【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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【兄妹と姉弟】第1話―― ライラ視点

「ナオの……ばかああああああああ!!!!!」

「いってぇ!」

「あっ! せんせーごめん!」

 

 

 私と先生たちの中央に投げようと思ったら、勢い余って先生に当たっちゃった!

 あっちゃあ。

 

 

「おっまえ状況考えてくれ……よっ!」

「ぅわぁ!」

「ちっ! 放せ!」

「放すかよ」

 

 

 さすが先生!

 石が当たったぐらいじゃ拘束は解かなかったみたい。

 センは体を大きく捻って逃げようとするし、ナオも……歯を食いしばって、垂れ目なはずの目をこれでも勝手吊り上げて、全身の力を全力で使って力強く拘束から逃げようとしてる。

 もしかしたら。

 生まれた時から一緒だったあたしでさえも、見たことがないほどに。

 今のナオが一番、今までで強い意志を持っている。

 ナオって、こんな顔もできたんだ。

 

 

「ライラ! ぼーっとしてないでこいつら抑えろ! 鎖が巻けねえ!」

「あ、うん!」

 

 

 自分に似た顔を見てたら怒られた。

 

 

「ごめんね、ナオ」

「らいっ……」

「ナオっち!? うっ……く、そ……」

 

 

 催眠効果があるという≪回想の香≫を二人に嗅がせる。

 スグサ様の手製の魔石だからか、効果は抜群。

 少し嗅いだだけで二人とも瞼を……閉じ……ぐぅ。

 

 

「お前は寝るな」

「はっ」

 

 

 いけないいけない!

 使う時に注意しろって言われてたんだった!

 なるほどこういうことだったのね!

 はぁ、やれやれ、と首を振る先生。

 手は別の動きをしていて、眠った二人にぐるぐると巻き付けていく。

 まくり上げた白シャツから延々と出てくる鎖。

 一体どれだけの長さがあるんだろう。

 

 

「よし。二人はこれで、ひとまずは動けないだろ。あとは鐘を破壊するだけだが」

「よし、行こう!」

「落ち着け。この二人をどうするかだ」

「連れていけないの?」

「連れて行ってどうする。直前で目を覚まされたら妨害される可能性もあるし、何よりお荷物だ。鐘のある所まで、別の妨害がないとも限らない」

「あ、そっかぁ! じゃあ……置いてく?」

「鎖と俺は離れられない」

「……キャッ」

「何が「きゃ」だ。お前一人で行くしかないってことだぞ」

「…………それは、ちょっと怖いかも」

「俺もまさか本当に一人で行かせようとは思ってねえよ。仮にも生徒で、俺はお前をどうなってもいいとは思ってねえ。無論、この二人もだ」

 

 

 そういって、鎖で巻かれて、寄りかかりながら眠る二人を見つめる。

 いつものやる気のなさそうな半開きの目だけど、それはつまり、敵に向ける視線ではない。

 この話を受けてくれて心強かったけど、不安でもあった。

 先生が生徒に、本気で対抗してしまう状況。

 その状況を作ったのはあたしじゃないし、ここにいる誰のせいでもない。

 きっと、もっと大きな何かのせい。

 ……と思いたいだけ、なのかな。

 たぶん。

 ううん、絶対。

 ナオは、その『大きな何か』側についてる。

 

 

「てことでだ」

「うん」

「お前を一人で行かせることはできない。けれど俺も動けない」

「うん」

「となるとだ」

「うんうん」

「……ここから狙うか」

「うん!」

 

 

 そうだね!

 そうするしかない!

 鐘ってどっちだ!?

 

 

「どっち!?」

「……どっちだ……」

「たぶんこっち!」

 

 

 スグサ様に貰った結界の魔法。

 乳白色の背景で、外の景色は何も見えない。

 学校の構造はわかるからおおよその方向はわかるけど、相当範囲の広い攻撃じゃないと目的のものは壊せない。

 でも、そんなあてずっぽうの攻撃が何度もできるわけない。

 奇跡的に当たればやったね! って思うけど、確率を考えたらあたしでも慎重になっちゃう。

 

 

「でも、このままでいるのもよくないよ。ヒスイたちも頑張ってるのに……」

「そうなんだよな」

 

 

 怖い顔をして考え込む。

 ナオとセンは今でも頭をぐったりと下げて寝ているようだけど、それでもいつかは目を覚ましてしまう。

 そうなる前に動かないといけない。

 

 

「しょうがねえ。この二人を連れて近くまで行く。そのあとはライラが一人で行け。俺は足止めするから」

「えっ、そんなのせんせーが危ないよ! 二人でも結構大変だったでしょ!? 相手増えるかもしれないし、向こうは本気でっ……」

 

 

 先生の体はボロボロだ。

 土で汚れて、擦り切れて、赤く滲んでて。

 せんせーでも二人相手が大変だったんだろうと思う。

 ただ数的に不利ってだけじゃなくて、先生と生徒だからって言うのもきっとあるよね。

 さっきの表情はそういうことだと思うの。

 けど、二人は、せんせーに本気で来てたのかもしれない。

 センは荒々しかったし、ナオも……あたしにも本気で殺そうとしてたし。

 

 体が震える。

 なぜ?

