「「「「「「「「「新年、明けましておめでとう!!」」」」」」」」」
「……なんなのよ、いったい?」
アンジュは食堂で行われている事の雰囲気に戸惑い、ただ呆然としていた。
というのも現在、アルゼナル及び転移組、プラス黒の騎士団より来た数名の人間でお正月パーティーなるものを開催していたからだ。ノーマの一部パラメイル乗り及び女性&成人組はビールジョッキ片手に飲み初めを行い、他のものはジャスミンが奮発したオードブル料理に舌鼓を打っている。
「どうしたんだアンジュ?」
「アセム……いえ、なんというか……この雰囲気に馴染めなくて……」
アンジュの片思いの相手、アセム・アスノもジュースとフライドチキンを乗せた皿を片手にそれなりに満喫している。
「?アンジュはミスルギ皇国でニューイヤーパーティーとかしなかったの?」
「いえ、したはしたのですが、こういった立食パーティーなんてものではなく至って普通のディナーといった感じでしたので」
「そっか……まぁ慣れないって言うのも分かる気はするよ」
そう言ってアセムはパーティーの様子に目を向ける。アンジュも吊られて目を向けると、アセムの言葉に納得する。
普段感情を余り見せないフリットとジルの両司令官はお酒が入ったせいか医務官の常に酔っぱらっているマギーと一緒にエマ監察官に絡んでいる。そのエマさんは酒と三人の絡みのせいか、いつものきっちりした性格がぶっ壊れて泣き上戸となっている。はっきりいってカオスだった。
ヒルダはお酒片手にデシルと飲み比べを始めている。それをネタにロザリーと意外なことにゼハート、さらに黒の騎士団からやって来ているカザマとロイの4人で『どっちが先に潰れるか』という風な賭けをしている。前者二人は兎も角、黒の騎士団は仕事しろと突っ込みたい。
ヴィヴィアンはシンと大食い対決と称して、どうしてかわんこ蕎麦を食らっている。ちなみに既に150杯を優に越していて、何故かキラが二人に次々とおかわりを足していっている。
ゾーラさんとこれまた黒の騎士団からやって来たシナノはそれぞれワインに焼酎にと飲みながら(シナノいわく、『アルゼナルは無法地帯だから未成年飲酒はご法度じゃないのよ』だそうだ)、部隊長としての愚痴を互いに言い合っている。
「お正月だからってはしゃぎ過ぎなのよ……。まぁこの雰囲気も悪くはないけど」
「確かにw」
そう言いつつアセムは自分のチキンにかぶりつく。
「行儀悪いわよ」
「このカオスな状況じゃ、行儀もへったくれも無いと思うけど?」
「確かにね……!!」
その時、アンジュはいきなり有無を言わさず走り出す。アセムがその方向に目を向けると、なんとアンジュの実妹シルヴィアがつい最近アルゼナルに来たアルトに抱きついてるではないか。それもアルトがお姫さま抱っこという、姉としては許しがたいこの上ない行為だったのだ。
(アルト……流石に運が悪かったな)
彼は仲の良い戦友に心の中で合唱すると、後ろから何かがぶつかる。振り返ると、
「アセム…………」
「サ、サリア?」
なんと着物を着用したサリアの姿がそこにあった。水色を主調とした無地の大人しいイメージの着物で、サリアの委員長気質な雰囲気とかなり合致する。
「ど、どうしたんだ?その着物?」
「エ、エルシャが……無理矢理着せてきて……それで……」
「あ、あぁ」
アセムはサリアから口止めされているコスプレ趣味なのではと疑ったが、エルシャがここに居ない理由も含めて成る程、と勝手に納得する。
女性の着替えは長いと聞いたことはちらりとはあるが、着なれない着物なればなおさらだ。しかしこの男、唐変木の朴念仁と第三者から言われるほどその心意に全くもって気付かないため、なぜこのような暴挙をエルシャがしたのかまでは理解していなかった。悲しい現実である。
「に、似合う?」
「え!!あ、うん、似合ってるよ凄く」
「あ、ありがとう」///
恥ずかしさと似合うという誉め言葉もあってサリアの顔はタコもビックリな程に紅く染まり、頭からは湯気のようなものまで浮かんでいる。
「ちょっとサリア、アンタ何してるのよ!!」
と、ついさっきアルトを絞めに行った筈のアンジュが再び接近する。彼はアルトの方を見てみると、どういうわけか頭ではなく足から天井に突き刺さっているではないか。いったい何をすればこうなる、とそれを見ていた人間及びノーマ各員全てがそう思った。
「べ、別に貴女には関係ないでしょ!!ただ私はアセムと話をしたかっただけよ!!」
「そんな見せつけますよ、みたいに着物なんか着てるやつに言われたくないわよ」
「そんなこと別に良いでしょ。見せつけられるのが嫌なら貴女も着物着れば良いじゃない。あ、そっか~、アンジュは胸が大きいから着物だと締め付けられるものね~、着れるわけないか~」
「な、ぐ!!」
