【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第2話

 目を閉じて、瞼越しに明るさを感じる。

 それが落ち着いて瞼を離せば景色は室内から屋外へ。

 印象的な建物。

 上方に位置する鐘。

 周囲は広大な草原。

 風が通って涼しい。

 日が当たって暖かい。

 なのに、見る景色は、ひどく冷たく見える。

 

 

「さて」

 

 

 一人の頼もしい声が耳に入ってきた。

 腰に手を当てて、私と同じ方向を見据えていた金色の目。

 私の赤い目とは違ったものが見えているのかな。

 

 

「それじゃ、中に入るとするかね」

「どこに向かうんですか?」

「……そういえば聞いてないなあ」

 

 

 片手が顎下に伸びる。

 正しく考えているような配置だが。

 マリーさんから直接話を聞いている唯一の人が知らないんじゃあ、こればかりは考えてもわからないのではないか?

 疑問を弾くように、両手を合わせて音を鳴らす。

 

 

「ま、なんとかなるだろ。行きたいところはあるし」

「行きたいところ?」

「ああ。たぶん、そこに連れて行きたいんだと思うしな」

 

 

 誰が。

 もちろん、研究者側がだ。

 それとイレンさんと言ったか、あの教祖代理。

 ここまで来ておいてだが、そもそも呼ばれているところにフラフラと入っていいものだろうか。

 罠があるかもしれないし。

 ……まあ、罠があったところで、スグサさんは平気そうだ。

 でもそのことも含めた罠があったら、ということも考えられる。

 堂々と行くべきではない。

 せめて身を隠して目的地まで向かうべきか。

 

 

「全員、これ着とけ」

「……ローブ?」

「一応潜入するわけだしな。んで。魔法かけるぞ」

 

 

 羽織ってすぐ、何の魔法かを聞くまでの一瞬で、早すぎる魔法が発動する。

 かけられてわかるのは、スグサさんが脱出の際に使っていた≪目移らせ≫だ。

 やはり、スグサさんも同じ考えだったんだろう。

 

 

「これで家探ししやすくなったな」

「うん?」

 

 

 

 

 

 ―――――……

 

 

 

 

 入り口から堂々と入って、バラファイの姿になったシクの後をついて行く。

 私様も一度歩いてはいるが、出るときだけだ。

 忘れてはいないが、確実性で言えばシクの方が断然高い。

 資料を集めてきた上に、脱出までの道のりも把握していたぐらいだ。

 色々な道を把握しているだろう。

 そう考えて目線を向ければ案の定。

 「言われなくとも」と不敵な笑みを浮かべた後、先導してくれている。

 ちなみに。

 ≪目移らせ≫は同時に掛けた場合は互いの姿が把握できる。

 いわば全員で一つの認識阻害マントを被った状態だ。

 お互いが離れすぎなければ良い。

 だが、それは果たして必要だったのか問うぐらい、中はもぬけの殻。

 逆に緊張感が走る。

 ひらひらと舞うそいつが、『教祖』と書かれた立て札に留まる。

 

 ここだ。

 

 声は出さず、指で合図。

 弟子もイオラも小さく頷く。

 ≪透視≫で中に誰もいないことを確認。

 周囲にも人の気配はない。

 静かに扉を開け、全員が中に入ったところで扉を閉めた。

 それと同時に≪目移らせ≫も解き、全員が暗い部屋の中で、目が慣れるのを待つ。

 光り輝くそいつは……上の方に留まっている。

 そこは隠し扉の鍵となる場所。

 さすが、よくわかってるぅ。

 

 

「目が慣れたら行くぞ」

 

 

 一応、小声で合図。

 動いた気配を察知して、もう少し待機。

 いつでも動けるように下の方の鍵に手を添え、目線は入ってきた扉を見つめる。

 

 

「……大丈夫です」

「自分モ」

 

 

 同行者が大丈夫なら行こう。

 鍵に魔力を流す。

 音がないままに隠し扉が開いていくのを目視で見る。

 

