「なんて数だよ、これは」
シンは思わずそう呟いてしまった。なんとかミスルギ皇国を脱出して愛機である『デスティニー』に乗り込んで来たまでは良かった、だがミスルギ皇国には先程見た数の数倍、約二十……それ以上の『バッフェ』がそこにはいた。
正直なところ予想外だった。これほどの数を出してくるとは、『デスティニー』でこれを倒しきるのははっきりいって難しい。
と、ここで隣を並走するキラさんの『ストライクフリーダム』から通信が入った。
《シン、君は無理をしないでね。この世界には『デュートリオンビーム』が無いから、僕の『フリーダム』と違ってエネルギー切れたら実弾でも倒されかねないからね》
「分かってますよ、けどこの数が相手じゃ……」
推進剤は別として、『デスティニー』の動力源は『ハイパーデュートリオン』と呼ばれる特殊な粒子エネルギーと核動力のハイブリッドエンジンだ。もっとも基本的には核動力だけで実弾を完全に無効化する『
ちなみにキラさんの『ストライクフリーダム』も同じ『ハイパーデュートリオン』を動力源としているが、そちらはほぼ完全な核動力であるため『デスティニー』と違い性能の低下は無いうえ、もともと一対多を目的として設計されているためそこまで不利ではない。が、それでも物量の差は否めない。
《とりあえずシンはビームライフルを極力使わないで戦闘を、援護はできる限りするから》
「分かりました、そういうキラさんも無茶はダメですからね。装甲だけみたら『デスティニー』に比べたて薄いんですから」
軽く皮肉を込めてそういうと、俺は『アロンダイト』を背中から抜刀し、『ミラージュコロイド』を使わずに突撃する。相手はガトリング砲を密集して射ってくるが、この程度の段幕を避けられない事はない。
「こんな素人の攻撃、伊達にあの大戦で生き残ってきた訳じゃないんだ!!」
俺はアロンダイトを片手に持つと、それを密集している敵のど真ん中の一機に投げつける。陣形が仇となり、刺された機体が爆発するのと同時に爆風で周りの『バッフェ』が体勢を崩し、弾幕が一瞬だが止まった。
その瞬間に『デスティニー』の機動力で剣を回収し、『I.C.W.S』を使って数機を破壊する。いくら小型の実弾式バルカン砲といえど、近距離で盾で防がれなければ『PS装甲』の類いを装備してない機体など倒せない道理はない。
「これなら……グァ!!」
少しだけ気を緩めたその時、『バッフェ』の一体が捨て身覚悟で突撃してきた。まさかそんなことをされるとは汁ほどにも思わなかった俺はその衝撃に機体の体勢を崩してしまう。
その一瞬を逃すほど相手も弱くはなく、五機近い『バッフェ』がガトリング砲を発射した。回避は不可能と判断しビームシールドを展開させて攻撃を防ぐが、やはり少しずつ『デュートリオンエネルギー』が消え始めている。
「くそ、これじゃ!!」
キラさんに援護を頼もうとしたが、どうやらそっちも無数のバッフェに囲まれており、援護どうこうの話ではなかった。
その時、赤い二つの閃光が俺とキラさんの回りにいた敵を凪ぎ払った。
「今のは!!」
《ビーム……けどそれとは違う……》
二つの光線が放たれた場所を確認すると、そこには二丁の拳銃らしきものを持った白い騎士が飛行していた。その白に金のフレームをしたそれは銃を腰にしまうと、背中の翠の翼を叩き、一瞬にして抜いた直剣を構えてこちらに飛翔してくる。
《ごめんシン、キラさん、遅れてすまない。》
「その声はカザマか!?」
機体のパイロット……枢木カザマの登場に驚いたが、何よりその性能に驚いた。
《今の……多分千メートル近く離れてた所から狙撃したの!?あの高出力ビームを!?》
「いや、距離だけ見たらキラさんなら余裕でしてるでしょうが」
実際キラさんなら二千ぐらいからでも狙撃することなど容易いはずだが、問題は出力だ。
あれだけの高出力……『バッフェ』を同時に五機以上も消し去れるほどの火力のそれを長距離……しかもそれなりに近距離にいたキラさんや俺を巻き込むことなく射ち貫いたその技量、さらにはそれを二本同時に行う視野の広さと機体のスペック、あきらかにMSより小型なはずのKMFでそんなことできるわけない。
「いったい何なんだよ……その機体は……」
《……KMF第九世代改修機……それがこの『ランスロット・エクセシオン』、そして枢木家に伝わる伝説のKMFだよ》
それだけ言うと、カザマは腰につけられていたハーケンのようなものを高速移動しながら複数の敵に突き刺す。そしてそれを爆発する前に投げ飛ばし、刺されていない機体へと叩きつける。
それだけでもかなりの運動性だが、問題はそのスピードだった。MSより小型だからとはいえその速さは見た目アセムの『AGE-2』やアンジュの『ヴィルキス』よりも速い。機体の動いた残像が見えるほどだ。
「凄い……」
《いや……もっと凄いのがすぐに来るから……》
俺のその言葉にカザマはそう返すが、モニターに映った表情はどこか青ざめている。さらにはなぜか体が小刻みに揺れている。
「ど、どうしたカザマ!?」
《い、いや、僕の機体より化物染みたのが向かってきてるからさ……はっきり言って味方でも怖い……》
「《え?》」
俺とキラさんのその言葉と共に後ろから友軍機の反応が聞こえた。なんの気なしに振り返ると、
「!!」ビクッ!!
一瞬目を向けただけだと言うのに身体中が金縛りにあったような、それでいて恐怖のような感情が身体中を覆う。
《まったく……アンタら、五分後にはこの世に居ないと思いな!!》
声の主はシナノ、だがその声は抑揚が全然感じられず、それが逆に不思議な不気味さを醸し出す。
《シンにキラ、ついでにカザマ、あとは私が殺るから下がってな》
「い、いや、ていうか殺ること決定なんですか!?コックピットは!?」
《悪いけど私が出たらコックピットを外すなんて事はしないから。殺るか殺られるかだけ、もちろん殺られないけどね》
《ごめんシン、シナノは極度のバトルジャンキーで、ついでに今回はかなりイラついてるみたいだから》
「イラついてる?」
通信映像をよく見ると、シナノの髪が少しばかりだが濡れており、さらにパイロットスーツも濡れていた。
《人がせっかくシャワー浴びてゆっくりしようと思ったら……思い出しただけで怒りが膨れ上がるね、これは!!》
((あ、そりゃイラつくだろうな))
実際、俺とキラさんはルナとカガリさんがシャワーを浴びてるときにそれぞれの部屋に行ったことがあるので、女性のシャワー(というよりお風呂)に対する気持ちは肉体的に知っている。
《というわけで……アンタら、この『紅蓮聖天双極式』の頑固な汚れになってもらうから……》
(テロリスト、ご愁傷さまです)
俺は顔知らぬテロリストに対して少なからず冥福を祈ることとした