 怖かったからよ。

 あんなナオ、あたしは知らない。

 ……大事な人を亡くすってことが、どれだけ大きいことか。

 大事な人を取り戻したいって気持ちが、どれだけ大きいものか。

 それらを物語っている魔力の量だった。

 

 

「そうと決まれば行くぞ。早いに越したことはねぇ」

「うん! じゃあ、あたしがナオを……あれ?」

「どうした?」

「……いない、よ?」

 

 

 見間違い。

 だと思いたい。

 一人がもぬけの殻だなんて。

 

 

「≪大地は我らを食す≫」

 

 

 きっと、見間違い……であってほしかった。

 けど、足元の浮遊感が、それを否定する。

 あたしたち、結構仲良くやってたよね?

 学校生活、楽しそうに笑ってくれてたじゃない?

 他愛のない話をして、ふざけあって、勉強も魔法も、一緒に頑張ってきたじゃない。

 なんで……。

 

 

「なんでそんな、いじわるな顔するの……?」

 

 

 上から下へ落ちていく。

 下から上へ視界が暗く、狭くなっていく。

 歯を剥き出しにした笑顔が脳裏に焼き付く。

 優しさなんてない、けれど楽しそうな、毒々しいまでの満面の笑み。

 落ちていきながら、悟った。

 あたしたちを、殺したいんだね。

 セン……。

 

 

「ライラ!」

「ふぎゅ!?」

 

 

 無抵抗で地割れに落ちようとしていた体に、鎖が巻きついてガクンっと支えられる。

 紐で縛られたお肉のようになった状態から、引っ張り上げられた。

 変な声出たし!

 視界が上下して頭が追いつかない!

 

 

「どうやって逃げやがった……」

「センセ、結構甘ちゃん? オレ、眠り浅いんだよねー。息止めてたからほとんど嗅いでないし、まあつまり、ほとんど効いてないってこと」

 

 

 さっきの表情はなんだったのか。

 学校で見ていた表情で、軽く話している。

 頭の後ろで両手を組んで、ぶらぶらと片足を降っている。

 近くにいたら鼻歌でも聞こえてきそうな、いつも通り具合。

『いつも通り』なのが、『違和感』でもある。

 今にしてようやく、何があったのかを理解した。

 なぜか先生の拘束を抜け出したセンは、あたしを地割れに落とそうとした。

 そこを危機一髪、先生が助けてくれた。

 ≪回想の香≫、効いてなかったんだ。

 眠ったと思っていたあたしのミスだ。

 自業自得だ。

 でも、なんで逃げられたんだろう。

 

 

「寝てなかったのはよくわかった。けど俺の武器の拘束は結構硬くしたはずなんだがな?」

「ああ、そっち? これだよ」

 

 

 センは後ろに組んだ両手を見せつける。

 獣のように鋭く、長い爪。

 手甲鉤(てっこうかぎ)

 

 

「……切った。いや、特性か?」

「さー、どっちでしょーね」

 

 

 センを拘束していた場所の鎖を見れば、重なり合っていてどこに細工をしたのかわからない。

 でも大きな音とかはしなかった。

 だからたぶん、特性なんだとは思うけど……。

 

 

「特性なに!?」

「言うわけねーじゃーん」

「けち!」

「いやアホだろ。こんな時でもライラっちはそういう感じなわけ?」

 

 

 聞くだけ聞いてみたけどダメだった。

 まあそうだよね。

 

 

「ほらほらー。ナオっちが寝てたところでオレは止める気ねーから」

 

 

 『いつも通り』のまま、センは一直線に駆けてくる。

 先生はナオを拘束してて動けない。

 なら、あたしがやるしかない!

