終わったことだし二人とも帰るよ」
「あ、はい!」
「わかった」
孤狼は二人を乗せて首都高を降りて元のガレージに戻っていく、戻った二人は孤狼に一礼をしたあと配信を締め始めていた。
「今回は久遠のポラリスさんに出会えましたが、彼女はあくまでも1プレイヤーであることを忘れないでくださいね~バトルするときはSAもしくはPAにいるときに挑んでみましょう!」
《神楽が出会い頭にバトル挑んでたけど……?》
《あれは多分走行中に出会ったから喧嘩をふっかけた感じな気がするな……》
「ま、まぁ熟練者になるとアイコンタクト?でバトル出来るみたいだから」
孤狼曰く知り合いになれば車を見ただけでも分かるらしい、ただそれなりにこのゲームをやらなければならず、そのプレイヤーとも何度もバトルをしなければならないため、一筋縄ではいかないという。
「あと、バトルを挑むためにパッシングするやつが居るが……印象悪いからやめろ。あとクラクションもやめろ」
孤狼は本当に嫌そうに話していたため、どうやら経験があるらしい。伊吹と透はしっかりと注意喚起をした後に配信を終わらせていた。
「今回はありがとうございました孤狼さん!」
「まさか本当に十三鬼将の一人と会えるとは思わなかったけどね……」
「凄いプレッシャーだったね」
二人は二つ名持ちのプレイヤーの存在感に圧倒していたことを漏らしていると、孤狼は同じ一般プレイヤーだと話していた。それでも存在感があるのは歴が違うから、もしくはマシンの迫力のどちらかだと話していた。
「二人もいつか同じように成れるさ、本気で向き合えばの話だけどね」
孤狼は二人がそれぞれの愛車に乗ってフライアーク拠点に戻っていくのを確認したあと、ポツリと言葉を呟いていた。
「この世界は、そんなに甘くないよ」
二人にその声は聞こえなかった。