LateNightRacing(時々変わってる) 作:灰崎 快人
二日後。伊吹の前には新車同然に戻されたFD3Sが鎮座していた。事故を起こしたとは思えないほど綺麗に直された車体に、伊吹は安堵の表情を浮かべていた。今朝には作業が終わっていたらしく、孤狼は私服で伊吹を出迎えていた。
この約一週間、彼のガレージにやってきたのは秋山と伊吹だけだった。本当に孤狼の名前はこの世界では知られていないらしい。
孤狼はのんびりとコーヒーを楽しみながら、椅子に腰掛けていた。
「……満足?」
「え?あ、はい!とても綺麗です!」
自身の愛車が戻ってきたこともあり、伊吹は心を躍らせていた。伊吹が不在の間に試運転したのか、FD3Sが鎮座している場所は初日とは変わっていた。
「孤狼さん、試運転してくれたんですか?」
「……問題があったら困るから」
コーヒーを少し飲みながら、伊吹にFD3Sの鍵を返していた。
伊吹も借りていたFD3Sの鍵を孤狼に返していた。借りていたFD3Sはかなり整備されており、手の込んだチューンドカーだった。しかし伊吹のFD3Sは全くチューニングされていないノーマル車、少しだけ彼のFD3Sに慣れてしまっていた伊吹には物足りなく感じてしまうかも知れない。しかし、伊吹には伊吹の、孤狼には孤狼の走らせ方がある。
現に孤狼FD3Sを伊吹は150㎞以上の速度で走らせたことはない。勿論事故を起こしてしまう可能性もあった、だがそれよりも思って居たのは「踏めない」ということだった。
自然と自身の中で限界が分かってしまっているような気がしていた。
「……あの、孤狼さん」
「なに?」
「また来ても良いですか?」
何故かそんな言葉が自然と出ていた。
伊吹は、この人にこの世界について、言葉では無く実際の体験を通して教えて貰っていた様な気がしていた。
このゲームの世界は言葉で説明するのは難しい。
しかし一度走り出してしまえばルールを嫌でも理解させられ憶えさせられていた、さらには暗黙のルールやコースの走らせ方まで、気が付けば教えられる側から教える側へと自然と変化していく。
その関係を、伊吹は孤狼に見いだしてしまっていた。
「まぁ……時々なら」
孤狼は渋々というよりも、物珍しいものを見るように伊吹を見て答えていた。
「ありがとうございます!」
伊吹は感謝の言葉を伝えながら一礼した後、FD3Sの運転席に乗り込み、孤狼に手を振ってガレージから去って行った。孤狼はそんな伊吹を見届けた後、ガレージの中に戻っていく。
「……面白い人」
そう言って、孤狼はログアウトして光の粒子になっていた。
彼が消えた後に残ったのは、しっかりと施錠され誰も入れないようにされ、明かりが全て消えたガレージだけだった。
孤狼のガレージから離れた伊吹、彼女は首都高に向かってFD3Sを走らせていた。勿論孤狼のFD3Sに比べればパワーが無く、比較的落ち着いた性能になっていた。それがノーマルのFC3Sだった。
《まさか本当に期限内に元通りになるとは思わなかったな》
《あの人の実力は本物だったな》
コメント欄ではそんな声が上がっていた。確かに孤狼の実力は整備でも走りでもかなりの実力者だという事が証明してくれた。コメント欄では孤狼について盛り上がっていたが、伊吹は自身の愛車に違和感を感じていた。
(曲がりやすくなってる……?もしかして少し足回りを弄ってくれたのかな)
僅かに愛車の変化を感じ取っていた伊吹、それが本当なのかは本人に聞かなければ分からない。気のせいかも知れない、もしかしたら本当に足回りを弄ってくれて居る可能性もある。
伊吹はそんな感覚に違和感を憶えながらも、ゆっくりと確実に愛車の走らせ方を身体に覚えさせていく。ギアの入れ方やアクセルの踏み方、ブレーキングポイントまでしっかりと理解して行く。基本をしっかり見直していた。
それは伊吹がこの世界で輝くための第一歩になるかもしれない。
《……集中してるな》《本当にな》
《まぁ運転中によそ見できないだろ?現代社会でも運転中にスマホ弄って事故起こしてニュースに乗るんだから》
《今は俺らのコメントオフにして見ないようにしてるのかもな》
