LateNightRacing(時々変わってる) 作:灰崎 快人
1速
「はーい皆さんこんばんは~。フライアーク所属の
おっとりとした口調でそう話をしているのは松田透という女性だった。彼女は松田伊吹の姉であり、同じ事務所に所属しているゲーマーだった。透は伊吹よりも一ヶ月ほど早くこの世界に来ていたためドライビングセンスはかなり良評で、愛車であるMAZDA RX-8を操縦して多くのプレイヤーと激戦を繰り広げていた。グレードはタイプS スポーツプレステージリミテッドⅡ、色は専用のカッパーレッドマイカに塗られている。
「今日も沢山のプレイヤーとバトルして有名になっていくぞぉ~!弱々視聴者達も参加してバトルしようね~!」
配信画面にニヤついている透の笑顔が映ると、コメント欄は一気に加速していた。
《相変わらず挑発してくるな……》
《全く、売られた喧嘩は買わないとな?》
《今日は何処のコース走る予定?場所によっては潰しに行くよ》
ほとんどが透の挑発を受け止めており、いつでも合流できるようにゲームを起動させていた。視聴者はインプレッサやランエボ、35RにGT86など、よくこの手のゲームで見られている車種でありそれぞれチューンドカーとして派手なエアロが装着されていた。
勿論、透のRX-8もチューニングされており、250馬力から100馬力上の350馬力になっていた。
最初は自身の手でチューニングを施そうとしていたが、素人では難しかったためNPCのガレージにお願いすることになっていた。変更点としてはターボチャージャーの取り付けや駆動系の強化が行われてる様子だった。
「お?今日は皆やる気だね~私に勝てる視聴者はいるかな?視聴者だったらハザード焚いてね、視聴者って分かったらクラクション鳴らすから。鳴らしてから5秒後にバトルスタート、それでいいかな?」
《分かった》《了解》《潰すわ》
「今日のコースは横浜エリア、みなとみらいを外回りする予定だからよろしく!」
そう言ってRX-8に乗り込むとみなとみらい外回りを流し運転し始めた。
みなとみらい外回りは爽快な高速走行をすることが出来る他、横浜港湾エリアならではの美しい景色を眺めながら高速を走り抜けることが出来る。
特にペイブリッジからの眺めは圧巻であり、横浜の象徴的な風景を堪能することが出来るのが特徴的であった。また高速コーナーが連続するレイアウトである為、ドライバーのテクニックが試される場でもあった。高低差も大きいためグリップが不安定になるヶ所が存在するほか、トンネル内のS字コーナーは外回りと内回りで異なる特性があるため、ドライバーにとっては攻略のしがいがあった。
コースのポイントはいくつか存在する。まずは子安付近、時速300㎞からの急降下スポットがあり、グリップが完全に無くなってしまうため注意が必要だった。ベイブリッジを抜けた後の下りループ区間では速度の調整が必要であり、石川町JCT・横浜公園方面では側道に入ってすぐの直角ターンがある。
ステアリング操作技術が求められる難所になっていた。
それが面白いと言われ、プレイヤーからも人気があった。
「ふっふっ……今日の私はひと味違うからね?」
みなとみらい外回りのルートに入った透は、150㎞でコースを流し運転していく。その操縦を少し見ただけでも走り込んでいるのが見て取れるほどの実力だった。RX-8に搭載されているエンジン1.3Lの2ローターである「
「来た来た……!このターボがついてくる感じ!」
笑顔でそう言って走らせていると、後ろから赤いGT86がやってきた。2.0Lの水平対向4気筒エンジン「D-4S」を高回転域まで回し、透の後ろについていた。GT86はハザードを炊いており透にバトルを仕掛けていた。
「GT86かぁ……何処まで行け角か見せて貰おうかな!」
そう言って透はクラクションを鳴らした5秒後、RX-8の限界領域まで速度を上げて加速させていた。それについて行くようにGT86もマフラー音を響かせ、200㎞を越えた加速していく。コメント欄ではRX-8とGT86について視聴者達が解説を始めていた。配信に集まった視聴者達はその解説に目を通しつつも、2台の赤いマシン同士のバトルを傍観していた。
《MAZDAのRX-8、タイプSスポーツプレステージリミデットⅡは、RX-8の上質さを追求した特別仕様車で2005年に販売されたモデルだ。ベースモデルのタイプSを更に洗練させた内外装と、走行性能を高めるための専用装備が特徴的だ。
大径ブレーキが優れた制動力を発揮し、専用チューンドサスペンションと大径ロッドダンパーが、しなやかで安定感のある乗り心地と正確のハンドリングを提供してくれる。発泡ウレタン充填専用フロントサスクロスメンバーが、路面からの振動を抑制して上質な乗り心地とダイレクトな操舵感を両立する。