アンジュはぐうの音も出ない。彼女も昔一度は着物を着たことがあったのだが、その頃から発育のよかったせいか彼女に着れる着物が存在せず、それ以来トラウマになっているほどだった。
無自覚に心の傷を抉られ傷心のアンジュだったが、そこに一人の女神が舞い降りる、無論この着物を着せた張本人のエルシャだった。
「大丈夫よアンジュちゃん」
「慰めは要らないわよエルシャ……」
「ちゃんとアンジュちゃんに似合う着物も在るからね」
「別に……え?」
アンジュはまるで這いつくばり、空を見上げる人間のように顔をあげる。
「(サリアちゃんにアセム君を取られたく無いでしょ?私に掛かれば分かっては貰えなくても、少しは意識して貰えるはずよ?)」
「(ホントよね?)」
「(私は嘘は付かないわ、アンジュちゃん。これは契約よ、貴女に素敵な時間をあげる代わりに、貴女は私の願いを叶えてちょうだい?)」
「(良いわ。結ぶわよ、その願い!!)」
どこぞの反逆の魔王と魔女のようなやり取りをしたかと思うと、二人は再び食堂からフェードアウトする。
~ここからは暫く音声だけでお楽しみください~
「さぁアンジュちゃん~脱ぎ脱ぎしましょうね~?」
「いやエルシャ、それぐらい自分でひゃ!!ど、どこ触ってるのよ!!」
「アンジュちゃんって肌キレイよね~。どんな洗剤使ってるの?」
「や、やめて……変なところ触らひゃう!!」
「駄目よ~。アンジュちゃんは私が契約した、私の玩具なんだから、ご主人様の私の言うことは絶対なのよ~」
「あ……あ……ダメ……そこは……」
「折角だから色々アレンジしなきゃね。折角の綺麗な髪だしね~」
「ひゃうう~~~~~~~~!!」
二人が食堂から出て約10分後、アンジュは再びアセムの前に居た。手伝っていたエルシャは何故か肌が艶々と照り輝いており、頬はどこか紅潮している。
そしてアセムは、アセムと一緒に話していたサリアは、酒に溺れていた大人たちは、賭けに一喜一憂していたダメ男とダメ女達は、暴飲暴食の嵐の中の子供達は、逆さまに吊るされたアルトとその救助をしていたシルヴィアとモモカは、そのアンジュの姿に愕然として見ていた。
「ど、どう?」
白と青を基調とした花柄の着物、黒く染められた帯、エクステでポニーテールのように釵で纏められた綺麗な金髪、そして紅の塗られた唇、その姿は正しく、
「和服美人……」
誰が言ったか、そんな言葉が何処からともなく零れ落ちる。余りの美しい姿に全員が言葉を無くし、サリアは明後日の方向を向いて顔を上へ上げている。
「ア、アセム?」
「……は!!あ、き、綺麗だよ、とっても!!着物凄く似合うよ!!」
「そ、そう?」
「あぁ。下手なドレス着るよりも似合ってるって!!」
「ひゃうう~~!!」
嬉しさあまってアンジュは涙を流し、アセムはあたふたとそれを介抱する。そしてサリアはアンジュとは違う意味で食堂の隅で涙を流す。
「(アセムに綺麗って言われた……アセムに似合ってるって言われた……けど……)」///
「(似合いすぎる……私なんかよりもずっと似合いすぎてる……)」ズーン
「えっと……なんで二人とも泣いてるんだ?」
しかしこの状況で女心が分からないアセムに、周りが呆れ半分怒り半分の感情を覚えたのは間違いない。
「ねぇアセム君?アンジュちゃんとサリアちゃん、どっちの方が綺麗?」
と、全員の気持ちを代弁したかのようにエルシャがアセムに問い詰める。すると、
「どっちかって言われても……アンジュもサリアも、二人とも違った魅力がありますから、比べたくても比べられませんよ」
「デスヨネー……」
余りの唐変木発言に、流石の『第一中隊の母性』と言われるエルシャですらも顔をひきつらせるほかなかった。
そしてその日、サリアは泣いた。どうしようもないとはいえアンジュに着物という同じ土俵で負けた事に。
またその日、アンジュは泣いた。アセムに思われる為とはいえ、自分の体をエルシャに好きなように弄られた事に……。
余談
仮面「おい魔女?この書類の山はなんだ?」
魔女「カザマ達がアルゼナルにパーティーメニューのデリバリーをしてるからな。それに関する書類と本人たちの外出許可、さらにはアイツらがやる筈だった書類だよ、察しろ」
仮面「こんなこと、察してられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
年明けを書類と過ごす黒い仮面を着けた司令官と緑色の髪の魔女が居たような、居なかったような。
魔女「はーい番外編終了、読者諸君、今年もよろしく頼むぞ?」
「「「イエス、ユアハイネス!!」」」
え~、2015は書くスピードが色々とぐだぐだだったため、2016はもう少し早く投稿できるように心がけていきたいと思います。
最後に、新年明けましておめでとうございます。本年度も『クロスアンジュ 転位した戦士』含め私、ドロイデンの応援、よろしくお願いいたします。