とある科学のシェルブリット   作:ラグーン

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前回の続きです。次はちょっと物語が動くと嬉しいなぁ!


第参話 原石

「——カズマの奴はどこじゃん!」

 

 授業も終わった放課後。とある高校の1年7組へと緑色のジャージ姿に髪を後ろで纏めた大雑把な格好をした教師——黄泉川愛穂が、扉を勢いよく開け押し掛けてきた。

 黄泉川は7組を見渡して、目当ての人物であるカズマを探すがその姿は見当たらない。

 

「カズやんならついさっき窓から飛び降りていったぜい」

 

「ボクもそれ見かけたで。なんなら終鈴鳴って、小萌センセが教室から出るのを見てから飛び込んで行ったから、クラスみんなが見かけとるよー」

 

 7組に所属しているサングラスの金髪の青年と、身長を180を超える関西弁で話す青髪の青年。カズマとよく連んでいる2人がクラスを代表をするかのように黄泉川の疑問に答えた。

 

「……ちっ!逃したじゃん!そこの2人はカズマがどこ行くか心当たりはないわけ?」

 

「いやー!ボクにカズやんの行く場所を予測するとか無理やで」

 

「青ピに同意だにゃー。その辺をぶらついてチンピラに喧嘩売ってるぐらいしか思い浮かばないですたい」

 

「それなら上条はどうじゃんよ?」

 

「……上条さんも知らないですよ?土御門と青ピが言うようにそこら辺をぶらついてるんじゃないですか?」

 

「……ほーん?その割には私から目を逸らしてるじゃんよ」

 

 黄泉川はこの高校内でも屈指の問題児で名高いカズマと、よく連んでいるのもう1人、上条へと尋ねれば上擦った声で目を逸らした。

 動揺をしているのを警備員に所属している彼女が見逃すわけもなく、それを援護するかのように先ほどの2人が口を開く。

 

「そういえば朝はやけに上機嫌やったもんね?」

 

「カズやんと一緒に登校してきた割にはたしかに元気だったぜい。ははーん?さてはカミやんは知ってるんじゃないですたい?」

 

「いやいやいやいや!上条さんはいっさい知りませんよ!カズマさんの居場所て心当たりはこれっぽっちもありません!」

 

「オッケー。上条はちょっと私と一緒に来るじゃんよ!」

 

 上条は嘘は付いていない。カズマがこの後に可愛らしい中学生2人とどこで過ごすのかは聞いていない。この焦りは単に彼が誰と一緒に居るかバレるのを避けるため必死に誤魔化しているだけ。なんたって事と次第によっては食事の奢りの件は消え、顔面かお腹に彼自慢の拳がノータイムで飛んでくるのだから。

 そんな上条の心情は黄泉川が分かるはずもなく上条へと近寄り、逃がさないように彼の襟首を掴む。

 

「ほんっとうに上条さんは知りませんよー!!無罪ですー!勘違いなんですよー!!」

 

「はいはい。言い訳は署で聞いてあげるじゃんよ」

 

「だぁぁぁぁぁぁ!!!不幸だーーーーー!!」

 

 ただで食事を奢ってもらえる約束が、逆に仇となってしまったことに嘆きながら上条は見当違いの理由で黄泉川に職員室へ連行されるのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「いらっしゃいませー!一名様ですか?」

 

 放課後になって高校から、窓から下校する脱走劇を果たしたカズマは第七地区のファミレスへと足を運んでいた。

 店内に入れば仕事中の店員に満面な笑顔で出迎えられて、先に連れがいると口を開いて通っていく。

 電話で呼び出した張本人を探すように彼は店内を見渡していると、それに気づいた佐天が手を挙げて呼ぶ。

 

「カズマさん!ここです!ここー!」

 

「たくっ……お前らもうちょっと分かりやすい所に座れよ」

 

 活気のある声で導かれるようにカズマは2人の対面席へと腰を下ろす。

 彼の目の前には放課後約束を強制的に取り付けてきた佐天以外にも、今日の朝に出会った髪飾りを頭に載せている初春飾莉の姿が。

 

「なんか一緒に来るとか言ってた奴か。名前は……あー、なんだっけ……」

 

「あたしの大事な親友の名前を忘れたんですか!?」

 

