【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第12話

 来る。

 

 構えた瞬間、後方から強い風に煽られる。

 想定していなかった方向からの強い力にバランスを崩した。

 視線が一瞬、床に向いてしまう。

 倒れないように足を一歩踏み出して耐えた時。

 目の前に影が差して。

 視線を上げた先には黒く光る刃がすぐ目の前にあった。

 やばっ。

 胴体を真っ二つにしようとする勢い。

 無意識に両膝の力を抜いて、上体を限りなく床に近づけて何とか躱す。

 

 当たったらどうすんだ!

 

 ちらっと女魔術師の表情を伺えば、こいつも至極真顔。

 少しぐらい悔しそうな顔してくれよ。

 かけっこの「よーい」の体勢になったことをいいことに、ドンと距離をとる。

 土属性魔法のみとは、ちょっと縛りが強すぎたかな。

 言い出しっぺは私様だし文句はないが。土属性指定は狙ってか?

 

 

「始めの合図はしていなかったと思うが?」

「あるとは思いませんでした」

「……終了の合図は?」

「降参か戦闘不能かと」

 

 

 いやまあ普通はそうかもだけど。さすがに確認しようぜ。

 

 

「ハンデ、と言った以上、こっちが格下だという判断をされているようでしたので。少しの無茶は寛容なお心でお許しいただけますか」

 

 

 にっこり、と。

 いやーいい笑顔だなー。

 お前、明日表情筋筋肉痛になってんじゃねーの?

 はははーと乾いた笑いで返答としよう。

 うん。

 なめすぎたし煽りすぎたな。

 真面目にやろう。

 

 

 距離を開けて、今度は静かに開始とするのは双方同意。

 ゆったりと会話していた雰囲気は一転、緊張感漂う雰囲気となる。

 そうだ。

 言うの忘れてた。

 

 

 ヒスイお前、戦ってるときの身体と魔法の感覚、しっかり覚えとけよ。

 

 ―― えっ、あ、はい……?

 

 これからはお前もこの身体で魔法を使うんだろうが。

 

 

 向こうは大鎌を構える。

 私様は立っているだけで一見不利だが、魔力を練る。

 自画自賛だが、私様は自他ともに認める優秀な人材だ。

 魔法を扱えている感覚では、今は全盛期のそれと変わらない。

 私様が魔法を使うというだけで、私様に対抗できる敵は果たしているのだろうか。

 

 

 

  土属性魔法 ≪大地の嘆き≫

 

 

 

 土がないところで土属性魔法を使うことは、魔力の消費量が桁違いだ。

 私様の魔力総量も桁違いだから気にすることではないが、土属性魔法を指定してきたということはそういうことだろう。

 だとしても、だ。

 土がなければ土を作ればいいだけのこと。

 一度作ってしまえばそれで土は残るし、土属性魔法は使いやすくなる。

 

 水属性魔法なら空気中の水分がある。

 風属性魔法なら空気そのものがあればよい。

 火属性を選ばなかったことは相性の問題か。

 光や闇は相殺しあうが、その分力量差は明確に出る。

 

 女魔術師が光か闇を持っていたとして、同じ属性同士でも反対の属性でも、優劣をつけようものなら私様に勝つとはむしろ思わないだろう。

 土属性魔法は一撃必殺な魔法も少ないし、むしろ殺せないし。

 水や風なら呼吸できないようにすることぐらいできたんだがなー。

 ひとまずは今使った魔法、≪大地の嘆き≫で意表をついてみよう。

 場所は女魔術師の後方、天井からの土砂だ。

 死角から、さらには幅は狭めてまるで鉄砲水のような勢い。

 当たるとは思っていないが。

 

 

(イズ)上級魔法(ゼヴェニィ)

 

 

 詠唱はなし。

 

 

「≪地下からの怒号は天をも貫く≫」

 

 

 土砂を迎え撃つように、床から一直線に噴き上げる水柱。

 お互いがどちらも位置を変えず、なんだったら女魔術師は正面の私を見据えたまま、背後の土砂を一瞥もすることなく迎え撃った。

 まるで間欠泉の水柱は一つの土砂に対して五つ。

 いくら相手が私様だからと言っても過剰すぎないかと思うのだが。

 やや怪訝な顔になってしまったが、女魔術師が動いたのは見逃さなかった。

 辺りには水は一面に広がり、動くたびにバシャバシャと位置を知らせる音がする。

 今は目の前から向かってくるので知らせるも何もないのだが。

 なぜか馬鹿正直に、真正面から大鎌を振りかざす。

 今さっき見た情景と同じと判断して、やや興ざめ。下がって避けよう。

 

