「おーい、夕食できたぞ!!」
あの『覗き事件』から数日後、俺は土下座するゼハートを許し、島の唯一の住人である『タスク』という少年と共作ったにシチューの入った鍋を木のテーブルに置いた。この中で料理の腕が普通なのは俺とタスク、そしてシンの男三人だけだった。そしてそのシンはゼハートがナイフで作った少し深めの木皿にサラダを盛っている。
「ゼハート、椅子は丸太で良いかしら?」
「それはまぁ良いだろ。今こっちも完成する」
そう言ってゼハートは馴れた手付きで木に釘を打ち付ける。彼が造っていたのは焚き火用の丸太を半分に切ったものを並べて足を付けたテーブルだった。この島にあるテーブルは四人分しか座れないのだ。
「ヴィヴィアンはキラさんを呼んできてくれないか?多分浜辺に居ると思うから」
「ほ~い!!」
シンのお願いをヴィヴィアンは素直に聞いて砂浜へと向かっていく。
「……」
「ん?どうしたアセム?」
「シンってもしかして、ロリコン?」
「はぁ!?いきなりなんだよ!!」
シンは若干キレ気味に俺へ言葉を返した。
「いや、さっきシンがヴィヴィアンを見て凄い笑顔だったからさ。もしかしたら……って」
「んな!?そんなことあるか!!」
「いや、アセムの言う通りだった」
「ゼハートまで言うか!!」
シンは呆れ気味に言葉を返すが、その顔は満更でも無いと物語っている。
「こんなロリコンに二人がかりで負けたなんて……」
「だ・か・ら!!俺はロリコンじゃない」
「「「……」」」
「な、なんだよ?」
「「「これでもそう言えるか?」」」
俺とゼハート、アンジュはシンにとある画像が映った端末を見せる。そこには何処をどう見てもメチャメチャ微笑んでるシンの画像があった。
「ちょ!!何時の間に!?」
「まさか『ヴェイガン』の偵察任務用の特殊カメラがこんなときに役立つとはな……」
「ゼハート、お前何時からそんなもの持ってきてたんだ?」
「昔は偵察任務ばっかりやってたからな。おかげでカメラを隠し持っておくのは癖のようになってるだけだ」
「それって、端から見たら盗撮ですよね?」
「それ以外あるか!!てかその画像を消せ!!」
「「「だが断る!!」」」
そう言うとシンは実力行使……右手で拳銃を抜くと容赦なく俺らの顔すれすれに射ってきた。
「あぶな!!」
「お前らが調子に乗るからだ!!」
「心配するな、ただの悪戯だ」
「悪戯だったら……」
「あ、間違ってヴィヴィアンの端末に画像を……だから冗談だ。そんなことしない」
「盗撮犯の言うことが信用できるか!!」
シンは漫画のように怒りマークが額に張り付いたような表情で怒鳴る。俺とタスク、アンジュはゼハートの側から離れて料理をテーブルへ運ぶこととした。
「そういえばタスクってこの島に住んでるんだっけ?」
「ん?そうだけど、それがなにか?」
「いやさ、キラさんやシンはこの島に転移してきたなら、他にも転移してきた人間が居るかもって」
「おいアセム!!なんで俺だけ呼び捨てなんだよ!!」
黒髪の青年が叫んできたが、今は気にしない。
「あぁ、そういうことか。確かにキラもシンもこの島の上空から落ちてきたな」
「落ちてきた?」
「いや、空に変な歪みが出来てたから何かなって見てたらいきなりデカイパラメイル……もといMSだっけ?それが島に落ちてきたんだ。」
「歪み……か」
恐らく俺たちもそれによってこの世界に飛ばされたんだろう。
「まぁ話を戻すけど、今のところここらじゃおんなじような現象は起きてないし、二、三年近くこの島に居るけどそんなことはなかったな。うん」
「そうか……ありがとな」
調度その時ヴィヴィアンが茶髪の青年を連れて戻ってきた。青年は微笑んだ表情でこちらを見ている。
(こんな優しそうな人がMSを……しかも俺とゼハートを瞬殺したんだよな)
俺はそんな事を思っていると、隣にゼハートが歩み寄ってきた。
「今更だがアセム、お前はどう思う」
「どうって、何が?」
「幾らあのキラという彼が一流のパイロットで、尚且つ機体が核融合炉搭載型だとしてもだ、幾らこちらの機体が負傷してても2対1だった。なのにこちらは手も足も出ずに負けた」
「確かにそうだな」
「だが、今さら思い返してみるとキラというパイロットはコックピットを狙ってこなかった。私のは彼やアセム達とコックピットの場所が違うからギリギリ掠めたが、それでも一回だけだ。それからは一回もコックピットのある頭部へ射ってこなかった」
