【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第2話

 第三の研究までが、弟子が来るまでに至った経緯だ。

 キャストと混ぜられた誰か、バラファイと混ぜられたシクは弟子が来るために。

 弟子が召喚されてからキャストと混ぜられたイオラは、私様を召喚するために混ぜられたのか。

 二人とも、私様たちのために犠牲になった被害者か。

 現状では成功しているが、きっと今に至るまでに失敗も繰り返しているだろう。

 背後にいる異形たちは、一人一人の魔力量はばらばらだが、大まかに数えれば二百はいる。

 彼らの他にももっといただろう。

 失敗で即座に命を落とした者。

 成功したが、長くは生きられなかった者。

 成功し、使い捨てられた者。

 現在も利用されている者。

 今、この場にいる者。

 ベローズにとっても、実験前は同じ人間だったはずなんだがなあ。

 よくもまあ、こんな鬼畜の所業ができたものだ。

 

 

「それだけの検体、よく集めたな。年齢も性別もばらばらなようだが、理由は?」

「サンプルは多い方が良いに決まっている。自主的に来るものはほとんどいなかったがな。だから過疎化した村や町の人間。一人暮らしの引きこもり。怪我人。死を待つばかりの病人などをかき集めたさ。結構苦労したものだ」

 

 

 研究者は自身の研究に興味を持たれると上機嫌になる場合がある。

 ベローズはまさにそのタイプのようだ。

 研究について饒舌。

 あんなに私様に反抗していたのに。

 これ幸いと見て、いろいろと聞き出そう。

 

 

「最近は……そうだな。ピューリクリムとかか?」

「そうだ! あの村は元々人が減っていたからな。もう村と呼ぶかも怪しいほどだったよ。だから」

 

 

 攫いやすかった。と。

 研究者らしからぬ答えだ。

 吐き気がする。

 笑っておこう。

 

 

「しかしそれでは人数があわないな。ピューリクリムは最近の話だと思うが? それまではどうしていたんだ」

「ああ、それは、ここだ」

 

 

 ここ。

 指をさすでもなく。目線を向けるわけでもなく。

 ただただ座って口にする。

 

 

「この国、レルギオの元の国だ」

 

 

 ……。

 もはや言葉が出ない。

 ここまで非人道的な人間がいるとは驚きだ。

 コイツの頭の中身をのぞいてみたい。

 何も言わずとも、上機嫌になったベローズは流暢に下を回し続ける。

 その目は私様など映してはおらず、はるか昔を懐かしむように混沌とした色をしている。

 

 

「ユーカントリリー教は元々魔法至上主義だ。しかし信者は少なかった。気弱な奴らが多かったんだ。しかし、そんな奴らも集まれば強気に出る。一人が言い出したことに同調し、集団心理が働いた。『魔法の究極を目指そう』と」

「はっはあ。それが『英雄の力の再現』で、『死者蘇生』で、『転生魔法』か」

「そうだともそうだとも! 長い年月をかけて、我々はついに作り上げた! 魔法至上主義者が! 史上最高の魔法を作り上げるこの時が!!!」

 

 

 音を立てて椅子から立ち上がった。

 興奮に我を忘れ、両の手の拳を天に突き上げ、まるで何かに優勝したかのように高らかに声を上げる。

 熱くなる奴に対し、私様や弟子たちは冷え切った空気を感じていた。

 人は盲目になりやすい。

 何かを信じれば。

 依存すれば。

 失望すれば。

 コイツは……いや、コイツや、騎士団長サマや、女魔術師たちは、何故こんなにも盲目したのか。

 

 

「お前は。何を望んだんだ?」

 

 

 天井どころか天井を見上げていた、高い位置にいるそいつに問う。

 何度も瞬きをしている間に少しずつ顔を下げ、気色悪い、恍惚とした笑顔で、言った。

 

 

「お前を超えることだ。スグサ・ロッド」

 

 