 …………いや。

 

 魔力を流した土を足元に。

 土を土台に体を浮かせて瞬時に上へと上がり、距離をとる。

 私様がいた所を目掛けて、何かが四方八方からぶつかり合い、弾けた。

 振り抜こうとした大鎌を立てながら恨めしそうにこちらを見る女魔術師。

 その周りに浮遊する、土を含んだ水玉。

 さっきの水魔法の水で土を操ってるのか。

 水の勢いと中の土でダブルパンチってか。

 やたら水が多かったのは水分量を増やして自分の支配力を上げたようだ。

 私様が魔法で生成した土ではあるが、私様の魔力とは違うものだ。

 向こうの魔力を含んだ水で操作されてはそこから奪い返すのは……できないことはないが、そこまでするメリットはないな。

 魔法主体ではなく武器や騙し討ち主体とは……魔術師のくせに。

 

 いかん。

 にやにやしてしまうな。

 

 魔術師でもこんな戦い方ができるのかと思うと、魔術師の新たな一面を知って嬉しくなってしまう。

 魔法主体の私様では難しいだろうが、こんな行動もとってみたいものだ。

 うん。いつか試そう。

 

 

「お前さん、名前は?」

 

 

 そういえば聞いていなかったな、と、上から尋ねてみた。

 一瞬目を見開いて、話しをしていた頃のジトっとした目に戻してから。

 

 

「ロタエと申します。ロタエ・ドゥ・キーパー」

 

 

 ほう、貴族か。

 『ドゥ』は王族の『ゼ』に始まり三つ目の位だ。

 

 どのような家柄だろう。

 ここまでの素材は家在りきか、それとも個人のみの努力の賜物か。

 どのようにこの位置までのし上がってきたのだろう。

 家の連中は皆魔術師なのか。特徴はあるのか。

 

 楽しくなってきた。

 楽しくしてくれたお礼をしなければ。

 周囲には水を含んで泥となって溜まった土砂。

 水を含んでいるだけならどうとでもなる。

 

 

(アル)最上級魔法(ナエト)

 

 

 属性文を唱えるのは楽しませてくれたお礼だ。

 こんなもの、私様にとっては威力を上げて勝負を早々に切り上げてしまうだけの、余計な物。

 女魔術師は呪文を聞いて即座に防御魔法を展開している。

 闇属性か。

 これで三つの属性を使ったな。

 さて、そんなもので防げる程度の魔法にできるかが、私様の腕の見せ所だ。

 

 

「≪撒き散らすは荒れ狂う竜の咆哮≫」

 

 

 周囲の砂、土、泥、すべてを巻き込んで竜巻のごとく吹き散らす。

 密室空間での竜巻は逃げ場もなく、さらには女魔術師が出した水も併せてより障害物が多い。

 水ならば女魔術師も操れるだろうが、竜巻の中で防御魔法を展開しながら水を正確に操るなんてことまでできるかなぁ。

 できたら嬉しいなあ。

 反撃はできずともこの場を乗り切る方に集中するだろう。

 乗り切るために防御魔法で勢いを殺せたとしても、砂や泥が体に当たればそれに対応するのに消耗はするはずだ。

 防御魔法に当たればその分耐久性にも影響は出るし、なにより向こうは竜巻があるうちは動けない。

 直撃していない赤髪達も、隅っこで防御魔法を展開しているがどれだけ耐えられるか。

 ウーとロロは私様が張った魔法の中だから問題なし。

 私様の魔力量では一日なんて余裕でもたせてしまうが、果たして向こうは一時間ともつかな?