「忘れるもなにも、コイツの名前聞いてねえからな?」

 

「あれれ?初春の自己紹介まだでしたっけ?」

 

「してねぇよ」

 

「朝はバタバタしていて、自己紹介をする時間なんてなかったですから」

 

 佐天がこの子が初春だと軽く紹介をしただけで、カズマは初春から直接自己紹介をしてもらっていない。

 一度自己紹介をしても名前を忘れるぐらいに、他人の名前を覚えるのを苦手としているカズマへ、名前を教えるぐらいではすぐに忘れてしまう。

 

「私は佐天さんの友達の初春飾利です。風紀委員(ジャッジメント)に所属しています。よろしくお願いします!」

 

「へぇ。風紀委員(ジャッジメント)にねぇ。そこに五月蝿いのに聞いてるだろうがオレはカズマだ」

 

「そこの五月蝿いのってあたしのことですか!?」

 

「お前以外いねえだろ?」

 

「えー!そんなー!」

 

(……うーん。悪い人ではなさそうなんですよね)

 

 カズマと佐天の仲睦まじいやり取りを聞き流しながら、初春は目の前にいる男を観察する。

 初春は彼がファミレスに到着する間に、親友を助けてくれた不良(ヒーロー)との出会いの物語を聞いた。その話を聞いた後ではカズマは口は悪いが悪い人ではないのでは?と、初対面に比べれば印象はアップしていた。

 

「腹減ったからなんか注文していいよな?」

 

「はい。私と佐天さんも先にドリンクを注文しましたので」

 

「あたしのオススメはフライドポテトです!」

 

「それ小腹が空いてるから食べたいだけだろ?」

 

「えへっ!バレちゃいましたー?」

 

「あのねぇ……君はオレをなんだと思ってるわけよ?」

 

「それを聞いちゃいますか?えへへ!知りたいですか?佐天さんがカズマさんのことをどう思ってるのか!」

 

「興味ねえよ。……なんだよその不満そうな顔はよ」

 

 佐天が唇を前に尖らせて不満そうな顔を浮かべるのを見て、先ほどの発言が彼女にとってお気に召さなかったようだ。

 ガキかよった小言を言おうとするが、目の前の少女が中学生なのを思い出して言葉を呑み込む。

 

「だあー!!わかったよ!フライドポテトにしてやるから!それで機嫌直せ!」

 

「流石です!注文はあたしがしておきますねー!あっ、ドリンクどうします?」

 

「……ドリンクは好きにしてくれ。なぁ、いつもこうなの?」

 

「はい……いつもこんな感じです」

 

 フライドポテトを頼むと聞けば、さっきのが嘘だったように明るい笑顔を浮かべる佐天に、カズマはゲンナリとした顔を初春に向ければ苦笑いで頷かれる。

 呼び出しベルを押して店員を呼んだ佐天は慣れた様子でフライドポテトにドリンクを注文した。店員が去っていけば佐天は思い出したかのようにカズマへととある質問を投げた。

 

「そう言えばあたしを助けた後に、どうして風紀委員(ジャッジメント)から逃げたんです?」

 

「それ私も気になっていたんです。風紀委員(ジャッジメント)なのを私が告白しても反応が薄かったので。カズマさんは風紀委員(ジャッジメント)が嫌いで去ったんじゃないんですか?」

 

「あー……オレは別にアンタら風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)を嫌ってねえよ」

 

「それならどうして佐天さんを助けた後逃げたんですか?」

 

「説明するのが面倒なんだよ。特にアイツら」

 

 状況説明が面倒くさい、この一言に尽きる。

 喧嘩をしていれば風紀委員(ジャッジメント)で頻繁に出会う空間移動(テレポーター)使い。そして警備員(アンチスキル)は黄泉川愛穂。その2人の知り合いが口煩いので条件反射で逃げるのだ。

 誰のことを指してあるのか佐天と初春は分からなかったが、子供のような言い分に開いた口が塞がらない。

 

「あー……なんだっけ?アンタの名前」

 

「初春です。初春飾利!」

 

「そうそう、初春飾利。オレから風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)に喧嘩は売らねえよ」

 

