【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第5話―― アオイ視点

 ―――――……  アーマタス

 

 

 

 

 

「さて。シオン様。調子はいかがですか?」

「問題ない……です」

 

 

 スグサ殿には、アーマタスの外壁より大きく離れた位置に飛ばしてもらった。

 アーマタスは国民全員が戦闘慣れしていると言ってもいい。

 そういうお国柄だからもちろんだけどね。

 そんなところにシオン様と二人で突撃するのは得策ではない。

 だから、魔法の利点を使って遠距離から鐘を狙おう……という手はずなんだけど。

 外壁に囲まれたアーマタスは、遠くから見ると国一つが巨大な競技場のように円形になっている。

 つまり、右から左まで見て、すべて同じ外壁なのだ。

 一定の高さから飛び出る屋根は場所により差異があるものの、突出している建物はない。

 国の周辺も砂地なので、国が特に目立っている。

 僕たちも身を隠す物がないので、なるべく距離を開けたのだけど……。

 

 

「ヒスイちゃんが入った競技場はどこらへんか……ここからわかります?」

「いや……右端が国の入り口なら、おそらくは中央より奥……左寄りだ。です」

「……シオン様。僕って話しにくいですか?」

 

 

 腰を折り、まだ成長途中であるシオン様と目線を合わせて聞いてみる。

 苦笑いで聞けば、はっとしたような、「まずい」とでも思ったのか、気まずそうな顔をした。

 

 

「い、いや……そういうわけではないっ、です」

「そうですかぁ。んー、そうなると、話し慣れない?」

「ま、まあ、そんなところ……」

 

 

 目線を逸らされる。

 斜め下の、何もない地面、いや、砂を見つめる。

 シオン様は、生まれた時に母を亡くしている。

 母というのはフローレンタムの前国王の妻。

 つまりは王妃で、コウ様やカト様の母でもある。

 前国王の王妃に対する寵愛はとても有名で、それは国民としてはとても微笑ましく見えていた。

 仲睦まじい、理想の夫婦。

 親が子どもに「国王陛下と王妃様のように仲のいい家族を築きなさい」と教えるほどだ。

 

 しかし。

 シオン様が産まれたとき。

 出血が止まらず、王妃様は亡くなられてしまった。

 クザ先生ではない当時の医術師もいたが、やっていたことと言えば血を必死に抑えて止めるだけ。

 床に山積みにされていたタオルは真っ赤で、血溜まりができるほど吸い切れていなかったらしい。

 そのことがあってから、国王陛下はすべてに対して無気力になった。

 できる奴がやれ。

 自分がやるのは「めんどうくさい」と、自暴自棄になってしまった。

 国政のことはもちろん。自身の息子たちにも、興味も関心も示さなくなった。

 幸い、それでも国が生きていけたのは、第一王子のカト様の采配があったからだ。

 当時から人を見る目があったカト様は、人員を配置し、的確な指示をだしていた。

 シオン様は乳母や兄弟に育てられたと言ってもいいだろう。

 母親や父親の年代の人間をほとんど知らずに育った。

 フォリウム学院でも寮に入ってしまわれたし、大人との接し方がわからないのだろう。

 

 

「シオン様。僕のことは兄か、同級生と思ってください」

「……は?」

「今は余計なことに気を取られている暇はありません。命取りにもなりえます。僕は構わないどころか、そう対応してくれたほうが嬉しいので」

「い、いや、だが急には……」

「やっていただかないと困るなあ。そうだ。知り合いの兄にしましょうか。それならヒスイちゃんのお兄ちゃんがいいなあ」

「ヒスイの……ああ」

 

 

 納得された。

 

 

「確かに。敬語なのは、あいつも変えないしな」

 

 

 語尾だった。

 でも、たしかに。

 ヒスイちゃんはほとんどの人に対して敬語だなあ。

 僕たちにも、同級生にも。

 スグサ様にも。

 思い出したら少し笑えてきた。

 

 

