LateNightRacing(時々変わってる)   作:灰崎 快人

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5速

「皆さんこんばんは!松田伊吹です!今日も首都高いきたいと思います!」

《よっ!待ってました!》《今日は何時間走る予定?》

《一昨日は5時間走ってたよな》

「今日も5時間くらい走って行く予定です、この世界にまだ慣れてませんから」

伊吹は元気に挨拶をした後、コメント欄との談話を楽しんでいた。伊吹は今回も首都高のコースを5時間ほど走っていく予定らしく、既にサービスエリアにて待機をしていた。少しだけ視聴者達のと会話を楽しんだ後、都心環状線に向かって行く。

C1は内回りと外回りの2種類があるが、初心者にお勧めなのは外回りである。

内回りは時計回りだが外回りは反時計回りに走行する。どちらも都心部を一周する環状線だが、外回りは内回りと比べると比較的直線区間が多く高速走行しやすい印象がある。しかし単調な高速コースと言うわけでも無く、高速コーナーや複合コーナーが連続し、高いドライビングテクニックが要求される。

《S字状に連続するコーナーと、緩やかな複合コーナーは気をつけて》

《あと全体を通して路面にうねりとか高低差があるから、路面の変化を捉えていくと良いかもしれない》

視聴者達からアドバイスを貰いつつ運転席に乗り込む。コメント欄は運転中邪魔にならないように読み上げ機能を起動することで、画面を見なくても視聴者達との会話を可能としていた。

「ありがとう。それじゃあ行きましょう!」

伊吹はFD3Sのエンジンをかけ、サービスエリアから首都高へ走って行く。

伊吹は配信内で合計24時間、C1外回りを走っており、FD3Sの走行距離は3550㎞を越えていた。C1外回りは一周約14.8㎞、それを約150㎞で駆け抜ける。

約6分で一周しそれを合計24時間、最初は見慣れない景色の連続だったが次第に景色にもコースにも慣れ130㎞からゆっくりと速度を上げ150㎞、そして今夜は190㎞でFD3Sを走らせていた。200㎞まで踏み込むのにはなにか大きな覚悟が必要だと、伊吹は思い込んでいた。

このゲーム、車の特性を完全再現していることもあり、伊吹の操縦しているFD3Sにはとある二つの仕様が完全再現されていた。

まず日本仕様、日本国内向けのFD3Sにはスピードリミッターという物が装備されており、最高速度は180㎞で頭打ちになるようにリミッターが作動する様になっていた。対して輸出仕様、これは欧州や北米向けのモデルになっておりリミッターが解除されている仕様になっている。その為、ノーマル状態だったとしても最高速度は250㎞程まで伸ばすことが可能になっている。ただしこれはあくまでもカタログ値やテストデータに基づいている物のため、ドライバーや路面状況によって大きく異なるためあくまでも理論値だった。

伊吹のFD3Sは日本仕様だが、咲夜の手によって密かにリミッターが解除されており、輸出仕様と変わらない性能になっていた。しかし伊吹はそれを知らない、そこまで踏み切ることが出来ないため知るのは当分先になってしまうだろう。

「くぅ……やっぱり踏めない。あの人みたいに走れない」

そう言葉を漏らす伊吹。150㎞以上で走らせてみれば他の車は遅く走っている様な感覚になり、そこからさらに加速させていくと、一瞬の油断が命取りになってくる。少しでも冷静さを欠かすとあの32R(秋山玲佳)の二の舞になってしまう可能性は十分にあった。あの瞬間が恐ろしいほど記憶に残ってしまっている。

だからこそ伊吹の心には躊躇いがありそれ以上踏み込むことが出来ない。

無意識に自身の中でリミッターを付けてしまっていた。恐怖心という名のリミッター、それが伊吹自身を縛り付けてしまっていた。

そもそも伊吹のFD3Sはノーマルであり、7500回転からレッドゾーンに突入する。7500回転を超えると、エンジンへの負荷が急激に増加し、部品の摩耗や損傷のリスクが高まってしまう。この領域になってしまうとエンジンオイルの油膜保持が重要になり、高温・高負荷に耐えうる高品質なオイルを使用しなければならない。さらに8000回転に達すると、エンジンの保護のために燃料供給が制限され回転数が頭打ちになるようにされている。レブリミッターはエンジンのオーバーレブを防ぎ、重大な損傷を防ぐための安全装置でもあった。

