【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
ここまでとりあえずの説明を終えて、ふぅ、と一息。
話が途切れたのを見計らって、王子サマが挙手。
「参加していた研究員の名は?」
「ベローズ」
と言っても、今この城に在籍しているベローズではない。
当然だが、私様を勧誘してきた奴らはとっくに死んでいるだろう。
勧誘してきた時点で結構な歳も行ってそうだったし。
あの時のあいつは六十前後は行ってそうだったな。
城にいる奴はまだ四十前後といったところか。
若い方ではないだろうが、少なくとも勧誘してきた奴より若い。
故に別人。
「血縁じゃないですか?」
「殿下。ザロ・ベローズ所長は代々研究者の家系です。城に仕えるようになったのは十年程前のこと」
クール女魔術師は調べてたのか。
たまたまかも知れないが。
しかし十年来の城仕えとは微妙だ。
私様の家に来たときは研究成果としてはどうだったんだろうな。
「赤髪。私様が死んで何年経ったんだ?」
「えーっと、七十年ぐらいでしょうか。それと僕はアオイです」
名前は置いておいて。
七十年か。
思ったより経っていたとみるか、その程度の年数で死者を都合良く使う方法を編み出してしまったとみるか。
とりあえずだ。
古いベローズは、私様を勧誘してきたときは城仕えではなかった。
いつからか何かがきっかけで城に入り、城で研究を続けることとなった。
今のベローズは古い奴から見て孫あたりだろう。
研究は後世に引き継がれ、その先で成就してしまったと。
研究熱心な家系で何よりだ。
王子サマ方はベローズと城……ひいては国との関係を調べるつもりらしく、女魔術師に伝達している。
まるで秘書の様だが、見た目は完全秘書だしそういう立ち位置なのかも知れない。
「他には何か?」
ベローズの話になってしまっていたが、私様のことはひとまずもう良いだろう。
「では私からいいですか」
初めての発言だ。
騎士サマ。
重みのある声色には威圧が感じられなくもないが、向ける視線に敵意はない。
初めのころはヒスイを特に警戒していたと聞くが、今となってはそれに値しないと物語っているようで。
今はヒスイじゃなく私様なんだがなぁ
……安心、慢心……油断しすぎじゃないか?
やっぱり、あとでやろう。全員だ。
「さっきのウロロスはどうなったのでしょうか」
「ウーとロロならそっちで寝てる」
私様の真後ろ、机を後ろ手に指さして適当に答える。
騎士サマと殿下と見あい、双方が頷いて騎士サマは立ち上がる。
信じられないわけではないんだろうが、あの時の巨体がどうして机のほうに収まっているのだろうかという好奇心からか。
騎士サマは机に向かって歩き出し、慎重に机の周囲を確認。
あの姿の二匹を見てどういう反応をするか気になり、私様は体を捻って様子を見る。
丁度足が入る部分を見ようと屈んだ瞬間。
緊張で強張っていた顔が一瞬で真顔になった。
表情の変化に軽く吹き出したら睨まれた。
すまんって。
「いたろ?」
「ええ……。穏やかな寝息を立てていますよ」
「これがさっきのウロロス?」
赤髪も後ろから覗き込んで、珍しいものを見たような感想を言う。
まあ実際珍しいんだが。
ベローズが来た時には頭しか出していなかったが、今二人は二匹の全体を見ているだろう。
ウロロスは本来は一つの体と二つの頭を持つ。
繁殖期となるとそれらが分離し、それぞれの性を持って別の個体と繁殖する。
繁殖のときはメスの体に伴侶となる雄の頭が生え、卵を産む。
卵から産まれるのは二頭一体のウロロスだ。
つまり、ウロロスは産まれた時は二頭一体。
繁殖時期になったら雌雄で別れて一頭一体。
伴侶が見つかったらまた二頭一体となって過ごす。
なので体と頭が一つずつの個体はそうそうお目にかかれるものではない。
繁殖時期は特に凶暴だから進んで近寄ることもお勧めしない。
しかし。
ウーとロロは違う。
「人間のような姿にもなれて、今は体を分けることができる。おそらくはまた体を合わせることも……?」
「察しがいいな。あたりだ」
そう。
赤髪の言う通り、ウーとロロは合体と分離が可能な唯一の個体だ。
「貴方の子飼いと聞いた。貴方が?」
研究でこのようなことをしたのか。
と、聞きたそうな顔だな、王子サマ。
眉を顰めながら問う王子サマからは非難にも似た雰囲気を感じる。
部屋全体が重い空気になったところで、小さく笑い飛ばす。
「いいや。こいつらは子飼いだと言われているのは知っていたが、正しくは保護して懐かれただけだ」
「保護とはどういう状況で?」
「気に入らないことがありましてね。とある場所で好き勝手暴れてやった中で、こいつらだけまともに生きてたんで」
まともに。
そう、まともにだ。
他にも二匹みたいに生きていた奴はいたが、二匹ほどまともじゃなかった。
それだけのこと。
それだけのことで、私様は他の奴らを全員葬った。
このことは私様が生きていたころだから、七十年以上前の出来事だ。
記録を遡れば残っているかもしれない。
ないだろうけど。
「このことについては詳しい話はするつもりありません。知りたければ力づくでどうぞ」
「ほう?」
「そろそろ体を動かしたいと思っていまして」
後ろに二人、前に二人、そして私様と二匹。
部屋の大きさ計算、固定。
ウーとロロも組み込まれるが、この際いいだろう。