 

 

(アム)初級魔法(トゥワン)!」

「火力バカも変わらずだねーっらぁ!」

「上!? ぅぎ!?」

 

 

 真正面から向かってくる相手に真正面からの初級魔法じゃ、避けられて当然。

 それでも勢いを殺せれば、と思った。

 そしたら左右に避けるんじゃなくてまさかの上。

 降りてくる勢いのまま、猛獣の爪のような手を振り下ろされた。

 武器(グローブ)を手につけていたから防御できたけど、顔を狙ったその攻撃は微かに届いてしまっていた。

 こめかみから頬にかけて、じりつくような痛みが走る。

 その下をなぞるように、なにかが伝う。

 

 

「いたぁ……うわっわっ」

「ほらほら、なにやってんのー? あははっ」

 

 

 片腕を下ろした状態から後ろ回し蹴り。

 それはちゃんと躱して、けどつぎはまた下からのアッパー。

 手数が多い!

 上からも下からも、右からも左からもフェイクを挟みながらいろんな角度でくる。

 口調や性格と同じで、体も結構身軽で柔軟な方らしい。

 体をほとんど水平に倒した状態からなのに、立ち直り方が想像を超えてくる。

 少ない動きで読ませない、スピードと重みを兼ね備えた打撃。

 一方的にやられてあたしは防御しかできないいいいい!!

 くやしい!

 肉弾戦ならあたしも得意なのに!

 もともとはアーマタスに住んでたからか、魔法の講師より武力の行使が主体な戦い方をするなぁもう!

 

 

「ライラ! 距離をとれないか!」

「むぅりいいいいい!!!」

 

 

 後ろからの声に八つ当たり兼ねて大声を出す。

 あたしが壁になって援護できないんだ。

 でも!

 でもでもでもぉ!

 センの攻撃が早すぎて防ぐのと躱すので精一杯なんだもん!

 必死。必死だ。

 全神経を集中させて。

 頭に血が登って、動くものすべてに反応するほどに研ぐ。

 

 ぐらっ。

 

 

「ぁえ?」

「おりゃ!」

「あぐっ!!」

 

 

 視界が二重になって揺れた。

 その一瞬を待っていたかのように、鳩尾に重い一蹴りを食らう。

 

 

「ライラ!」

「っ!」

 

 

 後ろにいた先生に庇われるけれど、その衝撃でナニカがこみ上げて、耐える間もなく吐いた。

 

 

「ゴホッ、ごほっ……はっ、はーっ……うっ」

 

 

 ああ、吐いたのいつぶりだろう。

 最高潮近くまで上がった血液が、吐いたのと同時にぐんと下がる。

 さっきとは違う感覚の、視界の揺らぎに襲われる。

 気持ち悪い。

 

 

「ぐらぐらする……なにこれぇ……」

「……お前、ナオのこと見てろ」

「ぅえ? せん、せ?」

「俺がやる。お前にここまでやらせて、また行ってこいなんて言うわけないだろ。お前がどうにかなっちまう」

 

 

 ナオの真横に座らせられて、立って先を見据える先生を見上げる。

 ……その言葉は、先生が自分に使ってこそ先生だよ?

 

 

「お? またセンセ? さっきも圧されてたのに、一人でダイジョーブー?」

「さっきは二対一だっただろ。それに、もう遠慮もしないつもりだ」

「へーえ?」

 

 

 先生はナオの拘束を解いて、無造作に鎖を垂らす。

 外される第一ボタン。

 襟を開いて、大きく深呼吸をした。

 「遠慮しない」。

 戦いの場でのその言葉の選択。

 あたしがいくら馬鹿でも、わかるよ。

 今でも眠ったままのナオを見る。

 何を思い出しているのか、すごく、苦しそう。

 でも。

 でもね、ナオ。

 

 

「ナオ。ナオのやりたかったことは、こうなるってわかってたの? ねぇ、ナオっ!」

 

 

 起こしちゃいけない。

 わかってても、声を張り上げて、体を揺すぶって、起こす勢いでぶつかるしかこの気持ちのやりようはなかった。

 

 

「安心しなよライラっちー。殺しても生き還らせてあげるからさー」

「ころ……っ、あたしは! 生き還りたいなんて考えてない!」

「あはは、だよねー。オレも生き還りたくねーわ」

 

 

 ……え?

 

 

「……なんだお前。どういうことだ」

「えー? なにがー? もっとわかりやすく言ってよ。珍しく真面目な顔をしたセンセ?」

「お前は生き還りたくない。自分が死んだ時の保険ではないのなら、誰かを生き還らせたいのか?」

「え、うん。そーだけど」

「それって……ナオと同じってことなの?」

「…………ブッファッ!!」

 

 

 意表をついたことでも言ってしまったのか。

 目を丸くしたセンは、一瞬の真顔のあと、思いっきり噴出した。

 

 

「なっはははははは!! 違う違う! オレはナオっちほど慕ってる奴なんていねー」

「なら誰を生き還らせたいの? なんで生き還らせたいの?」

「んー? 知りたい?」

「……知りたい」

 

 

「親。死んで楽になるなんて許さねぇ」

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