 初春が自分に対して警戒心を抱いているのは彼は気づいていた。カズマは馬鹿ではあるが鈍感ではない、むしろ敵意には鋭い方だ。

 現状その2つの組織に対して、彼は自ら喧嘩を売る理由は全くない。彼なりに敬意を表しているつもりだ。登校している高校の体育教師の黄泉川なんて、子供には銃を向けない信念を掲げているのだ。

 そんな誇りを直接打ち明けられたカズマは庇護するべき存在と見做されているのに不満はあっても、極力こと荒立てる気分になれるわけがない。

 

「アンタらの組織には誇りがある。その誇りが捻じ曲がらない内は両方とも喧嘩はしねえよ」

 

「……わかりました。その言葉を私は信じます。それに、カズマさんは私の大切な親友を助けてくれた人ですから」

 

「それは喧嘩を買っただけだって言ってんだろ……」

 

 初春からも佐天を助けたと言われてガッカリと肩と落とした。

 誰がどう見ても、酔っ払いに絡まれていたのに佐天を助けた不良(ヒーロー)だが、その当人は頑なに喧嘩を買ったと主張しているのを2人はおかしそうに笑う。

 そんな仲良く談笑していれば注文していたフライドポテトにドリンクを店員が持ってきたのでそれを3人で分けながら食べ始める。

 

「その喧嘩で思い出したんですけど、カズマさんは何かしらの超能力を持ってるんですか?他にも何人か仲間が居たので超能力を使って、その人たち倒したのかなーと気になって」

 

「あん時の奴らは全員超能力は使ってこなかったから能力は使ってねえよ」

 

「つまり、その、無手ですか?」

 

「おう。酒を飲んでたのもあるが、あれぐらいの数なら素手で充分よ」

 

「喧嘩強いんですねー!」

 

 数日前の数人の酔っ払いを超能力を使わずに素手で撃退したと平然と話せば佐天は目を輝かせ、初春は立場もあり曖昧な顔を浮かべる。

 親友が影響を受けないことを心配しながらも初春も好奇心を抑えきれずに質問を続ける。

 

「カズマさんはどんな超能力なんですか?」

 

「オレの力はシェルブリットだ」

 

「しぇるぶりっと……?なんか不思議な名前だなぁ。初春は聞いたことがある?」

 

「いえ!私もはじめて聞きました。そのシェルブリットはどんなことができるんですか?」

 

「そんなの"殴る事"だけよ」

 

「えーっとカズマさんの超能力はレベルを教えてもらっても大丈夫ですか?」

 

「レベルなんていちいち覚えてねえ。小難しい話をぺらぺら並べられて、なんだっけな……原石?って言われたことだけは覚えてるね」

 

 ここ学園都市では能力者は2種類がある。1つは学園都市の能力開発で発現したもの。学園都市に住む者の殆どはこれで能力者へと覚醒する。

 そして2つ目が学園都市による人口開発ではなく、何かしらの原因が重なり超能力へ覚醒した者、そこ天然の超能力を原石と呼ぶ。

 原石の存在は一般では噂の域を出ておらず、一種の都市伝説になっているのだ。

 

「つまりカズマさんは学園都市の噂話の一つ!!人口的な手段に関係なく超能力を発現させた天然の異能者!!くぅー!!あたしたち歴史的な瞬間に立ち合ってるよ!」

 

「はい!まさか原石の人と会えるなんて……っ!」

 

 その都市伝説である原石が、自らの手で能力を開眼させた人物が、目の前にいると知った佐天のテンションは鰻登り。初春もその都市伝説を小耳に挟んでおり実在すると知ればテンションは上がるだろう。

 

(……上条もそうなんだが面倒いし黙っておくか)

 

 彼女たちが今朝に出会った上条当麻もその"原石"の1人。しかし、それを話すとどんな力なのかを、目の前の2人に説明を求められるのが目に見えているので、カズマは黙っておくことを選んだ。

 彼の持つシェルブリットの力よりも、上条の持つ力の方が希少価値が高いのをカズマは知っている。なんたって彼の"右手"の前ではシェルブリットが強制的に"解除”される。殴る事に特化したシェルブリットよりも上条当麻の右腕の方が異質だろう。

 

(原石かぁ。"特別"な力があるカズマさんが羨ましいなぁ)

