あのドラゴンとの戦いのあと、俺らは彼女達に連れられて海洋に浮かぶ軍事基地『アルゼナル』へとたどり着いた。
「なぁ……ゼハートに父さん」
「どうした……アセム」
「俺らって完全に空気じゃないかな?」
「……かもしれん」
俺らがそう思う理由、それはここにいた人間だった。思えばさっきの戦いで男が居なかった事から考えられる事だ。
辺りには女性、もしくは女子しか居らず、しかも格好が何というか……色々と派手だった。
「アンタらがさっきの機体のパイロットかい?」
アセムが声の方向を振り向くと、これまた派手で、しかも色々と露出したスーツを着た女性が立っていた。その後ろには父さんが助けたという少女二人も立っている。
「第一中隊、中隊長のゾーラです。後ろのはアンジュとミランダ、貴女方が助けた新兵です」
二人のうち、黒髪の方……ミランダはペコリと頭を下げる。金髪のアンジュという少女はこちらを見つめるだけで、ゾーラは呆れている。
「アンジュ、アンタはありがとうとか言えないのか?」
「……」
アンジュは何も言わず、ゾーラの方を睨むとそのまま立ち去ってしまう。
「まったく、これだから元皇女様は……」
「皇女?」
俺は彼女の言葉に疑問を覚える。
「ミスルギ皇国元王位継承権第一皇女、アンジュ。それがアイツさ」
「そんな人が何で……」
「ノーマだからさ」
「なんだそれは?」
父さんは気になるようでゾーラさんに聞いてくる。
「その事は司令官殿に聞いてください。……というより今その人が来ましたが」
そう言って彼女の後ろを見ると、長い黒髪を一つに纏め、右手は黒い義手のようなものを着けた女性が歩いてくる。その後ろからまるで秘書官のような感じの女性が追随してくる。
「私がこの基地の司令官、ジルだ。よろしく頼む」
「監査官のエマです」
「フリット・アスノだ。早速だがこちらの世界について知りたい」
「その前に一つ聞く。お前達の機体はパラメイルではないのか?」
「なんだそれは?MSとは違うのか?」
ゼハートは分からないように答える。そしてジルさんは少し頤に手を当てると、
「……良いだろう。では指令室に招待する」
「あ、俺はちょっと……」
俺は慌てて断る。
「どうしたんだアセム?」
「なんかさっきの……アンジュさんが何て言うか……放っとけなくて」
「……分かった、会談には我々二人が応じる。そちらも構いませんね?」
「良いだろう。アイツには少し話し相手が必要だしな」
俺はパイロットスーツのまま、彼女が向かった方へ走り出した。
~指令室(視点ゼハート)~
招待された指令室はまるでどこかの社長室みたいで、私達とジルさんは向かい合って座る。
「一つ聞く。ここは地球か?」
「?当然だ。それがどうかしたのか?」
「……いや、何でもない」
フリットさんは出されたコーヒーを一口含むと、少し苦い表情を浮かべる。どうやら余り良いものでは無いらしい。
「さて、まずここは先程も言ったが地球、さらに言えば海洋に浮かぶローゼンブルム王国管轄の軍事基地、名は『アルゼナル』」
「『アルゼナル』……軍事工厰か。いかにもな名だな」
私は瞬時に意味を理解するフリットさんに驚きながらも、二人の話を聞いていく。そして要約するとこういうことになった。
この世界はマナという不思議な力があり、こちらの世界で言う魔法のような事をできる。が、ごく一部にその力を使えず、またマナを無力化する者が居る。それがノーマであり、ここに居る女性だという。
「実際に見た方が早いかもな」
そう言ってエマさんが手を翳すと、緑色に近い輝きがカップを包み込むと、触れてもいないのにそれは浮き上がる。
「これがマナだ。外の人間はこれを『マナの光』と呼んで神格化してる者もいる」
そしてジルさんがカップに指を触れると、軽い破砕音と共にカップが落下を始め、そして陶器が割れるような音を立ててカップが壊れた。
「分かっただろ?これがノーマだ。マナの力を無力化する。外の人間はノーマの事を人として扱わない、化け物として見る方が大半さ」
「だが、なぜここには女性しか居ない?」
「簡単なことさ。ノーマは女性だけだからさ」
ジルさんは当然とばかりに言い放つ。エマさんも同様の表情で、選別意識が強いように見える。
「つまり、ここに居る者はエマ監査官を除いて全てノーマである。そういうことか?」
「ああ、そうだ。」
「だとすれば大いに人権侵害だ!!地球に住まう者がお互いを差別しあうのに、なんの意味があるというのだ!!」
「言ったはずだ、『ノーマは人ではなく、野蛮な化け物だ』、と。私達ノーマはマナを打ち消すために世界を滅ぼすと言われてきたのさ」
「くっ……」
私は憤りを感じたが、フリットさんがそれを静止する。見ると彼も握った拳を微かに震えさせていた。
「確かに、その『マナ』というものを日常的に使い、尚且つそれが社会のサイクルを生み出しているなら、ノーマは化け物として扱われるのも無理はない」
「フリットさん!!」
「だが、私はそれを認めることはできない!!」
フリットさんは怒りの表情を浮かべて立ち上がる。
「力ある人間は、力無き人間を守らねばならない!!それをしない彼らを、私は絶対に認めない!!」
彼はそう言うと、席を立ち上がって窓の方に歩いていく。
「私達の世界には『Xラウンダー』と呼ばれる人間が数少ないがいる。彼らも外の人間のような力を持っていた。私やここに居るゼハートもそうだ」
