クロスアンジュ 転移した戦士   作:ドロイデン

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第二十話 蘇りし悪童

「ここが司令室だよ」

 俺ら五人が次にカザマに連れてこられてやって来たのは司令室……なのだが、

「カザマ、ホントにここが司令室なのか?」

「そうだよ?」

 タスクの言葉ももっともである。なぜなら

「事務所?」と俺。

「地球にあるという会社の個室か?」とゼハート。

「司令室っていう感じじゃ全くないね」とキラさん。

「ほとんど私室みたいだな」とシン。

「アンタら、揃いも揃って言い過ぎ。まぁ否定しないけど」

 俺達四人の初見に対する反応にシナノは呆れながらも同意する。というのも窓際には司令官専用の立派なデスクと椅子が置いてあるものの、本棚にはマンガや小説といった娯楽関係が所狭しと並び、なぜかピザのような形の人形まで置いてある。

「……ここの司令官って、もしかしてオタク?」

「「……ノーコメントで」」

 キラさんのその言葉は的確極まりないようで、言葉と共に視線をこれでもかと泳がせていた。

「おいおい、人の部屋見てオタクってなんだよ。てかカザマもシナノも否定してくれよ」

 いきなり後から声がして振り向くと、そこにはかなりの長身に短い金髪、日本人離れした端整な顔立ち、そして二人と同様の軍服を着た青年がそこにいた。

「えっと……あなたは?」

「ん?俺は紅月=V(ヴァインベルグ)=ロイ。黒の騎士団ミスルギ皇国駐屯基地の大佐にして司令官だ」

「え?てことはシナノさんの……」

「おう、血縁上は俺が双子の弟だ。まぁ世間的にはS(シュタットフェルト)V(ヴァインベルグ)で別々の家柄になるから、関係は従姉弟(いとこ)って事になるけど」

 意外な関係でキラさんとシンは驚いているが、事情を知ってるらしいタスクと、カザマから車内で聞いたことで予想できてた俺とゼハートは普通の表情のままだ。

「えっと……年齢は?」

 シンが躊躇いがちに聞くと、シナノさんのいい笑顔が、それでいて笑ってないそれが部屋を支配する。が、司令官は違かった。

「一応今年の8月で19に『ガスッ!!』痛い!!」

「アンタ、私の双子の弟だってわかったうえで言ってるでしょ?」

 シナノはジト目を通り越すほどの鋭い視線をロイに向かって送っている。

「当然だろ。つうかまだ俺も姉さんもまだ二十歳越えてないんだから別に……」

「そういう問題じゃない!!女の年齢を軽々しく教えるなって言ってるのよ!!」

「どうでもいいよ!!」

 明らかな姉弟喧嘩に着いていけない俺達はカザマが渡してくれた缶のアイスコーヒー(全入りらしい)をちびちびと飲んでいた。

「で、私達の身分証明の事は……」

「ん?あぁそうだった」

 どうやら姉に負けたらしい弟はげっそりと頬を細めていたが、それでも司令官なりの表情をしていた。

「とりあえず個人情報(パーソナルデータ)以外の用意はできてるから、普通に血液検査と書類に色々と記入してくれれば大丈夫だ」

「血液検査……ですか?」

「もしかしたらお前たちの世界と血液の表示が違うかもしれないだろ?だから念のためにこっちでそれを確認しておくってわけさ」

 もっともな事を言ってはいるが、ゼハートはその言葉を信用してはいなかった。

「では聞くが、この世界での血液型は何種類ある?」

「RHの+-をカウントするなら8種類の血液型が存在してる」

「つまりA型の+と-、B型の+と-、O型の+と-、AB型の+と-の8種類か?」

「おおまかに言えばそうなるぜ。まぁ稀に特殊な血液型をしてるやつも居るがな」

「だとしたらこちらはそれに準拠しているから大丈夫だ」

「隣に同じく」