 

 超能力に憧れて学園都市へと入学した佐天だが、初めての身体検査で受けた結果は才能無し。特別どころか、人工的の超能力すらも手に入れることができなかった出来損ない。

 原石という希少で特別な力を持つカズマ。そんな彼に無能力者(レベル0)の佐天は羨望の眼差しを向ける。

 

「——動くなぁ!!お前金を出せ!!」

 

「な、なに……っ!?」

 

「な、なんですか……っ!?」

 

 無能力者(レベル0)であることを佐天が思い悩んでいると、その思考を妨げるように店内に威圧的な声が響く。

 突然聞こえた脅迫に佐天と初春にびくりと肩が動き、視線を声の方へと向ければレジに居た店員に1人の男が刃物を突き付け脅していた。

 その光景を見て店内には動揺の声が走り、それは佐天と初春にも伝染する。

 

「強盗……っ!?こんな時間に……っ!?」

 

「佐天さんは隠れていてください!ここは私が——」

 

「——-じっとしてろ」

 

 怯えた顔を見せる佐天を落ち着かせて、風紀委員(ジャッジメント)の1人として立ちあがろうとした初春よりも先にカズマが席を立つ。

 その様子はついさっきまで穏やかだったカズマの顔は、眉間に皺を寄せて苛立っていた。初春は止めよしたがその気迫に押されて声をかけることができず、慌てて腕を掴もうとするが、それを佐天が親友の腕を咄嗟に掴んで止めてしまう。

 初春が危険な目にあって欲しくない思いもあるが、カズマならばこの状況をどうにかしてくれる、そんな信頼があった。

 

「佐天さん……っ!?」

 

「あたしたちは警備員(アンチスキル)に連絡を入れなきゃ……っ!ここはカズマさんに任せよ……っ?」

 

 強盗へと臆することなく右腕で拳を握りながら歩みを進めていく。佐天と初春だけではない、勇ましく立ち向かって行くその姿は店内にいる全員が目に留まる。

 

「な、なんだお前……っ!?近づくんじゃねえよ!?刃物持ってるの見えねえのか!?」

 

 拳を握り丸腰の男が獣のような笑みを浮かべ近づいてきた事に強盗は困惑し、レジに居た店員からカズマへと刃物を突き付ける。

 

「ああ見えてるね。目の前で気に食わない事をしてる奴がよぉ!!」

 

「こいつ馬鹿か……っ!?」

 

 刃物を向けられようともカズマは怯えるどころか、獰猛な笑みを更に深めながら吼えた。自分の命が危機に陥っているのに気合を入れるかのように叫んだカズマを男は困惑する。

 強盗が戸惑いを隠せないのは無理もない。カズマにとってこれはただの"喧嘩"だ。強盗を止めるためではない、店内の人を守るためではない、ただ目の前で気に食わない事をしているから喧嘩を売った、それだけなのだ。

 

「これはアンタとオレの喧嘩よ!!オレが売った!アンタはどうなんだっ!?買うのか!買わないのか!?」

 

「け、喧嘩!?頭イカれてんのか…っ!?ちっ!お前を見せしめで—-」

 

「——おせえんだよ!!」

 

 目の前の学生の奇行に動揺した強盗は、その体に刃物を突き刺そうと床を蹴るがそれよりも先にカズマが一歩踏み込んでいた。

 右腕で握っていた拳を振りかぶらず真っ直ぐに強盗の顔を鈍い音を鳴らしながら突き抜いた。

 強盗を襲ったのはたったの一撃。しかし、その一撃で男は手から刃物をこぼれ落とし宙を舞い床へ倒れ伏す。

 

「……凄い」

 

 遠目からでもその光景を佐天はしっかりと見ていた。凶器を持った相手だろうと臆さず、能力も使わず拳一つで強盗を倒したカズマの姿を。

 

「——警備員(アンチスキル)へ連絡は終わりました!カズマさんの方は……って!!カズマさんー!?」

 

 警備員(アンチスキル)へと連絡を終えた初春は強盗を素手で撃沈させたカズマを見て悲鳴に近い叫び声を上げた。

 凶器を持った人間相手に、彼が持つ原石の力を使わずに制圧はいくら腕に自信があっても無謀で自殺行為に等しい。

 このお店から受け取ったのか紐のようなもので強盗の両手を拘束するカズマに初春は慌てて近づき、佐天もその後に続いて行く。

 

