【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第4話

 負け犬の遠吠えではないが、それ並みの叫び声。

 私様たちに向けて言われた言葉だとは思うが、変に遠くまで響いていた。

 瞬間。

 刹那。

 風よりも音よりも早く移動する魔力。

 視界の端に写りそう(・・)なタイミングで、咄嗟に魔力を練った。

 

 

   ≪見上げろ、それが力の差だ≫

 

 

 誰が作ったのか、ずいぶん偉そうな土属性の魔法である。

 床を変形させて二階の高さまで引き上げた。

 それは天井を見るような高さの壁であり、そう安易と突破できないもの。

 の、はずなんだが。

 

 

「……ほう」

 

 

 少し早かったか。

 自分の反応が優秀すぎて早すぎた。

 見上げるどころか飛び越えてきたその未確認生命物体たち(・・)は、全身を包み込むマントを翻し、魔力を練っている。

 やる気満々。

 上等だ。

 

 

「イオラ、行け。シク、やるぞ」

「はぁい」

 

 

 イオラは返事をせず走り出した。

 その方向に向かう、一体。

 

 

「おいおい、どこ行くつもりだよ」

 

 

 今度は落ち着いて、同じ魔法で壁を作る。

 冷静にやったからか、三階以上の高さを持つ、というか、天井まで届いた。

 

 

「私様の相手をさせてやるよ」

 

 

 壁の前でそれぞれ足を止めた未確認生命物体たち。

 一人は私様、一人はシクの正面に、壁を背にして立っている。

 この際だ。

 ベローズは放置。

 に魔法の技量はそうでもない奴を放置したところで問題はないだろう。

 

 

「誰だ? お前ら」

 

 

 聞いても答えないのは想定済み。

 

 

「ふ、はは……こいつらなら……!」

「あぁ?」

 

 

 お前には聞いてないんだがなあ。

 という目線を送った。

 が、なんかハイになってるのか、目がイッっちゃってる。

 シンパイする私様を他所に、唾を弾き飛ばしながらベローズは叫ぶ。

 

 

「『二番』! 『三番』! ()れ!」

 

 

 ああ、と納得する時間を空ける前に、どちらかの番号が拳を振りかざす。

 顔面狙いをしゃがんで避ければ、すぐに足が飛んできている。

 しゃがんだ姿勢から後方へ飛べば、振り抜いた足に力を込めて一直線に向かってきた。

 後方ジャンプを足を前後に開いて着地後、風の魔力を足に込め、今度は前上方へ飛び上がった。

 向かってきた相手に対して、向かっていく私様。

 高さにして人一人分浮いた私様は、そいつの肩に足を乗せ、さらに高く飛び上がった。

 下方向への力を加えられたそいつは地面につんのめり、私様は遥か高みから見物状態。

 間が空いたのをいいことに一息。

 さーて。シクは。

 

 

「ぅおっ」

「遅いわよ、スグサ」

 

 

 私様よりも高い位置、しかも背後にいた。

 成人の体にしては軽すぎるそいつは、無遠慮に私様に後ろから抱きついてくる。

 軽すぎると言っても体重がないわけではないので、それなりの重さを感じる。

 突然やられると魔法の調整をミスる。

 

 

「お前、どうやってきた?」

「殴られそうになったから、光の魔法で弾いた拍子に浮いてきたわ」

 

 

 あ、賢い。

 上空までは追っては来ないようだからこそできる、悠長な会話。

 さっきは壁を超えてきたのだから、この高さまで上がれるはずだが。

 ……いや、それは固定概念か。

 浮いてきたからと言って風属性ということはない。

 身体強化。

 土属性で土台を作った。

 光属性の特性の『反射』を利用した。とか。

 

 

「あいつらのこと知ってるか?」

「知るわけないわ」

 

 

 だよなあ。

 けど、あの見上げてくる顔は見覚えがある気がする。

 私様は『記憶』だ。思い出せないはあれど、忘れるということはない。と、思うのだが。

 

 

「武力で押し込め! 魔法なら最上級以上だ!」

「あ」

 

 

 うん。思い出した。

 夢だ。

 弟子が見た夢。最初に見た夢。

 

 

