【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

 正直、シオンをマリーと二人きりにするのは不安がある。

 いや、不安しかない。

 しかし今はこれしか手段が取れないというのも事実。

 ロタエは強い。

 風という場所を選びにくい属性を持ち、闇は強力な精神攻撃を持つ。

 そして持っている武器も、とても強力。

 今は僕が魔術師団長ではあるけれど、遠かれ少なかれ確実に抜かれると思っている。

 そして、今とても気になっているのはシオンたちのことと、もう一つ。

 目の前で武器を下ろし、しかし目は僕の一挙手一投足を見逃そうとしない彼女のこと。

 

 

「ねえ、ロタエ。どうしてそちら側についたのか教えてくれない?」

 

 

 たとえ闇属性持ちだからといって、ロタエが早々洗脳にかかるなんて思えない。

 それこそ副団長だ。

 洗脳も急激なものではないし、異変を感じたところで相談に来ることもできたはず。

 相談に来る間もなくかかってしまったという強力なものだったのなら別だけど、なにか、他に要因があるんじゃないかと思ってならない。

 変わらずの目線。

 手には武器。

 棒立ち。

 僕が戦おうとする素振(そぶ)りを見せないからか、ロタエは静かに目を閉じ、口を開いた。

 

 

「……ずっと、後悔していたことがあります」

「後悔?」

「私はなぜ、貴族で、女なのでしょうか」

 

 

 思考が止まった。

 後悔なのか、それは。

 産まれた立場や性別なんて選べたものではないだろう。

 というか、そういうことで悩んでいたというのか。

 今まで、ずっと。

 

 

「貴族という立場は恵まれているとは思います。けれど、恵まれているからと言ってなんでも望めば手に入るものでもない。同時に、望んでいないものが責任を伴ってこの手に自然と入ってきてしまう」

 

 

 両手を見つめる。

 

 

「貴族でなければ。そう考えたことは何度もありました。その度に簡単に捨てられるものでもないという現実に襲われます」

 

 

 天を仰ぐ。

 貴族という立場は、一般的には羨望の眼差しで見られやすい。

 それはもちろん、生まれ持った立場だという場合が多いからだ。

 もちろん、平民が努力して地位を獲得することもあるが、その努力無くして得られたものはそりゃあ『美味しい』ものだ。

 だけど。

 もちろん、貴族は貴族で苦労していることもよくわかっている。

 上に立つ者の責任というのは、貴族でも魔術師団長でも持っているものだ。

 それは責任感の強い人ほど重圧にもとれるだろう。

 圧にかけられれば、人間は脆いから、身動きがとりにくくなる。

 

 ではどうするか。

 ロタエは、それこそ『生まれ変われれば』という選択肢に縋ったのか。

 

 

「貴族という立場についてはよくわかったよ。女性、ということについては?」

「……貴方です」

 

 

 ……え?

 

 

「私は、貴方と対等になりたかった」

 

 

 ……まさかの、告白だった。

 

 

「貴方のことは尊敬しています。普段は適当そうに、さらには飄々(ひょうひょう)としていながら、ここぞというときには実力を適切に発揮する方です」

「あ、ありがとう」

「だからこそ、私は貴方と同じ立場になりたかった」

 

 

 ……。

 

 それだけのために、というのは、失礼な言葉だろう。

 しかしどうしても、そう捕らえてしまう。

 ロタエにはロタエの良さがあって、僕には僕の良さがある。

 貴族のロタエと、平民の僕。

 女性のロタエと、男性の僕。

 どちらがどう優れているかなんて、判断する人の価値観によるものだ。

 それはもちろん、ロタエの価値観でもあるということ。

 

 

「……じゃあ、ロタエは生まれ変わって、平民の男になりたい、ってこと」

「そうですね」

「そもそもの間違いを示してあげるよ」

 

 

 真っ直ぐにこちらを見据える黄色い瞳が、ピクリと揺れた瞼で陰る。

 眉は吊り上がった。

 たぶん、いや、ほぼ確実に、僕が言った「間違い」という単語に反応したのだろう。

 胸元にいつも入れている石に指を添える。

 石は形を変え、僕の手に収まった。

 動作の意味に気付いたロタエが、腰を下げ、両手で鎌の柄を構える。

 

 

「僕と対等って言うことは、魔法でって言うことで間違いないよね?」

 

 

 細く、決して長くはない指揮棒(タクト)を軽く振る。

 

 

「魔法っていうのは、そんなもの関係ないはずだよ」

 

 

 宙に浮く大小の火の玉が五十。

 

 

「まさか、魔力量も、属性も、武器も。全てを同じにして戦いたいなんて言わないよね?」

 

 

 それじゃあまるで、僕になりたいと言っているようなもんだよ?

 

 目を細める。

 決して意図的ではない。

 軽蔑しているわけでも、非難しているわけでもない。

 ただ、その真偽が知りたくて。

 いつもならほとんどしない顔になってしまっただけ。

 構えたままでお互いに動こうとしない。

 まだ話は終わっていない。

 

 

「……まさか。ただせめてものスタートラインを、同じにしたかったというだけです」

「スタートラインが同じなら、僕と対等になれた?」

「対等以上になれる努力をしますよ」

「今で僕の下なのに?」

 

 

 さっきよりもはっきりと、瞼がピクリと動き、眉が吊り上がる。

 ついでに瞳孔も開く。

 負けず嫌いだもんね、ロタエは。

 

 

「ああそうか。立場と性別の負い目があるから、今はもしかしたら手を抜いているのかな?」

「……」

「もしそうだとしたら、逆に僕の方が腹が立ってくるね」

 

 

 指揮棒(タクト)をもう一度降る。追加して合計は百。大きさは倍以上のものばかり。

 

 

「僕はロタエのことを、好敵手(ライバル)だと思ってるよ」

「……」

「ロタエは、現状ではそうは思ってなかったのかもしれないね」

 

 

 ヒスイちゃんもそうだけど、ロタエもそう表情は変わらない。

 長年一緒にいても、なかなか察することはできない。

 ……悔しいなあ。

 僕の内心を知って、今は何を思っているんだろう。

 

 

「そろそろ始めようか。貴族と平民。男と女。真逆の属性持ちの戦いを」

「……ええ。手加減なしで」

「モチロン。ただし、罰ゲームを付けようか」

「罰ゲーム、ですか」

「殺し合いではないからね。勝敗がついたら、また仲良くしようよ。罰ゲームはそうだな。シンプルに『相手の言うことを聞く』ってことにしよう」

「わかりました」

 

 

 数秒の、間。

 同時に地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 ―――――……

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