「はぁ……」
アンジュが泣いた日から約数日が経った。アルゼナルは何時もの雰囲気が中を覆い、俺やゼハート達転移組もその中に交わっていた。
といっても少しも変わらない訳ではない。アルゼナルには大きく四つの変化が起きた。
一つは新しい転移者がアルゼナルに来たことだ。名前は早乙女アルト、バルキリーという戦闘機のような姿へと変形するロボットに乗る男で、俺やゼハートの一つ年下だった。少しぶっきらぼうだが面倒見が良く、また転移する前はそれなりの実力者で、尚且つ『インセクト』が居た世界の住人らしい。
インセクト…………本来の生物名『バジュラ』はアルト達が居た世界にいる昆虫型生物で、一つの個体ではなく集団で一つの意識を共通する。そしてバジュラは特殊な素養を持つ歌に反応し、アルト達の世界では最終的には人類と共存する事になったらしいが、この世界でのドラゴンとの共通点は知らないようだ。
二つ目はまだ仮設だが『AGEビルダー』の復活だ。父さんが悩んでた時に偶々キラさんが話を聞いてみると、それならできる、とキラさんが軽く言ってしまい、数時間後には本当に設計図を『AGEシステム』から引っ張り出して来たのだ。これには俺もゼハートも目を見開いて驚いた。
お陰で整備部総動員でビルダーを創作しており、ドラゴンが何故かあまり来ないお陰で急ピッチで進められている。父さん曰く「私が造り上げたときよりもだいぶ速く完成に近づいている」との事だ。
三つ目は、というかこれが変化に入るか分からないがアンジュとヒルダが凄い仲良くなった。つい数日前まで互いに睨み合ってたのが嘘のように変化したせいで、特にサリア、ロザリー、クリス、ゾーラの四人は熱でもあるのかと心配したぐらいだ。
ついでにアンジュも今までの独断プレイが影を潜め、まだ不馴れだがヒルダやサリアとのコンビネーションを取っている。まだロザリーやクリスは収入が少ないと文句は言ってるが、それでも独断プレイしてたときよりは良くなっているようだ。
そして四つ目は、これが一番個人的に大変なのだが……
「待ってくださいお姉様!!」
「アンジュリーゼ様ぁ~~」
「ふ、二人とも、少し落ち着きなさい」
どういうわけかアンジュの妹と従者、シルヴィア皇女とモモカがアルゼナルに永住してきた事だ。どうやらあのテロの時にジュリオさんからここに避難しろと言われたらしく、途中でアルトさんの護衛のもとここまで来たようだ。
まぁそれは別に良い。何せ俺やゼハート、デシルさんはあの廃墟と化したミスルギ皇国を見てしまった、あの中でまだ幼いシルヴィア皇女が出来ることは余りにも少なすぎる。だが、
「「「「「「「「「「いい加減にしろぉぉぉ!!」」」」」」」」」」
俺やその場に居た第一中隊及び転移組の人間が一斉に叫んだ。それに驚いてアンジュ、シルヴィア、そしてモモカは素っ転んだ。
「アンジュ!!少しは妹の躾ぐらいちゃんとしろよ!!騒ぐのは構わないけど迷惑を考えろ!!」
普段荒らげない声を大にしてアンジュに少しばかり説教を始める。辺りの全員は、今日はアセムか……、と馴れたように呟いている。
というのもシルヴィア皇女が来て以来、基地内は一気に騒がしくなったのだ。それだけなら何時ものアルゼナルなのだが、問題はその被害だった。
来て次の日の朝、二人の重度のシスコンから始まり、シルヴィア皇女は部屋で大人しくするどころか訓練中のアンジュを追いかけるのだ。それで転べば甲斐甲斐しくアンジュが助けてあげ、またシルヴィアが転んだからというだけで自分のキャッシュを叩いてまで、態々道を補整するのだ。
それだけではない。モモカやシルヴィアを少しでも貶そうと影口を叩けばアンジュが鬼のごとく現れてはその言ってた奴等を実弾が装填された銃で脅すのだ。
いくらか前よりアンジュが頼るようになったとはいえ、はっきりいって心労が溜まりに貯まるため勘弁してほしい。むしろ別の意味で胃が痛い。
「だってアセム……」
「だってもへったくれもあるか!!だいたい昨日渡された請求書見たのか?」
「」
「顔を背けるな!!」
実際請求額をチラリとでも見てなかったらこんなことは言わない。だって0が十個近くあったんだ。いくら第一中隊きっての稼ぎ頭のアンジュでもこの額は一括で払えるわけがない。
「サリア、君からもなんとか言ってくれよ」
「……はぁ……仕方ないわね」
と、俺の後ろの席で湯呑みで温かい緑茶を飲んでいたサリアが溜め息と共に立ち上がる(因みに今持っていた湯呑みは俺がミスルギ皇国に行ってたときのお土産だ)。
「アンジュ、ここ最近の貴女が今までに比べて協力的だってことは少からず理解はしているわ。それにシルヴィア皇女の現状も不承不承ながらには、でも、だからと言ってシスコン過ぎるわよ。もう少し……」