ベースモデルであるタイプS同様に、高回転までスムーズに吹け上がるロータリーエンジンである「RENESIS」を搭載している。これは従来のロータリーエンジンと比較して、燃費や排出ガス性能を大幅に改善した新世代のロータリーエンジンと言われている。自然吸気でありながら、高回転域までスムーズに吹け上がる爽快なフィーリングと、独特のエンジンサウンドが魅力的だ。グレードによって馬力が異なり、210~250馬力まで設定されている。
走行性能としては軽量・コンパクトなロータリーエンジンをフロントミッドシップに搭載し、優れた重量バランスと低重心を実現している。これによって高い運動性と意のままに操れるハンドリング性能を発揮している。観音開きのフリースタイルドアは、独特なデザインとして高い利便性を兼ね備えている。
透のRX-8はターボキットが取り付けられているから本来の250馬力から350馬力に引き上げられているな》
RX-8の解説が終わると、今度はGT86についての解説が始まった。
《後ろから追いかけてきているGT86はSUBARUとTOYOTAの共同開発によって誕生した後輪駆動のスポーツカーだ。エンジンはSUBARU製の2.0L水平対向4気筒エンジンが搭載されている。このエンジンは低重心化に貢献して、軽快なハンドリングを実現している。自然吸気エンジンならではのリニアなレスポンスと、高回転まで気持ちよく伸びるフィーリングが特徴的。馬力は200。
GT86は軽量で高剛性のあるボディーを採用し、優れた運動性能を実現している。低重心の後輪駆動パッケージによって、優れたコーナリング性能と安定性を発揮する。前後の重量配分は53:47という理想的な数値になっている。
軽快なハンドリングとリニアなエンジン特性によって、運転する楽しさを追求したスポーツカーと言えるだろう。
このプレイヤーのGT86はMFGの主人公である片桐夏向が駆る車両を再現しているみたいだな。恐らくターボチャージャーが付けられて300馬力に出力が上がってる仕様になってるだろう。ただあのGT86が強い理由はドライバーのセンスが高いからであって、マシンを再現しても実際速いかどうかなんてプレイヤーのドライビングセンスで簡単に変わるからな》
《確かに。再現車両に乗っていたとしてもプレイヤーがそれを発揮出来なければ意味無いよな……》
《そのプレイヤーにあった車両、チューニングをした方が絶対良いんだろうな》
《それはそうだろ、何当たり前の事言ってるんだ》
《踏めなかったら何でそのマシン乗ってるか分からないしな……》
そんな盛り上がりを見せているコメント欄。
それを尻目に透はGT86と激戦を繰り広げていた。50馬力の差はさほど関係ないのだが、ドライビングセンスの差によってじわじわと距離を詰めていた。
透がアザーカーを避けつつも250㎞から更に加速していくのに対し、GT86はコーナーが速く、ほとんど減速しない綺麗なコーナリングでクリアしていく。
ストレートでは透が、コーナーではGT86が目立っており、透は追いかけられながらも焦りを感じていたのか、ラインが僅かにズレ始めていた。
このGT86を駆るプレイヤーはかなりの実力者であり、透はじりじりと距離を縮められはじめ、焦りを加速させてしまいそうだった。
「この人速い……油断してたらこっちがやられるね」
おっとりした口調から真面目な口調に変わっており、真剣にこのバトルに向き合っていた。先ほどまでおっとりしていた雰囲気は消え失せており、黙ってみなとみらい外回りのルートを走っていた。
《このプレイヤー結構やるな》
《ちゃんと性能を活かしてるし、アザーカーはしっかり避けてるからな……後は透の後ろにピッタリついているときに僅かに右にずれてる。万が一の事があっても、自分だけは助かるように準備はしてある。透よりもゲーム歴は長いかもな……》
《ドライビングセンスが良いだけじゃ無いのか?》
《いや、こればかりは経験だな。特に後ろにピッタリついたときに僅かに右にずれるのは、経験者じゃないと出来ない。基本的は後ろからただついて行くことが多い、だけど万が一の事が起きたら自分も相手もただでは済まない。
それを避けるために自然と身についた技術、かなりのゲーマーだぜコイツは!》
ストレートになればなるほど、加速を途切れさせていないGT86がじわじわと距離を詰めてくる。加速勝負ではRX-8が一歩上なのだが、コーナーで加速が僅かに途切れるとGT86にじわじわと距離を詰められていく。さらにはスリップストリームまで使用してきたため、GT86は透の隣にしっかり並んでいた。
「……強い!」
