青の騎士ジークアクス物語 作:やりたかった……だけ!
戦争が終わった後、ぼくに行く宛なんてなかった。
ア・バオア・クーの戦いでチベ級と共にサラミスの主砲に呑み込まれたぼくは、
「サラミスの主砲を食らうのはこれで三回目だなあ」と思いながら意識を失い、
気がついたときはサイド6医療ボランティア船のベッドの上で、
身元不明の学徒兵として扱われていた。
聴けばノーマルスーツで宇宙を漂流していたところを救助されたとかで、
乗り込んでいたムサイあたりが大破して放り出されたのだと思われたようだ。
どうやらぼくは、意識朦朧としながら大破したゲルググから自力で脱出していたらしい。
ルウムでは親父さんに救助された事を思えば、大した成長じゃあないか?
幸運だった、と言って良いんだろう。
海兵上陸戦闘部隊のアサクラ大佐やガラハウ中佐が連邦に戦犯認定された事を思えば、
同じくブリティッシュ作戦のG3ガス注入を担当していたぼくだって、どうなることか。
もっとも、一介の軍曹にまで罪が及ぶのかどうか、ぼくにはわからなかったけれど。
ただ、本国に戻っても母さんに迷惑をかけるだけだな、とは思った。
だからサイド6の8バンチで本国返還のために学徒兵たちが集められている時、
ぼくはこっそりと港を抜け出して、復員船に乗らずに姿を消すことを選んだ。
幸いサイド6沿岸警備隊は、同情的ではなかったけど、ぼくをバカな学生として扱っていた。
まさかブリティッシュ作戦から一年戦争を生き延びた、古参兵とは思わなかったんだろう。
監視の目を掻い潜って脱出するのは、そんなに大変じゃあなかった。
ぼくがグラナダのMSパイロット養成学校に入学したのは、0078年4月のことだ。
10ヶ月の訓練を経て、実習で突撃機動軍隊第一機動歩兵師団第一大隊B中隊に配属。
そのままブリティッシュ作戦に参加、卒業証書と伍長の階級をもらったのが0079年1月。
軍曹に昇進して初めての部下を持つようになったのが、9月の終わり。
12月にはB中隊の最先任下士官、"
そして奇妙なのは、その肩書がぴったりと自分に馴染んでいるという事だった。
軍隊に入ってから、二年もたってないというのに……。
ぼくはまだ自分が二十歳にもなっていない事を、その時に思い出した。
ともかく、ぼくはジオン独立戦争……一年戦争を生き延びる事ができた。
……それで「めでたしめでたし」で終わればよかったのだけれど。
ぼくは今度は「戦後」を生き延びなければならなくなってしまったわけだ。
軍隊にいれば、とりあえず衣食住には困らなかった。
ところが今は、その日の衣食住を賄うのにだって精一杯だ。
明後日なんて先の事はもちろん、明日の事だってわからない。
やはり幸運なことに、喰っていく手段は、あった。
ボールのような胴体に手足のついた、作業用ポッドの操縦員だ。
いつのまにか「プチモビ」なんて呼ばれるようになったそいつに乗って、
スペースデブリを回収したり、コロニー外壁の補修をしたり、
どこかの金持ちが個人でコロニーを購入して、その移設作業もありがたい仕事だった。
今日はこっちのバンチ、明日はあっちのバンチ……。
サイド6中のコロニーを転々としたけれど、一箇所で暮らすというのは難しかった。
元ジオン軍人というのは、スペースノイドからしても煙たがられる存在だったから。
自分たちの代表面して、大虐殺を働いて、のうのうと生き残った奴ら……。
日雇い作業の賃金も、いろいろと理由をつけて何だかんだと削られたものだ。
金を受け取ったなら早く出ていってくれと、言外の圧力をよく感じた。
ぼくはその通りにした――仕事が無いなら、それ以上留まっても生きていけないから。
最終的に、ぼくは資源採掘コロニーに長逗留するようになった。
プチモビを使って隕石に取り付いたて、鉱物資源を回収する仕事だ。
荒っぽい隕石鉱夫たちの雰囲気は、軍隊を思い出してぼくには居心地が良かった。
そう思っていたのはぼくだけだったらしいけれど。
「このジオン野郎め!!」
その日、隕石ポッドを換金して、夕食のことを考えていたぼくは後ろから殴りつけられた。
正確にはヘルメットを投げつけられた、のだとは思う。
完全な不意打ちで、ぼくは無様にその場に転がってしまった。
後はまあ、寄って集って、蹴る殴るだ。
重力戦線にいた頃なら、ぼくは歩兵にだって食ってかかるくらいの気概があった。
