【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第9話

 名前を聞かれた時。

 魂が揺らいでいた。

 それよりももっと前。

 スグサたちが部屋に入った瞬間にすでに動揺が見られた。

 それは突然入ってきたから驚いたタイミングではなかった。

 それこそ、入ってきた人たちを知覚した、とか。

 心情の揺らぎはわかっても、それがつまりはどういうことかはわからない。

 だから、ここからは()の口にかかっているのだけど。

 正直、得意じゃないのよね。

 

 

「……言ッテ、ドウナル」

「どうもしないわ。ただ得られる情報は得るだけ。それが()の役目ですもの」

「ナラ、言ワナイノモ(ヒト)ツダナ。オレ……自分ニ利モ不利もナイ」

「そうね。どちらもないわ。でも言ってもらわないと困るのよ」

「自分ニハ関係ナイ」

「貴方に直接の関係がなくとも、貴方の行動が()の迷惑につながるの。それぐらいわかりなさい」

 

 

 上と下での押し問答。

 睨みあい。

 疲れるわね。

 さっさと言えばいいのに。

 

 

「貴方は思いついた言葉だけ言えばいいのよ。()から話すのはスグサにだけ」

「スグサ……?」

「貴方がさっきまで話していた人よ。……あの人は()の素敵な人なんだかれね!! 変な気起こすんじゃないわよ!!?」

「オ、オウ」

 

 

 気どころか近づけたくもないのに!

 ああ、なんでこんな拾いモノしたのかしら!?

 スグサがやることに基本的には拒否はないけれど、()以外に気を割いてほしくないのに……。

 スグサの体を使ってる子も……スグサ(あの姿)じゃなければ近づけさせないのに……!

 

 

 悶々としていたら、その間に()を睨む目が和らいだ。

 足を延ばして座ったまま、足の上に力なく置かれた腕を見つめている。

 手を握り、解き。握り、解き。

 ……あの手は確か、余所者(ヒスイ)が診ていた手だ。

 

 

「……ナア」

「……何?」

 

 

 こちらを見ず、同じ行動を繰り返し、声を掛けられる。

 その声にはさっきまでの力はなく、語り掛けるよう。

 

 

「スグサ……ノ」

「呼び捨てしない!」

「ッ、スグサ、サンノ後ロニイタ、ソックリナ人」

「ああ、あの子ね。ヒスイって呼ばれてるわよ」

「ヒスイ……サン」

 

 

 どんな顔をしているのかはわからない。

 ()は上で、向こうは下を向いているから。

 力のない口調と、握りと開きを繰り返す手。

 穏やかな魂の揺らめき。

 スグサが昔話をする時みたいね。

 つまり、懐かしんでいる。

 

 

「……貴方、()には答えさせて、自分は何も答えないつもり?」

「……答エロナンテ言ッテナイ」

「ずいぶん都合がいいのね。無理やり探ってもいいのよ?」

「ッ!?」

 

 

 『魂を握る』。

 魂を知覚できるバラファイと混ぜられた()は、そんな意味の分からないこともできるようになった。

 握って、魂に刻まれた記憶も読み取ることができる。

 だから、聞かずとも無理やり探ることもできる。

 今までのは一応、礼儀。

 スグサには止められているし、ここで強引に出て、スグサの都合が悪くなるのは()も望むものではない。

 差し出した手で、手繰り寄せた『それ』を『掴む』。

 何かを感じたのか、胸元や首を押さえる。

 頭から生えたキャストの耳は輪郭を大きくし、後ろを向いている。

 ようやく上げた顔には汗が滲んでキラキラと光っている。

 まあ、表情は輝くどころか淀んでいるけれど。

 所詮、キャストは複数の魂をため込むだけ。

 抜かれた魂をどうすることもできない。

 

 

「テ、メ……」

「どうするの? 話す? 言う? それとも聞かせてあげましょうか?」

「……糞」

 

 

 ああやだ、汚い言葉。

 どうするのか答えさせるために魂はいくつしか抜いていない。

 それも喋れる程度だ。

 話すなら話しだしてから、魂を戻してあげる。

 動きのない()に意図を悟ったのか、口は荒い息を吐きながら小さく動く。

 

 

「……名前ハ、イクツカ、アル」

「全部挙げてみて」

 

 

 話し始めたので、掴んでいた『それ』を離す。

 ()にしか見えないそれは、引き寄せられるようにキャストの男に吸い寄せられる。

 体に馴染んでいき、次第に、苦しみから解放されていく。

 

 

「ケルイス、ツヅ、ラヒンス、ミッシュ、タイルケント、キ・リー、キョウ、クラ、ザン、アケ、ルタ、マワリ、チュリ、カラー、ルベリ、ミト、パジ、ヴィオ、ラン……」

 

 

 聞いていた時間で、やはりあの研究は禄でもないものだと再度、強く思った。

 それだけの人間を混ぜられ、魔獣を混ぜられ。

 こうして普通に意思疎通できているのは、もしかしたら魔法を超える奇跡かもしれない。

 禄でもない研究による奇跡だなんて、やはり禄でもないものに変わりはないのだけど。

 

 

「じゃあ、今の貴方は誰?」

「ワカラナイ。誰トイウ意識ハナイ。聞クガ、オ前ハ夢ノ中デ名付ケラレタトシテ、ドウスル?」

「質問の意味がわからないけど、夢の中でなら受け入れるか、そうでないかかしら」

「ソウイウコトダ。自分ガ『誰』ト言ワレテモ、ソウダトモ、ソウデナイトモ言エル」

「……つまり、誰でもあるし、誰でもないと?」

 

 

 頷く。

 そして、付け加える。

 

 

「今ハ、目ノ前ニ、膜ガカカッテイルヨウダ」

 

 

 そう言われて、納得した。

 ()も、最初は同じように感じた。

 それこそ生まれ変わったような。

 夢を見ているようで、夢ではないと確信があるような。

 この男はつまり、生まれ変わったのだ。

 元の自分ではない誰かに。

 誰でもない自分に。

 

 ある意味では、研究の成功を象徴する存在だ。

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