【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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「起きろ。出発だ」





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第1話


 未明。

 私たちはスグサさんの家の玄関に集まった。

 当然のことながらみんな表情は硬い。

 これから戦いに行くのだから当然だ。

 それも、個別に。

 そんな中、一人……いや、二人だけいつも通り余裕の表情を浮かべるその人たち。

 スグサさんとシクさんは、玄関を背にして仁王立ちする。

 

 

「最後の確認だ。第一目標は鐘の破壊。各地の鐘を破壊。最後にレルギオの設備を利用して洗脳を解く。破壊の担当者以外は、担当者が鐘まで辿り着けるよう援護。その後、敵の足止め、かつ身内を正気に戻す努力を許可する」

 

 

 誰も声は上げないものの、手を上げることも疑問を呈することもない。

 無言は肯定。

 そういう意味で受け取ったスグサさんは、大きく一つ頷く。

 

 

「昨日渡した石も忘れてないか?」

 

 

 今度は思い思いに手を握る。

 首元。

 ポケット。

 胸元。

 存在を確認するように、握って、離す。

 

 

「ここから直接、それぞれの担当の場所に送る。医術師。協力者には話はついてんだろうな?」

「はい。待機してくれています」

 

 

 いつの間にそんな話をしたのだろうか。

 しかしこの二人やコウ殿下の様子からは、聞くことは許されない。

 いや、許してはくれるだろうが、空気が良しとしない。

 当人たちだけで話はつき、スグサさんは手をかざす。

 

 

「なんかあれば手筈通りに。目標達成かはこちらが勝手に知覚する。じゃ、準備しろ」

 

 

 床に描かれた魔法陣に入る。

 レルギオ行きは、スグサさんとシクさんとイオラさんと、私。

 フローレンタム行きは、コウ殿下とクザ先生とライラさん。

 アーマタス行きは、アオイさんとシオン。

 いつも元気なライラさんでさえずっと無言。

 口を一本に結んで、緊張の面持ち。

 けど、私も緊張していて、気づいたところで何と声をかければいいのかわからない。

 

 

「ヒスイ」

 

 

 私を呼ぶ声が、距離を開けて聞こえる。

 

 

「これが終わったら、全員で飯でも食おう。町で買い出しして、どこか庭で」

 

 

 何度も見てきた。

 見慣れた笑顔で、コウ殿下は展望を語る。

 この人は、実の身内と戦うはずだ。

 なのに、こんなに笑ってられるのはなんでなんだろう。

 戦いに身を置くというのは、そういうことなのだろうか。

 他を率いる立場というのは、こういうことなのだろうか。

 無理をしてでも、無理を悟らせず、鼓舞する人。

 先に楽しみを見出して、そのために努力を惜しまない。

 

 

「……コウ殿下」

「ん?」

「死亡フラグですよ」

「んん!?」

 

 

 口元が緩む。

 頬っぺたがあがる。

 目が細くなる。

 あれ、今どんな顔してるのかな。

 腕を組んで「ふらぐってなんだ」と隣のクザ先生と真剣に悩んでいる姿を見て、少し、申し訳なさを感じる。

 

 

「シオン」

「なんだ」

「ライラさん」

「……」

「……ライラさん?」

「んっへぇい!!」

 

 

 素っ頓狂な声を上げさせてしまって、また申し訳なくなる。

 きょろきょろと落ち着かなくなってしまった所をクザ先生になだめられ、促されて、私の方をようやく見てくれた。

 

 

「みんなで、ご飯食べましょう」

「……ああ。そうだな」

「う……うん! ごはん! 食べよ! どこで!?」

「ぶはっ」

 

 

 ……うん。

 緊張で近くのコウ殿下の声も届いてなかったんだね。

 隣のスグサさんがお腹を抱えながら笑っている。

 その姿を見て、みんなも少し気が緩んだみたい。

 ライラさんだけはまた少し慌ててしまっているけれど。

 

 

「ひーっあっはっはっは!!!」

「そんなに笑わないでー! あたし変なこと言った!?」

「くっ…………ふっ、はっはっは!!!」

「なんなのもー!」

 

 

 膨れるライラさんと、吹き出すスグサさん。

 あまり接点はなかった二人だけど、もしかしたら雰囲気を変えるにはうってつけなコンビかな。

 ……いや、スグサさんの後ろにいるシクさんが鋭くにらんでいるから、ライラさんのためを思うならあんまりかな。

 

 

「はーぁあ。よく笑ったわ」

「なんなのぉ……」

「まあまあ気にすんな。……気持ち切り替えろよ」

 

 

 一番気が抜けてたのはスグサさんだと思うけど。

 そこは、さすがは最高位魔術師。

 一言と同時に流したごくわずかな魔力で、この場の雰囲気をがらりと変えた。

 

 

「順番に飛ばすぞ」

 

 

 そういって、掌をアオイさんとシオンに向ける。

 

 

「みんな、怪我には気を付けてね」

「行ってくる」

 

 

 軽く手を上げて、それに同じ動きで答える。

 魔法陣が光って、包まれて、次の瞬間にはもういなくなっていた。

 スグサさんは「次」と間髪入れずに掌の向きを変える。

 

 

「また後でね!」

「ヒスイさん、無理しちゃだめですよ」

「はい。皆さん、気を付けて」

 

「ヒスイ」

「はい」

「……これが終わったら、話がある」

 

 

 と、そこまでで、光が三人を包んだ。

 話って何だろう。

 どんな話かを聞くまでに魔法が発動してしまったので、もう戻ることはできない。

 「ふっ」と笑い声が聞こえた方を見れば、またお腹を抱えて、口元も抑えている強い人。

 

 

「……どうしました?」

「い、いや……なんでも……」

 

 

 顔を真っ赤にしてこんなに笑ってるのに、何でもも何もないでしょう。

 そうは思っても、この人は言わないだろう。

 その証拠に、咳ばらいをして気を取り直した。

 

 

「よし。では私様たちも行くぞ」

「はい」

 

 

 最後は、掌を天高くつき上げる。

 言葉はいらない。

 だって、最高位魔術師だから。

 無詠唱の魔法なんて、そんなもの、難しいことではない。

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