なお番外編のため、今回と次回も機体紹介がありませんので、楽しみにしていた読者の方は申し訳ありません。
それではどうぞ
「監察官殿、報告書を」
私は最近になって服用し始めた『ローゼンブルム王国』特性の胃薬と頭痛薬を服用しながらそう言った。
「はい。二名のノーマ…………これがアンジュとサリアによって引き起こされたパラメイルの修理費用及びメイルライダー達の精神的被害の報告書です」
提示された書類を見て私に薬が効いてないのかと思うくらいの頭痛と胃の痛みを感じた。
そこに書かれていたのは先日の『パラメイル乱闘事件』での被害の詳細と共にそれに対して掛かる費用の見積もりだった。そしてその見積もりには少なくとも0が十桁は下らない程の金額が明記されている。
「一体どうやったらこんな額を叩き出せるのだ?」
「パラメイル合計30機前後を完全修理しようとすればこんなものでは?」
私は思わず頭を抱える。確かに30機近い機体を半壊させればこんなとんでもない額を叩き出すのは当然だ。しかも中にはフリット技術顧問の『ガンダムAGE-1F ガレスト』も大分損耗してしまい、はっきり言って現戦力は修理のほぼ終えた第一中隊のパラメイル(ダルマになったミランダの『グレイブ』は除いて)だけだ。
「……そういえばアイツらが戻ってくるのもそろそろだったな……」
「アイツらって……あのアセムとゼハートの二人ですか?」
監察官殿は首を傾げて聞き返す。
「それ以外に何があるんだ?パラメイルの数が圧倒的に足りない今、アイツらが戻ってこなければ基地が機能しない。幸か不幸か、報告通りならアイツらはどうやらMS三機とカスタムパラメイル二機の増援を持ってきてるという話らしいしな、それに頼る他ないだろ」
私は椅子の背凭れに寄りかかり、吸っていた煙草を灰皿へと押し付ける。
「まぁそれまでの辛抱だ監察官殿。私達もあの二人が何かしでかさないように気を引き締めないとな」
「はぁ……では私は委員会の方に定時の連絡がありますので」
そう言って監察官殿は私の私室から出ていく。一人になった私は机の中から一冊の本を取り出した。
(アセムが来てからアンジュは何かが変わり始めた。それはアンジュだけではない、サリアや第一中隊の人間、ひいては整備部の奴らもだ)
本を開くと、そこには昔の私やジャスミン、そして一人の男が映っていた。
(『ユウ』……私はお前や仲間達の事を忘れてはいない。そしてあの時の誓いも……全ては『リベルタス』の悲願の為に)
***
「アンジュのバカ~!!私の、私のグレイブを~!!」
私は部屋で泣きながら度数のかなり高いウォッカを飲む少女……ミランダの介抱をしていた。
もともと物事を溜め込みがちな性格なミランダだが、お酒が入るとどうやら泣き上戸になって溜め込んだものを吐き出してしまうらしい。
「だいたいアンジュが来たから、アンジュがあんなことをしなければココは……ココは~!!」
「む……確かココというのは私達が来たときに墜ちてしまった少女だったな」
どうやらアンジュの事を憎く思っているのは『乱闘事件』が原因では無かったようだ。
「そうですよ~!!ココとは幼年部の頃からの付き合いで、いつも三人で一緒にいて、ちょっと天然だったけど良いやつで……元皇女のアンジュを慕ってたんですよ~。なのに……なのに~!!」
「……そうか」
私は何も言えなくなった。どうしてかは分からないが、それでも、この少女がある意味で私と似ているように感じたからだ。
(親しい者を目の前で殺される、か。この少女は危うい、私に似て)
私自身、目の前でユリンを……好きだった少女を殺された。その怒りは未だに私の胸に残っている。それがなければ私は地球連合の総司令官になれてなかったかもしれない。
「……ミランダ、君はまだ戦いに戻りたいと思っているのかね?」
「ヒッグ!!当然ですよ!!アンジュに好き勝手やられて、ココを殺されて、私に残ってるのはドラゴンと戦うことだけなんですよ~だ!!」
「……なら私が君の機体を造ってやろう」
「へ?」
ミランダのつぶらな瞳が此方へと向けられる。
「君には才能がある。それはアンジュにも負けるとも劣らないものだ。だが『グレイブ』などの量産機ではその才能を生かしきれない」
「…………本当ですか?」
ミランダはグラスをテーブルに置いて聞いてくる。
「本当に私は……アンジュにも勝てる才能があるんですか?」
「……絶対に勝てるとは保証はできない。だが才能はある、それを傲らずに磨いていけば悪くても対等に、良ければ圧倒することができる」
私は多少話を盛りながら少女に言い聞かせる。この頃の少女を納得させるのはこういうことが一番効果的だからだ。
「フリットさん」
「なんだ?」
「機体の事……お願い……しま……」
そこで少女は意識を手放した。アルコール度数の高いウォッカを何杯も飲んでいたのだ。どれだけ酒に強くても潰れてしまうのは当然だった。
「やれやれ……私もヤキが回ったな」
私は少女をベッドに寝かせると、静かに、だがどこか笑顔で眠る少女の顔を見て、そんなことを思うのだった。
(マナもノーマも関係ない……私がここに居る以上、もう誰一人とて失ってなるものか……そうだろ、ユリン、ウルフ……)
今は亡き穏やかな少女と軽快な戦友にそう誓いながら、私は少女の部屋から出るのだった。