焦らず自分のペースで走らせているが、真横にはあの車両が並んでいる。メーター上は280㎞を超える速度で並走しており、正面を見ると2台のアザーカーが車線を塞いでいた。クリアできるのはどちらか1台だけであり、2台は加速を途切れさせず更に加速していく。
GT86はRX-8よりも100㎏以上の重量差があるため、パワーウェイトレシオではGT86の方が有位に立っていた。
お互いに高回転域で加速させていく、50馬力という僅かな差がRX-8を前へ前へと走らせていくが、ターボラグやトラクションのロスを最小限に抑え無ければ敗北してしまうだろう。
お互いに安定した走りをしているが、50馬力の差がゆっくりと顔を出していた。
《これだよこれ!こういう勝負が一番盛り上がるんだよ!》
《ただ見ているだけの俺達にはどっちが速いか外見上でしか判断できない、しかし当事者達にはハッキリと分かる。そういう世界なんだよ》
ゆっくりとRX-8がGT86を突き放し、残っていた一車線を通過した。GT86は負けを悟りスローダウンしてバックミラーから姿を消していた。
「ふぃ~なんとか勝てたよ、あのGT86速かったな~」
そんな事を言いながら速度を落としてみなとみらいを走って行く。
「他に誰かいる~?まだまだ行けるよ~?」
《もうちょっと待ってろ!》《すぐに合流するから!》
「は~い、待ってるよ~!」
視聴者とそんな話をしながら、流してみなとみらいを走り続ける。
そんなとき、後ろから車が迫ってきた。
最初こそあのGT86が追いかけてきたのかと思い、アクセルを緩めて確認しようとした。しかしGT86ではない別の車体、白いボディーカラーにリトラクタブルヘッドライトを輝かせていた。
(さっきのGT86じゃない、別の視聴者かな?)
「もしかして視聴者?」
《いや、まだ合流してない》《俺もまだ》《同じく》
「じゃあ、この車は別のプレイヤーか~少し遊ぼうかな?」
そう言ってその車に被せるように車線を遮ると、その白い車は簡単に透の横を通り過ぎた。透が塞いだ車線の反対側、そこに瞬時にステアリングを切っていた。
「んっ……逃がさないよ」
アクセルを一気に入れ、250㎞まで加速する。しかしそれでも目の前の白い車はジリジリと距離を突き放し始めていた。
「さぁ!その正体、見せてみなよ!」
RX-8のライトで白い車のリアが照らされる。
そこには「MAZDA」というステッカーが貼られていた。更には「∞」のステッカーも貼られていた。
目の前の車はMAZDARX-7、通称「FC3S」と呼ばれる車両だった。しかも∞マークはアンフィニと呼ばれる特別仕様車であり、そのクリスタルホワイトのボディーが光り輝いていた。
「RX-7……!?しかも2代目のFC3Sに、こんな簡単に抜かれるの!?」
悔しそうにアクセルを踏み込むが、FC3Sはゆっくりと透を突き放し気が付けば目の前から姿を消していた。初めて完全敗北という物を味わった透は唖然としてしまい、パーキングエリアに移動して車を止めていた。
透は一息ついた後あのFC3Sを思い返していた。派手なエアロなどは装備されておらず、純正のエアロが装備されていた。しかし性能は間違いなくモンスターマシン、さらに加速して280㎞で走っていた透のRX-8を簡単に突き放していくあの加速性能。
間違いなく400馬力から450馬力ほどにチューニングされていた。
それだけでは無い、足回りやマフラー、クラッチやサスペンションの強化が行われているのは間違いなかった。エンジンがチューニングされていると言うことは冷却システムにも間違いなく手が入っているだろう。
「あのFC3S速かったね……完全敗北だよ」
悔しそうにそう呟く透、シートにもたれ掛かり視聴者達と雑談をしていた。
《あのFC3S、アンフィニⅢっていう限定モデルだったな。あれは「MAZDAロータリーグランプリ」ってイベントでしか入手出来ない貴重な車体で、所持しているドライバーはかなり限られてるだろうな》
《確か公式の掲示板でFC3SのアンフィニⅢ所有者が調べられたはず、本来の使い方じゃ無いけどな》
公式が用意した掲示板はあくまでも同じ車両を所持している者同士で集まる為であるため、視聴者が言った様な使い方は非公式な使用方法だった。FC3SしかもアンフィニⅢの純正エアロと言うこともありプレイヤーはかなり絞られていた。
「……孤狼咲夜、か」
透はそのプレイヤーネームをポツリと呟いていた。
黒髪ナチュラルボブカットで166センチの女性アバター(胸を盛ってる)
おっとりとした性格だが、レースの事になると真面目になり口調も変化する。
伊吹の姉と言うこともあり、フライアークの最年少から2番目。
マシンについてはあまり詳しくないため、チームメカニックに一任している。
MAZDA RX-8 スピリットR 350馬力