「わ、分かってるわよ。けど……私にとって残された家族はシルヴィアだけだから……どうしても、ね」
アンジュはモモカと笑みを浮かべてながら話をしているシルヴィアの方を見つめる。
「そりゃあアンジュが言いたいことは……分からないわけでもないけど……」
「母親はアンジュを守って死んで、父親は責任を取らされて処刑、実の兄だったジュリオさんは現在行方不明……か」
そう、復興が進むミスルギ皇国の党首であるジュリオさんは、あの日以来姿を見ることが無くなってしまったのだ。黒の騎士団やミスルギ皇国の警察組織に捜索してもらってはいるが、今のところ何の手掛かりも見つかっていない。
アンジュ自身はついこの間まではジュリオさんのことを『母親の仇』という認識だったが、仮にも現状生き残ってる血の繋がった兄妹であるところから、俺の行方不明という言葉に少しだけ項垂れる。
「ジュリオ兄様は確かにお母様の仇で笑い方が下品で常に上から目線のどうしようもないクズだったけど、少なくとも視野が広いし国民を大切にする人だった。ノーマの私とまだ幼いシルヴィアと違って国の長としてなら十二分に機能する人だし、何より外交筋ではそれなりにパイプを持ってた筈だから、ミスルギ皇国は今ごろ大荒れでしょうね」
「アンジュ、貶すか誉めるかどっちかにしなさい。どっち付かずは最終的に自分を苦しめる事になるわよ。…………私が言えたことじゃないんだけど」
サリアの後半はよく聞こえなかったが、何となく言いたいことは分かった。
「おいアセム!!」
と、いきなり声をかけられたかと思うと、そこには女顔と言われても仕方ない位に整った顔の美青年――早乙女アルトがそこに居た。
「どうしたアルト?」
「フリットさんが機体のマイナーチェンジしたから確認しろって。あと新型量産機のテストだとよ」
「分かった。そう言えばゾーラさんは居ないのか?」
「…………お前は俺の心労を増やさせたいのか」
どす黒いオーラを放出させながらアルトは俺のことを睨み付ける。
というのもアルトはアルゼナルからの到着したその日、さっき言った通りの美青年の顔が災いしゾーラ隊長に捕まって数時間程度、本人曰く口外できないような事になっていたらしい。それ以来毎日毎日ゾーラはアルトにかまう為にアルトの心労は溜まりに溜まっているのだった。
「そういうわけじゃ無いけど……なんていうかアルトがそういう風になってるのが日常になってるし」
「そんな日常は断固として断る!!」
「でも、どうせアルトは一人身でしょ?軍人なんだから仕方ないかもしれないけど」
アンジュはジトリとした目でアルトを睨む。
「軍人じゃなくて一応職業上は学生兼傭兵だ。それに確かに一人身だがお生憎様、こっちに来る前はちょっとした三角関係になってたからな!!」
「へ?どういうことよ?」
「簡単に言えば、俺に惚れてた女が二人居たってこと。まぁこっちに来ちまったから結局的にどっち付かずなったうえに、戻れるかは分からないからどうしようもないんだが……」
「ふーん……随分と女泣かせなのね、二枚目の癖に」
「!!」
アンジュの最後の一言にアルトは少し身を固くする。
「?どうかしたの?」
「え?あぁ、いや……『二枚目』って言葉にちょっと……な」
「それってなに、アルトって役者かなんかやってたのか?」
「…………さぁな、これ以上はプライベートなもんだし……」
アルトはそういうとさっさと食堂から出ていった。若干疑問に残るが、俺は父さんが呼んでいる格納庫へと足を運ぶのであった。
アル「教えて、機体紹介だ」
シル「今回は私たち二人みたいですね」
アル「そうだな、じゃあさっさと済ませるか。今回は『VF-29 デュランダル』だ」
シル「今作の現在唯一のバルキリーですね。確か戦闘機の姿と人形の姿に変形できるんでしたね」
アル「正確に言えばバルキリーは戦闘機形態『ファイター』、その中間の『ガウォーク』、人形形態『バトロイド』の三形態に変形できる。そのバルキリーの中でも『デュランダル』は最新鋭機として開発された機体だ」
シル「最新鋭って言いますけど、どこが最新鋭なのですか?」
アル「簡単に言えば素材だな。この『デュランダル』には通常の素材の他に『フォールドクォーツ』と呼ばれる、『バジュラ』の体内から少数だけ取れる希少鉱石を使っているんだ」
シル「あれ?でしたらその『バジュラ』はまるで生きて群れをなす鉱山みたいな物なのですか?」
アル「……その言い方にはかなりの違和感を感じるが、まぁそういうことにしておいてくれ……」