「……」
アンジュは先程建てた墓の前に立っていた。自分の無謀な行動で命を落とした少女は、自分の事を最後どう思っていたのだろう。そう考えただけで、自分が本当は誰で、何のためにここにいるのか、全然分からなかった。
「ここに居たんだな」
「……貴方はさっきの」
「アセム、アセム・アスノだ。それよりここは……」
アンジュは気落ちした心で彼に向き合う。
「見ての通り、ここはノーマの墓です」
「へぇ……君はどうしてここに?」
「……ある少女の事を考えていました」
少女は茜色に染まる空を見上げてそう言った。
「その娘は……皇女であった私に憧れ、脱走しようとした私を信じて……そしてドラゴンに殺された」
アセムには、それが先程の戦闘で自分達に聞こえた爆発音を鳴らして散った少女だということは察した。
「私は普通の人間の、それも皇女だったはず……それなのに今はこんな化け物達と一緒に居る……」
アンジュは空のある方へ歩いていく。その足取りは重たく、全てを投げ出してしまいそうな気がしてならない。
「もう……私には分からないんです。私がなんでこんな事になってしまったのか。私が本当は誰なのか……」
「……君は君だよ」
アンジュは振り返ると、アセムという少年が彼女の方へ歩いていく。
「俺は、いつも父さんと比較してた。父さんにできて自分にはできない。そう思う度に、自分自身が嫌になってた」
アセムのその言葉は、先程まで無気力だった彼女の胸に自然と入り込んできた。
「父さんはこの世界で言う『マナ』みたいな力を持ってた。さっきいた銀髪の彼も。だけど俺には二人みたいな力はなかった」
「それは……あなたもノーマだと、そう言いたいのですか?」
「この世界の人ならそう言うかもしれない。けど、俺たちの世界では君達の言うノーマの方が普通なんだ」
「バカな!!」
アンジュはアセムの言葉を否定した。それを認めてしまったら、自分自身のアイデンティティが崩壊する。本能的にそう直感したのだ。
「でもそれは事実だ。だけど『能力者』と『普通の人間』、両方になんの違いがあるんだ?」
「それは……」
「この世界でもそう。『ノーマ』と『ノーマでない者』、両者に根本的な違いはあるのか?」
「……」
アンジュは答えられなかった。答えたくなかった。
「何もないんだよ。どっちも根本的な面では同じなんだ。差別したりする必要はないんだ」
「……」
「その証拠に、アンジュは悩んでるじゃないか。ノーマだった少女の事で」
「…………い」
「それが普通なんだよ。差別するだけが生き方じゃない。そんな生き方は間違ってる」
「………さい」
「だから君は君のままでいればいいんだ。それが……」
「黙りなさい!!」
アンジュのその叫びは、アセムの言葉を遮り、木に留まっていた鳥を羽ばたかせた。
「何も分からない癖に知ったことを言わないでください!!私はノーマじゃない!!野蛮で、世界を破滅させるような人間な訳がない!!ついさっき知ったばかりの貴方がでしゃばるな!!」
アンジュは心の中のモヤモヤを打ち明けるように言葉を吐き出す。そしてまた何かを叫ぼうとしたとき、急にサイレンらしきものが鳴り響いた。
「これは!!」
「またドラゴン達が……」
アセムとアンジュは格納庫へ向けて走り出した。
「ゼハート!!今のは」
俺は格納庫に居たゼハートに声を掛けると、何故かマスクのような物を着けた彼がこちらに振り向いた。
「ドラゴン達だ。我々もこれから第一中隊のメンバーと共に現場に向かう」
「でも父さんは?」
「フリットさんは、機体をここにあるパーツで飛べるようにチューンアップするから出れない。出るのは我々二人だけだ」
「わかった!!俺は『ダブルバレット』で出る」
そう言って俺は、既に換装作業が終わった『AGE-2 ダブルバレット ストライダー形態』のコックピットに乗り込み、『ゼイドラ』と共に発進体勢をとる。その時、何故かしっくりこない違和感が頭を過る。
『アセム機、出撃どうぞ』
「アセム・アスノ、『ガンダムAGE-2 ダブルバレット』出ます!!」
俺はその違和感を振り払うと、一気に暁の空に舞い上がった。暫くしてゼハートとゾーラ隊のメンバーも追い付き、俺とゼハートは『アルゼナル』メンバーの後ろに付く。今回はアンジュも逃げないようで、パラメイル『グレイブ』を駆っている。