 ……その声で、ようやく、この嫌悪感の理由がわかった。

 他人がどんな研究をしようとそんな興味ない。

 私様が興味があるのは『未知』だけだ。

 なぜこんなにも、コイツに無関心以上の『嫌悪』を抱いていたのか。

 

 

「私様の家に来て以来だな。元気そうで何よりだ」

「とてつもなくいい気分だ。スグサ・ロッド。お前を使役できればさらに最高なんだがなあ」

 

 

 ニタァ、と聞こえてきそうに、口の中で唾液が糸を引いているのを見せつけてくる。

 何度も言うが。

 気色悪い。

 

 

「お前の存在は研究と関わっているんだろうが、なんだ? もう完成しているじゃないか」

 

 

 予想はつくが、わざとらしく首を掲げてみる。

 眉間にしわを寄せるのも忘れずに。

 ……いや、寄ってたわ。気持ち悪くて。

 

 

「私の体は実験とは少々異なる手法で手に入れたものだ」

「ほう。興味深いな」

「実験では健康な体に魂を移植していたが、私が私の()だった頃はまだ確立されていなかった。私が死んだ体に宿るか。確実な方法を見出すことはできなかった」

「『健康な体に魂を移植』、ね」

「そうだ。さすがだスグサ・ロッド。話が早い」

「ならば答え合わせだ。私様が回答してやる」

 

 

 ベローズは、自分の魂に健康な体を肉付けしていった。

 あるいは、部品交換と言ってもいいかもしれない。

 突然死を避けるため、定期的に。

 おそらく、何人もの体を使用したのだろう。

 

 

「よくお前の意識が残ったものだ」

「そこばかりは賭けだったよ。しかし勝った。私は賭けに勝った。体に記憶が宿るように、魂にも記憶は宿るのだ。そして、体は魂に寄っていくということだ」

 

 

 「体は魂に寄っていく」、ね。

 それは同意見だ。

 今の私様が『記憶』であり、それは『体』に宿った者。

 その中に弟子の魂が宿った。

 『体は魂に寄っていく』という言葉の通り、私様は次第に弟子に引き寄せられていた。

 『何が』というのは明確にはない。

 強いて言えば、最初は問答無用で主導権を握っていたのに、弟子の意識がはっきりしてくる頃には出来なくなっていたところか。

 まあ、それはいい。

 今はもう分離したし、分離したことでの副産物も手に入れた。

 ポケットに手を入れる。

 その副産物はしっかりとここに入っている。

 さて、これはどう扱おうか、珍しく迷っている私様がいる。

 

 

「話を戻そう」

 

 

 ポケットの中のものから手を離した。

 

 

「それで、お前は私様を召喚し、使役すれば超えられると思ったのか?」

「ああ……見たかったよ。服従するスグサ・ロッドの姿を。傲慢な貴様が首を垂れるところを。殴られても蹴られても、骨を折られても何一つ抵抗もしない貴様を!! ……そうすれば、私がトップに立てるんだ……」

 

 

 ああ、なんだ。

 こいつは私様を超えたいと言いつつ、ただ、目立ちたかっただけか。

 『すごい私様(スグサ・ロッド)』を従える自分は『すごい』のだと。

 

 

「……ははっ」

 

 

 笑いが漏れる。

 書く隙もない笑いだ。

 顔だけ斜め下に向けるが、私様の笑い声は広い地下室では十分なほど響き渡る。

 

 

「っ! 何がおかしい!」

「はっ、はは、いやぁ。そうまでして永らえて、私様を超えたいか。そうかそうか。お前、属性は?」

「……火と、闇」

「ふぅん」

 

 

 闇ね。

 じゃあ属性だな。

 手を翳す。

 いや、差し伸べる。

 一度は下を向いていた掌を上に向ける。

 掬う……いや、救ってやろう。その葛藤。

 

 

「お前にも力をやるよ」

 

 