「そういえば……確かにだな」
そう、確かに彼は機体の脚部や腕部を攻撃はしたが致命傷になるような攻撃はしていない。むしろ攻撃する手段を奪っていたように見える。
「その事、食事の時に聞いてみるか?」
「……いや、やめとこう。話せない事情があるかもしれないしな」
俺達はそう思って聞かないことにした。
「ねぇシンにキラ、アナタ達は何者なの?」
そのアンジュの言葉に俺とゼハートは持っていたスプーンを落としそうになった。なぜならその内容は俺ら二人が聞かないと決めたはずの内容だったからだ。
「何者って、普通の人間だけど?」
「ア、アンジュ?一体どうしたんだ?」
俺は少し声が震えながらアンジュに問いただす。
「今日タスクがマナを使わないで修理してたからおかしいと思ってね。それにノーマだとしても『パラメイル』について知ってる。それだけならまだ分かる。けど、二人の……シンとキラの戦闘は不自然だった」
「もしかして、バレた?」
「ええキラ。アナタ達は武器は狙ってきたけど胴体は射たなかった、それも意図してね。気付いたのはさっきアセム達が話してたのを聞いてからだけど」
「「う……」」
そのアンジュの言葉に当の俺達は言葉を返せなかった。アンジュが言ってることが事実だからだ。
「それにチラッとだけ見たけどキラ、アナタは特に何者なの?パラメイルのOSを見ただけであっという間に復旧させてたし、転移者だから『マナ』が使えないとしてもあの速さは異常よ」
「……ゴメン、ちょっとシンと話しても良いかな?」
「ええ」
そういうとシンとキラの二人は席を外して森の中へと入っていった。すると俺とゼハートはアンジュに詰め寄る。
「……アンジュ、お前わざと?」
「いいえ、でも気になったから聞いたまでよ」
「君は私とアセムが話してたのを聞いてたのだろ?」
「もちろん、さっき言った通りね」
「なら私達がこの事については何も聞かないと言ってたのも分かるだろ?」
「それはそっちの事情でしょ?それに転移者ならアルゼナルに連れていけば何か得になるでしょ。特にキラは」
「?どういうことだ?」
俺はアンジュが言ってることが分からず頭を傾げる。その答えは燥ぐようにヴィヴィアンが答えた。
「もしかしてアンジュ、キラを連れてけばビームの技術を手に入れられるかもって思ったの?」
「それもあるけど、アセムが持ってるデバイスの『データをサルベージ』できるかもしれないじゃない」
それを聞いて俺は納得した。アンジュの話ではキラのプログラムやOSに関しての技術は俺達以上だ。ならばその技術でデータを……『AGEビルダー』のデータをサルベージし、それで機体強化や武器の生産ができると彼女は践んだのだ。
「アンジュって、変なところで頭回るよな」
「変ではありません!!」
俺は誉めたつもりだったが、逆に不評をくらってしまった。何故だ?
そう思っていると今まで二人で話していたキラとシンが戻ってきた。
「ええと、一応確認だけどアンジュやアセム達は僕やシンがどうして『不殺』なんて事をしてるか知りたいって事だよね?」
「極論的に言えばそうなります。それで?」
「うん、話すよ。けど、その前に僕たちが居た世界についてから話さないといけない」
「キラとシンが居た世界か……どんな所だったんた?」
タスクも興味有りげに聞いてくる。
「僕たちが居た世界、暦はコズミック・イラ……通称C.E.73でその世界は地球圏のコロニーと地球の人間が戦争をしてたんだ」
「コロニーと地球が?一体どうして?」
「簡単に言うと、コロニーの人間には『遺伝子操作された人間』、通称『コーディネーター』と地球側の『普通の人間』、通称『ナチュラル』の2つの人種が居たんだ」
「???なんですか?それは?」
「つまり、『コーディネーター』は『ナチュラル』と違って人工的に遺伝子を組み換えて、親が好きな能力を特化させた人間なんだ」
「それってクローンとは違うのか?」
「そこについても後で話すよ。で、ゼハートに聞きたいけど、『コーディネーター』と『ナチュラル』はなんで戦争になったのかな?」
「……もしかしたら能力格差が原因か」
ゼハートの言ってることが俺には理解できなかった。能力格差なんて社会じゃ普通に……ってあれ?