「そいつらも転生……いや、『蘇生者』か」

「はっはぁ!! そうだ! 貴様が死んだ後に存在した賢者と大魔術師だ!! 貴様の強みは魔法だろう! こいつらは魔法も武力も極めているぞ!!!」

 

 

 自分のことのように叫ぶ親面。

 この賢者と大魔術師というのも、一度死んで、魂を戻されたのだろう。

 その魂は本人のものか、別人のものか、別人のものならばどこからの誰なのか。

 とにかく、魔法で無理やり繋がれた、人と呼べるのか怪しい存在。

 そのうちの一人から、顔を覆うほどの熱を感じる。

 氷の張られた床や壁が溶けていく。

 熱気で汗が出る。

 髪や服がはためく。

 シクが背中に隠れる。おい。

 

 

(アム)身体強化(サーズ)

 

 

 隣では腕を水平に伸ばし、袖に隠れる部分が光り輝き、形を成す。

 小回りの利きそうな、逆に言えばそれしか取り柄のなさそうな短剣だ。

 どっちがどっちなのか知らんが、第二ラウンドになりそうだ。

 

 

「シク、どっちがいい?」

「どっちでも」

「私様もどっちでも」

 

 

 じゃあ運に任せるとしよう。

 魔法を解いて自然落下。

 シクはその場に留まっている。

 着地付近には、火の身体強化を施した奴と、短剣を構えた奴。

 風を一身に受けながら、力加減を間違えないように魔法を練る。

 

 

   ≪(デス)初級魔法(トゥワン)

 

 

 私様ともなると初級魔法を使うのが一番難しかったりもする。

 間違って部屋どころか建物全体を闇の靄で包んでしまわないように、細心の注意を払った。

 お互いの姿が見えなくなった状態で着地し、くじ引きのように近くにいた奴の襟元を空中へ投げた。

 

 

「シク! お前そっち!」

「はぁい」

 

 

 宙に二人しか浮いていない状況で、私様は続けて一石を投じる。

 

 

  ≪放り込まれた玩具箱≫

 

 

 出発前に弟子と一緒に作り上げた魔石。

 こうやって一対一の状況を作るためではあったが、なんか使い方が予想と違った。

 

 

「さて。じゃあ、お前はどっちだ? 賢者か、大魔術師か」

 

 

 つーか、どっちが強いんだろう。

 見た目は二人ともローブを被っている。

 装備品だけが唯一の違い。

 せめて見た目だけでも暴いてから分けてもよかったが。

 ま、見た目で判断したものは第一印象でしかない。

 そんなものは中身の強さに関わるかと言ったらそうでもない。

 惑わしにもなるし。

 それなら見た目はほぼ一緒、感じ取る雰囲気だけで決めた。

 たぶん、シクに投げた方が弱い。

 

 

「フン……貴様についての話は世に嫌というほど出ているからな。天敵にもなりうるこの二人を用意させてもらった。どちらにしても、貴様は苦戦するだろうよ」

「ああ、そう。苦戦するだけで勝つのは私様だな」

「貴様に勝てると思うほど愚者ではない」

 

 

 私様という人間を把握したうえでの賞賛。

 それならば、本当にベローズが言うように苦戦を強いられるかもしれない。

 勝たずとも、ただ延長戦に持ち込ませればいい。

 それなら圧倒的力の差はいらない。

 苦手だけだ。

 ……私様の苦手って、なんだろうな。

 

 

「じゃあそいつは、何をやってくれるんだろうな?」

 

 

 マントを羽織ったそいつは今のところ動かない。

 代わりに、壁に凭れるベローズが教えてくれる。

 

 

「そいつは生前、賢者と呼ばれていた者だ」

 

 

 ほう、賢者だったのか。

 ここで漸く、賢者は自身のマントに手をかけた。

 仰々しく、大きくマントを振り投げて、その姿を露にする。

 火の身体強化の魔法を施しているから、どことなく熱気を感じる。

 見た目は細身なのに、瘦せているわけではなく引き締まっている。

 武力はもちろんありそう。

 しかし、魔力もそれなりに持っている。

 じじい。

 

 

「魔法も、武術も、学問も。こいつはすべての頂点に立った。総合的には賢者の方が上だ」

「ご丁寧な解説どうも」

 

 

 でもそんなの関係ねえ。

 

 

  ≪隔絶された水槽≫

 

 

