【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第3話

 ぱちん、と一鳴らし。

 ≪玩具箱≫を解除して、立ったままの……教祖代理の姿を久々に拝む。

 こいつはこいつで泣きはらした顔をしている。

 瞼が腫れ、涙の痕が残って、なんていうか、すげー汚い。

 

 

「おお! 教祖様! 解放してくださるのですね!」

「うるせえ」

 

 

  ≪自由な風は不自由を求める≫

  ≪意思の伝達は許可制なり≫

 

 

 体の自由と発言の自由を奪う。

 静かにしてくれさえすればそれでよかったが、解放した瞬間がうるさすぎた。

 自業自得だ。

 直立状態で風に拘束されたそいつを、風の魔法を使って浮かせる。

 二階から下ろし、目の前まで来させる。

 イレンの額に触れ、魔力を練る。

 

 

「『足の自由は解いてやる。この建物にある鐘の所まで案内しろ。発言および背くことはいかなる理由でも許さない』」

 

 

  ≪先払いされた傲慢な依頼≫

 

 

 闇の魔法で、イレンの行動を指定する。

 遂行されるまで自死はできない。

 『先払い』に当たるのは、足の自由。

 これでこいつは逃げるという手段をとることができる。

 ま、逃げられると言っても、体は拘束されてるがな。

 弟子も、殺せはしなくても拘束・結界系の魔法なら使える。

 逃げようとするのは現実的ではない。

 

 

「……うわぁ」

「嬉しそうに見えますね」

 

 

 目を輝かせて泣いてる。

 え、待ってキモイ。

 喜んでんの?

 は?

 やだ。

 

 

()も……」

 

 

 ……「も」、なんだよ。

 指くわえて羨ましそうにしないでくれよ。

 さすがにきちぃ。

 視線の当たる箇所をガリガリと掻く。

 苦笑いの弟子を見て、こいつはまともな方で良かったと思った。

 

 

「んじゃ、行ってこい。気を付けてな」

「行ってきます。必ず戻ってきます」

「おう」

 

 

  ≪目移らせ≫

 

 

 魔法をかけた私様には認知できる、弟子とイレン。

 声も出さずに力強く頷いた。

 それに対し手をひらひらと仰いだ。

 背中を向けた二人が部屋を出るのを見届け、私様はベローズを見る。

 

 

「あれ。いねえ」

 

 

 上にいたはずのそいつがいない。

 魔力を探れば……あ、なんだ。

 

 

「歩いてダイジョーブか?」

 

 

 降りてきたそいつに、心配の欠片もない言葉をかける。

 壁にもたれ掛かりながら姿を現したベローズは、顔面蒼白で、見るからに大丈夫そうではない。

 けれど、体を起こして歩くということに加え、睨む余力ぐらいはあるそうだ。

 

 

「貴様……さっきのは……」

「あれが、私様の『全属性』の種明かしだ」

 

 

 世の中にはあまり伝わっていない、私様の情報。

 何故伝わっていないかは簡単。

 隠されていたからだ。

 

 

「私様が生まれついたとき、属性は風と闇だけだった。お前と似たようなものだよ」

 

 

 二つの属性というのは悪いことではない。

 鍛える属性が絞れるのはよいことだ。

 けれどそれだけでは足りなかった。

 他の属性の使用感。

 どんな魔法が使えるのか。

 使いたい属性があるのに使えない葛藤。

 その悔しさを拭いさるにはどうしたらいいか。

 

 

「体感した通りだ。私様は、自分が持ちえない属性の魔力を風で操作して、闇の特性の『吸収』で取り込んだ。後天的に属性を得た」

「こう、てんてき……そんなことが」

 

 

 「ありえない」と思うだろう。

 そう思ったらそいつはそこまでの存在だったんだ。

 世の中の人間は同調心理が働きすぎる。

 みんながこうしているから。

 そう言っているから。

 そう伝わっているから。

 だからなんだ?

 本当にそうか?

 みんなはいつからそうしている?

 そう言っている?

 そう伝わっている? 

