第九話 偵察任務
「う~ん……最近ドラゴンのレベルが上がってる気がするんだよな」
アセムはパイロットスーツから支給された制服に着替えていた。制服はアンジュ達が着ていた物と同じ色で、『ディーヴァ』で着ていた軍服に白いマントといった感じだった。
「それはあるかもな。まぁこちらがビーム兵器を使えないというハンデもあるのだろうが」
ゼハートも同じく制服に着替える。が、アセムと比べてゼハートが着るとしっくりとした感じがでる。
「でもさ、せめてもう少し火力が欲しいよな。《システム》使っても火力は上がらないし」
「それを言うな。ビームサーベルが使えるだけお互いマシだろ」
「そうなんだけど……」
と、そこへノックの音が響いた。
「二人とも居るかぁ?」
「ゾーラさん?どうかしましたか?」
「おぉ居たな。お前ら二人とアンジュ、あとヴィヴィアンの四人で偵察任務だと」
「偵察?何かあったのですか?」
「なんでもドラゴンとは別の空間移動してきた敵が確認された。それが事実か確認してこいだと」
「それなら俺らじゃなくても……」
「既に一般のノーマによる偵察部隊4機が向かったが、パラメイルもろとも全てロストした」
「「!!!???」」
アセムとゼハートは直感的に事の重大さに気がついた。今回の任務はエース級の《固有種系専用機持ち》、つまりはアンジュの『ヴィルキス』、ヴィヴィアンの『レイザー』、アセムの『ガンダムAGE-2 プロトフレイヤ』、ゼハートの『ゼフィルス』の4機でなければ達成できないと判断しての事だろう。
「……分かりました。その任務、お受けします」
「話が分かるようで助かるな。30分後にブリーフィングを行うから、遅れるなよ」
そう言ってゾーラさんはドアの向こうから去っていった。
「……着替えたの意味なかったな」
「そうだな」
俺の一言にゼハートはまったくだとでも言いたいような口ぶりで笑っていた。
「それではブリーフィングを行う」
ジルの言葉と共に俺ら4人は立体液晶モニターの回りに集まった。側にはフリットとエマの二人も居る。
「今回ドラゴンとは別の空間から起こったゲートの場所はここだ」
ジルはエマを見ると、彼女は『マナ』の力で場所を映し出す。見たところ小中規模の小島が連立した海洋だった。
「ここは昨日、アンジュが『ヴィルキス』を使い初戦闘を行った海上から数㎞先にある無人の諸島だ。ここで例のゲートが発生し、偵察のために向かった第三中隊による偵察のパラメイル部隊が向かい、そして全機がロストした」
「アルゼナルに送られるパラメイルの戦闘データによると、敵はドラゴンではなくむしろ虫のような姿だったという」
フリットがそう言うと、エマさんはホログラムの画像データを呼び出す。映っていたのは赤い目に黄色い体をしたカブトムシに近い体格の甲虫だった。
「デカいな……」
「でもドラゴンに比べると、あんまり大きくないよ」
「ヴィヴィアン、敵は大きければ強いというのではないだろ」
少女のお気楽な発言にジルは釘を刺した。
「戦闘データによれば敵は虫であったが、ミサイルやレーザー等の近代的及び近未来的兵装を備えているようだ。さらにこいつらの腕力はドラゴンのそれと同等かそれ以上、タックルなどされれば機体自体に穴が開く可能性もある」
フリットの指摘にただでさえMSより装甲の強度などが脆いパラメイル乗り二人が不安がる。
「だったらだったら、避け続けながら敵に攻撃を与えれば良いんでしょ?」
と、思いきやヴィヴィアンの方はまたまた気楽に考えている。
「ヴィヴィアンさ、少し緊張感を持とうよ」
「アセム、この娘に言っても聞きやしないさ」
アセムのまともな言葉はゼハートによって否定される。
「兎も角だ、これから4人はすぐに機体へ乗り込んで出撃、ターゲットを見つけ次第生け捕りもしくは撃破しろ。以上だ」
そう言うとジルはドアから出ていこうとするが、そこで何かを思い出したかのように戻ってきた。
「言い忘れたが、4人はターゲットの発見までアルゼナルに戻れないからな。燃料は満タン、食糧と水は一人一週間分は搭載させておくから、足りなくなれば魚でも動物でも狩るんだな」
「は?どういうことですか?」
アンジュは訳が分からないように聞き返す。
「今回の敵はゲートを何回も移動しているため発見が困難になる。もしも帰投中に現れてしまえば対応できない。そのため夜営を張り敵の発見までそこで待機してもらう」
「……了解しました」
((((アンジュのやつ、絶対にミスルギ皇国に行くつもりだ))))
アンジュの一瞬の間を、アセムとゼハート、ヴィヴィアンとジルは即座に看破したが、あえて言わなかった。むしろアセムとゼハートにとっては好機とも言えたからだ。
「あのジルさん。できれば最初か最後の二日間だけで良いですから、俺とゼハートに『ミスルギ皇国』へ行かせてください」
「ほう、それはまたどうしてだ?」
「この世界の国がどうなっているのか、それを確かめたいんです」
「本音は?」
「……できれば私服が欲しいというか」
ジルはなるほどと思った。アルゼナルのショッピングモール『ジャスミン・モール』には男性用の製品が殆ど無い。制服は万が一の場合があるため数は少ないが置いてあるのだが、流石に下着などの部類は置いてないのだ。
そこで、遠征でエネルギーを満タンにしてある今回を機会にアセムやゼハートが前々から知りたがっていた『ミスルギ皇国』へ情報収集をするという口実に、自分達が着る衣類を調達しようと考えていたのだ。