「じゃあそういうことにしましょう。ねっシオン!」

「……雰囲気はだいぶ違うが、まあ、いいか」

「お。よかったー。王族の人を呼び捨てって怖かったんですよねー」

「躊躇った様子は見えなかったぞ?」

 

 

 だってヒスイちゃんは「シオン」って呼んでたし。

 空気が程よく解れたところだが、気はもう一度引き締める。

 シオンの言う通りなら、ヒスイちゃんが入った競技場は正面より左寄り。

 数歩前に出て、上半身を少し倒す。

 本当はダメだけど、緊急時だからしょうがないということで禁止されている魔法を使う。

 

 

「ふーむ。競技場はあるけど、鐘は周辺にはないなあ」

「……どうやって見てるんだ?」

「≪透視≫してます」

「へー」

 

 

 おお……さすがというかなんというか。

 肝が据わっているというか、禁止されているはずの魔法について寛容な反応。

 状況が状況、ということもあるけど。

 適応早いなあ。

 これが若さかな?

 

 

「競技場ではないのならと考えると……鐘の音を響かせるなら、一番効率良いのは中央だよねー」

 

 

 ということで中央付近を見る。

 と。特別大きい建造物ではないが、それらしきものが見えた。

 やはり中央か。

 それを守るように人だかりができている。

 警戒されてるなあ。

 なぜ?

 来ることを知っていたのか?

 いつか来るだろうと?

 それにしては行動が早すぎる。

 昨日の今日だよ?

 ……とりあえず。

 やることをやらなきゃかな。

 

 

「ありましたよー。中央だ」

 

 

 声をかけ、斜め後ろを向いた瞬間。

 

 

「≪大地は我らを食す≫」

「っ!」

 

 

 突然、地面が割れる。

 砂地のここでは地面が割れた瞬間に砂も流れ落ち、少し移動したぐらいでは砂に足を取られて穴に引きずり込まれてしまうだろう。

 咄嗟の判断がモノを言う。

 今がまさにそうだった。

 咄嗟の土魔法で土台を作り、自力で跳ねて人の気配から離れた。

 

 

「あら、避けられてしまいましたか」

「くっ……」

 

 

 距離をとって魔法の発動者を見れば、それは当初から警戒対象だったマリーという少女。

 髪を頭の高い位置で束ね、女性用の甲冑を身に纏っている。

 そして何より気になるのは姿勢。

 というか、体勢。

 シオンに後ろから抱き着く様な恰好。

 異様だ。

 というかなぜ、シオンはその状態で動こうとしないのか。

 

 

「シオン。動けないのですか?」

「く、あ」

「ふふ、喋れませんよ。そう暗示をかけましたから。もちろん、体も動かせません」

 

 

 つーっと、マリーがシオンの顔の縁をなぞる。

 その妖美な仕草はどこで覚えたのか気になるが、今はそれどころではない。

 シオン……第三王子が人質に取られた。

 

 

「シオン様はマリーと気持ちが通じ合うと思っていますの。ね? 少しお話を聞いてくださらないかしら」

 

 

 耳元で囁く。

 近すぎるその距離ならば、息遣いすらもよく聞こえているだろう。

 至近距離すぎて、助けようにも手が出せない。

 どうしようか手をこまねいているうちに、無駄な時間が過ぎていく。

 どうにか注意を逸らせないか……!

 

 

「……暗示、というのは、君の魔法だね?」

「ええ、そうですわ。光属性をお持ちの方には効果が出にくいのですけれど、これだけ近ければいかようにもなりますわ」

 

 

 話しながら、手に持ったハンドベルを突き出してくる。

 つまり、暗示は武器の『特性』だという可能性が高い。

 

 

「なら、君が世界中の人に暗示……洗脳をかけたのかい?」

「語弊のある言い方ですわ。不愉快です。マリーはみなさんによりよい世界になることをお教えしてあげただけですわ。皆さんはそれに賛同してくださっただけです」

 

 

 暗示と言っておいて、よく言う。

 一先ず分かったことは、世界中で起こった倫理観のズレの元凶は、マリーの武器によるもの。

 ならばマリーを倒せばいいのか?

