LateNightRacing(時々変わってる) 作:灰崎 快人
「あのFC3Sのドライバー、名前は分かったよ。孤狼咲夜っていうプレイヤーが運転してるみたいだね……あとは小さなガレージで整備士として働いている事くらいしか、私は分からなかったけど。皆はあのFC3Sについて情報持ってる?」
そう話すのは松田透、伊吹の姉だった。
今日もRX-8を180㎞で走らせており、150㎞前後で走るアザーカーを追い抜いていく。透の視聴者達は「孤狼咲夜」というプレイヤーについて、様々な情報網からかき集めて話し合っていた。
しかし結果は透と変わらず、小さなガレージで整備士として動いていると言うことだけだった。
《整備士ならかなり重宝されているはずのこのゲーム世界で、ここまで評価が付けられていないってなると、正直整備士なのかすら怪しいところ》
《でもゲームシステムでは整備士の資格所持者として名前だけは載ってるから、恐らくその通りなんだろうけどね》
《そもそも何処のガレージにいるかも分からないから。整備をお願いするには直接会う他無いってのが、どうしようもないな》
「そっか、やっぱり皆も同じだったか。どんな人なんだろうね?孤狼咲夜って」
そんな事を視聴者と話しながら首都高を流していると、後ろからブリリアントブラックのFD3Sが走っていた。それは妹の伊吹のFD3Sでありロータリーエンジンの音を響かせながらコーナーを綺麗にクリアしていた。
《お、伊吹じゃん。バトルかな~?》
《姉妹揃ってロータリーエンジン搭載車かよ、本当に姉妹って似てるんだな》
そんな声がコメント欄に流れていく。しかし透にとってこの出会いは偶然だった、その証拠に伊吹はこちらに気が付いていない様子であり、透とは別の分岐に入って行ってしまった。視聴者達に追いかけないのかと言われるが、透は伊吹がバトルするつもりが無いことと何か別のことに集中していることに気が付いていた。
「伊吹は何か考えて走ってるみたいだね~この世界で何かあったかも?」
ポツリとそんな言葉を呟くと、伊吹と透の配信を同時視聴している視聴者からのタレコミがコメント欄に流れてきていた。
《伊吹は初回配信で野良のプレイヤーにぶつけられてFD3Sを事故車にしてたぞ、なんとか別のプレイヤーが助けに来てくれたから良かったけど。それが原因って言えば良いのか分からないが、伊吹は200㎞までアクセルを踏み込むことが現状出来ない。だからその壁を越えるために今日も3時間くらいずっと走ってるぞ》
「200㎞?FD3Sってリミッターが掛けられてるから180㎞以上出ないようになってるはずだけど~?」
《いやなんか知らないけど、伊吹のFD3Sはリミッターが解除されてるんだよ。だから最高速度は理論値で250㎞出る、ただいつリミッター解除したのか視聴者の誰も知らないんだよね》
《配信外も走り込んでリミッター解除したんじゃねえの?》
《その線も考えたんだが、オドメーターは全く変わってないんだよな。しっかりとその配信で走った距離しか更新されてないし、強いて言えばあれかな?
事故ったときに直して貰ったから、そのタイミングで解除したかも》
視聴者の言葉に透は少しだけ違和感を覚えていた。
伊吹はそもそも車にはあまり詳しくない。
そんな彼女がFD3Sのリミッターの存在に気が付き、しかもそれを解除して欲しいと言ったというのはいくら何でもあり得ないことだった。姉だからこそ、妹に関する事には敏感だった。
「事故を起こしたんだよね、その時誰に直して貰ったの?プレイヤー名乗ってた?」
伊吹は当時の状況を聞き出そうと視聴者に問いかけていた。アーカイブを見直す手もあったが、彼女の初回のアーカイブはなんと5時間もあり、全て見返すのは今は出来なかった。
伊吹の配信内容をリアルタイムで見ていた視聴者達は、当時の状況を改めて未視聴者や透に説明していた。
《まずチュートリアル終わらせて資金とFD3Sを受け取った後、すぐに首都高に出たんだよ。その日の首都高はアザーカーも少なかったし、プレイヤーの数もそこまで居なかったからな。100㎞前後の速さで左車線を走って慣らしをしていると、後ろからクラウンのチームが走って来たんだよ》
伊吹はRX-8をパーキングエリアに入れ、コメント欄を眺めていた。妹にどんなことがあったのか、一文一文しっかり時間をかけて読み進めていた。
「それで~?」
《左車線走ってるし初心者マーク付けて居るのにもかかわらず、そのチームは煽り運転をした挙げ句に後ろから軽く衝突。その衝撃でスピンしてパニックになった伊吹は壁に激突し、FD3Sは停止してしまった。これは配信して3時間後の出来事だったな》
