「…………」
私はまたココの墓前に来ていた。昨日の夜来たばかりだというのに、既に供えた花々は萎れかけている。
私には本来、彼女の冥福を祈る権利は無い。何故なら私の身勝手のせいで彼女は散らなくていい命を、ドラゴンによって儚くも吹き飛ばされたからだ。
「……変えられないってことなのかしらね」
呟くように重たい口を開く。それは私という人間……いえ、ノーマを表すに適しているのだろう。
昔、私の行いせいで大切な妹であるシルヴィアの両足を怪我させ、今も車椅子での生活を余儀なくされた。
そしてあの時も、私の身勝手で私を気にかけてくれた一人の少女を死なせた。私が殺したも同然だった。
「どれだけ私が変わろうとしても、ノーマである私には全てが無意味……」
私は代わりたいと願った。シルヴィアを怪我させたあの日、全てを自分のせいだと悲観し、できるなら私とシルヴィアの立ち位置が変われば良い、そう思った。
かつて私に使えていたモモカや親衛隊だったエインも、私には誰にも負けないカリスマ性があると言っていたが、私にとってはどうでも良かった。
何かを犠牲にしてまで得たカリスマなど、力など、私は欲しくはなかった。私は誰も傷つかずに得られる何かが欲しかった。それが『エアリア』というスポーツにのめり込んだ理由かもしれない。
でも全てが違った。私がノーマだから、全てを傷つけ、自分さえも傷つける。誰からも理解されず、拒絶される、それが当然なのだろう。私がノーマだから。
「――始まりの光 キラリキラリ 終わりの光 ルララリラ……」
永久語り、母が教えてくれたこの歌は私の心にとって唯一の救いだった。この歌の歌詞には、まるで自分自身がいるように感じられたからだ。
「――流れ流れては美しく また生と死の揺りかごで柔く泡立つ……」
「――良い歌じゃねえか」
私が振り返ると、そこには私にさっき怒鳴り付けたヒルダが立っていた。
「……何しに来たのよ」
「別に、テメェが司令室から勝手に居なくなったから、連れ戻しに来ただけだ」
「……そう」
私はそれだけ言ってそそくさとこの場を後にしようとする。そしてヒルダの横を通りすぎようとした時だった。
「――やっぱりテメェは屑だよ」
彼女のその言葉を聞いて立ち止まった。
「……どういう意味よ」
「そのままだよ。自分の決めたこと、やったことすらも他人から言われたってだけでやめちまう、信念も覚悟もねぇ、ただのノーマ以下の屑だって言ったんだよ」
「ぐ!!」
私は彼女の服の襟元を掴んで睨み付けるが、彼女もそれ以上の睨みを効かす。
「私のどこをどう見たらそんな風に言えるのよ!!」
「さっき出ていったときや、今の行動を見たら誰でもそう思うだろうさ。言いたいことだけ言って言い返されたら逃げる、自分の意思で司令室から出ていったのに他人から言われたから戻る、テメェの行動は家畜以下の屑なんだよ!!」
「く!!」
私は思わずヒルダを殴った。だが彼女は平気な顔で立ったままだ。
「図星着かれたらすぐに手を出す。ホント、テメェはノーマ以前に畜生と同じぐらいの考え方しか出来ねぇみてぇだな……」
「黙れ……」
「いいや黙らねぇよ。だいたいテメェ、私ら全員のことを信用してねぇんじゃねぇのか?」
ヒルダのその言葉に目を見開く。図星だった。
「なんで分かるんだ、って言いたそうな目だな。単純な話、テメェと私は要所要所で似てるんだよ。同じノーマであり、物心ついてる頃まで人間と一緒に暮らしてる所とかよ」
「……だから?そんなことだけで私の事が分かるって言いたいの?」
「それだけじゃねぇよ。お前が第一中隊に来たとき『これ全員がノーマなの』、って言ったよな。私もおんなじことをゾーラの目の前で言ったんだ」
ヒルダの言葉に驚きを覚える。私が見ている限り、こいつと小判鮫二人はゾーラに対してかなり盲信している感じだったからだ。
「そしたらゾーラ以外の連中にぶん殴られてよ、それもあって人間不信……ノーマ不信か?とにかくそうなって、段々と孤立して幼年部の授業をサボるようになってった」
懐かしいようにいう彼女は墓地にある木に寄り掛かる。
「けどそんなときさ、ゾーラだけは私をずっと気に掛けてくれてた。最初はウゼェって思ってたのにしつこく構ってきやがって、それが一週間、一ヶ月と続いて何時からかゾーラが近くにいるのが当たり前になってた。そしてどうやって調べたんだか、私の誕生日だった日にゾーラは私の好物のリンゴを籠一杯に持ってきたんだ。しかもゾーラの奴、大枚はたいて、終いには指を怪我してまでアップルパイを作ってきやがった。私のためにだ」
私は想像したが、あのレズビアンなゾーラが態々ヒルダの為だけにそんなことをするとは、しかもメイルライダーの大事な指を怪我してまでやるとは到底思えなかった。
「けど私は、そのアップルパイを食べなかった、むしろ出来たそれを払い捨てちまった。まだノーマ不信だった私はそんときのゾーラの気持ちを疑ってたんだ。そしてあの日、ドラゴンの襲撃があって、ゾーラは片目を失ったんだ」
「…………え」