 

「行くぞ」

 

 

 私様が先頭。シクは肩。後ろに弟子とイオラ。

 全員ローブを被っていて偉い偉い。

 ここまで誰にも気付かれることなく来たが、ここからはそうはいかない。

 もうすでに魔法は解いているし、ここから使ったとしても、それではここに来た意味がない。

 鐘を壊すだけなら隠すべきだろうが、今回は、寄り道しなければならない。

 

 

「さあ、ここだ」

 

 

 まるで自分の家のように言ってやった。

 ただただ広いだけの広間。

 しかし私様の家の方がまだ広い。勝った。

 通路と同じようにろうそくで照らされたその部屋。

 床の魔法陣は変わらず。

 さっとみたところ、魔法陣の内容も変わっていないようだ。

 ここに来たのは二回目。

 アイツらがレルギオに呼ぶとしたら、用があるのはこの魔法陣のことだろうと踏んできたが……。

 

 

「ようこそお越しくださいました」

 

 

 いた。

 やはり、ここにいた。

 イレン。

 上の。

 劇場で行ったら二階席に当たる部分。

 よくよく見たらその奥にここの研究員たちと思われる奴らがいる。

 ……いや。

 もっとよく見れば、人間とは思えない異形な存在も、大量にいやがる。

 

 

「言われた通り、来ましたよ」

 

 

 まさかの弟子が、私様よりも先に応える。

 ローブを外し、自分であると主張する。

 その様子から、ここは弟子の好きにさせてやろうと思った。

 それも面白そうだ。育てている奴の主体性は尊重してやらなきゃな。

 

 

「おお……おお! スグサ・ロッド様! なんとおいたわしいお姿でしょう!」

「なにを……」

「おいおい、「おいたわしい」というのはスグサ・ロッドだけでなく私にも失礼ではないかね?」

 

 

 弟子が「え」と声を漏らす。

 イレンの後ろから姿を見せた、白衣の男。

 

 

 元凶の、ベローズだ。

 

 

 床と靴が当たる音が室内に木霊する。

 決して早くはない、けれど遅くもない、高い音。

 それは向こうの心情を表しているのかと考える。

 焦っていない。

 どちらかというと余裕。

 自分という存在に注目を集めたいかのような、目立ちたがり。

 別に研究者なんだから、なんて思うことはしないがな。

 私様相手にずいぶん強気だな、と。

 思わず笑いが漏れそうになる。

 

 

「久方ぶりだ、『五番』。不備がないようで実に残念だよ」

「『五番』と呼ばれることがあったのだと、今思い出しました。皆さん、そうは呼ばれないので」

「……余計な知能がついたようだ。全く、余計なことを……」

「ええ。皆さん、私に良くしてくれました。『人形』のように言いなりになるのではなく、私の意見を出させてくれました。貴方から頂いた境遇ですが、貴方から以上のものを頂きました」

 

 

 口笛を吹きたくなる。

 ああ、弟子はしっかり、人としての人生を歩めている。

 自分の意見を持ち、主張し、時には対立しながらも渡り歩く。

 

 最初に課した四ヶ条。

 一、≪回想の香≫を使って自分を思い出せ。

 二、人と関われ(王子サマたち以外)。

 三、この世界を知れ。

 四、魔法を学べ。

 追加された五、一般を知れ。

 

 もうほとんどを十分すぎるほどに達成しているだろう。

 二の人と関われと言うのは少し物足りないが、私様も人のことは言えない。

 本人が困っていなければそれでいいだろう。

 もう、十分、『この世界の人間』になってきている。

 

 私様が『成長』を時間する傍ら、それを『劣化』ととるのが、目の前で表情をぐっしゃぐしゃに歪ませるこの男だ。

 

 

「ああ……! なんてことだ! 余計なエラーを積まれている……! やはりあの王子はダメだ……やはり、第一王子よりも早くに始末するべきだったのだ……!」

 

 

 おっとぉ?

