【3/27 電子書籍一巻発売】魔術師は死んでいた。 作:彩白 莱灯
【本物と偽物】第1話―― シク視点
「シク! お前そっち!」
「はぁい」
スグサから嬉しくないプレゼントを投げられる。
いいえ。
スグサから貰えるものはなんでも嬉しいわ。
うれしいのだけど、ここまでいらないと思ったものは初めてということだけ。
もらったモノと、もらう者。
二つを合わせて結界を張られる。
邪魔の入らない一対一の空間。
作ったのがスグサだから、そう簡単に破られることはない。
けれども孤独感ももちろん強い。
ああ、早く終わらせて、早く愛しい人のところへ帰りたい。
始まってもないのにそう考える。
……ふふ、愛が重いわ。
「さて。
手を伸ばす。
こいつは『蘇生者』。
つまり魂を入れられた死んだ人間。
一度離れた魂や無理やり繋がれた魂は、
外すのにはコツがいるけれど、できないことはない。
真っ当な人間から抜き去る方が定着していて難しい。
魂を操れる
魂が抜かれれば生きていても死んでいても人形になってしまうのだから。
コイツからも、縫い付けられた糸を解いて、魂を解放させてしまえば……。
―― おかあさん!
「!?」
反射的に手を引いた。
全身が総毛立つ。
頭の中が冷える。
今の、声は。
―― お父さん!
―― 男の子かな? 女の子かな?
―― プレゼント!? やったあ!
一度気づいてしまえば、今度は無視するのが難しい。
鼓膜を揺らす幼い声。
必死に親を探す、寂しい叫び。
ずっとずっと木霊する。
探して、見つからなくて、苦しくて、寒くて、怖い。
ノーガードどころか内臓を直接握りつぶされているみたいに痛い。
「……っ、あんたっ……」
いや。このローブは意図的にやっていない。
いつかの
ただ……
研究者はこれを知っているのだろうか。
知っていて、
……ううん。
そんなわけない。
そんなことを考えるような奴らじゃない。
魂が帰る場所を探して叫んでいるだなんて、あいつらが考えると思えない。
考えるような奴らがやっているとか、ヒトデナシにも程がある。
敵から目を離さない。
離したら負ける。
ローブが動く。
血が回っていない頭では、『どうする』を考える余裕がない。
「
「!?」
この結界内で火の最上級とか……ふざけてるの?
いえ、違うわね。
遠慮がないだけだわ。
逃げようにも場所は限られる。
壁や床にさえあたれば魔力は吸収される。
身を縮めて、なんとかやり過ごすしかない。
「≪神のお告げ・リスタート≫」
火を纏った
地上の生物を全員焼き殺し、大地も自然も生命も、一からやり直そうという神様の行為を模した魔法。
そう伝えられている通り、これが大地に降り注げば辺り一面焼け野原になるだろう。
「≪女神の抱擁≫!」
物理攻撃はこれでなんとかなる。
結界の角で死角を減らし、身を縮めてやり過ごす。
半球状の≪抱擁≫でおおよその攻撃はやり過ごせる。
だが衝撃が強く、魔力が薄くなってしまう。
その隙を狙ってか、結界を破って飛来する礫に身を焼かれた。
「あつっ!」
石の傷。
火の火傷。
肌が焦げて変んな匂いがする。
魔力ある限り降らせ続けるつもりか。
結界を通り抜けてくる時点で、魔法の腕は向こうのほうが上。
このまま耐えていても
「むっかつくわね」
一つの魔法で余裕ぶってんじゃないわよ……!
≪抱擁≫を解く。
全身に
光の身体強化魔法でダメージを状態異常を防いだ。
石が当たる痛みはもうしょうがない。
バラファイの翅を顕現。
飛ぶ。
天井まで来てしまえば降らせても当たらないわよね。
天井をなぞりながらローブの真上に移動する。
「
闇による補食。
降り注いでいる
「
≪地上の星≫……大地の熱によって作られた、星を模した火の玉。
大きさは魔力量に比例するが、人一人分ほどの大きさはそれこそ最上級魔法ほどの魔力量だ。
火の玉というだけあって光と熱を発する。
熱はともかく光のせいで、
「めんどくさっ」
悪態もつきたくなる。
相性が悪いかもしれない。
けれど、闇がダメなら光がある。
次を繰り出そうとすると、『人形』は予備動作もなく飛び上がった
「!? きゃあっ!」
反応に遅れ、下から上への蹴りを掠らせた。
切られた感触がする。
バランスを崩して落ちながら目を開くと、蹴ったであろう靴に光刃物が見える。
「暗器……!」
魔法使い放題だったじゃない!
何よそれ!