 ゼハートとシンの言葉を聞いたロイはふーんといった表情で見つめている。

「それなら別に良いんだけど、ただもう一人記憶喪失の『転移者』が居るからその血縁がいればなぁって」

「え、もう一人いるんですか?」

 シンが驚いたように聞き返す。どうやら司令官の姉は二人に話してくれなかったようだ。

「うん。ちょっと背高くて赤い髪の青年でね、記憶喪失みたいで少し引き籠もってるんだよ」

 その言葉でなぜか隣のゼハートが一瞬頬を吊り上げる。

「……もしやその人、目付きが凄い悪くて髪をかなり伸ばしてますか?」

「ん?確かにそうだけど?」

「ゼハート、知ってるのか?」

 俺の問いにゼハートは不承不承という感じで軽く頷く。

「少なくともお前とフリットさんからしたら仇になる男だ」

「……!!まさかあの黒い奴の!!」

「そうだ。もし外れてなければアセム、お前が思っている男だ。さらに言えば……俺の兄でもある」

「……デシル・ガレット」

 デシル・ガレット……ヴェイガンのエース級パイロットでありゼハートの実の兄。かなりの自己中で、自分が楽しむ為なら仲間だろうが一般人だろうが駒として使う最低最悪な人間。そして父さんは初恋の人を、俺は師であるウルフ隊長をそいつに殺された。が、

「なんで……確かにあいつは俺達が……」

 奴は『ノートラム攻防戦』……いや『ダウネス』の破壊の際に俺とゼハートの二人で確かに倒した。コックピットである頭部をビームで射ち貫いていたから脱出なんて確実に不可能なはずだ。

「なぜかは分からない。が、もしそうだとしたら……荒れるな」

「荒れるよな、間違いなく……」

 特に父さんの怒りがどれ程になるのか、それは想像したくもないし、仮にしても恐らくそれ以上になるのは目に見えてる。

「……とりあえず、問題の彼に会ってみます?」

 ロイのその言葉に、俺とゼハートの二人は力無く頭を下に下げるのだった。

 

 

 

 とりあえず問題の転移者に会うため、キラさんとシン、タスクと別れた俺らはロイとカザマに連れられて地下6階の独房に来ていた。

「……なんで独房なんだ?」

「彼は凄く精神不安定で、俺らが来る度に一々暴れるからこういう処置を……」

「なるほど……」

 記憶喪失に精神不安定、さらに本来居ないはずの世界に迷い混むなんてものが重なれば、少なからず行動を制限させるのが一番得策だ。

 そんな話をしてるうちに目的の独房の前に辿り着き、ロイさんはポケットから小さな鍵を取り出した。

「言っとくけど、これから彼の部屋を開けるけど、決していきなり銃撃とかしないでくれよ?」

「それはそいつがどんな行動を取るかにもよります」

 ロイ司令官の言葉を軽く言い返すゼハートに呆れるものの、すぐに身体へ緊張を走らせる。そして司令官が部屋を解錠してドアを開く。

 そこで見たのは、血のように紅い長髪に痩せ細った肉体、かなりの長身に黒を基調としたTシャツとジーンズを履いた青年だった。両手には鍵式の手錠が掛けられ、顔の右目には大きな傷痕が残っている。

「なぁゼハート、この人が……」

「……あぁ、俺の兄さんだ」

 ゼハートのその言葉で俺は後ポケットの拳銃に手を伸ばしそうになった。ウルフ隊長の仇が目の前にいるだけで、今までの理性が嘘のように消えていきそうになる。が、それは次の瞬間に崩れ去ることとなった。

「……兄…さん?俺は……誰……だ?」

 あきらかに演技ではないその声音、狂ったような声のなかに聞こえる物静かな声、ウルフ隊長の敵討ちで戦ったあのときと同じ声だったが、どうにも印象が違って見えたのだった。




次回はゼハートの視点でお送りします。
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