【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
―――――…… フローレンタム
スグサ殿に魔法で送ってもらい、クザ先生とライラと俺はフローレンタム国、フォリウム学院の裏に来た。
ここから、協力者と合流し、城と学校とにわかれて移動する。
「ライラ、静かにな」
「はい!」
「声落として」
元気が取り得なのは良いことだが、今はなるべく静かに頼むぞ。
クザ先生が連絡を取った協力者もここに来てくれるはずなんだが……今のところ、姿は見れない。
物陰に姿を隠し、人の気配を探る。
あまり人が立ち入らない場所であることと、今は戦争準備で学校生徒もサポートに回っていたりするから、人が多いのは学校よりもむしろ城だ。
今のうちに合流しておきたいのだが……。
「……来ませんね」
「おかしいですね。ずぼらではありますけど、時間に遅れるような人ではないのに」
「むしろ現状で遅刻というのは、何かあったと考えるべきが自然でしょうか」
嫌な予感。
捻りもなく言えばただの直感が、背筋を撫で上げる。
耳を澄ますが、戦闘してそうな音はしない。
もっと離れた場所か……ただ到着していないだけか……。
合流していないことには動きようがない。
学院の鐘はライラと協力者が担当だ。俺とクザ先生は城に行かなければならない。
合流していないのにライラを置いて行くわけにもいかない。
かといって、俺とクザ先生のどちらかが残ると、より戦力のある城に単身突入することになって、危険度は飛躍的に上がる。
今回しかチャンスがないんだ。
リスクは……なるべく避けたいところだが……。
「……ナオ?」
後ろに静かにしていたライラが、ぽつりと呟く。
見れば、俺たちが警戒していた学校の正面側と、城との境の森側。
そのどちらでもない、言ってしまえば正門からより離れた方を見つめている。
双子ならではの勘なのか、ライラはそちらを見たまま、動かない。
「ライラ……?」
「ナオっ」
「あ、おい待て!」
突き動かされるように走り出した。
ライラは確信があるように、一直線に走っていく。
身を隠す物が少ない場所。警戒を解いたら一撃でやられる。
俺はまだ、いきなり殺されることは少ないかもしれない。
だが、クザ先生やライラは……。
運動神経の良いライラは、俺たちが追いかけても追いつかない、むしろ少しずつ距離ができていく。
本人は周囲を警戒していないだろう。
それほど直線的に駆けて行き、勢いは緩まない。
そして、またさらにスピードを上げ、手元を光らせながら飛び上った。
「ナオの……ばかあああああああああああ!!!!!」
「!?」
渾身の一撃だった。
木の上に背を向けていたナオが、声に気付いてこちらを見たが。
認識して判断するまでの数秒で、ライラは右の拳をナオの顔面目掛けて振り切った。
手は魔武器のグローブが発現されている。
力任せなライラらしいもの。
まともに食らったナオは木から落ち、蹲る。
そしてやはり、一直線に来ただけあって、ナオがこちらにいると確証があったらしい。
さらに言えば、ナオが木の上で何をしていたかだが。
「おっ……来てくれたんすか。いや、俺がどうにかなるところでしたよ」
「うわ来ちゃったよ……もー、ナオっちなにやってんのー」
話し方の似た二人が、それぞれの武器を手に膠着状態になっていた。
協力者であるヒイラギ先生は、服装を土で汚しながら鎖を発現。
その先にいる……確か、センという奴は、両手に
あれは、アイツの魔武器か?
鎖と
「う……」
「ナオ! ばか! ばかばかばか! なんでこんなことするの!」
「……うる、さいっ! ライラにはわからない!」
地面に落ちたナオの首根っこを掴んで問い詰めようとする。
しかしナオも、ここまでしているんだ。
そう簡単に心が揺さぶられるわけではないよう。
ライラの腕を弾き、突き倒す。
ゆらりと立ち上がって乱れた前髪からは、普段の気弱なナオからは想像できない、鋭く強い意志を持った目が見えていた。
「じじは……僕の唯一の理解者だったんだ……僕を認めてくれてたんだ……僕らしくして良いって。うじうじしててもいい。迷ってもいい。しっかり考えて、自分で選んだ道に進めばいいって……」
「ナオ……」
「ライラみたいにはなれない。双子でも、できることとできないことは違う。やりたいことも違う。それでいいんだ。それでいいって言ってくれてたんだ!!!」
「ナオっ!」
「ライラ離れろ!」
ナオの叫びとともに高まる魔力。
魔力は水を纏って、周囲をかき乱していく。
距離をとらないと水の刃で怪我をしそうだ。
両手に備えられた、ナオの狙撃銃。
何度も見たはずの武器に、見覚えのない石がはめ込まれている。
「クザ先生」
「あの石が何か秘密がありそうです。ナオくんは極端に魔力が少なかったですから、こんな暴走をして平気でいられるとは思えません」
「ですよね」
以前、療養院でナオが暴走したと、ヒスイから聞いた。
その時は正気を失っていて、タガが外れたのだろうと。
それがきっかけか。
それを模したのか。
どちらにしろ、それに近い魔力を正気を保ったままコントロールしている。
狙いはもちろん、俺たちだ。
目の前で狙撃銃を構える。
この距離での狙撃がどれほどの精度なのかはわからない。
だが、ナオは元々狙いはいいんだ。
目視で服の模様まで確認できる距離にいる現状は、ハンデどころか撃ってくれと言っているようなもの。
ましてや、凄まじい魔力量。
当たらずとも、その影響で吹き飛ばされるぐらいは覚悟したほうがよさそうだ。
込められている属性は水。
ここが唯一の、打開できるポイント……!