実際コメント欄の言うとおり、伊吹はコメント欄の会話を一切見ていなかった。ただ自身の愛車を走らせ学ぶこと、それだけに集中していた。孤狼が見せてくれた200㎞オーバーの世界、そこに踏み入れることが今の伊吹の目標だった。
ノーマルのFD3Sはギリギリまで回せば240㎞オーバーで走らせることは出来る。しかし、伊吹はそこまで踏み切ることは難しいのが現状だった。
頑張っても5速6000回転で190㎞、それ以上は踏み込むのに恐怖心があった。あと1000回転、それが伊吹の前に大きな壁として立ち塞いでいた。
《怖いよな》
《普通200㎞オーバーで首都高を走ろうなんて思わないだろうからな……まぁこのゲームだと200㎞オーバーは普通なんだよな》《狂ってるよ》
コメント欄では200㎞オーバーで走らなければスタートラインにも立てないと厳しい声が上がっていた。首都高で名を知らしめている人物達は250㎞オーバーで走らせるのが普通であり、車体も徹底的にチューニングされているチューンド、今の伊吹では勝てる見込みは無かった。
《そういえば孤狼さんのFD3Sと伊吹のは結構違ったりするのか?》
一人の視聴者がそんな質問を投げかけてきた。その言葉に反応したのは、自称FD3S博士と名乗っている一人の視聴者だった。
《かなり違う。伊吹のFD3Sは「タイプRバサースト」と呼ばれる2001年12月に販売されたモデル。孤狼さんのFD3Sはその数ヶ月後に販売された「スピリットR」と呼ばれる最終モデルなんだよ》
《詳しく》《詳しく》《詳しく》《詳しく》《詳しく》《詳しく》
《タイプRバサーストはFD3Sがオーストラリアのバサースト12時間耐久レースで3年連続優勝を達成した偉業を記念して誕生した特別仕様車だ。
専用の車高調整式ダンパーが採用されて、より細やかなセッティングを可能としている。ソフト塗装パネルは、内装の質感を高めて特別な雰囲気を演出している。
レッドステッチが施された内装パーツによって、スポーティな雰囲気が強調されてドライバーの気分を高揚させてくれる。アルミホイールはBBS製の17インチ。軽量かつ高い剛性があり、走行性能に向上しているとともにスタイリッシュな外観をもたらしている。タイプRってモデルをベースにしているから、元々高い走行性能が専用の足回りになって、更にスポーティな走行をすることが出来るって訳だ。サーキットからワインディング走行まで、高い走行性能を発揮するぞ》
自称FD3S博士と名乗っているだけはあるが、まるでインターネットで調べたかのような内容だった。実際に乗ったことがあるのかと他の視聴者が尋ねてみたが、そこは有耶無耶にされてしまった。
《おいおい、FD3S博士なのに実際の乗り心地知らないのかよ?》
《乗って弄ってその車を知って、そこで博士って名乗れるんじゃねえの?》
《うるさい!誰がなんと言おうと!俺はFD3S博士なんだ!》
《うるせぇ!さっさともう片方のFD3S解説しろや!》
《それでは孤狼の所持しているFD3Sについて解説する》
《うわぁ!?急に落ち着くな!》
《スピリットR。FD3Sの最終モデルとして販売された特別仕様車で、最も走行性能を高めたモデルとして位置づけられている。専用のレカロ製フルバケットシートが装備され、高いホールド性で身体を受け止めてくれる。ダンパーは専用のビルシュタイン製が採用されて、優れた走行安定性と路面追従性を発揮。
アルミホイールは専用のが装備されている。内装パーツも専用のチタン調のメーターパネルやレッドステッチが施されており、誰かが言ったとおりブレーキディスクはドリルタイプが装備されている。走行性のはFD3Sの集大成として、最も高い性能を持っている。サーキット走行を意識したスパルタンな仕様になってるな》
《要は二つとも特別仕様車で、最終モデルとそのレース記念モデルってこと?》
《まぁそうだが……》
《最初からそう言え》《早くそう言ってくれよ》
《詳しくって言ったのお前らだよね?俺悪くないよね???》
《お前は用済みだ、自称FD3S博士……》
コメント欄は相変わらず賑やかだった。そしてしばらくすると別の話題でコメント欄は盛り上がり始めていた。
《知ってる人は知ってるかも知れないが、このゲームには二つ名持ちが何人か居る。特に有名なのはNISSAN・スカイライン、青い34Rを愛車としている
