「やっと着いた~!!」
俺は森の中で借り物の機体、『グレイブ』を着陸させながらそう呟いた。そして回りにはゼハートの『グレイブ』やタスクの『黒いパラメイル』、キラの『フリーダム』にシンの『デスティニー』も少し離れて置かれている。
「アセム、早くシートをかけろ。幾ら森の中といっても狩人や現地の人間が居ないとも限らないしな」
ゼハートはそう言ってるが、こちらから見るとそのゼハート自身も浮かれているように見受けられる。
それとその筈だ。俺らは今『ミスルギ皇国』から数キロ離れた山の中に居るのだ。あのサリアとのプチデート(のような何か)の後、俺達は機体をすぐさま動かして飛んできたのだ。行く前にアンジュの目が虚になっていたが、それを聞いたらいけない気がした(アンジュ的にも、自分のためにも)。
ということで、俺達は何が悲しいか男五人でここまで来たのだった。
「でも凄いよね、ゼハートのMSのお陰で機体がステルスみたいになったし」
「ですが機密保持のために、アルゼナルに着いたらデータを消去しますから」
「まぁ似たようなのは『デスティニー』を弄れば出来るんだけどな」
そんな事を話ながら下山していると、見計らったように二台の乗用車がやって来た。するとそれぞれの運転席から青年と女性が降りてきた。青年の方は茶髪でゼハートと同じぐらいの身長、まだ幼げな顔を残していた。女性は燃えるような真紅の髪にヘアバンドを着けていた。
「アセム・アスノさん、ゼハート・ガレットさん達五人ですね?」
「あ、あぁ……」
「ええそうですが、貴方達は?」
「自分たちはアルゼナルの司令官であるジルさんから依頼されまれました、『ローゼンブルム王国日本領・黒の騎士団』の少佐、枢木カザマです」
「同じく『ローゼンブルム王国日本領・黒の騎士団』の大尉、紅月シナノです」
よく見ると二人とも黒を基調とした制服のようなものを着ていた。どうやら二人とも軍人らしい。
「久しぶりだな、カザマ」
いきなりタスクがカザマという青年に声をかけた。するとカザマは呆れたようにため息をついた。
「タスク、君はいつもありえない時に現れるよね?」
「今回のは偶々だ。流石にお前が来るなんて予想してるか」
二人とも仲が良いようで、かなり親しそうにしている。
「おいタスク、お前知り合いなのか?」
「ああ。俺が日本領に行くと必ずカザマの家に行くからな」
「食事目当てで居候するの間違いじゃないかい?」
「そうは言うけど、お前の料理の腕が凄すぎだからな。シナノも見習った方が良いぞ」
「……イラッ」
(((((あ、タスクが地雷踏んだ)))))
転移組の四人とカザマはシナノの表情を見て瞬時にそう思った。シナノの顔は笑っているが、頬は引きつかせ、額には昔の漫画のように怒りマークが浮かんでいる。
「?どうしたんだいシナノ、俺になんか付いてるか」
「アンタ、今すぐにでも『アレ』の餌食にしてあげても良いんだけど?」
「げ……」
『アレ』と言うのが分からないが、タスクが浮かない表情をしてる時点でかなりヤバイ代物のようだ。
「カザマ、お前幼馴染みだろ?なんとかしてくれよ」
「身から出た錆、後悔先に立たずだよ。自分でなんとかするんだね」
ええ~……、っとタスクは呟くが、流石に今回の事はタスクが原因のため何も言えない。そもそも助けたら自分自身の身すら危うくなりかねない。
「それより、私たちは早くミスルギ皇国に向かいたいのだが?」
ここで一応この中で統率が取れるゼハート堪り兼ねて話を変えた。するとカザマとシナノの二人も再び姿勢を直す。
「ええ。それは分かっています」
「ですが私達を除いて四人はこの世界では『ノーマ』ですので、街に入る前に少し寄らねばならないところがあります」
カザマのその言葉に俺ら四人は互いに顔を見合わせた。
「それって?」
「『ミスルギ皇国』の少し離れたところにある。黒の騎士団の駐屯地です」
「なんで駐屯地なんだ?」