「おん?なんだよそんな血相変えてよ」

 

「当たり前ですっ!相手は凶器を持っていたんですよっ!?それなのに超能力を使わないなんて危険すぎます!」

 

「終わったんだからそれでいいだろ?」

 

「全然よくありません!!」

 

「……なぁ、こっち宥めてくんない?」

 

「こうなった初春はあたしにも無理ですねー。でもすっごい右ストレートでした!!あんなに綺麗にカッコよく決めるなんて!格闘技とかやってるんですか?」

 

「格闘技とか習ってねえよ。喧嘩してたら勝手に身についたもんだ」

 

「カズマさんー!佐天さんー!」

 

 ついさっきまで強盗に襲われていたのが嘘だったかのように緊張感のない2人に初春は怒る。

 佐天は笑った誤魔化すが、カズマはどこ吹く風で適当に聞き流しているようだった。

 この馬鹿にどうやって説教をしようかと、ありとあらゆる手段を腹黒く考えていた初春だったが新たに人が入店してくる。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!こちらのお店の前に怪しい言動をしていた男が入ったと通報が——あら?」

 

「あっ!」

 

「あれ?」

 

「……げっ」

 

 聞き慣れた声に初春と佐天が視線を向ければ、そこには風紀委員(ジャッジメント)として同僚で友人である白井黒子だった。初春と佐天は友人との思わぬ再会に驚く。

 それとは対照的にカズマは苦手な人物に出会ったかのように顔を引き攣らせ体が凍りつく。なんたってカズマにとって一番、二番を競う出会いたくない人物。

 

「ここはお前らに——」

 

「——この距離をわたくしから逃げられるとお思いで?ふんっ!」

 

「……いだっ!?」

 

 白井の姿を見たカズマは押し切ってでもこの場から逃げようとするが、いつもならばともかく至近距離。空間移動(テレポーター)から逃げるには致命的な距離の近さ。白井は能力は使わずに逃げようとしたカズマの脛を容赦なく蹴り上げる。

 ついさっき強盗を退治したヒーローに待っていた報酬は、周囲からの感謝ではなくまさかの脛蹴りだった。

 

「やっっっと捕えましたの!人の顔を見る度に逃亡するのいい加減おやめになってくださいません?」

 

「てめえが人の顔を見る度に説教するからだろうがっ!」

 

「当たり前ですのっ!!能力があろうと一般市民!それを喧嘩を売られた、喧嘩売った、挙げ句の果てにオレの喧嘩、と減らず口を叩く貴方に説教するのは当然の義務ですわ!」

 

「それがお節介だって何度も言ってんだろうがっ!?」

 

「お節介ではなく!それがわたくしのし・ご・とですの!」

 

(……どうしよ?)

 

(わ、私には……佐天さんお願いしますっ!)

 

 目の前で口喧嘩を繰り広げるカズマと白井に2人は顔を見合わせていた。佐天と初春としては彼らの関係を追求したいが、この口論に割り込むにはそれはもう強盗に立ち向かうより勇気が必要そうだ。

 

「あ、あの、白井さんも落ち着きましょ?」

 

「……そうですわね。わたくしもつい取り乱してしまいましたの。佐天さんと初春に一つ尋ねますが……そこにいる男を拘束した殿方誰か教えてくださいます?」

 

「……あ、あははは」

 

「……白井さんの目の前にいる人ですねー」

 

「なんで答えてんだよ!?」

 

「どうせそうだと思っていましたの!気に食わないからと拳一つで単身で首を突っ込むのはおやめなさいと、何度も言っているのに繰り返すのはやはり大馬鹿ではありませんの!?」

 

 勇気を振り絞って口を挟んだ佐天の努力は、止めるように頼み込んできたはずの初春の手によって壊されてしまう。親友の笑顔が真っ黒なオーラを漂わせているのを佐天は遠い目を向け見なかったことにした。

 

(い、今のうちに……)

 

 己を拘束したカズマと新しい来訪者の風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子の気が逸れてる内に強盗は両手を使わず器用に立ちあがろうする。