「ナオ……お前、本当に撃つ気か?」
「僕は僕なりに考えて、こうしたいと行動してます。責任は全て僕にある。誰にも邪魔はさせません」
ここまで強い意志を、俺は見たことがない。
それは生まれた時から一緒であるライラも同じなようで。
信じられないとでもいう様に、大きい目をさらに見開いて驚いている。
そして俺は、話しながら背後に控える人物に合図を送る。
「殿下。貴方は僕の……僕たちの望みを邪魔するんですよね」
「ああ、そうだ。死んだ人間を蘇らせるなんてことは間違っていると、今この場でも断言する。多すぎる犠牲の上に成り立つものは独裁と変わらん」
「犠牲がなければ、何も発展しませんよ。人も、国も」
「よくわかってるよ。俺だって国政に関わってるからな。……だが、ナオは違うようだが、人の意思を無理やり捻じ曲げてでもやるのは違うだろう」
「遅かれ早かれ、ですよ。少し人為的に早めただけです」
それが人類のためになる。
そう断言した時点で、諦めがついた。
俺は、だが。
狙撃銃のスコープから、こちらを覗く。
引き金に指がかかる。
全てがスローモーションに見えた。
合図を送る。
「≪おいでませ≫」
パシュン
引き金が引かれるのと、クザ先生の発動はほぼ同時だった。
クザ先生の魔武器の特性『簡略化』により、掛け声のみで召喚されたその魔獣。
水が大好きだと
まさかこんなに早くに頼ることになるとは思わなかったが、今ばかりは助かった。
「つめたーい!」
どちらか、と問えば、
どちらでもあるし、どちらかであると。
「助けてくれてありがとうね、ウーくん」
「うん! クーのやくにたった?」
「すごーく、助かりました」
「えへへー」
昨日のうちに面識があるクザ先生は、まるで孫を見つめるようにウーの頭を撫でる。
クザ先生は今回召喚した方をウーと認識しているようだ。
役目を終えたウーは、クザ先生の一言で姿を消す。
送還、されたのだろうか。
「え……なに……?」
「食った!? え、食えるの!?」
撃った張本人も、その仲間もまさかの事態に隙が生まれる。
まさか突然出てきた子どもが、魔力が凝縮された弾丸を丸呑みするとは夢にも思わなかっただろう。
今がチャンス。
「さあ、≪おいでませ≫」
もう一度、クザ先生の声が聞こえる。
続けて召喚された魔獣・メレオンは、その光り輝く体をこれでもかと発光させる。手筈通りとはいかなかったが、打ち合わせの通りにはなった。
構えていなければ目が見えなくなるだろう。
ナオとセンは目を覆い、打ち合わせ済みだったヒイラギ先生が鎖で二人を捕らえる。
「うわ! くっそやられたっ!」
「行け!」
クザ先生は即座にメレオンを引っ込める。
身動きが取れなくなっているうちに、俺ともう一人は背を向けて走り出す。
……走り出す前に、ここに残るもう一人に一声かけたくなった。
「取り戻そう。キョウダイを」
「……はい!」
泣くかと思っていたが、そんなことはなかった。
声をかける前、ライラに表情はなく、ただただ俯いていて。
勝手に想像したのは『悲しみ』。
けれど。
強く返事をして、上着のポケットから取り出した、スグサ殿からの餞別の魔石。
込められた魔法は、歴代最強の、最高位魔術師が込めたオリジナルの結界系の魔法。
魔石に巻きつけられている髪の毛に込められた魔力は流石に凄まじい。
さっきのナオの魔力量なんて優に超える。
それを扱うライラも、自身の魔力を込める。
魔力から感じる感情は『悲しみ』なんかじゃない。
「ナオの……ばかああああああああ!!!!!」
実際は『怒り』だったらしい。
―――――……
「何があった?」
王城の一室。
若い国王・カトが頬杖をつきながら、家臣に問う。
「はっ。先程の光の方角に、結界系魔法の出現を確認。おそらくは闇属性魔法の≪亡者の
「そんな魔法を瞬時に発動とは。まるで最高位魔術師……未来の嫁を想像させるな。周辺に人は?」
「見えませんでした」
ふむ。と、片手で顎をさする。
まるで髭があるように撫でる姿は、一代前の人物を連想させる。
「向こうも動き出したか。来客に備えよ」
「はっ」
「騎士団長」
「は」
重厚な甲冑を着込んでいる。
頭の装備は小脇に抱えられており、頬が痩け、やつれているのが一眼でわかる。
心なしか顔色も悪く、また、心ここにあらずと言った表情だ。
「お前の妻はどうしている?」
「さて。昨日から姿を見ておりません」
「そうか。お互い、家族には苦労するな」
ひらひらと手を仰ぎ、カミルは一礼して去っていく。
若き国王は人払いをさせ、広すぎる部屋で一人呟く。
「全く。めんどうくさい。親不孝者め」