「もしかして、『コーディネーター』の方が『ナチュラル』より優秀だから……」
「そうだ、そこで一番の格差が生まれる事になったんだ」
シンは悲しげにそう呟いた。考えてみれば『コーディネーター』というのは遺伝子操作してるから一部分においては『ナチュラル』を凌駕する事だって有り得る。それが子供の時ならまだしも能力優先の会社などの社会では、能力の高い『コーディネーター』を優先的に雇用する。そうなれば自然と『ナチュラル』の不満は鰻登りで上がっていく。そしてそれが戦争の発端となったんだ。
「でも『コーディネーター』にだって弱点とかがあるんだろ?」
「うん。『コーディネーター』は遺伝子を組み換えて産まれるんだけど、それでも完璧じゃない。遺伝子操作の結果によっては病弱になったり希望通りにならなかったりもする」
「それに『コーディネーター』は確かに戦争とかでもかなり有能にされてるけど、元々の絶対数が限られてる。『ナチュラル』の絶対数を10にしたら『コーディネーター』は7くらいだから、数攻めされたらキツくなる」
「じゃあさじゃあさ♪キラとシンはどっちなの?」
「僕らはどっちも『コーディネーター』だよ」
「といってもキラさんは少し事情が事情なんですけどね」
「事情って?」
「それはもう少し後にするけど、兎に角僕たちが居た世界はこの2つの勢力、『コーディネーター』の軍である『自由条約横道同盟(Zodiac Alliance of Freedom Treaty)』、通称『ザフト(Z.A.F.T.)』と『ナチュラル』の軍である『大西洋連邦』の2つに分けられたんだ」
「正確に言えば、キラさんや俺の故郷である『オーブ首長国連邦』は『ナチュラル』も『コーディネーター』も差別しないで、戦争に介入したり起こしたりしないって国でした。そのせいか3つの陣営に別れたんですけど」
「ほう、なら今のオーブはどうなんだ?」
「今はキラさんの双子の姉であるカガリという人が元首で、その人が就く前は『連合』も『ザフト』も『オーブの技術』を手に入れようと躍起になってたんだ」
「連合は分からないけど、『ザフト』もラクスっていう僕の大切な人がトップに立ってて、今でも小規模な紛争はあるけど大きな戦争は起こってないんだ」
ゼハートはなるほどと思ってるのか真剣に聞いていた。するとアンジュがあり得ないような顔でシンとキラを睨んでいる。
「遺伝子操作……そんな非現実的です」
「……どうしてそう思うの?」
「当たり前です。確かに今までの話が事実なら貴方達の実力にも納得ができます。けど、人間のクローンなどは禁止されてる筈です!!だとしたらそれも違法な……」
そこでアンジュは言葉を止めた。何故ならシンが怒りの表情で彼女のことを睨み付けていたからだ。
「アンジュの言うことも分かるよ。多分それも戦争が起きた理由かもしれないからね」
「……」
キラは自嘲的に返した。その目には悲しみが見てとれる。
「さっきクローンの話が出たけど、実際ザフトには少からずそういう人が居たんだ」
「居た?なんで過去形なんです?」
「もう死んでるからね。多くのクローンは失敗作で、『テロメア』っていう染色体が短くて、長生きできないんだ」
「そんな!?」
「僕もそういう人と戦った。その人は言ってたよ。『人は力を欲し、手にいれた人間はそれを手放す事はできない』って」
「でも、その究極的なものがキラさんですけど」
「え?」
俺はシンの言葉に耳を疑った。
「キラさんは『コーディネーター』の中でも全ての能力を完璧にさせた、いわば『スーパーコーディネーター』なんです。反射神経は常人のそれを遥かに超す事だってあります」
「……だとして、何故殺そうとしない?実力はあるのだろ?」
ゼハートは納得してはいたが、当然の疑問をぶつける。能力があるなら叩き潰すなり何なりとできたはずだ。
「僕は……ホントは戦いなんてしたくないんだ。けど、この力は否応なしに戦いを呼んじゃう。だったら戦っても命を奪わなければいいんだって思ったんだ」
「だからシンが『フリーダムは抑止力』なんて言ったんだ」
「そういうこと」
シンはそう言うと少しキラさんを見つめた。
「とにかく、アンジュやアセムの疑問については話したから良いかな?」
「ええ、でも私はアナタ達のことを認めないわ」
アンジュはそう言って森の中へと入っていった。
「おいアンジュ」
俺もアンジュを追って森の中へと入っていった。アンジュは止まることなく歩き続け、やがて機体が置いてある海岸へと辿り着いた。
「待てよアンジュ」
「アセム……アナタはどう思うんですか?」
「どうって?」
「あの二人のこと」
アンジュはシン達の事が気にくわないようだ。
「そりゃ俺だっていきなり遺伝子操作だコーディネーターだなんて信じられないさ」
「……」
「けど、二人ともあの目は嘘をついてるように見えなかった。多分俺達以上に辛い戦いをしてきたんだろ」
「けど……」
その時近くの孤島の上空から爆発が鳴り響いた。俺とアンジュはそこへ目を向けると、そこには凍結した『ガレオン級ドラゴン』を運ぶ複数の戦闘機に対して、それに群がる小型ドラゴンと、俺達が探していたカブトムシのような姿をした巨大生物が一緒に襲っていた。
「嘘だろ……こんなときに……」
「アセム!!機体を動かしましょう!!」
「あ、あぁ」
俺達は修理途中の各々の機体に乗り込み、先頭空域へと直進した。
アンケートを締め切りはしたものの、一票も意見が来なくて意外と悲しかったです。なんでだろ?