 掌に魔力を集める。

 属性はない、ただの魔力だ。

 魔力は空気中に漂う物。

 それらが動けば必然的に流れができ、結果、風となる。

 そよ風から強風まで、次第に強くする。

 掌には掴める程度の球が出来上がる。

 風が強くなるにつれてベローズは警戒の色を示した。

 しかしこれは魔力のみである。

 ぶつけることはできるが、このまま指向性を持たせて飛ばすことはできない。

 

 

「今からお前にこの魔力を食らってもらう。ああ、攻撃って意味じゃないぞ。そうだな。飲み込んでもらう(・・・・・・・)、と言った方が良いか」

「飲み込む、だと?」

「そうだ。ま、適当に闇の初級魔法(トゥワン)を展開しとけや」

 

 

 未だ経過した表情だが、訝し気に魔法を発動する。

 その様子を見て、口角が上がる。

 さて、こいつはどれだけ耐えられるか。

 私様は風の魔法を使う。

 細い糸を紡ぐように、細い風をベローズ目掛けて送り込む。

 闇属性の特性は『吸収』。

 闇属性を持ち、展開しているベローズに、私様の送り込んだ風の魔力が吸われていく。

 

 

「ぐっ、あ、っ」

「おら。頑張れ頑張れ。とりあえずこんぐらい耐えろや」

 

 

 言っておいてなんだが、初めにこれをやったときは私様も辛かったなあ。

 最初にやった時は……十代の時か。

 知り合いが放った魔法を、たまたま展開していた闇の魔法で吸収してしまったのがきっかけだ。

 得体のしれないものが流れ込んできて吐き気を催した。

 まあ、それが私様が、『全属性』を持つきっかけになったんだが。

 

 

「……ごほっ」

「おいおい、堪え性がねえなあ」

 

 

 膝から崩れ落ち、四つ這い姿勢で吐いた。

 液体部分が二階から滴り落ちる。

 吐いたことで集中力が途切れたか、『吸収』の効果はなくなり、私様が放った魔力は行き場を失った。

 何度も繰り返し吐き続けるベローズを尻目に、ただの傍観者となっている弟子たちを見る。

 

 

「弟子」

「っはい」

「お前は先に鐘んところ行け」

「……はい」

「シクは」

()はスグサと一緒にいるわよ」

「だよなあ。イオラは」

「……自分ハ、話ガシタイ」

 

 

 そう言うイレンは、ベローズを指さす。

 吐き気は落ち着いたようで、肩を大きく動かして息している。

 嘔吐で出た水分はぽたぽたと垂れる。

 それほどに君気持ちの悪いものだということは自分がよく知っている。

 だがこれぐらいで音を上げるなら、ベローズは私様を超えることはできないだろう。

 

 あるいは。

 弟子なら、「やれ」と言われれば、耐えたかもしれないな。

 

 ベローズに向けた視線をイレンに戻す。

 

 

「なら。弟子が一人で上に上がるか」

「そうなりますね……不安ですが」

「道案内でもつけるか?」

「え、誰に?」

「アイツ」

 

 

 後ろ向きに親指を向ける。

 白い箱の中で何をやっているかは知らんが、アイツは私様に心酔しているようだし、言うことなら聞きそう。

 魔術師としてもそんなに強くはないとみているが、そこは保険をかける。

 この施設にどれほどの人間が残っているかわからん。

 人質的な意味でも使える。

 

 

「シクさんは、鐘の場所はご存じないんですか?」

「道は知らないわ。外から上がっていくことはできるけど」

「弟子一人なら正規ルートで行った方が良いだろ。外で一人で対応できるだけの力はあるとは思うが、お前、人を傷つけられるか?」

「……できませんね」

 

 

 だろうな。

 弟子の生き方を見て思ったが、こいつは医療者だ。

 医療の知識を以て、救うことを生業にしている。

 その知識があれば、戦いは優位に進むだろう。

 だが、アーマタスでの準備された戦いでも直接戦闘不能には追い込まなかった。

 つまり、その知識を以て戦うことは、したくないんだ。

 

 

「なら、アイツのことを連れていけ。一応姿は隠せ。あと人質扱いは絶対。それと、もしもの時は――」

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