ロータリーエンジンは構造上、高温になりやすい特性を持っている。高回転域を多用する際には水温や油温の管理に細心の注意を払わなければならず、推定温度域を超えないようにしなければならなかった。特に油温は上昇しやすいため油温計の確認は大切であり、レッドゾーンに入った場合は走行を中止してクールダウンに入る必要もあった。

咲夜は彼女の車を修理する際に少しだけ弄っており、純正のクーラントよりも冷却性能の高いクーラントを使用、オイルクーラーの設置、サーモスタットをローテンプサーモスタットに交換していた。ラジエターも冷却性能の高いラジエターにこっそり交換されていた。油温上昇を抑制するために冷却性能の高いエンジンオイルに変更されている。

しかしこれは彼女やその視聴者達も知らない間に行われているため、車に詳しい人物以外は聞かなければずっと分からない状態になっていた。

《結構走ってるけど、水温計と油圧計があんまり上昇してないな》

《200㎞出てないからな、意外とこんなもんだろ》

《こんなもんなのか》

伊吹が200㎞の領域に踏み込めないのをじっと見ていた視聴者達、時々メーターが195㎞まで突入するが、すぐに190㎞に戻ってしまう。

《怖いんだろうな》《愛車が傷つくのも嫌だろ》

《このゲーム本当にリアルだからな、煽り運転してくるのは普通にいるし。まぁそう言ったヤツに限って事故って永久追放されるから》

まるで経験談のように一人の視聴者が話し始めた。

《過去には有名なランエボ軍団がいたんだよな。最初はまともな集団だと思ったけど、ライバルを囲んで橋脚にクラッシュさせるのが多発した結果、全員まとめてこのゲームから永久追放だからな……》

《被害に遭ってたのインプレッサだっけ?ライバル車だから仕方ないのか?》

《いや腕で競えよ、なんでライバル車を物理的に潰すんだよ》

《腕で競った結果、最終的にそうなったんだ》

《何だよ、性能が同等だったとか……どっちか負け続きだったのかよ?》

コメント欄で話題になっていたのは「帝王」と呼ばれる三菱自動車のランサーエボリューションで構成されたチームだった。

ランサーエボリューション。通称「ランエボ」は4WDシステム、「S-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)」によって路面状況の変化に素早く対応出来るため、安定した走行を可能にしていた。首都高以外でもカーブや路面状況の変化が多い峠道などでも、高い安定性と加速性能を発揮するため、峠ではよく用いられていることが多かった。しかしランエボと同じように愛されていたのが、SUBARUのインプレッサだった。

インプレッサにも4WDのシステムである「シンメトリカルAWD」が搭載されている。これは左右対称のパワートレイン配置によって、優れた重量バランスと安定性を実現できる物だった。さらにこのシステムは水平対向エンジンと組み合わせることで低重心化に追求することが出来ていた。

ランエボはS-AWCを搭載し各輪との駆動力と制動力を細かく制御することで、高い旋回性能とトラクションを発揮する事が出来た。サーキットやラリーなどの競技走行を意識しているため、攻撃的な走行性能を誇ってた。

ランエボに搭載されているエンジンは「4G63型」と呼ばれている直列4気筒ターボエンジン、このエンジンは高出力であり圧倒的な加速性能を発揮していった。さらにエンジンのチューニングによるパワーアップの余地が大きいため、今なおチューナーからも愛されている一品だった。

インプレッサはシンメトリカルAWDを搭載し優れた重量バランスに低重心設計、これにより安定した走行性能と操縦安定性を実現していた。公道での快適な走行とスポーツ走行の両立を意識した、バランスの良い走行性能を誇っていた。

インプレッサに搭載されているエンジンは「EJ20型」と呼ばれている。

水平対向4気筒ターボエンジン、水平対向のエンジンはピストンが左右に開くように配置されおり、それにより低重心化に貢献していた。EJ20型は高回転域で気持ちが良いほどよく回るため、高速域ではその性能を発揮していた。