起きたときに私様がいてやる約束だし。
魔力を練る。
魔術師二人はさすがに魔力を練った時点で気付いたようだが、反応するよりも私様が発動する方が早い。
魔法を発動。
無属性魔法 ≪放り込まれた
「ずっと座って話続きなんで、運動不足解消につきあってくださいよ」
周囲は真っ白に加えて赤や青や黄色など、まるで子どもの落書きのような模様に様変わり。
模様は波打つように動き、表情を変える。
見ていても少しの間は楽しめる。
色は属性を表しており、魔法が当たれば霧散した魔力が吸収される仕様だ。
今みたいに、本来戦えない所で戦う場合に最適な魔法。
「!?」
突然様子が変われば驚くよな。
座っていた王子サマと女魔術師は景色が変わった瞬間に立ち上がる。
ソファーは二人が座っていたので空間に組み込んだ。
休憩するときに座りたいし。
机の類は使わないから置いてきた。
満足気に頷いて、それを黙って見つめる巻き込まれた人らは。
私様が使った魔法だと理解すれば、私様を見る目を恨みがましい目に変える。
「……スグサ殿。さすがに急すぎるぞ」
「すみませんて」
説明がめんどくさかったのと、反対意見は聞かないつもりだったから。
言いはしなかったが、皆そうだと察したらしい。
私様のことを理解してくださって何よりだ。
三者……いや、四者四様の呆れ顔やら困り顔を披露し、王子サマの周りに集合する。
対応を論じるようだ。
ソファー側で話し合いをしている間、私様はウーとロロをクッションに乗せたまま、起こさないようにそっと持ち上げて隅に寄せ、物音を遮断する魔法をかける。
「受けるしかないですね。幸い敵意はない方ですし」
「この魔法を解くというのは」
「僕とロタエでやっても無理でしょうね」
「カミル団長が斬るというのは?」
「やってみるか?」
「やらんでよいわ」
え、何。
女魔術師と騎士サマがボケ担当なの?
意外過ぎるんだけど。
ボケは置いといて、体を動かすのを手伝ってはくれるようだ。
無理にお誘いしたわけだし、謝罪の意を込めてこちらから一つ提案するか。
食いつくかはわからんが、ないよりはいいだろう。
「一つ提案しよう」
「なんだ?」
「お相手いただいた方には、私様特製の魔法石をプレゼント、ってどうですかね?」
魔法石はその名の通り、魔法を込めた石。
持ち主の魔力や力量に関わらず、込めたものの魔法が使える。
魔力の弱い生き物も使える便利道具だ。
石は用意してもらう必要があるが、リクエストがあれば指定の魔法を込めよう。
ここまで提案して。
らしからぬ悪い顔の王子サマ。
「それはなかなか、高級な餌だな」
やる気になってくれて何より。
王子サマにつられて私様もニヤリと口角が上がる。
「さて、では早速始めよう。誰からやる?」
私様としては複数でもいいが、さてどうでるか。複数人についての質問はなかったが。
互いを見ながら相談……とはいかなかったようだ。
「私に行かせてください」
またも意外や意外。
率先して主張したのは女魔術師だった。
こういうのは遊びだと切り捨てて外野を決め込むタイプだと思っていた。
まさか先陣を切ってくるとは。
女魔術師は男三人を無視して私様の正面に立つ。
何か言いたげにする王子サマだが、その横に立つ赤髪が王子サマの肩に手を置き、首を振っている。
まるで「言っても無駄です」とでも言っているようだ。
「ロタエはああ見えて好戦的だし負けず嫌いですから」
「どこでそんな対抗心が……」
「ほら、結界越えの転移ですよ」
「あ、あぁ……」
「ちなみに、手助けも無駄ですよ、きっと。むしろ攻撃されます」
問題児ってわけではなさそうだが、身に覚えがありそうな言い草だ。
こちらとしては誰でも何人でも構わない。むしろ話が早くて助かる。
というわけで、ゴングを鳴らす準備としよう。
「よろしくな。ハンデはどうする?」
「こちらこそよろしくお願い致します」
対戦前とは思えない、丁寧な挨拶を交わして。
ルールは特に決めてないからすり合わせなくてはな。
さり気なくハンデの提案をしたが、流されたか?
「ハンデを頂けるのでしたら、武器の使用は許可していただけますか?」
流されてなかった。
半分煽りも入れていたのだが、意に介してもいないのか。
でもこいつは意外性ありそうだからなあ。
ポーカーフェイスだし。
実はキレてたりして。
「いいぞ。私様は魔法だけな。そうだな。属性も一つに絞るか」
「では土属性でお願いできますか?」
「お、いいぞ」
にっこり。
ぞわぞわ。
めちゃくちゃいい笑顔を向けられた。
え、今までそんなに表情変えてなかったじゃん。
このタイミングでその表情筋の使い方はやばくないか?
まさか「ハンデ」って言ったの、そんなに怒った?
説明求む、と思わず赤髪に目線を向ける。
気付いた赤髪は深く二回頷いて、胸の高さに挙げた手をぐっと握って、脇をしめた。
まるで「がんばれ!」とでも言っているようだ。
うっせ。
おっと。
思わず悪態をついてしまった。
応援されたのなんて実は百年ぶりくらいなんじゃないか。
まさかここでは敵である奴から久々の応援を貰ってしまうとは。
私様が応援されるぐらいってことは、煽りすぎたのか?
あの頷き二回は、怒ったってことなんだろうなあ。
後には引けない背水のなんたらを感じながら、相手に見直す。
あ、やばそう。
女魔術師は魂を刈り取ろうと大鎌を振りかざしていた。