【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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―――――……





「治りますか?」



「また元気な時のように動きたいんです」



「指が動かない。箸が持てない」



「杖も装具もなしで歩きたいんです」



「薬を飲みたくない。なんとかなりませんか」



「こんなことなら。いっそのこと死んでしまいたかった」





 『治りたい』と願うのは当然。
 『治るまで』と目標をどこまで設定するか。
 『治らない』と現実を受け止めるのは辛い。


 『それなら』と何を選ぶのかは、その人次第。


 『死ぬ』も、また一つの道。




―――――……


第8話 ―― シク視点

「あ」

 

 

 人間たちが盛り上がっているのを尻目にお茶を飲んでいると、魂が揺らいだのが見えた。

 二階。一室。

 そもそも二階には一人しかいないのだけど。

 間の抜けた声を間の悪い時に出してしまい、生きの揃った目線が()に視線が集まってしまう。

 些か居心地が悪い。

 

 

「どうした?」

 

 

 ()が椅子の縁。の座面に座るスグサが、助け舟を出してくれたかのように声をかけてくれる。

 あぁん!

 そういう気遣いできるところ、本当すきっ!

 

 

「上の混ざりモノが目を覚ましたようよ。動きはないけど、時間の問題かもしれないわ。魂の活動が活発化してきてる」

 

 

 人間がいる前で普段の()を見せることはしない。

 見せてたまるもんですか。

 大嫌いなモノが大好きな人と一緒にいるだけでも嫌だけど、()のことを少しでも知られるのも嫌。

 ああ、早く終わんないかしら。こんな集まり。

 ()は早くスグサと一緒に過ごしたい……。

 

 

「ほう。じゃあ、様子を見に行くか」

「スグサさん、私も……」

「おう。来な。一応コウとアオイも来い。確認したい」

 

 

 スグサが行くなら()も行く。

 言われてなくても勝手について行く。

 スグサは()のことをちゃんとわかってくれているから、本当にダメな時以外は自由にさせてくれている。

 それを()もわかっているから、本当にダメな時以外は自由にしている。

 バラファイに姿を変え、スグサの肩に乗る。

 ここは()の特等席。

 誰にも譲らない。

 スグサは残る三人に魔石を渡し、「これで準備運動してろ」と言った。

 ああ、まだスグサの手は空かないのね。

 スグサの時間、いつになったら()にもくれるのかしら……。

 さみしい。

 今回は()の気持ちを察してくれず、二階に進んでいくうちに第二王子と赤い髪の男に混ざりモノのことを説明している。

 二人は驚いた様子だったが、驚いている暇なんてない。

 だって二階に上がるだけだもの。

 あっという間についた二階。その一室。

 礼儀として三回ノックする。

 返事はないが、開けるのはこの家の主。

 ガチャ。と。

 

 

「入るぞ」

 

 

 入ってから言ってるわよ。

 ベッドに上半身だけを起こして、眠そうな目をぱちぱちと瞬きさせて、突然訪れた私たちを凝視する男。

 頭からキャストの耳を生やし、両手足は先の方に行くにつれて透けている。

 けれど輪郭は保っているから、そこにあるのがわかる。

 ()たちが来て、一瞬、魂が揺らいだ。

 動揺。

 何に?

 人が来たから?

 それとも、知った顔が来たから?

 その男は、表には何も表さない。

 何のお構いもなしにベッド付近へ近づくスグサ。

 備え付けの椅子に座り、男と目線の高さを合わせる。

 それでも、表には何も反応を示さない。

 

 

「喋れるか?」

「……アア」

 

 

 無機質な声。

 その癖、幾重にも重なったような、不思議な声。

 さすがに失礼だけど、失礼なことを思ってしまった。

 

 

「名は?」

「ワカラナイ」

「何を覚えている?」

「……ワカラナイ」

「これは?」

「……魔獣」

「あいつは?」

「……ワカラナイ」

「私様は?」

「……ワカラナイ」

「じゃあ、これは?」

「……魔石」

「よろしい」

 

 

 相手のことをお構いなしに質問攻め。

 それでもわかるかわからないかで答えられる質問のみというのは、スグサらしい不器用な配慮。

 その配慮には気付いてはいないだろうが。

 

 

「あなたのこと知りませんて。王子サマ」

「ルタの記憶が残っていれば知っていて欲しいものだが……そううまくはいかないもんだな」

「この有名な私様のことも知らないんですから、混ぜられたモノたちの記憶はほぼほぼ全部消えてるかもしれませんね。バラファイはわからないけど魔獣である。ただの石ではなく魔石である。ってことがわかるあたり、基本常識的なことはわかるようですが」

 

 

 混ざりモノの場合は大体そうなる。

 混ざりすぎて、どれがどの記憶で、どれが誰の記憶かわからなくなってしまう。

 人間同士が混ぜられたのなら、余計にそうなる。

 そうして。

 人格が壊れ、壊れたモノを便利に使う。

 あいつらの都合のいいコマの出来上がり。

 

 

「腹は減ってないか?」

「……腹……減ッテナイ」

「そうか。喉は?」

「……乾イタ」

「そうか。じゃあ持ってこよう」

 

 

 そそくさと連れの三人を押し出していく。

 ちらっと()の方に目線を向けて、()はふわりと肩から離れた。

 スグサの体を使っている子は残りたそうにしていたけれど、スグサに圧されて部屋を出た。

 扉が閉まって、数秒。天井に張り付いて、追加数秒。

 男は見つめていた扉から目を逸らし、思いっきり息を吐き出した。

 

 

「ッハーーーーー。何ナンダヨ……コレ……ナンデ、コンナ体ニ……」

「やっぱり、何か覚えてるのね」

 

 

 大きい独り言に相槌を打ってあげれば、びっくりしたのかベッドの上で飛び上り、即座に動けるよう身を屈める。

 四つ足歩行の魔獣のように低く構え、人間らしさはなくなったよう。

 近づく気はない。

 だから、天井に寝そべって、動く意思がないことを表す。

 

 

「こっちよ。落ち着きなさい」

「ダレダ! テメェ!」

「なんて口の悪い。あなたと同じ、混ざりモノよ」

「……同ジ……?」

 

 

 全身の毛でも逆立ちそうなほど、魂が震えている。

 魂は正直だ。

 正直な魂が見えている()には、嘘も誤魔化しも効かない。

 同じとわかった瞬間にちょっと警戒がほどけそうになるのは、随分懐かせやすい子ね。

 

 

「同じよ。あなたを混ぜた奴らに()も混ぜられたの。あなた、名前は? わかってるんでしょ?」

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