「「はぁー…………」」
「空気重たすぎるぞ!!」
ゾーラの突っ込みもものともせず、アンジュとサリアは珍しく隣同士に座ってため息をこれでもかと着いていた。
というのも理由は既に確定しており、これに関しては厄介になったとゾーラ含めて三人とミランダを除く他の第一中隊の面々は離れた席で珍しく固まって集団会議を執り行っていた。
(で、どうするだよヒルダ。イタ姫があんな調子じゃ苛めようにもできねぇじゃんかよ!!)
(アタシが知るかよ!!てかこっちだって迷惑してるんだよ!!折角しばらくあのイタ姫の顔を見なくて済むって思った矢先に戻ってきやがって……)
(しかも迎えに行ったサリアとアンジュが戻って来てから、はっきり言って調子狂うんだよ)
アンジュを気に食わない三人は口々にそう言うが、内心本当にこの状況に参っていたのだ。なぜなら、
(アンジュちゃんが戻ってから、『あの事件』の時より大変な事態に陥ってるし、おかげで私たちは儲かってるから良いんだけど)
『あの事件』……それはアンジュとヴィヴィアン、アセムとゼハートが居ないときに起きた『サリアカレー事件』のことだ。あの時もあの時で苦労したが今回はその倍……いやそれの二乗位は大変なことになっている。
(サリアはパラメイルの訓練でもぼーっとしてるし、アンジュはアンジュで覇気が無いし、どうしちゃったんだろうねエルシャ?)
(う~ん、二人とも多分アセム君に会えなくてかなりモヤモヤしてるんじゃないかしら?)
(それは当然だろうが!!アタシらが聞きたいのは、イタ姫にしろサリアにしろ、このままだったら本当に『あの事件』の二の舞が起こるっての!!つうかもう被害が出始めてるくらいだし)
ヒルダは半ギレで机を叩く。彼女の言う被害とは、二人とエルシャ、ヴィヴィアンの四人が帰ってきてから数時間も経たない頃、アンジュとサリアは何を思ったのかアセムの部屋へと不法侵入しようとしたのだ。しかも二人とも無意識に行ったのだから質が悪い。
不法侵入だけならまだ良かったかもしれない。だが二人は違った、二人はその無意識のうちになんと言うことか、アセムの私物を物色しはじめたのだった。しかも服装品関連を、だ。
まさかアンジュはともかくあの規律大事の優等生なサリアまでもそんなことに手を染めるとは思いもしなかった。ヒルダ自身聞いただけならなんとでも言えるのだろうが、彼女とゾーラ、クリスとロザリーの四人はその現場の第一発見者だったのだ。これには常日頃規律無視などを軽くやっている彼女達も驚きを隠せなかった。
(結局その時はジル司令やら技術顧問のフリットさんやらが来たおかげで事なきは得たけど)
(でもそれだけじゃないってんだよ!!あれのせいでミランダは……)
ロザリーは今ここに居ないミランダを思ってか歯軋りをこれでもかとしている。というのはその侵入事件の次の日、どういうわけかアンジュとサリアはパラメイルに乗り込んで本気のバトルをアルゼナル上空で行ったのだ。まだそれなら良くある話なのだが、二人の場合は違ったのだ。
なんと搭載した銃にはペイント弾ではなく実弾が、さらに実体剣は刃が潰されていない真剣を使い、挙げ句の果てにパラメイル同士で殴りあいという、なんとも面倒なものになっていたのだ。
当然だがそれを止めない訳もなく、第一中隊の面々は急いで発進して二人を止めようとしたのだが、どういうわけだか二人だけで七人居た第一中隊メンバーを斬り倒し射ち倒しで尽く失敗、各パラメイルが中破するという出来事が起こった。
中でも新人であるミランダは折角改良したての『グレイブ』をあっという間にダルマにされ、ショックの影響もあってジル司令から臨時休暇を貰っている。聞いた話によればどういうルートかは知らないがジャスミンから度数のかなり高い酒を貰っては毎日毎日飲み漁っているらしい。未成年なのに飲ませるなという倫理はアルゼナルには通じないらしく、フリットさんも当初は困惑していたそうな(現在は彼も少し彼女と一緒に飲みつつも、彼女の愚痴やらを聞く相談役も兼務しているらしい)。
結局第二、第三中隊やフリットさん達も出撃してやっと止めることに成功し、止めるために出撃したメンバーにはジャスミンから無料で機体やらパーツやら、さらに臨時ボーナスまで入ったのは別の話。
(まぁミランダちゃんはフリットさんに任せるにしても、やっぱりアセム君に戻ってきてもらう事が解決策かしらね?)
(それ以外ねぇだろ。つかあの二人が戻ってきてからもう五日だ、そろそろ戻ってきても…………)
『シンギュラー発生!!シンギュラー発生!!第一中隊のメイルライダーはすぐにブリーフィングルームへと集合してください』
「「「「こんな忙しいときに出てくるな!!」」」」
突然のドラゴン警報にゾーラとヒルダ、ロザリーとクリスはたまらず叫んだ。
「「はぁ…………仕事したくない…………」」
「「「「それはこっちのセリフだ!!」」」」
今現在の問題児二人の発言にまた四人はイライラと叫ぶ。と、その時、
「フフ……フフフ……」
エルシャがどういうわけか微かに笑い始めた。そしてどういうわけだか手にはどこから取り出したのか見覚えのある鞭が握られており、隣に居たヴィヴィアンは顔を青くしている。
「ねぇ二人とも……」
「「ヒ!!」」
アンジュとサリアは今さっきまでの虚ろな表情から一変、覚醒したように目を見開くのだが、その表情はかなり青く、額や背中からイヤというほどに、それこそ滝のような勢いで冷や汗を流している。
「あなた達もメイルライダーなのよ……ドラゴンを狩るっていうちゃんとしたお仕事があるのよ……それを自分の気持ちだけで投げ捨てるなんて……随分と余裕があるわね~」
「「……」」ダラダラ
「仕方ないわね~、二人ともしたくないなら……私と一緒にO☆HA☆NA☆SHI死に逝きましょ?」
「「い、イヤ…………」」ガクガクブルブル
二人はどういうわけだか急に震え始める。だがそれは彼女達だけでは無かった。
「「「「」」」」ガクガクブルブル
「なにやってんだ、お前ら?」
ヒルダ以外の第一中隊メンバーの四人も突然として震え始めた。無理もない、彼女達も形こそ違うがエルシャによって調教された過去が一度あるのだ。その恐ろしさは思い出すことすら本能が許さず、覚えていても発狂しはじめる者がほとんどだ。
「ゾーラ隊長、少し三人でO☆HA☆NA☆SHIして来ますから、司令にはよろしく言っておいてください」ニコッ
「お、おう分かった。頼んだよ」ガクガク
すると五人は逃げるように立ち去る。後ろは見なかった、見れば自分達の命が無いと直感的に悟ったからだ。
「さぁ、二人とも
O☆HA☆NA☆SHI死に逝きましょ?」
「「い、イヤァァァァァァァァァァァァァ!!」」
その日、アルゼナルに二人の少女の悲鳴が轟くのだが、その事を覚えている人間は居ない…………。
今回はアルゼナルメンバーが逃げ出した為に機体紹介はありません。ご了承ください。