 当時はそうで。

 今はどうなんだ。

 存在自体は自然と進化していくもんだ。

 日々の積み重ねは『進化』と同義だ。

 できることもできないこと、わかったことも、わからないということがわかるということも、全て『進化』だ。

 『進化』し続けているんなら、それに合わせて知識も進化(アップデート)しなければならないことにどうして気付かない。

 

 

「お前も闇属性を持っているのなら、私様のように全属性を得られるぞ。喜べ、私様に近づけるんだ。この、近づきたくても離れていく憎くもアコガレであるスグサ・ロッド様にだ」

 

 

 「おいで」とも言わんばかりに両手を広げてやった。

 そうしたら、眉間の皺をより深くさせ、親の敵というか人類の仇でも見るかのような目になった。

 おかしいなあ。

 

 

「……だれが、貴様なんかに、憧れなんてものを……!」

「「なんか」と言われたのは久しぶりだー。まあでも、これでわかったろ。私様のような奴は、属性と、本人の意志さえあれば作れる。魔力の量だってそうだ。魔力をどんどん取り込んで容量を増やしていけばいい。私様だって髪に貯めこんでいるしな」

 

 

 わざわざ言わないとわからないのか。

 お前でさえも。

 わからないこと。知らないこと。

 『未知』なものは知ろうとしないと。

 そうして道を踏み外しちゃあわけないな。

 

 

「なぜ、それを世に出さなかった」

「……この方法は風属性と闇属性が優遇される。風があれば魔力の流れを操作ができ、闇属性があれば膨大な魔力と属性が手に入る。しかし、どちらも持ってない奴だっているだろう」

 

 

 そこばかりは生まれの運だ。

 無属性を除いた六種類の属性の内、何を手に入れられるかわからない。

 貴族か平民かであるように。

 赤子が『間抜け』と呼ばれるかどうかは、生まれてみないことにはわからないし、生まれたとしてやり直せるものでもない。

 

 

「「風属性があるから」「闇属性がないから」とかで差別する未来が見えるだろ。私様はそんな状況をつくりたいわけではない」

 

 

 世に出さなかったからこそ、属性の優劣や差別はない。

 そればかりは、『未知』を知ろうとしなかった人間たちが正しかったと思う。

 

 

「差別……差別だと……!? そんなもの後でどうとでもなる! そんなものは言い訳だ! 貴様は人類の進化の機会を意図的に消し去ったのだ! 貴様の怠慢だ!!」

 

 

 壁に凭れているからこそ、ある力を全て『叫び』に使うことができている。

 顔面蒼白も、発汗もこの短時間では変わりがない。

 それでも立って、ついでに叫んでいられるということは、少なからず回復しているのだろう。

 それでも、話す元い叫ぶ以外は出来なさそうだが。

 

 

「ま、なんとでも。私様の研究であり実績だ。どうしようと私様の勝手だろ」

 

 

 やれやれ、と。

 そんなことは研究者でなくても知っていそうなことだ。

 それが人類のためになるとしてもならないとしても、どうするかは勝手のはず。

 『進化』自体に興味はない。

 私様は自分に起こったことがどれだけ調べてもわからない『未知』だったから、自分なりに調べただけだから。

 その結果、その後の研究にも役立って、世間に広まったというだけ。

 自己顕示欲や自己承認欲求がないわけではない。

 それよりもリスクをとったというだけだ。

 

 

「くそ……貴様のような身勝手で……私の研究は……」

「おいおい。お前が『身勝手』とか言うんじゃねーよ。上の奴らに謝れ」

 

 

 二階で大人しくしているように見えるそいつらを見る。

 果たして原型はどんな人間だったのか。

 わかる奴もわからない奴もいる。

 

 顔が半壊している者。

 上半身しかない者。

 下半身しかない者。

 四肢が複数ある者。

 眼球が抜けている者。

 舌が垂れ下がっている者。

 言葉にならない音を発し続けている者。

 ひたすら浅い呼吸を繰り返している者。

 

 微かでも人間らしい部分が残っている奴ら。

 それ以外は、人間の部分がほとんど残っていない奴ら。

 果たしてどれだけのものを混ぜられ、どれだけのものを砕かれたのか。

 共通しているのは、全員何かを訴えているということだけ。

 悲しいかな。

 私様にはそれを察することはできない。

 

 

「さて。私様からはもうほとんどないな。お前の番だ」

 

 