 そんな簡単ではないだろう。

 そもそもの話。

 マリー程度の魔術師に世界規模で暗示や洗脳を行うなんてできっこない。

 ならなぜできているか。

 その種が国ごとにある鐘、と考えるべきだ。

 マリーを倒したところで何も変わらないだろう。

 鐘が今持っているハンドベルを核に動いているならまだしも、そう単純な構造とも思いにくい。

 もしかしたら、魔石で複数個作り上げた別個体という可能性もある。

 スグサ様とヒスイちゃんのように、魔力が同じなら武器も同じようなものができてもおかしくはない。

 

 

「マリーはシオンとお話がしたいんです。貴方様は別の方とお戯れを」

「別の方って……っ!」

 

 

 殺気を感じた。

 振り返って、魔力を放出する。

 魔法としての発動ではないから弱いけれど、即時対応としてはこれが限界だった。

 広範囲で放出した魔力にぶつかる、他人からの魔法。

 頭部を狙ってきた水属性魔法だ。……殺す気だ。

 

 

「僕は君と、こんなふうには戦いたくなかったなあ」

「私は本気で戦えることが嬉しいです。団長」

「言われればいつでも本気で受けて立ったのに。ねえ、ロタエ」

 

 

 「どうしちゃったの?」と言う言葉を飲み込んだ。

 それは聞いても語られない。

 というより、洗脳された状態で聞いても、僕は信じることができないかもしれないから。

 そして、この、戦わなければならない雰囲気は、どうしても誤魔化せそうにないから。

 幸い、マリーはシオンと話がしたいという。

 洗脳をかけている奴の言葉なら、洗脳されて言わされている言葉ではないだろう。

 すぐに何かされることはない……と思う。

 

 

「マリーはシオンと話がしたいんだっけ」

「ええ。有意義なお話を」

「そう。じゃあ、見張らせてもらうよ」

「あら。貴方様はロタエさんのお相手をしていただかなくては」

「僕じゃない」

 

 

 スグサ様から受け取った魔石を取り出す。

 そして中から飛び出してきたその子にお願いすることにしよう。

 

 

「う?」

「やあ、ロロ。おはよう」

「おはよ? うん! おはよう!」

 

 

 寝ぼけ眼をこすりながら登場推した幼い子。

 正体を知らなければ、見た目はただの小さな子だ。

 まあ、石から出てきた時点で普通の人間ではないことは一目瞭然だけれども。

 

 

「あらあら、その子は……」

「この子に見張らせます。余計なことをしないように」

「その子がいたところで何も変わりませんけれど?」

「ええ、変わらないでしょう。だから安心して話してください」

 

 

 子ども相手ならば大体の人間は油断する。

 何かを話しをするときでも警戒心が緩むだろう。

 

 

「ロロ」

「う?」

「もし、あのお姉ちゃんがお兄ちゃんに危ないことをしようとしたら……」

 

 

 一応、緊急事態の合図を決めておく。

 難しいことはわからないだろうから、シンプルなことだけを。

 そうすれば、もしもの時はロタエを強引に止めて、こちらに戻ってこれる。

 ロタエを強引に止めるのが一番骨が折れそうだけど。

 

 

「まあ、いいですわ。ここでお話をしているだけですもの」

「移動もしないなんて、随分優しいね?」

「反抗意思のある方々を近づけさせようとは思いませんわ。ご理解いただけたうえでないと。それだけ神聖な内容なんです」

 

 

 どうだか。

 憎まれ口を言いたくなる。

 死んだ人間を蘇らせることが神聖か。

 人によってはそうかもしれないが、人によってはそうではない。

 自然の摂理の破壊行動だ。

 

 

「じゃあ。シオン、しっかり話を聞いてあげて。何かあればすぐに来るから」

 

 

 暗示で動けないのか、頷きも何もなかった。

 しかしその目は強く光っていて、戦いに行く僕の無事を願ってくれていると解釈した。

 同時に、「こちらのことは気にするな」とも。

 さすがは王子様。度胸がある。

 

 

「お待たせロタエ。じゃあ、本気で(・・・)やろうか」

 

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