 本当に一時間も測定する気はないので、程々にして魔法を解く。

 浮いていた砂や泥が床に落ちるが、女魔導士の足元は水たまりだけだ。

 防御魔法でしっかり守りきったのだろう。

 

 ほう。

 と感心していたら。顔を目掛けて何かが飛んできた。

 床に落ちていた土、もはや泥で受け止めれば、何も掴めていない。

 

 

「……チッ」

 

 

 あの女魔術師、舌打ちしたよ。

 水玉でも飛ばしてきたか。

 攻撃がやんだ瞬間を狙って一矢報いてくるとか、まだまだやる気満々じゃねーか。

 そうは言っても大分魔力を消費したようだ。

 涼しい顔をしているが、立てた大鎌が支えになっているようだし。

 飛ばしてきたものが小さかったのは不意打ちを狙ったためかもしれないが、それなら後続があってもいいはずだし。

 降参するかな?

 しばし沈黙のまま向き合ってみたが、その様子はないか。

 では言いやすくしてやろう。

 

 すっ、と、手を前方に向ける。

 警戒した女魔術師は最後の力とでもいうように大鎌を構える。

 大掛かりな魔法はもう必要ない。構えることすらももはや無意味だ。

 女魔術師の顔から読み取れるのは、やや不機嫌から、辛そうに、さらに苦しそうに表情を変える。

 さらに魔力を練れば。

 女魔術師は片膝をついた。

 まるで重力に押さえつけられているかのように、立っていられない様子。

 

 どうする?

 

 と小首で問えば。

 眼力で殺しに来そうな顔つき。

 

 

「…………降参です」

 

 

 蚊の鳴くような声で聞こえた。

 聞いた瞬間に魔力を解いた。

 

 

「いやーありがとうな! なかなか面白かった! もっと魔法使ってきてもよかったのに。ヒスイのことを気にしたのか?」

 

 

 明るく問う。

 ついていた膝を浮かせ、ふーっと重い息を吐いた。

 

 

「確かにヒスイさんのことを気にしてはいましたが、あなたに対して魔法で挑むなんてこと、無謀でしかありませんよ」

「気にしてた割には初っ端から大鎌で狙いに来てただろ」

「挨拶です」

 

 

 しれっと。

 なんだこいつ、ほんとに危ない奴だな。

 

 

「……おつかれー」

 

 

 隅にいた男三人が気まずそうに近づいてきた。

 

 

「ロタエ、大丈夫か?」

「御心配には及びません、殿下。大きい怪我はありません」

「最後、どうしたんだ?」

 

 

 最後の魔法は目に見えるものではないから、遠くから見ていた三人にはよくわからなかったのだろう。

 突然膝をついたから、体力切れのようにも見えたかもしれない。

 

 

「体が重くなりました」

「重く? 押さえつけられた感じか?」

「いえ、どちらかというと引っ張られたような……」

 

 

 どうやら騎士サマが特に気になるらしい。

 好奇心や知識欲があるのは良いことだ。

 解説してやろう。

 

 

「あれは砂を服に潜り込ませて、そこから床に向けて操作したんだ」

「それだけ? なんていう魔法なんですか?」

「あんなんに名前なんかつけるか。初級だろ」

 

 

 操作するだけだし。

 威力も何もない。

 操作だけしているだけならまさに初級魔法というに値する。

 と言い切ったら。

 

 

「初級……」

 

 

 女魔術師の機嫌がめっちゃ悪くなった。

 

 

「ロタエ! ほら、初級でも結構緻密なコントロールが必要だし!」

「そうだぞ。俺では砂どころか土になって服の中に入れるとかまず無理だ」

「俺は土を持ってないが、あんなのされたら避けられるとは思えん!」

 

 

 赤髪も騎士サマも殿下も必死に宥めてる。

 こういう奴のほうが後々成長していろいろな攻撃手段をとってくるから面白いだろうな。

 

 

「ロタエ」

 

 

 この四人の中では初めて名前を呼んだ。

 女魔術師を呼んだのに全員こっち向いてきた。

 それには構わず、言いたいことだけ言う。

 

 

「またやろう」

 

 

 楽しかった。

 生前は謎めいた笑い方をするとよく言われた。

 「何を企んでいるんだ」と聞かれたこともある。

 そんなことはお構いなしに笑って素直な感想を伝えた。

 向こうは一瞬驚いた顔をして、真顔に戻って、うん、と頷いた。

 こういう時ぐらい笑えばいいのに。

 

 

「さて。次は誰がやる?」

 

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