しっかり初心者だとアピールしていたのにもかかわらず、煽られた挙げ句にぶつけられたというのは、透の中で怒りが沸いてきていた。このゲームのプレイヤーは民度が良いと思っていたが、やはりどんなゲームにも民度の悪いゴミのようなプレイヤーがいる事の証明になってしまっていた。
「……その後は~?」
《携帯電話っていうNPCを呼ぶためのアイテムも持っていなかったから、当時の伊吹はかなり絶望してたな。他のプレイヤーも伊吹が単独事故を起こしたと思って、助けも呼ばずに通り過ぎて行ったからな。でもそんなとき、一台のキャリアカーがFD3Sの後ろに止まったんだよ》
《珍しいな……》
それでも優しいプレイヤーが伊吹を助けてくれたことに少し安堵しつつも、一旦ゲームから離脱して麦茶を注いだコップを持って来て喉を潤していた。
「それは運が良かったね~誰かがNPCを呼んでくれた訳だし」
《いやNPCじゃなくてしっかりとしたプレイヤーだったぞ?それにすぐに単独事故じゃなくて衝突させられた事を見抜いていたからな。伊吹と同じくらいの年齢に見えたな、無口っていうか物静かな性格って感じだったな》
「プレイヤーが?優しい人に会えたのは本当に奇跡じゃん、伊吹は本当に運が良いね~流石私の妹~」
《本当に良かったよ。そのプレイヤー整備士してたしキャリアカーにFD3S乗せてガレージまで直行、その場ですぐに状態見て貰って修理して貰ってたからな。しかもお金は要らないって言ってたし、本当に優しい人に出会ったよ》
「……整備士?その人のガレージにFC3Sって置かれてた?」
《いやFD3Sだったぞ、銀色の。小さいガレージにFD3Sとハイエース、シートが掛けられた車両が一台、外に乗ってきたキャリアカーが止まってたな》
「……そっか、私の考えすぎかな~」
《名前もしっかり名乗ってくれてたぞ、確か孤狼咲夜だったか?》
《は!?》《ちょっと待て!》《今なんて言った!?》《もういっぺん言ってみいや!!!》
《だから孤狼咲夜だってば!》
「孤狼、咲夜……!?」
《そう聞いたぞ、アーカイブも確認したけどそう名乗ってる》
その言葉に透も視聴者達も混乱してしまっていた。
あっという間に突き放していったあのFC3Sの持ち主である咲夜が自身の妹である伊吹と最初から接触していたということ、しかも伊吹のFD3Sを直してくれていたことも明らかになり、透は困惑することしか出来なかった。
その後、修理中に孤狼のFD3Sを貸してもらい首都高を走っていたこと、プレイヤーに話しかけられてバトルを挑まれたが、伊吹はまだゲームを始めて二日目だったため代わりに咲夜が走ったことを伊吹の視聴者達が教えてくれていた。
そっか、伊吹が……面白いことになってきたね。
「伊吹捕まえて、直接聞こうかな!」
そう言って私はアクセルを踏み込んで妹の後ろを追いかけることにした。
見つけたFD3Sの後ろをRX-8が追いかけていく、MAZDA車好きな人からすれば興奮物かも知れない。そこにFC3SやSA22Cがあれば更に興奮するだろう、ただしこのゲームに初代RX-7は収録されていないため不可能だ。
SA22Cを知らない人に説明するとMAZDA・サバンナRX-7の初代型、それがSA22C(FB3S)だった。1978年に発表された車両であり、ゼロヨンタイムが15.8秒という記録を持つ。
これは排ガス規制以前に日産・フェアレディ240ZGが記録した水準に戻っており、日本車としては高性能であることを示していた。
「軽い速い低い、確かに間違いないが全てが軽々で薄っぺらく安っぽい感じ」
「足回りもブレーキも、スポーツカーとしてちょっと貧弱」
そんな言われようをしているが、基本構成に関しては良いパッケージであり、モデルチェンジをやる日が来るのであればこういうパッケージに戻して貰いたいと言われるほどだった。
スポーティーな感覚を手頃な費用で手に入れられるとして、アメリカでは
「
エンジンは単室容積573 cc×2の12A型水冷2ローターエンジンを搭載。
当初は自然吸気仕様のみだったが、1983年のマイナーチェンジで日本仕様のみターボ仕様が追加された。海外では、1984年 - 1985年にかけて13B型搭載車が販売されている。この13B型を発展させマイナーチェンジが2代目のFC3S型、フルモデルチェンジが3代目のFD3S型というわけだ。
RX-8はその代わりに当たるスポーツカーとして設計・生産がされている。
「さてと?妹の実力、少しだけ見せて貰おうかな?」
しっかり後ろに並ぶと伊吹も気が付いたのか、少しだけアクセルを踏み込んでいた。進路を譲るのではなく、突き放すようにアクセルを踏み込んだ。その光景に視聴者達は少し驚いた様子だった、今まで伊吹が道を譲ることはあってもこうして突き放そうとアクセルを更に踏み込むようなことは無かったからだった。
(……何か来る?)