 

「なに逃げようとしてんだよ」

 

「わたくしが逃がすとおおもいで?」

 

 しかし、強盗の目の前にいるのは一度噛みつけば倒れようとも離さないカズマ、風紀委員(ジャッジメント)でも屈指の実力者の白井黒子だ。

 カズマが強盗の背中を足で踏みつけて固定し、白井黒子が床と密着している強盗を、太もものホルスター巻いて忍ばせている金属矢で縫い付ける。

 

「くそぉ……」

 

 身動きは取れず逃走という希望は完膚なきまでに叩き壊され、逃げられないと悟り強盗は悔しそうに嘆きながら抵抗を諦めた。

 さっきまで喧嘩していたのが嘘のように息のあったコンビネーション。それを見た佐天の初春は喧嘩するほど仲が良いという言葉を思い出す。

 

「もう帰っていいよな?」

 

「はぁ?それをわたくしが許すとでも?初春、警備員(アンチスキル)への連絡の方は?」

 

「佐天さんと一緒に連絡を入れています。もう少しで到着するかと!」

 

「うげっ!オレは帰らせてもらうからな!!今日一日黄泉川から追いかけ回されてんだよ!」

 

 警備員(アンチスキル)と連絡が入ったと聞けば、なおのこと此処に居座るわけにはいかない。今日登校してから下校するまでカズマは一日中黄泉川と鬼ごっこを繰り広げたのだ。黄泉川がこの現場に来ると確信を持っている彼は1秒も早くこの場から退散するのを選ぶ。

 

「えっ?カズマさんもう行くんですか?」

 

「…………………」

 

 ここで声を掛けたのが初春と白井なら壁をシェルブリットで壊してでも逃亡を選んだだろう。風紀委員(ジャッジメント)と抗争を避けるが話を聞くつもりはない。だが逃げようとしたカズマに声を掛けたのは佐天だ。

 カズマはお人好しではないが、今日誘った佐天が残念そうな顔を見かければ邪険に扱うのは気が引けた。

 扉の前まで来ていたカズマはガリガリと頭を掻きながら仕方なさそうに振り向けば新たに扉が開く。新たな来店者に白井はやれやれと肩を竦めて、初春は心の中で合掌をした。

 

「しょうがねえなぁ……もうちょい付き合って——」

 

「——やっと捕まえたじゃんよ」

 

 来店者はガシリとカズマの襟首を掴んだ。

 聞き覚えのある語尾にびくりと肩が上がり冷や汗がどっと流れてくる。壊れた玩具のように顔を横に向ければ、特殊装備を着込んで獲物捕まえた肉食動物のように口角を上げている黄泉川愛穂の姿。

 

「通報があってもしやと思って駆けつけてみれば、やっぱりカズマがいるじゃんよ!!」

 

「げぇっ!?黄泉川!?」

 

「このまま一緒に来てもらうじゃん!!お説教の時間じゃんよ!」

 

「オレはなにもしてねえよっ!?」

 

「喧嘩を売る相手ぐらいきちんと選べって何度も言ってるじゃん!!」

 

 バタバタと手足を動かして抵抗するカズマをずるずると引き摺りながら黄泉川は連行していく。

 黄泉川はカズマが強盗を止めたのを状況を見ずとも理解している。それで被害が起きていないのも。これはもしもがあるを考えず、短気で直情で突っ込んでいく馬鹿へのお説教するための連行だ。

 

「カズマさん!!鞄!鞄忘れてますよ!」

 

「だー!!鞄は任せた!!会計はオレの財布から出しとけ!」

 

 カズマは学生鞄を佐天に託して扉は閉じた。その後に別の警備員(アンチスキル)が犯人を連行していく。

 それを佐天はカズマが去っていた名残惜しさで残念そうに、初春は事が終わった安堵、白井は説教がまた先送りにされたことを不服そうに見送った。

 

「とりあえずポテト食べよっか?白井さんもどうです?」

 

「そうですね。冷めちゃう前にいただきましょう」

 

「お言葉に甘えていただきますわ」

 

 佐天からの誘いに白井は同伴することにした。佐天と初春は白井を加えてさっきまでの出来事がなかったかのようにテーブルに戻って行った。

 

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