 溶かされた氷は水となって少しばかり残っていた。

 コイツが火の属性を使うのなら、有効打は水。

 長引かせる気もないし、さっさと片付けたい。

 殺す気はないが、大人しくはしてもらおう。

 ……と、思ったが。

 

 

「うーん。予想外」

 

 

 なんだ。

 息してないのか。

 ≪水槽≫の中で仁王立ち状態の賢者。

 出ようとするでも、慌てるでも、反撃するでもなく、ただただ突っ立っている。

 異様。

 

 

「……ふーん」

 

 

 違和感。

 気持ち悪い。

 得体の知れなさ。

 『未知』なものには総じて知的好奇心、興味関心が湧きたてられてきたというのに、今ばかりはそんなものは微塵もない。

 ただただ、嫌悪。

 これが、蘇らせられた者、ということだろうか。

 

 

「『蘇生者』に呼吸は必要ないってか?」

「そうだ。『呼吸ができない』という弱点なんぞ、ないほうがいいだろう」

 

 

 ああ、そういうこと。

 それが、お前らの行った実験で、『恐怖』を取り去る洗脳か。

 話しているだけでも数分経過。

 それでも、≪水槽≫の中の賢者は身動き一つない。

 戦う気すら、持っていないかのように。

 

 

「じゃあ、永眠(ねむ)ってろ」

 

 

  ≪水面(みなも)の華は末枯(うらが)れず≫

 

 

 広範囲なものではなく、≪水槽≫をそのまま凍らせた。

 一見すれば趣味の悪い人間冷凍庫。

 しかし、これで相手はもう動かない。

 失望の溜息をついてから、後ろの上空に位置する≪玩具箱≫を見上げる。

 パキ、っと音が聞こえた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 聞こえた方を見る前に、背中に強い衝撃を受けた。

 痛みを通り越して衝撃。衝撃が強すぎて、息ができない。

 体を浮かせるために纏っていた風の魔法で少々弱まっただろうが、そんな気配もない強さ。

 魔法を維持できなくなって、落ちる。

 下から上へ移動する景色を見て、呆けた頭が『やばい』と警告する。

 しかし、その警告を『警告』だと感じ取るのも、時間がかかって。

 

 

  ≪虚空≫

 

 

 なんとかこれを使って、真っ暗闇に離脱した。

 ホローテを入れておけた様に、中は息ができて、安定している。

 ただ一つ、明かりがないだけ。

 しかし、倒れこんだ体が薄っすらと光っているような錯覚。

 実際この中に入ったことは久しぶりだが、なるほど、こんな感じだったか。

 

 

「く、う……」

 

 

 痛みを考えないように別のことを気にしていれば、なんとか体を(よじ)ることはできた。

 

 

「……っ、はぁ」

 

 

 たぶん、上を向く。

 息を吐くのにも痛みが走る。

 幸いなことに気絶はしなさそうで安心。

 慢心だ。

 油断した。

 調子乗ってた。

 私様という『最高位魔術師』にかなう奴なんていないと思っていたが、私様が死んだあともこの世界ではいろんな奴がいたんだ。

 そりゃ、私様の予想を裏切る奴がいても当然か。

 胸元の石に触れる。

 一応持ってきていた、魔石。弟子と同じだが、鈴のついていない針を自身に刺す。

 『吸収』するのは『痛み』。

 ゆっくり、じんわり。

 呼吸が楽になっていく。

 もしかしたら骨がイッてるかもしれないが、そればかりは今は無理だ。

 

 

「よし」

 

 

 反省終了。

 次。

 

 

  ≪虚空≫

 

 

 ≪玩具箱≫の上面に出口を開く。

 下を覗けば、私様を探しているのか、きょろきょろと見回す賢者。

 余裕(油断)はもう見せない。

 転移で、賢者と距離をとった位置に移動する。

 

 

「無断で退室して悪かったな」

 

 

 声を発する前に身構えていた。

 反応も早い。

 何だろうな、余裕(油断)はダメだとわかっているが。

 強い奴は、なぜ強くなったのか、どうして強いのか、『未知(よくわからない)』。

 

 

「やり直そう。賢者殿」

 

 

 口角を引き締める。

 全力で魔力を練った。

 その時。

 

 ≪玩具箱≫が割れ、傷だらけのシクが、落ちてきた。

 

 

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