「指の怪我でパラメイルを上手く扱えなかったみたいでよ、大型ドラゴンの攻撃をもろに喰らったんだ。私はすぐにゾーラの見舞いに行って、言ったんだ。私が居たからゾーラが怪我しちまったんだって」
「それは……」
「けどゾーラはそんな私を責めるどころか頭を撫でてくれたんだよ。『お前に何の罪もない、ただ私が不器用だったからヒルダを助けてやれなくて、自分も傷つけちまっただけだ』って、ゾーラは笑ってたよ。そんで私は聞いたんだ、なんで私なんかを構うんだって」
「……それで」
「『私らノーマは確かに人から化け物扱いされてるのかもしれない。けど、ノーマってのは大概が心に大きな爆弾背負ってるんだ、特にテメェみたいな人間と一緒に暮らしてた奴は特にだ。だから私らを化け物呼ばわりすることで自分は違うんだって証明したいんだ。そしてそういう奴等は大抵プライドが高いうえに脆いんだ』って言ってた」
ゾーラが昔に言ったとはいえ、ヒルダから聞かされるとかなりムッとする。確かに私はプライドは高いが脆いというほどではない……筈だ。
「そしてこうも言ったんだよ。『だからこそ、私みたいな誰かがそういうやつの支えになってやらなきゃいけねえんだ。そいつから疎まれようとも、嫌われようとも、そいつが独りじゃない、側に誰かが居るって思われる必要があるんだ。でないとそいつの心が折れちまった時、他人の事も自分の事も分からなくなっちまうから』ってな」
「…………」
「あの言葉は今でも忘れらんねぇ。ゾーラがそう言ってくれたから、私は独りじゃなくなった。喧嘩も命令無視もするが、それでも心を許せる奴が出来たんだ。テメェはどうなんだ?」
「私は――」
ヒルダに指摘され、私は今までを少しだけ振り替える。
アンジュリーゼからアンジュとなって、訓練をして、他のノーマと話をして、そして自分の身勝手でココを殺した。
否、それだけじゃない。アンジュリーゼの時も自分のせいでシルヴィアを……大切な妹を歩けなくさせた。
「私は……償わなきゃいけないのよ」
「償う?誰にだ?」
「ココに、シルヴィアに……私のせいでここに送られたノーマの為に…………私の命の全てをドラゴンに喰わしてでも、もう誰にも傷ついて欲しくない」
「テメェ……まさか何時もの独断専行も……」
ヒルダは有り得ないというような顔で此方を見る。
「そうよ……傷つくのは私だけで良い、死ぬのは私が先になれば良い。私が出来るのはそれだけだから……」
「――それは違う!!」
大声が聞こえ振り返ると、そこには見慣れた彼が立っていた。
「ア……セム……」
「アンジュ、自分だけが傷つけば良いなんて、そんなのは間違ってるよ。独りじゃ何も守れないんだ、自分だけが傷ついても、そんなのは何の償いにもならない……」
アセムはそう言うといきなり私の事を抱き締める。
「もっと俺を……皆を頼ってくれ。アンジュが傷ついて悲しむのはみんななんだから……」
「アセム……」
「それにテメェは一応第一中隊の中じゃ新入りなんだ。少しは先輩の事を敬えってんだ」
「ヒルダ……」
その時、私の中の何かが溢れ出した。それが涙だと気付くのに少し掛かった。
「あ……」
「今は泣いても良い……だからアンジュ、君は独りじゃないんだ」
「う、うぁぁぁぁぁ」
私はアセムの胸のなかに顔を埋めた。関を斬って溢れ出すそれは、いつ以来の涙だったか、私には分からなかった。
その日、一人の少女の嗚咽がアルゼナルの海に響き、アンジュ、否、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギという少女の咎の軛が外れるのだった。
ジ「教えて、機体紹介……」
フ「まさか大人二人がこんな事をするとはな……」
ジ「まぁ今のところ、揃って出番も少ないからな。こういうところで少しでも出ておかねば」
フ「違いないな。兎も角今回の機体は『バッフェ』だ」
ジ「元ネタは『革命機ヴァルブレイブ』に登場する小型ロボットだな。アニメ本編では主人公達が駈る『ヴァルブレイブ』に悉く壊されていった量産機だ。シールドに放熱ユニットがついていたり、集団で固まって強力なビームを防いだりもできる、『ヴァルブレイブ』という作品においては主人公達に壊された以上にかなり苦戦を強いてもいる」
フ「本作ではミスルギ皇国やローゼンブルム王国など、主要国家の自衛用戦闘マシーンとして扱われているが、今のところはテロリストに奪われて良いように扱われている」
ジ「まぁ機体自体がパラメイルのように最低限の大きさしか無いから、非常食など余分な物は入っていないうえ、スピードもパラメイルに比べて遅いことから、時代遅れと言われる事もある」
フ「しかし、よくこんな機体で大きさ的にスー○ーロボ○トサイズの機体と戦えた物だ。スパ○ボなら恐らく主人公達のはLサイズに対してバッフェはSサイズだろうに……」
ジ「まぁその分、製造のコストがかなり安いからな。質より量と言ったものだろ」
フ「それについては、まぁ……まだパラメイルの方がマシだ、というだけにしておこう」