【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
「勝手なこと、しないで」
わたくしの倍近くありそうな身長とガタイ。
甲冑でわかりにくいけど、隙間から見える顔は隠せない程に瘦せこけた。
それが、どういうことか。
そんなにも悩んでいたのね。
わたくしにぐらい……言ってほしかった。
悩みを打ち明けて、一緒に悩みたかった。
スグサ様から頂いた魔石は武器に仕込んだ。
手放したように見せかけて、髪の毛だけは自分の身体と繋いでおいた。
油断した隙をついて、魔法を発動する。
内部は、一面真っ白。
しかし色々な色で紐状の模様が描かれている。
内側からの見た目は無属性魔法の≪放り込まれた玩具箱≫。
けれど実際は、スグサ様のオリジナルの魔法。
物理攻撃に弱いという弱点を克服した結界魔法。
これを最初にやったのはヒスイさんらしいですが。
魔法の名前は、確か≪悪魔の玩具箱≫。
そのままですね。
「なんのつもりだ」
近くまで寄って結界魔法を張っても、手は出そうとしない。
優しさか、何か。
けれど、甲冑を被ってこもった声には熱はなくて。
どちらかというと冷たさしか感じなくて。
あぁ……、目頭が熱くなる。
「わたくしは貴方の妻よ。そして、母です」
「そうだ」
「息子を失ったのは悲しいです。さらに貴方まで失いたくありません」
……。
「俺の代わりに、子がいる」
……。
もう……。
「わからずや!!!」
≪おいでませ≫!!!
至近距離からメレオンを召喚した。
何を言わずとも意思疎通のとれる召喚獣たちは、即座に行動に移して、カミルくんに嚙みついた。
「……ふんっ!!」
「っ、メレ!」
ノーガードで噛まれたはずなのに、体を大きく捻ってメレを放り上げた。
風の獣であるメレだから問題はないはずだが、そんな簡単に外されるとは思わなかった……。
「クザと戦うんだ。それなりに対策は練っている」
「……そう」
戦う前提、だったのね。
ガードの固さからして、土属性の身体強化は使っているだろう。
騎士団の甲冑だから、そもそもの魔法の効果も底上げされているだろうか。
「夫婦喧嘩はいつぶりかしら」
「……さあな」
「息子が亡くなってからしてないわ」
それまでは何度もぶつかったけど。
……その時点で気付くべきだったわね。
「≪おいでませ≫」
カミル君の得意な属性は土。
けれど魔法ではなく、剣で戦うことが主。
騎士団長ですもの。
わたくしが魔術師団に属していた頃は、まだ新米だったのに。
「メレ」
カミル君の後ろに臨戦体勢になる。
「フェー」
わたくしを乗せて、フェーは体を少しだけ浮かせる。
カミル君は背負っていた大剣を手にし、易々と片手で構える。
「「……わからずや」」
人で言えば一対一。
力数で言えば三体一。
力量で言えば……向こうは現役、こちらは引退して後衛。
スグサ様には褒めていただけたけれど。
それでも、強いから大丈夫だろうと言う人と戦うのと、一番近くにいてくれた愛する人と戦うと言う状況は。
全く違うもの。
見つめあって。
いや。
睨み合って。
腕を引く。
「っ!」
「メレ!」
髪の毛を引いて扇子を手元に引き寄せただけ。
それだけの動きだが、カミルくんは警戒しただろう。
わたくしのことを注視し、背後への警戒を薄めた。
そして、カミルくんの背後で今か今かと構えていたメレを呼べば、呼び終わる寸前に飛びかかる猛獣。
今度こそ、と言わんばかりに大きな口を開けて噛み付いた。
ギャァウワゥッ!!