けど今はだめだ。頭を抱えて丸くなって、蹲って、耐える。
死ぬかもしれないと思った。痛みはあったが、恐怖はなかった。
今は生きるために生きているようなものだったから、その終わりがこれか、と思った。
ただ、悔しさはあった。
MSさえあれば。
MSはぼくたちの棺桶だ。親父さんの言った言葉を、ぼくは覚えている。
ぼくたちはたった一人でサラミスに突っ込むし、メガ粒子の飛び交う戦場にも行く。
あの白いヤツとだって、ぼくは戦ったことがある。
MSさえあれば――……。
「おい、その辺にしておけ! 本当に殺すつもりか!?」
そんな誰かの声が聞こえたのを最後に、結局ぼくは、あっさりと気を失った。
最初に目覚めた時、ぼくはそこが自分の部屋だと思った。
ただ、すぐに違うことに気がついた。
作りは同じでも、住人が違えば部屋の雰囲気はだいぶ違うからだ。
ましてや、ぼくの部屋には筋骨隆々とした男が暮らしていたりはしない。
「お、気がついたか? どうだ、具合は?」
「……ええ、大丈夫です」
ひどくしゃがれた声で答えたぼくに、その大男は水のボトルを渡してくれた。
体格に似合わず爽やかな顔立ちで、笑うとニッと白い歯が見えるのが印象的だった。
ぼくはベッドの上で身を起こしたまま、受け取った水をごくごくと飲んだ。
きれた口元に染みたけど、ひどく美味しかった。
「あなたが助けてくれたんですか? ……ありがとうございます」
「ははは、気にするな。あんたもジオンだろう?
ま、俺は……通りすがりの正義の味方ってとこだな」
「……」
怪しげな物言いだったけれど、ぼくが彼の顔を見つめたのは、他の理由があった。
彼のその笑い方と、口元なんかに、見覚えがあったからだ。
そしてすぐ、ぼくは彼を良く見知っていた事に気がついた。
「……
「おっと、内緒だぞ」
スクリーンの中で768人の連邦兵と42人のスパイ、15人の連邦協力者、
そして白いヤツとその量産型の多くを「成敗」したヒーローは、そういって快活に笑った。
「バド・コルヤーだ。あんたは?」
「……フレデリック・ブラウンです」
ぼくらは挨拶を交わし、互いの身の上を軽く喋った。
コミックス、カートゥーンと展開されていたキャプテン・ジオンは、
キャプテン・サイド3の流行を受けて、当然のように実写映画としても展開されていた。
慰問として部隊にもフィルムが持ち込まれ、ぼくも何度か彼の活躍を目にした記憶がある。
ジオン軍人の肩身は狭かったが、それはプロパガンダ映画の主演俳優も変わらないらしい。
結局、今じゃお互いこうして日雇いの隕石鉱夫になっている――……。
「悪かったな。すぐに助けてやれなくて。
てっきりバトリングの前フリかと思ってたんだ」
「バトリング?」
「知らないのか、最近、サイド6で流行ってるんだぜ」
聞き慣れない言葉に首をかしげるぼくに、バドは丁寧に説明してくれた。
それはまず最初、元ジオン兵と元連邦兵のケンカからはじまるのだという。
一年戦争中の因縁をもとに、言い合い、罵りあい、殴り合う。
当然、見物人が集まる。
そこに賭けを持ちかける男が現れ、自分が胴元をやると触れて回る。
すると帰還兵二人は、後日MSを用いて決闘だ、という事で話が落ち着く。
当日、種銭を持ってきた見物人が集まってくる中で、
元連邦兵のジムが待ち受けるところに、遅れて元ジオン兵のザクが現れる。
遅刻してきたザクは卑怯な手を使ってジムを追い詰め、しかしジムの華麗な大逆転。
観客たちは大盛りあがりで、元ジオン兵とザクは這這の体で逃げ出し、
そしてその頃には胴元も賭け金を預かったまま、姿を消している。
もちろん、この元連邦兵、元ジオン兵、胴元は全員がグルの八百長試合だ。
だけど観客たちだって、ある程度はわかって乗っかっている。
見料を支払うくらい、納得ずくなのだ。
「もっとも、最近じゃ普通にMSの勝負を見せる興行になってる。
かくいう俺も、資金集めに隕石鉱夫をしていて、準備ができた所なんだ」
「MSがあるんですか……!?」
ぼくは思わず飛びつくように身を乗り出して、体中の痛みに顔をしかめた。
そんなぼくの様子を見て、バドはにやっと笑った。
「見せてやるよ」
バドが案内してくれたのは、ドッキングベイの一角だった。
係留されている様々な小型船舶の奥に、バドの船があった。
色こそ塗り直されているが、どうやらコムサイを改造したものらしい。