《どっちも4WD、けれどアプローチは違う》

《ただ似てたんだよな……だから良く三菱とSUBARUが競ってたんだよ》

《チーム敵には攻防が続いてた、だけど些細なきっかけで両者共倒れだ》

《今はランエボは2016年で生産終了、インプレッサは現行モデルがいる。勝敗的にはSUBARUの方が勝ったと言っても良いのか?》

《いや……ランエボはWRC(世界ラリー選手権)に勝つためにつくられた車だからな、採算度外視の開発が後に響いたんだ。そもそもその時代、スポーツセダンの市場が縮小、環境性能の要求が厳しくなったこともあるんだよ。燃費性能に排気ガス規制とか。あとはその当時の三菱自動車で、リコール問題や燃費不正問題とか不祥事もあったからな。そこで経営状況が悪化しランエボの様な高性能スポーツカーを開発する採算が取りにくくなったのもある、ハイパワーエンジンを搭載したスポーツカーは規制対応に困難していた。その結果、ランエボは生産終了した》

《対してSUBARUのインプレッサ。インプレッサはスポーツモデルだけじゃなく、日常使いに適したモデルも展開していたから、幅広い層のニーズに応えられるようになっていた。環境性能に考慮したハイブリッドモデルも出来上ってたからな。WRCでは確かにランエボのライバルだったが、しっかり一般ユーザーにも答えられるような安全性をアピール出来る様な戦略を並行して行っていた。それが生き残ったインプレッサと生産終了したランエボの違いだよ》

《はえー知らんかったわ。サンクス》

《まぁ調べただけだから実際どうなのか知らんけど》

《知らんのかい!》

《どっちも頭文字Dや湾岸ミッドナイトに登場したことがある。頭文字Dではエンペラーっていうランエボのワンメイクチームがあったし、そのリーダーだった須藤京一は「ランエボ使いこそ峠のキングだ」って言い切っていたからな。インプレッサの方は主人公の父親である藤原文太がGC8を購入して、実用的で楽な車って評価していたからな。湾岸ではエイジ編でランエボ兄弟でランエボのⅤとⅥが登場していた。インプレッサはマコト編でも同じくGC8が登場していたな。》

《やっぱり4WDといえばって事でなにかと出やすいんだろうな》

《まぁ作品ではランエボの方が負けてることが多いし生産終了したからな……今も続くインプレッサの勝ちって事だな!》

《は?》《は?》《は?》《は?》《は?》《は?》《は?》《は?》

《え?》《ん?》《違うのか?》《間違ってないよな?》

少しだけ険悪なムードが始まってしまった。

《高性能スポーツカーを制作して採算がとれないとは、とんだマヌケの集まりじゃのう。三菱自動車、それも仕方ねぇか……!!ランエボは所詮……先の時代の敗北者じゃけぇ……!!!》

《ハァ……ハァ……敗北者……?》

《取り消せよ……!!今の言葉……!!!》

《のるなエース!戻れ!!》

《ランエボは、当時若かった俺達に峠の楽しさを教えてくれたんだ!お前らに、ランエボの偉大さのなにが分かる!!!》

《メーカーは採算度外視のスポーツカーをつくったところで環境に配慮しなければ生き残れない!環境汚染するだけのランエボに生きる場所はいらん!!》

《やめろォォ!!!》

《ランエボはインプレッサに負けて死んだ!敗北者じゃぇ!!!》

《ランエボは時代を作ったマシンだ!俺達の愛車をバカにすんじゃねぇ!!!》

《やめろエース!!!》

コメント欄でそんな会話が流れているのを、伊吹は黙って見ていた。やはりというべきがこの手のゲーム配信をしていると車好きというのは集まってくる。

「皆熱中してる。いつか私も話せるようになったら良いな……」

伊吹がそう呟くと、青いインプレッサと白いランエボが駆け抜けていった。このゲームでは今もライバル関係は続いているのだった。

後日、配信のコメント欄を荒らしてしまったことをインプレッサ派閥とランエボ派閥が最高額スパチャを送って謝罪しに来ていた。

伊吹は面白い会話だったから良かったと笑って許していたが、他の配信者でやっていた場合、間違いなく永久BANされるだろうと視聴者達は思ったのだった。

【挿絵表示】

 