「っ、メレ!」
噛み付いた。
噛みつこうとした。
けれど。
手前に構えた大剣を腕の力だけで、後方も見ずに後方へ回し、メレの顎から顔にかけて斬りつけた。
メレは攻撃するときは実体化し、反射しない。
光と魔力でできた体だから血こそ出ないものの、ダメージは大きい。
一度大きな怪我を負えばその後の恐怖心は大きくなる。
メレはカミルくんとは開始以前よりも距離をとり、より警戒を強めている。
「……≪帰られませ≫」
やむなし。
扇子に念じれば、最後まで警戒を解くことなく、また抵抗なく、消えていく。
「あっけないな」
たった一撃。
しかし、大きな一撃。
見た目以上の痛手。
「……わかっていたの?」
「ああ。クザは、戦うときはその二匹を使うからな。そして、長期戦はしない。一撃で仕留めに来ることが多い」
知った口を聞かれる。
否定はできない。
当たっているから。
そもそもわたくしは魔力量が多い方ではない。
召喚する力に魔力をほとんど注いでいるから、自衛の手段はほとんど持たない。
召喚獣を痛めつけられては、わたくしはわたくしの身を守る術はない。
それに、今は結界が張ってあるからいいものの、結界が壊れてはわたくしの力だけではどうしようもないかもしれない。
ダメージは最小限に収めなければならない。
「相性、悪いのよね」
カミルくんは消耗戦が得意だから。
土の身体強化魔法によるがんきょうさ。
恵まれた体格。
鍛え上げられた肉体。
わたくしの苦手な持久戦が得意な人。
「わたくしたち、よく結婚したわよね。お城で勤めていたときは真反対なタイプだったのに」
「……人としては、当時から好きだからな」
……その言葉は、今じゃない。
「っ、≪おいでませ≫!」
震えた声を隠すように声が大きくなる。
メレの代わりに召喚したのは半透明のライーバ。
小柄な私が中に入って泳げるほどの大きさ。
これは本来の大きさの一部。
ライーバは大きさを変えられるという強みがある。
小さくも大きくもなって、小さければ掌大のボール程度の大きさにもなる。
質量がどうなっているのかはよくわからない。
「物理攻撃でも防ぐ魂胆か?」
「隠しても意味ないでしょうからね。そうですよ」
カミル君の強みは物理攻撃。
流動体でほとんどダメージを受けないライーバなら、メレのようにダメージは受けにくい。
わたくしの目の前にいるライーバに手を翳す。
意図をくみ取ったその子は私の手のひらに収まるほどに小さく、丸く収まる。
そして、後ろ手に持つ。
「わたくしは貴方に勝る所もあれば、劣る所もあります。そしてそれは、あなたから見ても同じこと」
カミル君は腰を下げ、大剣を両手で持ち、顔の横に構える。
今にも突進してきそうな錯覚を覚えるほどの威圧。
それは言い換えれば、殺気とも取れるほどの。
冷や汗が垂れる。
頭から。
顔から。
首から。
腕から。
足から。
服が濡れて貼りついて気持ち悪い。
見合って。
見つめあって。
睨みあって。
腕を少し、動かして
「フェー!」
今度は。
いや、今度も。
自分を囮に召喚獣に頼る。
ほぼ程同じ場所にいたからひっかけも何もないけれど。それでも、攻撃の仕方は違う。
火属性の魔獣であるフェーは、口から勢いよく火を噴きだす。
放射された炎はカミルくんに一直線に向かう。
遅くはないが、すごく早いわけでもない。
大剣を足元に突き刺し、大きな体を刃の背に隠す。
「飛んで!」
放射をやめたとたんに、宙へ飛び上る。
結界の仲だからそこまで高くは飛べないが、それでも上から動けるのは強みがある。
あの程度の炎じゃカミル君は倒せない。
むしろ防がれている。
カミル君のあの大剣の特性は『弾く』。
今のこの状況のように、何かを跳ね返すことに特化している。
大剣のはずなのに、盾の役割も持った武器。
攻守を共にできるいい特性。
飛び上ったことでカミル君は防御を外す。
見上げるカミル君の次の一手。
大剣を大きく上に掲る。
「二度も譲ったのだ。今度はこちらからだ」
勢いよく、振り下ろした。
「……っ、え」
剣が底を弾き、その勢いでカミル君はあっという間にわたくしと同じ目線まで上がってきた。
飛べるものの強みだったはずの高さを、飛び越えてきた。
弾いたことでの推進力というのか、遠心力というのか。
それにより真横に構えられた大剣は。
わたくしの、胴体と同じ位置に。