妹の後ろを追っていた透のバックミラーに、急接近してくる一台の車が見えた。目の前を走っているFD3Sと少し似た音を響かせながらも、その勢いは止まること無くこちらに突き進んでくる。
少しずつその車が見えてくると、それはリトラクタブルヘッドライトを備えた車両で白く塗られている事だけ分かった。
(っ!?速い!もう横に──)
透が焦って横を見ると、その車種がすぐに分かった。
FC3S、2代目のFC3Sだった。
「白いFC3S……っグレードは!?」
あっという間に通り過ぎていきそうなFCの後ろについていき、必死にグレードを探る。ライトで照らされたMAZDAというステッカー、そして肝心のグレードを示すステッカーは「∞」。間違いなくあのFC3Sだった。ナンバーもあの時と同じ「13-08」で間違いようが無かった。
《これだ!あのFC3S!外見は完全にノーマル、それなのにどんどん突き放されていく……速い。いや、速すぎる……!完全にエアロはノーマルなのに!》
《僅か250馬力のRX-8が簡単に置いて行かれるんだ、あのFC3Sは間違いなく450馬力はある。今のセッティングじゃ絶対に追いつけない。見た目で煽ってきたプレイヤーが返り討ちに遭いそうだ》
FC3Sが先頭になると、伊吹もさらに加速していく。どうやら伊吹は彼を待っていたらしいく、その後をついて行った。
《おいおい、大丈夫なのか?200㎞以上は出せないんだろ?》
《……もしかしたらその壁を突破しようとしてるのかもな。見てみろよ》
FC3Sの後ろをFD3Sがしっかりと追従していた。RX-8のメーターでは195㎞を記録しているが、加速は伸びていく。
FC3Sはまるで走り方を教えているようであり、伊吹が離れれば待ち、近づけば離れていく。速度は205㎞まで加速していた。
「……200㎞、とっくに突破してるじゃん~それにまだ加速が途切れない、どんどん伸びていくし」
白いFC3Sについていくように、黒いFD3Sが加速していく。その二台の後ろをRX-8が追う形で首都高を走って行く。ロータリーエンジンを積んだ三台の車体は、エンジン音を響かせながら走り続けていた。
「……ん、FC3Sと伊吹は降りるみたいだね。私もついて行こ~」
二台が左に方向指示器を出して出口に向かって行く。
《ガレージまで行けるかもしれないな》
《大丈夫なのか?これ配信されてるけど……》
「……ごめん、ちょっと待機画面にするね~」
流石にそれは不味いと判断した透によって、配信画面は視聴者やファンが送ってくれたファンアートが流れていた。
しばらくして、待機画面が明けると伊吹、透そして孤狼咲夜の姿があった。
「さてと、伊吹?このゲームで会うのは初めてだよね~?」
「そうだね、お姉ちゃん!」
そんな姉妹の会話を余所に、孤狼はガレージにFC3Sを入れてシートをかけていた。その様子を伊吹は時々チラチラと見ており、透はその様子をなんとも言えない気分だった。
「……伊吹、あの人との関係は?」
「え?あ、えっと……先輩?」
「……先輩?」
「うん、事故を起こしてFD3Sを壊しちゃって……」
「壊しちゃって?」
「それを孤狼さんが直してくれている間に、このゲームでのバトルや250㎞を越えた世界の景色。色々教えて貰って、今日は首都高1周ルートを教えて貰うって約束だったんだ!」
伊吹は楽しかったのか、笑顔で透にそう話していた。透は妹の笑顔に複雑そうにしつつも、孤狼の様子を見ていた。そんな孤狼は白いFC3Sの代わりに、銀色のFD3Sをガレージから出していた。
「……FD3S同士なら、多分もっと踏めるようになると思う。癖は少し違うと思うけど、それでも充分参考になると思うよ」
「はい!よろしくお願いします!」
「……そっちのエイトの人は?」
「あっ!私の姉です!」
「なるほど、ゲーム内のアバターが似てるのはそれか。それで、あんたはついてくるのか?それともここで待ってるか?」
待っているなどという選択肢など、透には最初から無いことを分かってるのにも関わらず孤狼はそう尋ねていた。勿論、透はついて行くと答える。孤狼はエイトを少し見た後、伊吹に視線を戻していた。
「……その前にガソリンスタンド、燃費が良いわけじゃなから」
「……あっ、そうですね!」
そう言って二人はガレージから再び走り出そうとしたため、透も急いで自身のマシンに乗り込んで後を追っていた。
《面白いことになったな、ロータリー乗りが3人集まったぞ》
《と言っても孤狼ってプレイヤーはかなりの実力者だけどな》
視聴者達は3台のロータリーエンジン搭載車が走っているのを眺めていた。