その後、伊吹が孤狼の元を訪れてその話を話題として出してみた。

FD3Sの空気圧の確認とオイル交換をして貰いながらの雑談として、その話題を孤狼に出してみると意外な返答が返ってきそうで面白いと感じていた。

「インプレッサとランエボ?」

「はい、視聴者の皆がどちらが優れているか言い合っていて……」

「……ランエボの販売終了は2016年、その間に4G63型エンジンが搭載されていたのは1992年から2007年。4G63型エンジンはMIVEC搭載型と非搭載型があった、それが同時製造されたのは2005年から2007年の僅か2年間だけ。それ以降は4B11型エンジンに変わった。

最高出力は全て280馬力、特製の違いは最大トルクと立ち上がり。エンジンの構成では4B11型だけエンジンブロックがアルミでエキゾーストマニホールドが後方、ECUが車両全体の制御システムと連携して設計されているから、車両制御はかなり高い」

孤狼はエンジンに焦点を当て、話をしてくれていた。

ランエボに搭載されていたエンジンは環境規制の問題や車両プラットフォーム。

エンジン材質などの問題点が上がり、4G63型から4B11型に世代交代した。

「世代交代したけど、結局排出ガス規制や経営資源の影響があったり、その時には既にハイブリット車とか電気自動車がの開発が進んでた。だから生産数の少ないランエボを含むスポーツモデルの優先順位が下がって、エンジンの開発と生産が終わったの。ランエボは時代に追いつけなかった」

「なるほど……インプレッサはどうですか?EJ20型エンジンが良いと聞きます」

「インプレッサは1992年から今もなお姿を変えている車両、EJ20型はスバル・インプレッサ WRX STIっていう車両にまで使われた。その後はスバル・WRXのVAB型にEJ20Y型エンジンが搭載され、2019年にEJ20型エンジンの年内生産終了が報告された。その理由は4B11型同様に、排出ガス規制へ野対応が難しくなった。そもそも1988年に製造されたエンジン、30年前のエンジンを最新の環境基準に適合改良するには4G63型同様にコストがかかる。その結果、新世代のFB型とFA型エンジンへ変わった。インプレッサが今も生きているのは時代に追いつけるように、同時進行で別型のエンジン開発をしていたから」

エンジンの生産終了年月も、現行でインプレッサという名前が受け継がれているスバルの方が優勢があると捉えられる発言を孤狼はしていた。

「ちなみに孤狼さんはどっちが好きですか?」

「ん……どっちもそんなに好きじゃない」

その発言に、視聴者達は卒倒したように倒れてしまった。

FD3Sのボンネットを閉じながら、孤狼は微笑んでいた。

「マツダ車の方が好きだから……」

「……そうでしたね」

それでももしどちらかしか選べない状況になったらどうするのかという視聴者の質問も伊吹がそのまま伝えると、孤狼は少し悩んでいる様子だった。どちらも四駆のマシンであり、280馬力と同じ。結局好みでしかない。

「そうだね……インプレッサかな?」

「インプレッサを選んだ理由はなんですか?」

「中古で安いのが転がってるから。よく分からないけど、ランエボは40万くらい高い。あとⅢとⅥとⅨそしてファイナルエディションがレース景品、もしくは他プレイヤーが売るのを待つしか無い。インプレッサは2代目以外はディーラー購入可能、2代目は中古で時々転がってるけど……中期型の涙目インプレッサはほとんど出てこない。人気なんだと思うよ」

孤狼はそう言いながら、伊吹のFD3Sのメンテナンスをしてくれていた。

ちなみにコメント欄ではゲーム内でランエボの値段がインプレッサよりも高いこと、レースの景品として種類が多いことに驚いていた。そのため先ほど挙げられたマシンを見かけたら購入するかプレイヤー達は検討をしていた。

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