迅帝が乗っている34RはBNR34型と言われていて、34Rの最上位グレードになっている。エンジンは32Rと同じ2.6L直列6気筒ツインターボエンジン、電子制御トルクスプリット4WDシステムである「ATTESA E-TS」、電子制御4輪操舵システムの「SUPER HICAS」を搭載したことで高いトラクション性能に高速走行時のコーナリング性能を高めつつ安定した走行を可能にしている。
BNR34型の中のグレードではN1と呼ばれる、モータースポーツ参加用ベースモデルではないか?って噂になってる》
迅帝。噂程度であればこのゲームをプレイしている人は誰でも聞いたことがあるだろう存在、首都高に突如と現れ、次々と走り屋達を打ち負かし有名なチームですら打ち負かして頂点に上り詰めた存在。
しかしそれを見たプレイヤーはほとんど存在しない。幻の様な存在だった。
そのため模倣犯が多くなり、本物が現れなくなったとすら言われていた。
《噂程度には知ってる。だけど、実際には一度も見たことない》
《まあ無理も無いな。
《迅帝の側近とかなんとか……》
《そう。その十三人は迅帝と近い実力を持っている。少なくともそこらのチューンドカーでまともにやり合える相手じゃない。もしかしたら孤狼さんは出会った事があるかも知れないけどな、伊吹の車をテスト運転するときに首都高走ってた訳だし。あのFD3Sをあそこまで仕上げてるんだ、出会っていてもおかしくないだろ》
コメント欄では『迅帝』『13DEVILS』の存在について盛り上がってた。
その2点はこのゲームでは知らないやつはいない。そんな話だった。
伊吹は少し身体を休めつつコメント欄の履歴を遡り、迅帝と十三鬼将についての情報を記憶の片隅に記憶していた。そうして、リアルタイムまで戻ってくると今度は別の話題で盛り上がっていた。
それはアニメの話らしく、コメント欄が更に加速していた。
《まあこの手のゲームなら模倣犯が多くても仕方ないと思うぞ?現にMFGのGT86を完全再現しているプレイヤーもいるし》
《他にもいろんなゲームや漫画の再現をしているプレイヤーもいる。中には痛車とかあるからな?面白いよな》
《じゃあ悪魔のZの模倣犯がいるのも知ってるか?》
悪魔のZ。湾岸ミッドナイトシリーズを象徴する車であり、主人公「朝倉アキオ」の愛車で有名だった。このゲームにはA-S30型 NISSAN・フェアレディZが収録されており、実際にその仕様を再現することは可能だった。しかしアニメやゲームとは違い、何かが欠けているのか、恐ろしく速いと言うわけでは無かった。
しかしその悪魔のZは原作の通り「狂おしく、身を捩るような」走りをするらしく、最高速度は恐らく300㎞オーバーだと言われている。
《恐らく原作通りの馬力、恐ろしく手に負えないはず……だけどそれは自由自在のコーナーマシンになっている》
《湾岸は知ってるけど、Zについては全く知らん》
《と言うわけでいつもの人、解説よろしく》
いつものように解説役が居ると思い込んでの解説全投げに、伊吹は苦笑いしていた。しかしその手に詳しい視聴者の一人が、悪魔のZに付いて解説を始めていた。
《元になったA-S30型 NISSAN・フェアレディZはロングノーズ・ショートデッキと呼ばれる流麗なスタイリング。これは当時のヨーロッパ製スポーツカーに匹敵する美しさだと言われている。エンジンはL型直列6気筒エンジンが搭載されていて、L20型、L24型そしてL28型エンジンと追加されていった。
軽量なボディとL型直列6気筒エンジンとの組み合わせによって、軽快な加速と優れたハンドリング性能を実現したんだよ。特に240Zって呼ばれるモデルは、その高い性能からモータースポーツの世界で活躍していたな。悪魔のZに搭載されているエンジンはL28を改良したエンジン、それをツインターボ化したってことだ。L28改は3㎜ボアの大きい「FJ20型」エンジンの純正ピストンとストロークの長いLD28型ディーゼルエンジン用の純正クランクシャフトを流用して作っている。だからエンジンを作るのにFJエンジンを分解してるな》