「『Xラウンダー』?」
「人間の脳にある『X領域』にアクセスし、未来予知やテレパシー等ができる能力です。普通の人間には出来ないですが、開花すれば人間離れした反射神経を発揮したりします」
ジル達は分からないような顔をすると、いきなり私の『X領域』が干渉した。
《このように、頭に直接語りかける事も可能だ》
「な、なんだ?これは?」
ジルさんは頭に手を当てると苦悶の表情を浮かべる。どうやら彼女には少なからず『Xラウンダー』の適正があるみたいだ。逆にエマさんは聞こえていないようで、突然のジルの行動にオロオロとしている。
「私がまだ少年だった頃、これと同じ力を持った一人の少女が居た。彼女は戦いを好まず、平和を願う健気な娘だった」
フリットは再び口で話を始める。それに女性二人は耳を傾ける。
「だが、彼女はあるヴェイガン……敵に唆されて操られてしまった。そいつは私に勝つためだけに彼女を使い、そして……殺した」
「「!!」」
私はその話を知っていた。というよりも知らなければいけなかった。何せそれは……
「私は力があったのに……守ろうと思った彼女を助けられなかった」
「さらに言えば、彼女は殺されかけたフリットさんを庇って、殺されてしまった。私の兄に」
「な!!」
「そんな!!」
フリットさんは分かってるようにこちらを見る。彼からしたら、私は彼の仇の弟だ。殺されてしまっても仕方ない事を兄はしている。
「だこらこそ力を持つ人間は、力を持たない者を助けなければならないのだ!!でなければ第二第三の私を生み出すことになりかねない!!」
彼のその言葉に、指令室は一瞬の静けさをもたらした。
~墓地(視点アセム)~
俺は基地の中を歩き回ると、リアカーを運ぶ彼女を見つけた。
「……」
「何ですか?一体?」
「あ、いや、後で少し話せないか?」
俺はアンジュにそう聞くと、彼女は少し頷いてまたリアカーを引いていく。俺は彼女に視線がいつの間にか釘付けになっていた。
「……」
「ん?貴方は先程の……」
俺は後ろを振り返ると、そこには先程のゾーラさんが身に付けてたスーツの色違いらしき者を着た少女が立っていた。
「えっと……貴女は?」
「サリアといいます。第一中隊副隊長を勤めてます。それよりどうしたのですか?さっきからぼうっとして?」
どうやら俺がアンジュの事を見ていたのを見られていたらしい。
「アンジュさんがちょっと気になって」
「アンジュが?どうしてです?」
サリアは首を傾げてこちらを伺う。
「何て言うか……似てるような気がして」
「?誰にですか?」
「少し前の自分と……」
それを聞いた彼女はなにかを考える素振りをする。そして思い付いたようにこちらの腕を引っ張り始めた。
「あ、ちょっと!!」
「少し話をさせてください」
俺は彼女に引っ張られてどこかへ連れていかれた。余談だが、この光景を見ていた複数の女の子から彼女が『抜け駆け』だの『お持ち帰り』など言われる事になったのはまた別の話。
俺が連れてこられたのは、先程MSを置いた格納庫らしきところの屋上だった。見るとヘリポートなどがあるだけで、回りには何もない。
「こういうとこって進入禁止なんじゃ?」
「普段は入るのがダメなんだけど、今回は隊長に許可を取ったから大丈夫よ」
サリアは浮かない表情をしながら俺の言葉に答える。辺りの海は綺麗で、波が静かに凪いでいる。
「それで、話したいことって?」
「貴方の事よ。さっき、自分とアンジュが似てるって言ってたじゃない」
どうやら彼女はその言葉が気になっていたらしい。
「…アンジュって、確か元皇女なんですよね?しかも『マナ』っていう特殊な力を使えない」
「そうね。ここに居る以上そうなるわ」
「そこの所が……自分も所謂『良いとこ育ちのお坊っちゃん』でしたから」
「へぇ~」
サリアは微妙な表情をしていた。
「俺は指令……さっきいた男性の息子で、父さんは特殊な力を持ってたんです」
俺は自分の境遇について話始める。『Xラウンダー』のこと、自分自身の劣等感やゼハートとの事、そして大切だった師のこと。全てをさらけ出した。サリアという少女は自分の話を最後まで聞いてくれる。
「……確かにね。貴方もアンジュも目の前で大切な人を亡くし、力の無さに苦しんで……でも貴方はどうやってそれを乗り越えたの?」
サリアはそう問いかけてきた。
「……俺は師匠であり隊長であった人に、命を救われました。その人は俺を庇って死にました。今思い返して見ると、あのときの自分は父さんを越える事にしか頭が回らなかった。そのせいで……しかもそれはこっちに来る少し前です」
恐らく時間では1日経ったか経たないかぐらい前のあの日、俺は父さんの幻影しか見えてなかった俺に光を照らしてくれた隊長。彼のお陰で今の俺がある。
「隊長も俺と同じで『Xラウンダー』じゃなかった。でも、それでもやり方があることを示してくれたんです。だから……」
俺はサリアさんの目の前に立つ。
「今度は俺が隊長のようになるべきなんだと思います。それが隊長から託された思いであり、俺が乗り越えられた理由なんだと思います」
そう言って俺は、先程来たドアを潜ってアンジュを捜し始めた。残された彼女は何かを決めたように、俺がいた場所を見つめていた。
はい、というわけで前回のフラグ回収はしませんでした~ww
まぁ、すぐに回収するつもりはなかったので、気長に登場を待っててください。