「ぅぐっ! あっ、っ!」
天井を蹴って追ってきた『人形』に、靴以外の暗記で容赦なく傷つけられる。
決して深くはない傷で、少しずつ苦痛を味合わされているみたい。
身軽な動きのせいでどこにどんな武器が仕込まれているのかもわからない……。
「こん、っの!」
がむしゃらに練った魔力で光を発する。
一瞬動きを止めた隙にお返しとして一蹴りして、距離を空けた。
―― 明日はどこ行くの?
『人形』の体に触れると声がする。
魂の声。
子どもの声。
経験上、魂から聞こえてくる声というのは、思い入れが強いか、記憶として浅い出来事。
今聞こえた言葉だけでわかるのは、何かを楽しみにしているということ。
それが直前か昔かまではわからないけれど。
どちらだとしても。
研究は子どもの魂を奪い、子どもから親を奪い、子どもの『これから』を奪った。
本当、腐った研究だわ。
向こうはバランスをほとんど崩さなかったけれど、床に降り立って見上げてくる。こちらの様子を伺っているというのか。
かく言う
傷は痛むし心は荒らされるし、思ったより苦戦しているって言うので大ダメージを受けている気分だわ。
「…………オマエ」
あら。
喋れるの。
「光、闇、使ッタ。アリエナイ」
子どもの声とは全く違う、大人の落ち着いた声。
ほぼ確実の大魔術師と言われていた人物の声だろう。
なんで喋れるのだろう。
スグサの場合は『記憶』を定着させておいたという反則技を使った。
それはそういう実験があるってわかっていたからやったこと。
大魔術師も同じようなことをした?
……
「……そうね。同じ研究に関わった同類として教えてあげなくもないわ」
「光、闇、相容レナイ」
「ええ。そう言われているわ。けれど
「アリエナイ。他属性、助長効果、アル。光、闇、相反作用」
「聞いてないのかしら? でもそうね。簡単に言えば――」
右手に光。左手に闇。
スグサに教えてもらって、何年もかかってようやくできた、同時発動。
「――あなたが産まれるための研究で、
憎たらしい研究の成果。
そのおかげで元々の属性は闇以外は使えなくなってしまった。
……でも、研究のおかげでスグサに会えたのだから、そこだけは感謝したわ。
もうしてない。
「アリエナイ、アリエナイ。相反。アリエナイ。光、アリエナイアリエナイ。相反光。闇、光、アリエナイ。アリエナイアリエアリアリエアリアアアアアア」
「うわ……、なに?」
パニックになっちゃった?
『人形』ながらに理解しようとして、出来なくて、ってところかしら?
「アリエナイアアアアリエアリアナイアリエエエエエエアリ……アリエナイ……シ……ラナ……イ」
……あ、ううん、わかった。
体に宿った微かな『記憶』が、情報を受け入れないのね。
スグサみたいに人格すらも『記憶』として残していないから、『記憶』が新しい情報を受け入れられない。
ああ、可哀想。
生きているように見えるのに。
生きようと思えば生きられるのに。
それを害する存在に捕まって。
助けてくれる存在に出会えなくて。
「……
「あなたはどう生きたい? それとも死にたい? どこで生きて、死んだらどこに行きたい?」
思わず口から出た、身の程を知らない言葉。
けれど。まさか、まさか。
ローブの『人形』は言葉を止めた。
動くことはしなかった。
けれど。
―― かえりたい。
「……そう。なら、お願いしてみましょうか」
あの人は、もしかしたら何とかしてくれるかもしれない。
知らない人にも優しく、なんて信条はないけれど、研究が関わっていたらなんとかしてくれるかもしれない。
「けどね。
魔力を練る。
そもそもの戦いは終わってないのよ。
魔力に反応したのか、向こうも魔法を練る。
やはり、魔力の質も量も向こうの方が上。
けれど、だからと言って引くわけにはいかないの。
練った魔力を両手に集める。
二種類の呪文を同時に言うことはできないから、これをやるときは詠唱なしになってしまうのは必然。
右手は白く、左手は黒く光る。
「
先に放たれた魔法。
天井から落ちてくる、光の刃。
「
左手の黒が増し、光の刃に絡みつく。
光に対する闇。
属性は拮抗しても、
力量差は当然。
でも。
貴方は知らないでしょう。
二種類の魔法を同時発動することができるって。
「
力で負けててもいい。
スグサにはちゃんと謝るわ。
けどあの人は……たぶん許してくれる。
できないことを責めたりはしない。
やろうとして居れば、その努力を認めてくれる人。
その代わり、この祈りの魔法で、あなたが迷子にならずおうちに帰れることを願うわ。
「ごめんね。
その瞬間、光の刃が