俺は意味が分からずに頭を傾げた。
「……堅苦しいのは苦手だから、ここからは普通にするけど、さっきアンタ達が『ノーマ』に扱われるって言ったでしょ?」
「ああ」
「だけど『ノーマ』に男性は居ない。もしアンタ達が『ノーマ』だとバレたら色々と大変なことになるの」
「……つまりは、日本領という異色性を利用するわけか」
ゼハートは納得したように呟いた。キラさんも気づいたようで、俺とシンは揃ってまあ頭を傾げる。
「確かタスク、『日本領』は『ノーマ』に対する偏見等があまりないだったな?」
「あぁ、そうだ。ちなみにこの事は全世界で知られてるよ」
「つまりはその二つを利用し、私達四人を一時的にその『黒の騎士団』のメンバーに加えるという事だろ」
ゼハートが言うのはつまり、『ノーマ』であるということをばれないように、わざと『ノーマ』の偏見が少ない日本領の軍属にすることで変に疑われないようにするという事だ。しかもそのために軍人としてのライセンスを偽造発行するのだ。はっきり言って、手が込み過ぎて笑えない。
「こうでもしないと、幾ら男だからといえどいきなり
「だからってやり過ぎなんじゃ?」
「そうだ。しかもそれがバレたらそれこそ張り付けの銃殺刑だぞ」
「それなら大丈夫。これを立案したのは『黒の騎士団』のリーダーだから」
リーダーなのになんてことを……俺とシンはシナノのその言葉に内心でそう言う他なかった。
「とりあえず、カザマにはアセムとゼハートが乗って。キラとシンとタスクは私の方に」
「お、俺はカザマの方に……」
タスクは往生際が悪く抵抗するが、シナノは黒い満面の笑みで彼の首根っこを猫取っ捕まえるように掴んだ。
「タスク?アンタはまださっきの贖罪が終わってないからね……」
「勘弁してくれよ、ただでさえ……」
「からね」
「だから……」
「か・ら・ね」
「……はい」
俺はタスクの尊い犠牲により、シナノを怒らせてはいけないと、身に染みて思った。
俺達はシナノの言う通りに車に乗ると、すぐに街の方へと向かっていった。車には見たところ車輪のようなものが無いらしく、『マナ』の力で浮いて移動している。さながら『俺達の世界』でも乗れるリニアカーのような物だった。お陰で走行時もエンジン音が聞こえないのだが、バイクに乗ってた俺には少し物足りなかった。
「そう言えば、二人は転移してきたんだよね?」
運転席のカザマが珍しそうに聞いてくる。
「ええ。やはり転移してくる人間なんていないですか?」
「まぁつい最近まではね」
「つい最近?」
隣の席にいるゼハートはその単語に眉をピクリと動かした。
「僕たちが向かってる駐屯地にも最近空から人が降ってきたからね」
「へぇ……」
「あ、でも彼は記憶喪失だから名前すら分からないとかロイが言ってたかな」
「ロイ?誰ですか?」
「紅月=V=ロイ、シナノの親戚で僕の親友だ。ちなみにVはハーフだからそうなってるんだ」
「へぇ……」
「さらに言うとシナノもハーフ。本名は紅月=S=シナノ。だけどシナノはその名前が気に入ってないから、Sの部分だけ言わないんだ」
「あ、じゃああの髪の色は……」
「いや、祖先から、シナノの血筋で女性はああいう風な髪色になるんだって」
俺はへぇ……っと感心しながら外を見てると、今までの森の風景がガラッと変わった。森林には変わりないが、木々が生い茂る中に白い壁が高く聳える。まるで要塞のような雰囲気を思わせる物だった。
「うん、そろそろ着くから準備だけしといてね」
俺達は壁にある車両用の入り口に向かうと、カザマが証明書らしきものを取りだし備え付けられたモニターへ翳した。すると重々しい音と共にドアが開き、俺達はその中に入った。
???side
駐屯地の地下、所謂独房に一人の男が座っていた。髪は血のように赤く、額には傷のような物が浮かんでいる。
「俺は……何者なんだ……」
この男がアセムとゼハートの二人を混沌へ導くとは、二人はまだ知らない。