【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。   作:彩白 莱灯

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第6話

 ―――――……

 

 

 

 

 

「魔法の解析はまだ終わらんのか!」

「はっ! 複雑化した構成に研究員たちも手を焼いているようでして……」

「急がせろ! どれだけ時間をかけているんだ!」

 

 

 高位すぎる魔法に手を焼いている。

 それもそのはずだ。

 魔法を作るのも、魔法を合成するのも、普通はぽんっとできるものではない。

 何度も試行錯誤や実験を繰り返し、その度に報告書類が冊子にまとめられ、興味のある人はそれを見る。

 ここ二十年ぐらいは新しい魔法は発明されていない。

 実験までで、完成はされていない。

 冊子だけが定期的に出されるだけ。

 人によっては同じことをしている様にしか見えないぐらい、内容は専門的でわかりにくい。

 それこそ、今のフォリウム学院の人たちは『新しい魔法が完成した』なんて言葉を聞いたことも見たこともないだろう。

 今の『転生魔法』が、何十年ぶりの新魔法だ。

 歴史的にも大きい出来事だ。

 今、結界の周りにいる人間は、歴史的瞬間に立ち会おうとしている。

 

 

「こんな魔法に時間を取られるわけにはいかないんだ……!」

 

 

 目の前の魔法なんて、完成まじかの『転生魔法』に比べたら。

 そう考えるのは、複雑で難解で、研究者が何人寄りあっても解読できないという現実から目を背ける愚か者だけだ。

 

 

「……どやっ」

「何言ってるの……?」

「ちょっとカッコよくなかった?」

「よくわからない」

「えぇぇぇえええ」

「静かにしろアホ」

 

 

 結界の中での茶番は、緊張への対抗心。

 これから一世一代の大舞台をやる。

 緊張しないわけがない。

 まあ、やるのはナオだけど。

 結界魔法を展開するとき、あたしの魔力も少し混ざってしまった。

 魔法発動に浸かった魔力の持ち主は、結界魔法の影響を受けない。

 本当だったらスグサ様の魔力だけを使っていて、結界の影響を受けないのはスグサ様だけだった。

 けど、あたしが力任せにしてあたしの魔力も混ざったことで、あたしも結界の影響を受けにくくなった。

 受けにくい、というのは、通り抜けたりはできないけれど情報は得られる、という状況。

 今回は音だけが何とか聞き取れる。

 誰がいてどこにいて何をしているという視覚的情報はわからない。

 けれど、現状。

 結界の外で何を行われているのかを察することができた。

 あたしが聞いて、二人に伝えた。

 

 

「魔法の解析に時間がかかってるのは好都合。けどギリギリまで引っ張っている時間はない」

「みんなも動いてるから、だね」

「今日一番察しの良いこと言ったな?」

「はっ! 先生ひどい!」

「ナオ、準備は」

「大丈夫です」

 

 

 無視!!

 

 

「んじゃあやるぞ。ライラ、石」

「はぁい」

 

 

 首から下げていた巾着を真反対にして、スグサ様からもらったもう一つの石を出す。

 それをナオに渡す。

 ナオは手にした狙撃銃に、その魔石を込める。

 

 

「合図で魔法を解くぞ」

 

 

 先生は結界の中心に座る。

 片手の鎖は一つ一つが大きく……いや、長く変形していて、足を引っかけられる。

 梯子のような状態。

 反対の手は地面に着き、鎖は地面を貫く。

 そして別の、どこからともなく先端が出てきて、弧を描きながら再び地面に潜る。

 見た目は半円を描く。

 しかし地面の中身を想像すれば、球体上の鎖の牢獄。

 球体から一本、天に向かって伸びる鎖。

 その先端にあたしとナオがしがみつく。

 

 

「用意は」

「「いいよ!」」

 

 

 声が重なる。

 

 

「三。……二。……一。……零!」

「解除!」

「行ってこい!」

 

 

 結界が溶ける。

 森の中を思い出させ、周囲には警戒した人間たちがいるのが鎖の隙間から見える。

 見たのは一瞬。

 先生たちの掛け声とともに鎖が天高く伸び、あたしとナオは空に放り出されまいと鎖にしがみつく。

 薄目を開けて下を見れば、いつかの授業で見た鎖の牢獄。

 その周りは所狭しと人が取り囲んでいて、何かをしようとするあたしたちに攻撃しようとしているのがわかる。

 

 

「ナオ!」

「んん!?」

「任せたよ!」

 

 

 鎖が止まる。

 宙で。

 ピシっと伸びきる。

 学校を見下せるぐらいの高さ。

 鐘がある場所が見える。

 正門から入ってきて、正面の建物。

 音が響き渡るように壁が栗部かれていて、姿がよく見える。

 ナオの格好の的だ。

 あたしの仕事は、ナオの仕事の邪魔をさせないこと!

 

 

「≪(アム)初級魔法(トゥワン)≫!」

 

 

 地上から飛ばされてきた魔法を視認して、迎え撃つための魔法を放つ。

 これも、いつかの授業でやったみたい。

 あたしは失敗しちゃって、ナオに助けてもらったけど。

 魔法を迎え撃つために、適切に、適当に、最適な魔法を連続で放っていく。

 属性の有利不利を考えて。

 あたしは火の魔法に集中して。

 魔法のすごい人が言ってた。

 「お前は変なことを考えず、大事なことだけ反復して考えたほうがいい」って。

 だからあたしは、得意な属性の、間違えにくい魔法を連発する!

 

 

「ナオ! お願い!」

「……うん!」

 

 

 銃を構える。

 ナオの邪魔をさせないように、魔法を放ち続ける。

 ナオの武器、狙撃銃の特性は『鋭敏』。

 魔力のコントロール。

 繊細な狙い。

 それを補う特性だ。

 スグサ様からもらった魔石に込められたのは『ただの魔力』。

 あたしが力任せに殴って鐘を壊せるようにというものだったけど。

 今は、ナオの手によって、一つの弾丸に凝縮された魔力の塊となっていく。

 魔力が高まっていくのを感じる。

 ナオの周囲の空気が変わる。

 風がやんだのか。

 風がおこっているのか。

 ……キンと、空気が冷える。

 

 

「……≪(バースト)≫」

 

 

 静かな声と裏腹に、放たれた弾丸は周囲を荒らすように一陣の風を起こす。

 荒々しい静寂の後、どこかで低い音が強く鳴り響いた。

 一瞬遅れて、何かが倒壊する音がする。

 音のする方に注意がそれたのか、魔法がやんだ。

 その隙にあたしも音のする方を見れば、鐘があったはずの建物の辺りから砂煙が上がっていた。

 

 

「……当たった?」

 

 

 思わず聞いてしまった。

 

 

「当てたよ」

 

 

 え、と思わず反射的に振り向いた。

 答えてくれたことにじゃない。声もナオのものだった。

 ただ、すごく自信をもって答えた一言だったから。

 今までのナオとは違う、ナオの声だったから。

 

 

「降りよう。先生も本調子じゃない」

「う、うん」

 

 

 鎖に合図を送る。

 この後、あたしたちは拘束されるだろう。

 殺されることはないだろうという先生の見解。

 殺すことが目的じゃない。

 邪魔を阻止することが目的だと。

 本当の戦争はこの後にあるのだから、と。

 そして、もし殺されそうになったなら、「俺が何とかする」と。

 先生らしからぬ声に一瞬笑いそうになって、ナオと顔も見合わせた後、声を揃えて「俺に何かあったらどうするんだ!」と言って笑った。

 

 後は頼んだからね。ヒスイ。

 

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