【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第7話―― シオン視点

 強気な顔をした。

 作った。

 暗示や洗脳よりも催眠に近い状況。

 体は言うことを聞かないが、思考は正常だった。

 「話をしたい」と言ったのは、本当に本心なのかもしれない。

 魔術師団長が、副団長と体を向き合わせる。

 城では副団長に世話されているような団長も、いざとなったら頼もしい背中を見せるらしい。

 男らしい。

 素直にそう思った。

 けれど同時に、心細さが強くなる。

 背後から抱きついてくる香水臭い女。

 クラスでは適当な距離を保ち、時折大胆ながらも品のある令嬢だと思っていたのだが。

 これほどまでに大胆な奴だとは。

 完全に騙された。

 

 

「向こうも始めるようですし、マリーも始めることとしましょう」

 

 

 武器を携えた団長を見て、かつての級友は鼻につく香りを揺らす。

 こちらにくることはないという確信を持ったからだろう。

 マリーは俺から離れ、正面にくる。

 両肩に手を乗せて、荷重をかける。

 

 

「座りましょう」

 

 

 座らされた。

 勢いもなく、膝をゆっくり折って、砂地に腰を下ろす。

 これが、マリーの魔法なのか。

 さっきもそうだった。

 いつの間にか背後に現れたこいつ。

 抱きつかれたと気付いたときにはもう自由はなかった。

 魔術師団長も、攻撃されてから気付いたようだったし。

 気配を消すのはなにかネタがあるのか。

 体の自由がない代わりに思考は縦横無尽に色々な可能性を模索する。

 頭がいい方ではないから、決断は出さない。

 あらゆる可能性に対応できるように考えておくだけ。

 ……兄上なら、こうすると思うから。

 正面に座ったマリーは、手に持っていたハンドベルを掲げる。

 耳に何かが被さった。

 

 

「!?」

「ふふ。かわいい子」

 

 

 ひんやりとした小さい何かが、強くも優しい力で耳を覆う。

 そういえば、お前がいてくれたんだったな。

 小さな存在を思い出し、心の中で謝罪した。

 

 

「大丈夫ですわ。今から暗示を解くだけです。そんな怖い顔しないでくださいまし」

 

 

 俺の背後に立つウロロスの片割れ……ロロに向かって話しかける。

 顔も様子もわからないが、こもって聞こえるマリーの言葉からは、険しい顔をした様子を想像する。

 

 

「おまえ、きらい。いじめた」

「そうですわね。マリーはあなたのお友達をいじめました。ごめんなさい」

 

 

 地面に座ったまま、両手をついて頭を深く下げる。

 貴族の令嬢が、平民どころか魔獣に対してこんなに深く頭を下げるとは。

 そもそもそんな機会自体が珍しいことを置いておいても驚くべきことだ。

 貴族と平民、人間と魔獣。

 そんな垣根などないような行動に、少し、感動を覚える。

 

 

「マリーたちの願いのために、必要なことでした」

 

 

 前言撤回。

 伏せたままなのにはっきりと聞こえたその言葉には、強い意志が見え隠れしている。

 なにがなんでも通そうとする、強すぎる意志。それは貴族としてとても貴族らしいものだ。

 

 

 『なにを失ってでも』『どんなことをしてでも』

 

 

 こいつは、どうしてそこまでしたいのか、気になる。

 

 

「……あら。あなたはよろしいのですね?」

 

 

 顔を上げたマリーが、俺の顔を見て微笑む。

 変えられる表情を読み、俺が「やれ」と思っていることを見抜いた。

 横から子どもの顔がのぞき込む。

 縦長の瞳孔と目が合って、眼球を小さく動かす。

 首が動かせない代わりだ。

 不満足。

 そう顔でいいながら、顔と両手を引っ込めた。

 

 

「では」

 

 

 リーーーン

 高めの、ハンドベルの音が鼓膜を刺激する。

 体の緊張がほぐれていくように、自分の意のままに動く体。

 首を動かし、両手を握って離す。

 試しに一度立って、ジャンプした。

 うん。問題ない。

 

 

「話って?」

 

 

 回りくどいことは必要ない。

 そもそもこうして話すこと自体必要ないかもしれない。

 しかし気になってしまったのだから、しょうがない。

 何事にも理由は存在する。

 色々なものを巻き込みすぎている現状だから、賛同するとは思えない。

 だが、それでも聞いてみたいと思った。

 否定するのも、その後でいいだろう。

 

 

「せっかちさんですね」

「ゆっくりお茶でもする仲じゃなくなったからな」

 

 

 とりあえず腰は下ろす。

 『話をしたい』という姿勢に対する礼儀だ。

 ……敵なのだから、そこまでしなくてもいいのかもしれないが。

 座ったのを見てにっこり笑った。

 そういう意図の笑いなのかは気にしない。

 話を進めろと、顔に出す。

 

 

「マリーたちは『死者蘇生』の魔法を編み出しました。望んだ人物を蘇らせる魔法です。素晴らしいと思いませんか? 不慮の事故。殺人。病死。それどころか怪我で失った身体機能すら、一度死んでリセットすることで、もう一度やり直すことができます」

「そんなことはわかってる。今更だ。それだけか?」

 

 

 ゆっくり首を振る。

 

 

「いいえ。そんなことありません」

「回りくどい。端的に言え」

「せっかちさん。でもわかりましたわ」

 

 

 一つ、息を吐いた。

 

 

「救われるのは当人だけではありません。失った側。家族を亡くしたマリーや、自分が産まれたことでお母様を亡くしたシオン様も、救われるのですよ」

 

 

 俺の心臓が、一つ、大きく跳ねた。

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