【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
夜。
人間たちはみんな、この家で夜を明かすらしい。
一人一人に与えられた部屋で、思い思いに過ごしている。
一人は剣を磨き。
一人は武器をなぞり。
一人は契約獣を抱きしめ。
一人は今は亡き思い出に耽り。
一人は今は遠い思い出に耽る。
そして、一人は香りと闇に包まれた。
そんな中。
スグサの部屋のテラスで、対面に座りながら赤いお酒を飲む。
赤らまない、むしろ青白い肌が夜に映える。
会話はなくとも、この静かな空間が好き。
風が吹く。
草木が揺れる。
虫や鳥の声。
夜にだけ差し込む光。
会話がないからこそ味わえる空間。
「シクは」
不意に話しかけられる。
目線を景色からその人に移すと、
そんなふうに見なくても
「一緒に来る気か?」
「当然よ」
一も二もなく返す。
「やっぱりか」と乾いた笑いを溢すが、拒否されてはいない。
一応の確認だろう。
行き当たりばったりでなんとかなってしまうスグサが作戦を練るほど、今回は大事なのだ。
「だよなぁ。私様が出かけててお前はお留守番なんて、やった事ないもんな」
「当然」
間髪入れずに答える。
向こうも確信を持って質問してきている。
言ってしまえば、前もって質問と回答を照らし合わされたようなもの。
「……あいつのこと、そんなに嫌うなよ」
「あいつって?」
「弟子の……ヒスイのことだ」
「ああ、あの子ね」
ここからは『前もって』のものはない。
……いえ、
「嫌ってないわよ」
「本当か? 内心『ニセモノ』とか呼んでんじゃねぇの? 嫌いなやつじゃなきゃそう呼ばねぇだろ」
「嫌いじゃないわ。気に食わないだけ」
「一緒だ」と貴方は笑ってくれたけれど、
この世界の人間は好きじゃない。
けどあの子はこの世界の人間じゃない。
それに、言ってしまえば同じ研究の実験を身に受けたもの同士。
なんなら仲間意識も少なからずある。
だから、嫌いではない。
「あの子の体がスグサのものじゃなければね」
それが全てだ。
飲んでいたものを「ふはっ」と吹き出した。飛んだもの……舐めたい。
「お前は私様が大好きだなあ」
「ええ、大好きよ」
「ありがとな」
くつくつと笑い、飲み直す。
この人は
わかりきったこと。
拒否されて、もう生きていたくなくて、
死のうとして、あいつらに見つかった。
タイミング悪く見つかってしまった
「シクは、あいつらに会ったらどうしたい?」
どう?
それは考えてなかったわ。
夜風が頬を撫でて、体も顔も、頭も冷やしてくれる。
レルギオのあいつらの本拠地に入った時は、正直胸糞悪かった。
鳴き声と泣き声。
叫び声と呻き声。
金属音と切断音。
紙をする音と床をする音。
気が狂いそうになった空間で、気が狂ったように笑いながらことを進める汚れた白衣たち。
「人類のため」
「進化のため」
「求める人たちが多い」
「叶えなければ」
「叶ったら」
「みんなが欲している」
口々にそう呟く狂人たちは、それが全てというように手を進めていた。
自分の都合のいい言葉しか受け入れない都合の良い耳なんて、引きちぎってやりたかった。
そうしなかったのは、スグサを助けたかったから。
「
この言葉を貴方は受け入れてくれる?
微かな不安は、一瞬のきょとんとした表情の後の、ニヤリと笑った笑顔に吹き飛ばされる。
思ったより緊張で強張っていた、と自覚したのは、それが緩んだから。
「なら、私様から離れるなよ」
「ええ。離れてあげない」
「上等だ。それと、弟子のことはもう少し近寄ってやれ」
「それはお願い?」
「そう、お願い」
スグサのお願い……うーん……。
「じゃあ、保留」
「保留?」
意外な返答だったのだろう、小首を傾げて目を丸くする。
かわいい。
「返答するまで、待っててね」
そう言えば、貴方は苦い顔をする。
その真意を知っているからこそ、
それもそれが伝わったからその顔なのだろう。
コップの半分ぐらいまであった飲み物を天を仰いで飲み干す。
息を吐き出し、口元を拭った。
血のように赤い飲み物のお陰で、唇が血色良く見える。
「お前、私様のことわかりすぎ」
「嫌いになった?」
「まさか。興味が湧いてしょうがない」
「あら。
「そうだなあ。私様にはわからない『私様』について教えてくれよ。客観的視点で」
「お望み通りに」
お酒を継ぎ足す。
正面から横に移動して、大好きな人の大好きな香りをより近くに感じる。