「……」
『どうしたアセム。浮かない顔だな』
「……何となくだけど、今回は危険な気がする」
俺は今だ拭えない違和感のことをゼハートに伝える事にした。
「はっきりとした根拠は無いけど、もしかしたら今回も死人が出るかもしれない」
『……戦争しているならそれも当然な気がするが、これは全然関係ないものだからな』
「そうなりそうなら、俺は真っ先に助けたい。けど……」
『?』
「なぁゼハート、彼女達は何のために戦ってるのかな?」
俺は自分の不安を彼にぶつけてみる。
『彼女達は生きるために戦ってる。ノーマである彼女達は戦って生きるか、もしくは死ぬかの二択しかないのだろう』
「……そんなの」
『あぁ、私はそれを認めたくはない。ノーマである以前に彼女達も人間だ。戦いの駒として死ぬなどあってはいけない事だ』
「そうだな。そうだよな!!」
俺はゼハートの言葉に自身の心を律すると、操縦桿を強く握りしめた。
『おい、お前ら二人。今回からお前らにもドラゴン殺しをしてもらう。倒せばそれだけ金が貰えるから、じゃんじゃん倒してけよ!!』
『その前に私達が全部掠めとるけどね』
ゾーラの通信に赤髪の少女が嫌みを込めて付け加えてくる。
『ヒルダ、そういうことは言いっこ無しだ。それよりも……来るよ』
そう言った瞬間、目の前に大きな歪みが現れ、昨日より多いドラゴンの群れが現れた。中には昨日のでかいドラゴンに加え、それ以上のものが一体飛んでいた。
『敵は“スクリーナー”級が最低でも180、“ブリッグ”級が4、さらには“ガレオン”級が1……選り取り見取りだねぇ』
『悠長な事を言ってる場合ですか!!明かに一個中隊だけでは戦い抜ける訳が無いです!!』
『相変わらず堅物だね副隊長殿は。だから助っ人二人にも倒すように言ったんだよ』
「つまり、俺らはアイツらをできる限り打倒せばいいんですね?」
そう確認すると、ゾーラさんは出来るもんならといった表情でこちらを見る。俺はその期待に応えるべく、『ダブルバレット』を人形になおした。
「行くぞ!!」
俺は両肩の『ドッズキャノン』をそれぞれ手にすると、収納する部分からビームの刃を抜いて駆け抜ける。刃に小型のドラゴンは切り裂かれ、避けたものはミサイルで撃ち落とす。さらには両手のライフルで目の前の敵を撃ち抜き、ドラゴン撃破数と思われるカウンターは“スクリーナー”というところが優に50を越えていた。
『……助っ人の人選間違えたかもな』
金髪の隊長は呆れたのか、それとも凄すぎて逆に引いてたのか、どちらにしても後悔してたのには違いなかった。
「アセムの奴……私も行きます!!」
アセムの暴走(?)を見て呆れつつ、私はゾーラさんに許可を取る。
『別に構わんが、新人二人の面倒も見なきゃいけないんだからな!!お前らは!!』
「私達は雑用係ですか?」
私は苦笑を浮かべつつ、アセムに続いてドラゴンに向かった。ビームガンを的確に乱射し、確実にドラゴンの急所を狙っていく。
ゾーラ隊の面々も各々が武器を手に取りドラゴンを迎撃していく。昨日から見ても実弾の兵装しかなかったが、確実に怪物たちは屠られていく。
『……』
そのなかでアセムが心配していたアンジュという少女だけが戦闘に加わらず、距離を取っていく。
「こちらゼハート!!アンジュ機、何をやっている!!」
『私は……アンジュリーゼです。ノーマなどでは……決して……』
私の言葉にも意味不明な言葉を返し、戦闘機形態のまま立ち去ろうとする。
「ちぃ、何をしてるんだ……」
『俺が行く。ゼハートは前線で俺の代わりをしてくれ』
「おいアセム!!」
友人は彼女を追いかけ、私もそれに追随しようとするが怪物達が行く手を塞ぐ。
「邪魔だぁ!!」
私は紅い機体を駆り、一気に敵を凪ぎ払いにかかった。その時、近くでアセムの機体から爆発音が鳴り響いた。
「アセム!!」
そこにあったのは、人形に変形したアンジュのパラメイルを庇う、アセムの『AGE-2』の姿があった。
というわけで、またまた戦闘回なのにアンジュがヴィルキスに乗ってないという事件でした~
一応前後編ということで、後編にヴィルキスを登場させるつもりです。