「それは確かに色々と必要だな。監察官殿」
「なんでしょうか?」
「二人の現在のクレジット残高を『ミスルギ皇国』の通貨に換算すると幾らかな?」
「ええと、アセム君が約70万で、ゼハート君が84万ですね」
「ならそこからお互い10万ずつ換金して渡してやれ。それだけあれば間に合うだろ」
「はぁ……分かりました」
「あと、パスポートもだな。政府の方には私や監察官殿が報告しておくから問題ないが、念のために作っておかなければな」
「我が儘言ってしまい申し訳ありません」
「良いさ。それにこっちは技術的にも君達に援助してもらっているからな。これくらいは当然さ」
ジルは言葉通りの当然という表情をしていたが、アセム達二人には下心があるようにしか見えなかった。そんなことを言ってると、アセムの横にいたお姫様は何かを言いたそうな口ぶりでアセムの事を見つめている。
「……」
「……ジルさん、どうすれば」
「まったく……仕方ない。ヴィヴィアン共々今回は特別だぞ。金は用意しておいてやる」
するとアンジュとヴィヴィアンは露骨に笑顔になってはしゃぎ始める。アンジュにいたってはヴィヴィアンを投げ上げる始末だ。
「アンジュ~!!やめてよアンジュ~」
「「ハハハ……」」
「二人とも助けてぇ!!」
悲鳴を上げる赤い髪の少女は男二人に助けを求めるが、その男達は揃って苦笑いを浮かべるしかできなかった。
ヴィヴィアンを助け出したあと、アセムとゼハートはエマがパスポートや現金の手続きを済ませるまで自分の機体を確認することにした。アセムは『AGE-2ノーマル』と『ヴィルキス』の予備パーツを転用して新機体、『AGE-2 プロトフレイヤ』のコックピットに乗り込むと計器を確認し始める。
「アセム、『プロトフレイヤ』の状態はどうだ?」
「う~ん、一応推進機器と武装の方は今終わった。あとはレーダー関連だけだけど、そっちの『ゼフィルス』は?」
「そっちと似たり寄ったりの所だ。それと、これをシステムにインストールさせとけ」
そう言ってゼハートが取り出したのは『アセム達の世界』での共通規格を使った小型ディスクだった。
「これは?」
「『ヴェイガン』で使われているステルス装置、『見えざる傘』の機動データだ。装置はフリットさんに頼んでそれを機体に搭載させてある」
「そんなものをなんで?」
「MSに乗ったままで『ミスルギ皇国』に向かうんだ。もし現地人に機体を見られたらまずいからな」
アセムはなるほどと思いつつ、渡されたディスクをコンソールに容れた。そして画面にインストールするかという承認画面が現れると、アセムは迷わずに『YES』を押した。
「……これ、ホントに透明化するんだよな?」
「当たり前だ。なぜお前に嘘を付かなければならないんだ?」
ゼハートは心外そうに呟く。
「……そんな重要な機密データをホイホイと敵に渡して良いのか?」
「……まぁ色々と問題はあるだろうが、それはそれだ。そういうのは『私達の世界』に戻ってからやることだ」
真面目なゼハートからしては珍しい発言にアセムは目を見開いていたが、やがてフッと笑みを浮かべる。
「……そろそろ発進だな。俺はコックピットに戻るぞ」
「ああ」
そう言って白髪の青年は立ち去っていき、隣の可変姿が『ゼダス』に似たMSに乗り込んだ。アセムはコックピットを閉めると、いきなり映像通信が現れる。主はアンジュだった。
『アセム』
「ん、アンジュか?どうしたんだ」
『さっきは……ありがとう』
恐らくアンジュは『ミスルギ皇国』の件についてお礼をしてるのだろう。
「別に良いよ。俺達も少し用事があったし」
『……もしかしたらですが』
アンジュは何かを言いかけるとそこで言葉を飲み込み、少しだけ考えると、
『もしかしたら、《ミスルギ皇国》は何もなくなっているかもしれません』
「な!!」
アセムにとっては驚きだった。ジルの話によるとアンジュがここに来たのは凡そ数週間前らしいが、大国である『ミスルギ皇国』がたったそれだけの時間で滅亡するとはありえない。
『ジルが話してました。数日前に皇国内でクーデターが起きたって。それが本当なら……』
「滅亡はまだしも、かなり不安定な情勢になってるってことか……」
『えぇ』
アンジュは暗い表情で答える。常に気高く振る舞っている彼女といえど、祖国がそんな風になっていれば不安にでもなる。
「だったら尚更行かなきゃならない」
『アセム……』
「確かに悲しくなるけど、それでもさ、アンジュ自身が不安がってちゃいけないと思う。君がそんなんだったら回りまでそうなっちゃうからさ」
アセムは古臭いと思いながらもアンジュを慰める。
「だからさ、今は出来ることに集中しよ。あれこれ考えるのは後でも出来るし」
『――ええ。ホントにありがと、アセム』
そう言ってアンジュは回線を切り、タイミングを見計らったかのように機体がハッチに運ばれる。
『システム、オールグリーン。アセム機及びゼハート機、発進どうぞ』
「アセム・アスノ、『ガンダムAGE-2 プロトフレイヤ』出ます!!」
「ゼハート・ガレット、『ゼフィルス』出撃する!!」
女神を関する白翼の機体が中を舞い、続いて西風を関する紅蓮の機体が飛び立った。その後にアンジュの『ヴィルキス』とヴィヴィアンの『レイザー』が続き、4機は島の方へと飛び立った。