 なにやらおもしろ……物騒なことをつぶやいたぞ?

 

 

「王子……? お二人に何かしたんですか……?」

「関係ない。もう、早々に始めよう」

 

「ぅん?」

 

 

 ベローズが白衣のポケットから取り出した、掌大の石。

 魔石だ。

 あんなでかいのは私様でも見たことがない。

 一体どんな魔法が入っている……?

 

 

「ん?」

「……ナンダ……?」

 

「みんなっ」

「触んな」

 

 

 弟子を除く、私様たち三人。

 突如として降ってきた鳥かごに囲まれる。

 鳥かごにしては太い、そしてデザイン性のある悪趣味な鳥かご。

 触らずともわかる。これは、触ってはいけない。

 鳥かごを掴もうとする弟子を、簡潔に引き留める。

 思ったより低い声が出たせいか、体をびくりと震わすのが見えた。

 被ったフード越しに口角を上げる。

 それだけで、弟子は肩の力が抜けたようだ。

 

 

「せっかく引き連れてくれたんだ。有効活用させてもらおう」

「何をするつもりですか」

 

 

 私様が出した声よりも低い声。

 怒りを滲ませ、しかし抑え込んでいる。

 感情も出るようになったなあ。

 私様は嬉しいよ。

 とかなんとか内心考えていると、弟子の足元の魔法陣が光り始める。

 鈍く、複雑な色合い。よくはない色だ。

 そして、体が搔き毟られる感覚。

 脱力感もある。

 ベローズの方を目を凝らしてみれば、背後に控える研究員の後ろ。

 異形たちも、同様の光を放っている。

 

 

「私たちはこの時のために研究を続けてきたんだ。強いものは滅びるべきではない。強いものほど長く生き残り、その遺伝子を繋いでいく。遺伝子だけではない、その者自身がい続けることで、人類はより反映する。病気や怪我で死んでいる場合ではないのだ」

「そうなのですよ。特にロッド様は魔法の第一人者。あの方が亡くなるだなんて、人類の最大の損失です。死してはいけないお方だ。生き返らせて差し上げねば」

 

 

 仰々しく、両手を広げて自分たちに酔っているおっさんども。

 まあ、つまりは、優秀な奴らは未来永劫生き続けようぜ、ってことか。

 ……望んでねえっつーの。

 

 

「『五番』。この魔法陣は、その体にスグサ・ロッドの魂を宿すものだ」

「……そうですか。それができたとしても、私が調べた限り最強であるその人が、あなた方の言うことに賛同するとでも?」

 

 

 お、よくわかってるじゃん。

 さすが弟子。

 

 

「別に賛同しなくてもいい」

「……と、言いますと?」

「むしろ賛同されると面倒だ。あの者のやりたいようにされてはこちらとしても迷惑だからな。これは私の研究。誰にもくれてやるつもりはない。そのためのこの魔法陣と、後ろの奴らの魔力だ。スグサ・ロッドには服従してもらうよ」

 

 

 なるほど。

 確かにこの魔法陣には『支配』が込められていた。

 私様のことをよくわかっているようだな。

 いやだけど。

 まあ実際、私様が召喚されればこいつらの言うことを聞くとは思えないな。

 今聞いても賛同するつもりはなかったし。

 こいつらの懸念はこの上なく正しい。

 そして背後にいる異形たちの魔力。

 ベローズの持つ魔石に呼応して魔法陣も同じ色に発光した。

 魔力にしてどれだけの量があるのかわからん。

 が、確かに、私様を不意に生き返らせていたら、私様も支配されていたかもしれんな。

 

 鳥かごが光る。

 同じ色だ。

 魔力を吸われている。

 

 

「魔力は多いほうが良い。お連れの分の魔力ももらうよ」

 

 

 残念だったなあ。

 

 

「いくら私様の膨大な魔力でも、テメーにくれてやる魔力は持ち合わせてねぇなあ」

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