 くるりと後ろを向き、棒立ちでいるそいつ。

 昔の弟子のような無表情の瞳の奥に、いくつか灯る、光のようなもの。

 返事はなく、足を動かす。

 私様とすれ違い、シクのそばで私様が振り向いても見える背中は進み続ける。

 辿り着いたのは、目的の人物の、目と鼻の距離。

 

 

「オ前が、ウミノオヤ、カ」

 

 

 小さい、しかし、強い声。

 籠っている感情を察することはできない無機質な発音。

 何を聞きたいのか、話したいのか、聞いてはいなかった。

 果たして何だろうか。

 

 

「自分ヲ、知ッテイルカ」

「……キャストを人体と合成し、内蔵可能な魂の個数を計測した被検体」

「自分ハ捨テラレテイタト聞イタ。用済ミカ?」

「捨てられていたのなら、そうだろう」

「指示ヲ出シタノハ貴様デハナイノカ」

「私は総括だ。在庫や材料の廃棄について各部署に任せている」

「自分ノヨウニ生キ残ッタ奴は……」

「さてな。廃棄でなければ、自然に放っているから可能性はあるのではないか? 同時にギルドに討伐依頼も出しているから、既に完了しているかもしれないがな」

「……自分ハ、何ダ」

 

 

 聞きたいことが的を得ない。

 現状の把握。

 湧いて出た疑問の消化。

 そんなものだろうか。

 コイツの思考は誰のものかもわからない。

 色々な記憶や感情が混在しているのかもしれない。

 それだけの数の魂が一つに宿っている。

 それを、まともな精神状況で対処できるとは、到底思えない。

 嵐の前の静けさ、かもしれない。

 それを知ってか知らずか。

 一つ大きくため息を吐いたベローズは、言葉すらも投げ捨てた。

 

 

「貴様は使い捨てで用済みの被検体。それ以外の何物でもない」

 

 

 ザワリ。

 一度に多数の魔力が発生したような、処理しきれない気持ちの悪い感覚が肌を撫でる。

 その発生源は考えずともわかる。

 そいつは、私様に背を向けたまま、多方に向けて魔力を発し続けている。

 いや、これは意図的ではない。

 

 

「ハ、ハ……ハッ」

 

 

 暴走だ。

 肩での呼吸。

 冷や汗。

 手にこもる力。

 背面からではそれしかわからないが、表情からはもっと異様な光景が広がっているだろう。

 さっきベローズが魔法石で強制した魔法の時や鳥かごでも思ったが、混ざりモノは総じて魔力が多い。

 同じ混ざりモノであるイオラも例外ではなく、私様ほどではないにしろ複数人分の魔力を持っている。

 さて。

 どう鎮めるか。

 

 

「全く。手間のかかる子」

 

 

 おっと。

 お前がやってくれるとは。

 どういう風の吹き回しだ?

 

 

「スグサの言いたいことは手に取るようにわかるわ」

「げ」

「今はスグサのことに関わる事態なの。そんなときに変な時間を取らせたくないわ」

 

 

 この後の()とスグサの時間が減っちゃうじゃない。と。

 え、そんなものあったの? とは言わなかったが。

 睨まれたから言わずとも手に取るようにわかってしまったようだ。

 シクはどこまでも自分主体というか、私様主体というか。

 笑ってしまうぐらい素直な奴だ。

 コイツも、幸せになってほしいんだけどなぁ。

 

 

「ほぅら。落ち着かないと苦しいわよ」

「ガッ、ハ。……ウ……ク」

「……静かにしてなさい」

 

 

 シクがこの場から手を伸ばしただけでできることと言えば、魂を操作することだけだろう。

 もはやイオラのコントローラーとなったシクは、慣れた手つきでイオラを苦しめ、静まらせる。

 ベローズの前で蹲り、発する気持ち悪い魔力も薄れた。

 そのタイミングで、私様が手を伸ばす。

 

 

「もういいだろ」

 

 

 イオラを回収。

 一時的に抜かれた魂はシクの手によって戻され、荒れた呼吸を必死に直そうとしている。

 

 

「満足か?」

「……アア。モウ、イイ」

「ならお前は弟子を追え。アイツのやること手伝え」

 

 

 投げやりな言葉だった。

 それに対し、重要な任務を与えた。

 そうやってこなすかはコイツ次第だ。

 

 

「そう簡単に……行かせるものか!!!」

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