「紙切れ同然になった戦時国債でも、束ねれば何とかなるもんだ。
もっとも、それで出演料は大体使い果たしちまったんだが」
バドは笑っていたが、ぼくには彼がコムサイを選んだ理由がわかっていた。
コムサイは小型ながら、MSを輸送・運用する機能がしっかりと備わっている。
バトリングの興行をして回るつもりなら、これは最適な選択だと思えた。
つまり、バドは本気だって事だ。
それはコムサイの格納庫に、既に二機のMSが納まっている事でも、わかった。
「なんだい、こりゃあ」
もっとも、その二機ともに、ぼくが見たこともないような、珍妙な機体だったけど。
「頭が無いじゃあないか。
それにこっちは……壺みたいな頭だな……」
「試作機だよ。コンペで負けたか何かで、軍が倉庫にうっちゃっておいたんだ。
どうにか買えた……まだ少し分割払いが残ってるけど、まあ何とかなるだろう」
バドは得意げに腕組みをして、二機のMSを見上げている。
片方はバドそっくりの、がっしりした体格の重MSのように思えた。
橙色に塗られたその機体は、どこかキャプテン・ジオンを連想させる。
肩に飛び出したブレード状のフィンも、そんな風に見える。
問題は、頭がないという点だ。
いや、正確に言えば、胸にあたる部分に埋め込まれたバイザーから、
その奥にあるモノアイのターレットレンズが透けて見えている。
つまりこのMSは、こういう形状なのだという事だろう。
「ゾゴックだ。こう見えて、かなりのパワーと機動性でな。やるもんだぜ」
「動かしたんですか?」
「ああ。そっちの機体も良いけど、俺にはゾゴックが向いている」
そっちの機体――壺頭の方だ。
こちらは見慣れた人型で、十字形のスリットもあって、どこかドムを思わせる。
ただドムとは違ってスラッとした細身で、肩の装甲板は球形に整形されていた。
胴体の形状だけを見れば、ゲルググにも近い印象がある……。
そしてゾゴックと対比させるためか、青い塗装が施されているのもあって、
どこか騎士っぽい雰囲気が漂っていた。
……悪役っぽい、とも言えるけれど。
「問題は、このギャンのパイロットでさ。
誰かいい奴がいないかと思って探しているところなんだが――……」
ぼくは苦笑した。
バドがぼくを助けたのが、まったくの善意じゃないことがわかったからだ。
ぼくがプチモビの操縦が上手いことに気づいて、目をつけていたのだろう。
だからこそ隕石鉱夫たちにも妬まれて、今日みたいな事になったわけだが。
「ブラウン、あんた、学徒兵にしちゃあ動きが良い。
どうだ? 俺と組んで……バトリング、やってみないか?」
「……ぼくは学徒兵じゃないですよ。こう見えても軍曹です」
「マジか!? いや、悪い。俺はてっきり……」
「コクピット、見ても良いですか?」
「あ? ああ、大丈夫だ。動かさなきゃな……」
ぼくは一言バドに断ってから、その壺頭……ギャンのコクピットに向かった。
丸いハッチを開けて中を覗き込むと、そこには馴染み深いコンソールがある。
( ドムと同じだ。ツィマッド製だな……。 )
あとの問題は機体性能だ。
ぼくはキーをいくつかたたき、スイッチを弾いて、コンピューターを立ち上げた。
浮かび上がるエネルギーゲインの量は……ザクの1.5倍。ドム以上だ。
ゲルググには劣るけど……あとは機体重量と、推量次第……。
ぼくは自分が、ひどく……わくわくと興奮していることに気がついた。
一年ぶりのMSのコクピット……!
それに座っているというだけで血が巡り、全身に力が漲ってくる。
頭の中にかかっていたぼんやりとしたモヤが、一瞬で晴れたようだった。
「どうだ、ブラウン?」
「……良いですね」
コクピットを覗き込みにきたバドに、ぼくは頷いた。
ぼくがどんな顔をしているか、バドにはよくわかった事だろう。
「じゃ、決まりだな!」
「ええ、よろしくお願いします」
「けど、そうなると……ひとつ問題があるな」
「? ぼくに何かありますか?」
「その"ぼく"ってのは、やめないか?」
こうしてぼくは――もとい、俺はバトリングをはじめる事になった。
宇宙世紀0081年、もうじき、二十一歳になる頃だった。
●フレデリック・ブラウン
読もう、MS戦記! 近藤版機動戦士ガンダム!
●キャプテン・ジオン
アニメ、コミックときたら実写もあるよね
●キャプテン・サイド3
ア・バオア・クーまで撮影にいったとかいかなかったとか
●バド・コルヤー
オリキャラ