《もう再現のレシピが出来上ってるのか……》
《レースゲームしかも首都高ってなると、再現したいってプレイヤーは結構多いからな。良くある事だよ》
「悪魔のZ」湾岸ミッドナイトシリーズ……ってことは多分あれもいるのかな」
伊吹が呟く、悪魔のZのライバルと言えば一台しか居なかった。
黒いポルシェ911、漆黒のボディーが夜の首都高に消えていく。
「《ブラックバード》」
黒いポルシェ911、首都高速湾岸線の黒い怪鳥と呼ばれたブラックバード。
悪魔のZが居てブラックバードが居ないわけがない。伊吹と視聴者達はそんな予感を感じて話の続きを聞いてた。
《勿論ブラックバードもこの世界に居る。930型じゃなくて964型のターボ車、多分700馬力。パイプフレーム化してるかまでは分からないけどな。そもそもブラックバードに関してはレシピがあんまり分かってない》
どうしてそこまで知っているのかとコメントを送ってきた人物に尋ねるが、聞いたことがあるだけだと答えられてしまっていた。
「悪魔のZ、ブラックバード。迅帝に十三鬼将、それがこのゲームで走ってるんだ……凄い世界だよね、このフルダイブゲームってさ」
伊吹はサービスエリアでコメント欄の会話を見ながらも、首都高から聞こえてくるスキール音を聞きながら、高層ビルの明かりを眺めていた。
「あ、そろそろログアウトしないと……」
《孤狼さんにガレージの合鍵貰ったからそこにFD3Sを入れてログアウトしよう。このゲーム、厄介なことに車上荒らしあるから。ライバルのマシンを鉄パイプとか金属バットでボコボコにしたり、徹底的に壊して再起不能に……とかね》
孤狼は合鍵を渡す際に「初心者が安全に動けるように」そう言って、イグニッションキーと一緒に渡してくれていた。本人の口からではなく視聴者のコメントで知ることになった伊吹は、孤狼は不器用だけど優しい人なのかな?と口にした。
《ツンデレだよ》《……ツンデレか?》
《ただ言葉足らずなだけだろ》
「ツンデレ……だから付けてくれたんだ。ありがとう、孤狼さん」
FD3Sのイグニッションキーに寄り添うように取り付けられている小さな鍵、それが孤狼が預けた合鍵でありマシンの動きで揺れて僅かに音を奏でていた。
《……ツンデレで確定なの?》
《もうどうでもいいだろ?優しい人だ》
《……僕ってツンデレ?》
日産 スカイラインGT-R BNR34型 VスペックII。×××馬力。
ブラックキャット 年齢不明。アバター不明。性別不明。
MAZDA RX-8 SE3P型 タイプRS ×××馬力。
ホワイトキャット 年齢不明。アバター不明。性別不明。
MAZDA RX-8 SE3P型 タイプRS ×××馬力。
12時過ぎのシンデレラ 年齢不明。アバター不明。性別不明。
NISSAN シルビア S15型 spec-R ×××馬力。
焦熱の迅姫 年齢不明。アバター不明。性別不明。
三菱 ランサーエボリューションⅨ CT9A型 GRS ×××馬力。
ユウウツな天使 年齢不明。アバター不明。性別不明。
NISSAN シルビア S14型 K's ×××馬力。
ミッドナイトローズ 年齢不明。性別不明。アバター不明
NISSAN フェアレディZ Z34型 ×××馬力。
パープルメテオ 年齢不明。アバター不明。性別不明。
NISSAN スカイラインGT-R BNR32型 VスペックII ×××馬力。
ブラックエンジェル 年齢不明。アバター不明。性別不明。
TOYOTA スープラ JZA80型 GZ ×××馬力。
エキゾーストイヴ 年齢不明。アバター不明。性別不明。
SUBARU インプレッサ 2BB STIバージョン ×××馬力。
デビルランロード 年齢不明。アバター不明。性別不明。
SUZUKI カプチーノ K6A型 ×××馬力。
白いカリスマ 年齢不明。アバター不明。性別不明。
MAZDA RX-7 FD3S型 スピリットR タイプA ×××馬力。
久遠のポラリス 年齢不明。アバター不明。性別不明。
NISSAN スカイラインGT-R BCNR33型 ×××馬力。
沈黙の牙 ウルフカット、165㎝の男性アバター
MAZDA RX-7 FC3S型 アンフィニⅢ 600馬力